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接触
しおりを挟むさて、この後はやっと新居でまったり出来る。
はあ……とっても何だか今日だけで疲れてしまった。
やはり、普段外に出ないから体力がすぐに底を着いてしまう。
「……早く今日は休んで、朝から野草でも探しましょうか」
シロちゃんはそれに反応したのか、少し興奮してぶふーぶふーと鼻息荒くした。
ふふ、本当に素直で分かりやすくて可愛いわぁ。
シロちゃんが恐がらないかつ、素早く足を帰宅する道へ進める。
と、玄関の階段を降りた所に、人がど真ん中で仁王立ちしていた。
しかし、そんなことは私に関係ない。
世の中、階段下で偉そうに仁王立ちしたくなるときもあるだろう。
と、いうことで、素通りを決めて避けながら歩みを進める。
が、なんと相手も私の進む先へスライドした。
「「……」」
お互い視線を重ねるも、特に何を言うでもない。
「そこ、お邪魔でしてよ」
「わざと邪魔してるんですが」
え? 何この人。
わざわざ学園中の一人ひとりを困らせて、楽しんでる暇人なの? と、改めて目の前の人物を見つめる。
チョコレート色でカールの混じったショートカットの女の子であった。
黒縁眼鏡を掛けて、緑色の力強い目が印象的である。
その印象的な緑の目を今は私に向けている。
「……私、貴方のことご存知ないのだけれど」
「そりゃ、初めてお会いしますからね!」
あら、初対面でしたか。
通りで思い出せないわけだ。
「え? ケンカ売ってます? それとも天然? 否、さっきの演説から強気キャラよね……?
うん、これはケンカを売ってるんだわ」
何やら目の前の子はぶつぶつと言い始めた。
もう、私の癒しタイムが減っちゃうわ。
「用はなさそうね。他の子に構って貰いなさい。では、御機嫌よう」
「ちょーーーーいっ! ちょいちょい! 待って! 何でそうなる? いや、私も人を目の前にして思考にふけったのは悪いけど! 用があるから貴方に声掛けてるんじゃない! ステアトローネ・リンヴィーラ!」
「……お名前ご存知なんですね」
「んっもぉー! そりゃさっき、貴方の演説を聞いてますからね。私どころか、学園中が知ったはずですよ」
なるほど。
さっきのアレで私の情報を得たようね。
ん? でも、それだけで何故この子はここにいるのでしょう?
「だぁ! もー! なんか先が進まないから率直に言うわ! ステアトローネ・リンヴィーラ! 先程のあの演説の意味は何ですか?!」
……何かと思うと、演説の意味について、か。
「そのままよ」
「いや、だって、今まで謎の賢人として名を馳せていた侯爵令嬢が公式に顔出して、前へ出るなんて! お陰で、今までのどの入学式よりも、記者まで来て来賓も多く出席した会になったわ」
ふーん、あれが普通だと思ったら多かったのね。
そして立ってる方は教員かと思ったけど記者だったのね。
と、彼女の話を聞いていると後ろから何やら騒がしい足音が聞こえてきた。
「……例の記者達かしら?」
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走る反動でぶひぶひ鳴くウサギを抱きかかえながら、私達はその場を後にした。
「くっ! もういないか?!」
「身の隠し方まで素晴らしいとは……」
「くぅー! さっきの演説は痺れたわ!」
「流石、賢人侯爵令嬢だったな」
「それにあの外見! とっても綺麗で可愛かったわ!」
「神は二物を与えぬと言うが、彼女は例外だな。もしかして本当に神の子だったりして」
後から今回の大物人物、謎の侯爵令嬢に密着取材しようと、記者達は走り追いかけたが、もう彼女の姿は何処にも見当たらなかった。
今までなかなか公の場に姿を現すことは無かったため、幻化された令嬢と記者達は大興奮していた。
さらに、今までの功績もとても注目するものだったが、初めて見た彼女はとても麗しい容姿をしていた。
プラチナに輝くロングヘアは、下に向かって紫がかったグラデーションをしていた。
まだ、8歳の幼さを残しつつ、意志の強さが表現された容貌。
壇上の上を照らす照明が、彼女の肌の白さが反射し、輝いていた。
又、そんな彼女を一際、際立たせているのが瞳である。
緑が少し含まれた水色で、とても綺麗な澄んだ水のような色を持つ。
その瞳で見つめられれば、自分の全てを見透かされているような気分になる人もいれば、心が洗われるような気持ちにもなる不思議な色合いだ。
「……それにしても、彼女、本当にウサギ抱いてましたね」
彼女のウサギ好きは、風の噂で聞いたことはあったが、実際に見たことないため、あくまで噂と片付けていた。
そして、先程。
その噂は真実であったことが本人を目にして明らかになった。
が、何故ウサギが好きなのか、ウサギを抱いて出席したのか。
「あー、結局彼女のこと何も明らかになってないな……」
「生徒の密着をこれ以上許すと思いますかな?」
突然の渋い声に一同「はっ!」と、振り向くとこの学園の長、理事長が立っていた。
ふくよかな体つきだが、センスが良く、お洒落なぽ。
ちゃおじさん、という印象だ。
今日は式のため、ベージュのスーツに、赤い蝶ネクタイと元々している黒縁の丸眼鏡にちょび髭がアクセントになりさらにバッチリ決まっている。
「さぁ! 本日の入学式まで取材の許可を任意することが契約でした。式は閉会致しましたので、お引き取り願います」
見た目は温厚そうな理事長。
しかし、その時の彼は口元は笑みを浮かべているのに、目だけは鋭く記者達を見据えていた。
そして、学園は静かな日常に戻った。
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