12 / 12
12 sid B
しおりを挟む
彼奴の部屋を後にして、自身の執務室へ向かう。
軍義中止にして、向かった部屋に半日いたとは。
色に溺れたと噂されたら困るが、妻であるティナとの仲を外に示すにはいい機会だ。
それにティナに溺れる分には問題はないからな。
部屋に辿り着き、中に入れば昨日、中途半端な形で終わっていた仕事の資料が床に落ちている。
誰かがこの部屋を訪れたのだろう。それにしても、この資料を拾わないで部屋から姿を消すのだから、侍女や文官、武官ではないだろう。
落ちている資料を拾っていると、ノックもなしに入室してくる一組の男女がいる。
カツカツとなるヒール音に眉を顰めため息が漏れる。
「ねぇ、ケイレブ様。本当に姉様とあの無表情男は上手くいきましたの?」
「ブリアナ、無表情男とは…兄上のことですか?」
「そうよ。あの男と来たら、姉様の気持ちに気付いているのか気付いないのか、本当にわからないわ」
この声、本当に彼奴の妹なのかと疑いたくなるほどに煩い。
執務に取り掛かろうとしていたはずなのに、何故コイツらは、俺の執務室にいる。
しかも、ティナの妹であるブリアナは本人を目の前にしながらも言いたいことを言う。
ティナのような謹み深さは、これには備わらなかったようだ。
前皇太子殿下と前皇帝陛下が、この姿をみたら嘆くだろうか。
あの方々から、「可愛い」といながら、猫可愛がるかもしれないな。
弟も弟で、ブリアナが口を開けば嬉しそうな顔する。重症だな。
「ケイレブ、そいつを摘まみ出せ」
「まあ、何て傲慢な方なのかしら。姉様をいままで放っておいて、やっと心を通わせようなんて虫がいいとしか言えないわ」
「おい」
「言わせてもらいますけど、あの時の私は幼すぎたわ。確かに、あの大火で私の身体は醜くなり何処にも嫁ぐことが出来なくなった。でも、いまはこんな私のことを愛してくれる方がそばにいてくれる。これが、何よりも幸せよ。でも、あなたは姉様に何をしてあげたの?地位を与えただけではなくて。皇太子妃なんて肩書きを姉様に与えただけでしょ?女としての幸福を与えてあげたの?」
よく話す女だな、と感心しているケイレブが擁護しはじめる。
俺がこの数年どんな気持ちでいたのか。彼奴には理解できないだろう。理解されても困るが。
この国は平和にみえて、平和ではない。やっと、ここ数年で安定した生活が送れるようになった。そのことは、ケイレブ自身もわかっていることだ。
俺が皇太子になれば、ティナが正当な血筋と言う奴らも多い。勝手に担ぎ上げられ、争いを嫌うティナが皇位に着いても望むものは得られない。
だったら、安定した世で王配としてともに国を支えて欲しい。
「兄上、彼女が言うことにも一理あります。クリスティーナ様を愛していると、以前おっしゃっていましたが、それをきちんと伝えましたか?」
弟の言葉に通り、まだ直接的には伝えていない。
側にいろとは伝えたが愛しているなどという言葉は、あまりにも恥ずかしくて伝えることが出来ない。
「兄上のことです。どうせ、言葉足らずで伝えられなかったのでしょう」
「うるさい」
声が低くなるのがわかる。
そろそろ、溜まっている仕事をしたいのだが、とも言えずに拾い上げた書類を片手に椅子に座る。
「図星ですわね。姉様に愛の言葉ひとつも囁けずに、大切にしているとは、どの口が言っているのですか。きちんと姉様の心を捉えてくれなければ、母様にすべて奪われましてよ。あの方は、私たちを駒としか思っていないのですから。死んだ兄上ですら、自分を輝かせるための駒としか思っていなかった方です」
ブリアナの言葉に感心して、書類から目を離し視線を合わせる。
先程までの挑発的な態度といいが、視線が交わっただけで怯えられた。
後退りをしそうになっているが、ケイレブに支えられている。
「ティナと違い、観察眼だけはあるようだな」
「うるさいですわ」
気丈に振る舞っているようだ。
一国の姫君のとる態度としては及第点かもしれない。
