上 下
4 / 21

接触

しおりを挟む

 さて、この後はやっと新居でまったり出来る。
 はあ……とっても何だか今日だけで疲れてしまった。
 やはり、普段外に出ないから体力がすぐに底を着いてしまう。

「……早く今日は休んで、朝から野草でも探しましょうか」

 シロちゃんはそれに反応したのか、少し興奮してぶふーぶふーと鼻息荒くした。
 ふふ、本当に素直で分かりやすくて可愛いわぁ。

 シロちゃんが恐がらないかつ、素早く足を帰宅する道へ進める。

 と、玄関の階段を降りた所に、人がど真ん中で仁王立ちしていた。
 しかし、そんなことは私に関係ない。
 世の中、階段下で偉そうに仁王立ちしたくなるときもあるだろう。
 と、いうことで、素通りを決めて避けながら歩みを進める。
 が、なんと相手も私の進む先へスライドした。

「「……」」

 お互い視線を重ねるも、特に何を言うでもない。

「そこ、お邪魔でしてよ」
「わざと邪魔してるんですが」

 え? 何この人。
 わざわざ学園中の一人ひとりを困らせて、楽しんでる暇人なの? と、改めて目の前の人物を見つめる。

 チョコレート色でカールの混じったショートカットの女の子であった。
 黒縁眼鏡を掛けて、緑色の力強い目が印象的である。
 その印象的な緑の目を今は私に向けている。

「……私、貴方のことご存知ないのだけれど」
「そりゃ、初めてお会いしますからね!」

 あら、初対面でしたか。
 通りで思い出せないわけだ。

「え? ケンカ売ってます? それとも天然? 否、さっきの演説から強気キャラよね……?
うん、これはケンカを売ってるんだわ」

 何やら目の前の子はぶつぶつと言い始めた。
 もう、私の癒しタイムが減っちゃうわ。

「用はなさそうね。他の子に構って貰いなさい。では、御機嫌よう」
「ちょーーーーいっ! ちょいちょい! 待って! 何でそうなる? いや、私も人を目の前にして思考にふけったのは悪いけど! 用があるから貴方に声掛けてるんじゃない! ステアトローネ・リンヴィーラ!」
「……お名前ご存知なんですね」
「んっもぉー! そりゃさっき、貴方の演説を聞いてますからね。私どころか、学園中が知ったはずですよ」

 なるほど。
 さっきのアレで私の情報を得たようね。
 ん? でも、それだけで何故この子はここにいるのでしょう?

「だぁ! もー! なんか先が進まないから率直に言うわ! ステアトローネ・リンヴィーラ! 先程のあの演説の意味は何ですか?!」

 ……何かと思うと、演説の意味について、か。

「そのままよ」
「いや、だって、今まで謎の賢人として名を馳せていた侯爵令嬢が公式に顔出して、前へ出るなんて! お陰で、今までのどの入学式よりも、記者まで来て来賓も多く出席した会になったわ」

 ふーん、あれが普通だと思ったら多かったのね。
 そして立ってる方は教員かと思ったけど記者だったのね。
 と、彼女の話を聞いていると後ろから何やら騒がしい足音が聞こえてきた。

「……例の記者達かしら?」
「! こっちに来てください」

 と、彼女は私の腕を掴んだと思ったら、そう言いなり掛け出した。
 私はシロちゃんをなるべく安定した持ち方にして片手で持ち直し、足を動かす。

「家に帰りたいのですが……」
「あの記者達に追われて家まで着いてきますよ! 今は撒くのが先!」

 確かに言われれば、私の憩いの場に大人数の人に囲まれては、癒しも何も無い。
 ここは大人しく目の前の彼女の考えに従いましょうか。

 走る反動でぶひぶひ鳴くウサギを抱きかかえながら、私達はその場を後にした。

「くっ! もういないか?!」
「身の隠し方まで素晴らしいとは……」
「くぅー! さっきの演説は痺れたわ!」
「流石、賢人侯爵令嬢だったな」
「それにあの外見! とっても綺麗で可愛かったわ!」
「神は二物を与えぬと言うが、彼女は例外だな。もしかして本当に神の子だったりして」

 後から今回の大物人物、謎の侯爵令嬢に密着取材しようと、記者達は走り追いかけたが、もう彼女の姿は何処にも見当たらなかった。
 今までなかなか公の場に姿を現すことは無かったため、幻化された令嬢と記者達は大興奮していた。
 さらに、今までの功績もとても注目するものだったが、初めて見た彼女はとても麗しい容姿をしていた。

 プラチナに輝くロングヘアは、下に向かって紫がかったグラデーションをしていた。
 まだ、8歳の幼さを残しつつ、意志の強さが表現された容貌。
 壇上の上を照らす照明が、彼女の肌の白さが反射し、輝いていた。

