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百聞は一見にしかず
しおりを挟む辺りにキラキラと透明な破片が、あちらこちらに飛び散っている。
それを尻もち付いてる人や地面に転がっている人、顔を腕で隠し隙間から様子を窺う人等が呆然と目の前の出来事を見つめる。
何が起こったのかあまりの衝撃で頭が働かずにいた。
「は! お前さん大丈夫か?!」
最初に我に返ったのは先輩クラスの担任、グラウン先生が私に声を掛け、怪我が無いかと駆け寄ってきた。
私は特に問題なく、ただ目の前の出来事にとあることが不安に迫られていた。
「……先生」
「ん?! どうした! やっぱり何処か痛いのか……」
「私、入学早々に器物破損罪で逮捕されちゃいます?」
もう、せっかく計画立ててここまで来たのに、ここで捕まってしまったら今までのことが水の泡になってしまう。
そうなれば、ウサギたちはどうなるのだろう?
売りさばかれたり、出荷されたり、殺処分されてしまうかもしれない。
私はただ牢屋に閉じこもるだけだから別に良いが……。
と、この先の最悪な出来事を予想し俯く。
「大丈夫だから! わざとじゃないのは一番傍で見てた俺が分かっているから大丈夫だ! で、怪我は無いんだな?」
あっさりとグラウン先生により、最悪な出来事はバッサリ無くなりまだ私の怪我について心配する。
「はい、防御壁を張ったので大丈夫です」
だから、足元に置いていて衝撃で丸くなったモノクロも無事である。
ごめんね、びっくりさせちゃって。
よしよしよしよしよし。
と、全力でモノクロを撫で宥める。
モノクロは耳をピーンと張り、目も飛び出るんじゃないかと言うほど見開いている。
その姿に胸が痛む。お願いだから長生きしてね。
「……お前さん、魔法使えるのか?」
ん?何をそんな衝撃を受けているかしら? 訳が分からず、こくんと頷く。
モノクロも真似して一つ頷く。可愛い。
「魔法は、誰からか教わったのか?」
「いえ、独学です。しかし、書物があったのですんなり出来ました」
それがどうしたのだろうか?
まさか、うちだけ家に偶然魔術の本があって、他の貴族家庭にはないとか?
「……ううん」
深刻な表情で呻り始めてしまった。
そんなに私の発言で問題あるものあったかしら?
「お前さん、ちょっと待ってくれ」
その後、グラウン先生は立ち去り何処かへ行ってしまった。
担任は一先ず散らばった破片の片付けの指示を出す。
私も自分がやってしまったことなので拾う。
こうゆうのって、幾らするんだろ……。
お小遣いで足りるかなーと、今度は弁償について不安に感じているとグラウン先生の他、何やらローブをまとった人が私の方へかけてやってきた。
「待たせてすまんな。彼は魔術師のハラルド・アデランと言う。普段は魔術の歴史や座学を教えている」
「初めまして、君は独学で魔法を学んだと聞いたが」
なんだか、慌ただしく私の前に現れた。
周りの教師と比べて、一回りは若そうな男性がやって来た。
その男性……アデラン先生は、来るなり早速、私の魔法について話しかけてきた。
私は特に隠すこともないし、さっきグラウン先生にも話したとおり、家の本を使って学んだことを伝える。
「そうですか。独学で何処まで学べましたか?」
一つ頷き、内容を理解すると実力について確認してきた。何処まで……。
「家には初診者が学ぶ魔法の基本のから、上級者の応用まで、読破しました」
「成る程、まぁ、どの家庭にも魔術の本は揃ってますからね。しかし、知識は身に付いても実際に出来るようになるとは……。では、君の属性は何でしょう?」
属性……?どういことか分からず、首を傾げる。
「人間には属性を一つか二つ持っているんです。属性は光、闇、炎、水、地、風、雷とあります。まぁ、比較的多いのが光と闇以外の属性ですね。後は無属性として、空間や転移を使う魔法があります。しかし、それは極限られた人物しか使えません。因みにSランクの魔獣や幻獣は大抵持ってます。それで、君は属性は一つですか? 二つですか?」
さっきから一つか二つとか、何やらちらほら聞いたワードだが、そうか人が持つ属性の数か。
なるほど。
……。いや、ん? では、私のはなんなんだ?