 又、そんな彼女を一際、際立たせているのが瞳である。
 緑が少し含まれた水色で、とても綺麗な澄んだ水のような色を持つ。

 その瞳で見つめられれば、自分の全てを見透かされているような気分になる人もいれば、心が洗われるような気持ちにもなる不思議な色合いだ。

「……それにしても、彼女、本当にウサギ抱いてましたね」

 彼女のウサギ好きは、風の噂で聞いたことはあったが、実際に見たことないため、あくまで噂と片付けていた。
 そして、先程。
 その噂は真実であったことが本人を目にして明らかになった。
 が、何故ウサギが好きなのか、ウサギを抱いて出席したのか。


「あー、結局彼女のこと何も明らかになってないな……」
「生徒の密着をこれ以上許すと思いますかな?」

 突然の渋い声に一同「はっ!」と、振り向くとこの学園の長、理事長が立っていた。
 ふくよかな体つきだが、センスが良く、お洒落なぽ。
 ちゃおじさん、という印象だ。
 今日は式のため、ベージュのスーツに、赤い蝶ネクタイと元々している黒縁の丸眼鏡にちょび髭がアクセントになりさらにバッチリ決まっている。

「さぁ! 本日の入学式まで取材の許可を任意することが契約でした。式は閉会致しましたので、お引き取り願います」

 見た目は温厚そうな理事長。
 しかし、その時の彼は口元は笑みを浮かべているのに、目だけは鋭く記者達を見据えていた。

 そして、学園は静かな日常に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異国の作家との日常

方舟と道化師
青春
大正時代。ある一軒家に1人の外国人(英国人)の少年が住み始めた。名前は籠目(カゴメ)。そこに使用人として父から言い使った少女、早苗(さな)が訪れる。知らない言葉や、違う文化に戸惑いながらも日々を楽しく過ごす2人の物語・・・かな?

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

アマリモート

雷兎
ファンタジー
城下町に住んでいる、どこにでもいるような少年、クロノ。 彼はとあることから、勇者として旅に出ることになった。 剣は使えず、持っている能力は「読書」のみ。 クロノはその能力を使って、魔王討伐を目指す!! ※この話は「小説家になろう」でもまとめて掲載しています。(なろうはまとめて読みたい方向けとなっております)

砕けた鏡と増えた太陽

月芝
児童書・童話
周囲を砂漠に囲まれた国。 とにかく暑い……。 太陽を睨んで王さまは言いました。 「誰か、あの忌々しい太陽を砕いてしまえ! 成功した者には、何でも望みの褒美をとらせるぞ 」 国中にお触れが回され、我こそはと名乗りを挙げたのは……。

追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜

星里有乃
恋愛
「心まで冷たいと評判の氷の令嬢の異名を持つルクリア・レグラス、お前との婚約は破棄し、心優しい聖女カルミアと結婚する。貴様とは違い、決して裏切らないカルミアとな!」 (またこの悪夢か、辛い、苦しい……早く夢から醒めたい……!)  乙女ゲームの中に転生したプレイヤーの女性が、常に苛まれる未来の悪夢は王太子ギベオンから婚約破棄され追放されるというもの。彼女が転生した伯爵令嬢ルクリア・レグラスは容姿麗しい銀髪碧眼の美女だが、その内面は氷のように冷たいという設定で聖女カルミアの異母姉だ。  しかし、この異世界の転生者はルクリアだけではなく、次第に乙女ゲームのシナリオから逸脱していき……気がつけばルクリアは王太子から溺愛されてしまう? * 断章『地球の葉桜』2024年04月27日。 * 次章は2024年05月下旬以降を予定しております。 * 一旦完結した作品ですが、続きの第二部を連載再開して開始しました。第一部最終話のタイムリープ後の古代地下都市編になります。よろしくお願いします! * この作品はアルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しております。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

秘密の魔王さま‐愛され魔王はイケメンアイドルグループを創る‐

まっしゅ・ぽてと
恋愛
ここは魔法の世界マノス。 仲間思いの魔王サタンは勇者に敗れて、再起を図るために転生魔法を使用したが、間違った魔法を使ったせいで現代の地球”日本”に転生することになってしまった。 地球には魔族もいないし、戦いもない。大切な仲間とも会えない。 失望の中、女神からの使命は、なんとアイドルグループを作ること!あふれ出るフェロモンで周囲を魅了していくサタン。世界一のアイドルグループを作ることはできるのか!? ―――――――――――――――――― 現代日本でみんなに溺愛される魔王が活躍するちょいエロノベルです。 作者はNL、BLどちらもいけます。魔王がみんなに愛されてほしい。 とにかく、主人公が愛される話を目指します。 お時間あれば、読んでみてください。 どうぞよろしくお願いします。

処理中です...