アデラン先生の話はよく理解した。
そして、よく理解したからこそ戸惑っている。
だって私は…。
「アデラン先生」
私はそのまま自分のことを伝える。
アデラン先生は、うん、と一つ頷き先を促す。
何気に周囲もいつの間にか静かになって耳を澄ましている。
「私は、光も闇も……炎もその他も全部、使えます」
「………え?」
一番始めに反応したのは、目の前のアデラン先生だが、周囲の人もぽかんと鳩に豆鉄砲喰らわせたみたいな表情で固まっている。
私自身も戸惑っている。
勘違いではない。
実際、侯爵邸でウサギの作物を育てるために小さいながら畑を作った。
その時に土、水を使った。
その作物を収穫する際は、風を使って収穫した。
因みに小松菜が美味しかったです。
又あるとき、ウサギと森で戯れていたときのことだ。
ウサギを狩ろうと猪が襲ってきた。
その時は眉間に雷を落とし、気絶させ森の奥へテレポートさせた。殺してはいない、はずだ。
またあるときは、森の中をウサギと共に探検していたが気付いたら辺りが暗くなり、灯りが必要になった。
その時は近くの太い枝を切り落とし、風で水分をある程度飛ばした後、枝に火を付けて家へ帰った。
因みに家族は誰も私がいないことに気付いてなかったので、大騒ぎされずに済んだ。
と、まぁ、普通に日常でも使っている。
その話を伝えると、あらまぁ、動かない。
口を開けてぽかんとしている。
なんだか、毎回私が話す度に周りの人はこの顔になっているような。
可笑しいわね。
「……えっと」
アデラン先生はとても混乱しているようで「僕の耳は可笑しくなったのか?」「それとも脳内に異常があるのか?」と混乱なさってるようだ。
担任、ファンデル先生は「よーし、皆、教室に戻るぞー」と指示を出している。私も帰って良いのかしら? え? 駄目だって? イジメですか?
「っん、だぁああぁあああああ!」
突然、何かの叫び声が響いた。
叫び声した方へ視線を向けると一人の男子生徒が自らの赤い短髪を掻きむしりながら叫んでいた。
と思ったら、勢いよくこちらへ振り返り、ずかずかと私たちの方へ向かってきた。
「さっきからうだうだうだうだ、と何をそんなに話してやがる! そんなにこいつのことが気になるんなら、実際に見せてもらえば良いじゃねーか。あ?」
何やら粗相が悪そうな生徒が教師に噛みつくような勢いで、話にツッコんできた。
このクラスの責任者、グラウン先生がその生徒の前に出て「ヴァンズ! 話に勝手にツッコむ出ない!」と注意する。
しかし、ヴァンズと呼ばれた赤髪の少年はそれを無視して主張を続ける。
「こっちは日頃のつまんねーケツが痛くなる話を耐えてるのを、やっとここで晴らせると思ったのに新入生に何、皆して寄って集ってんだ? こいつがそんなにすげーって言いうんなら見せてもらえば良いんじゃねーか」
そう教師に言うなり、ヴァンズは私を睨み付けてきた。
それに対しモノクロがやるのか? 小僧、といった感じで私の腕の中から前屈みに挑む。
私のために怒ってくれるなんて、男前ね! ご褒美にそんなモノクロを撫でてあげた。
よーしよしよしよし。
「ふむ……アデラン先生、お時間を少し頂けますかね?」
と、グラウン先生がアデラン先生の傍へ寄る。
眉間に先程より皺を寄せて、険しい表情でこう提案した。
「百件は一見にしかずと、東洋の言葉ではあります。確かにこいつが言うように話を聞くより、実際に見て確認しませんか?」
それに対し、アデラン先生は……ここの生徒も一部お借りして良いという条件でならと、その提案に乗った。
「待て!」
またもやヴァンズが話の中にツッコみ私をにらみ続けながら発言した。
「それなら、俺がお前の魔法の相手してやるよ。自慢のお前の魔法とやらを見せてもらおうか」
喧嘩を売るような発言をして、思いっきり見下す発言をしてきた。
これは、低俗な人間に目を付けられてしまった。
めんどくさい。
しかし、今回は話がまとまりつつある。
この中で意見を曲げるのはもっとめんどくさいことだ。
仕方ない。
さっさと見せて、事を済ませよう。
こうして、思いもがけない生徒の発言により私は急遽、魔法を披露することになった。
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