だが、この女はこの国でしか生きられない。あの大火で負った傷を、他国に晒せば侮っていると思われる。
そして、ティナよりも母のことを理解している。あの大火後に、あの女はブリアナの元に通ったことはない。
皇帝陛下の妃になった時点で、自身の地位に変わりはなくなった。ただ、自身を輝かせることもない子供になど興味がないのだ。
ティナのように、この国で地位を持たないブリアナに目を掛ける必要もないと思ったのだろう。それに、あの女の中でブリアナは傷者としてか映らなかったのだ。
少々褒めてやれば、口の悪さも改善されるかと思ったが、そのようなこともなかった。
言いたいことを聞いたのだから、部屋から追い出そうと命令しようとすれば、また突然扉が開く。
オロオロと部屋の様子を伺っているが、扉を閉めてそのまま入室して欲しい。
「あのディック様。先程は、乱れてしまい申し訳ありません」
先程まで共にいた愛しい女。
ただ、いまこの状況では頭を抱えたくなるほどの姿でやって来た。
開けた上着を誰か直してやらなかったのかと、叱咤したくなりたい。それに、ここまで来るのに何人にその姿を見せたのかと問いただしたい衝動に駆られそうになった。
本人は着こなしについては、何も気にしていないようだが、見た者たちを切り刻みたい。
自信を落ち着かせるために、深呼吸をしてから弟を睨む。
ティナを見るなと、警告の意味も込めて。
軍義中止にして、向かった部屋に半日いたとは。
色に溺れたと噂されたら困るが、妻であるティナとの仲を外に示すにはいい機会だ。
それにティナに溺れる分には問題はないからな。
部屋に辿り着き、中に入れば昨日、中途半端な形で終わっていた仕事の資料が床に落ちている。
誰かがこの部屋を訪れたのだろう。それにしても、この資料を拾わないで部屋から姿を消すのだから、侍女や文官、武官ではないだろう。
落ちている資料を拾っていると、ノックもなしに入室してくる一組の男女がいる。
カツカツとなるヒール音に眉を顰めため息が漏れる。
「ねぇ、ケイレブ様。本当に姉様とあの無表情男は上手くいきましたの?」
「ブリアナ、無表情男とは…兄上のことですか?」
「そうよ。あの男と来たら、姉様の気持ちに気付いているのか気付いないのか、本当にわからないわ」
この声、本当に彼奴の妹なのかと疑いたくなるほどに煩い。
執務に取り掛かろうとしていたはずなのに、何故コイツらは、俺の執務室にいる。
しかも、ティナの妹であるブリアナは本人を目の前にしながらも言いたいことを言う。
ティナのような謹み深さは、これには備わらなかったようだ。
前皇太子殿下と前皇帝陛下が、この姿をみたら嘆くだろうか。
あの方々から、「可愛い」といながら、猫可愛がるかもしれないな。
弟も弟で、ブリアナが口を開けば嬉しそうな顔する。重症だな。
「ケイレブ、そいつを摘まみ出せ」
「まあ、何て傲慢な方なのかしら。姉様をいままで放っておいて、やっと心を通わせようなんて虫がいいとしか言えないわ」
「おい」
「言わせてもらいますけど、あの時の私は幼すぎたわ。確かに、あの大火で私の身体は醜くなり何処にも嫁ぐことが出来なくなった。でも、いまはこんな私のことを愛してくれる方がそばにいてくれる。これが、何よりも幸せよ。でも、あなたは姉様に何をしてあげたの?地位を与えただけではなくて。皇太子妃なんて肩書きを姉様に与えただけでしょ?女としての幸福を与えてあげたの?」
よく話す女だな、と感心しているケイレブが擁護しはじめる。
俺がこの数年どんな気持ちでいたのか。彼奴には理解できないだろう。理解されても困るが。
この国は平和にみえて、平和ではない。やっと、ここ数年で安定した生活が送れるようになった。そのことは、ケイレブ自身もわかっていることだ。
俺が皇太子になれば、ティナが正当な血筋と言う奴らも多い。勝手に担ぎ上げられ、争いを嫌うティナが皇位に着いても望むものは得られない。
だったら、安定した世で王配としてともに国を支えて欲しい。
「兄上、彼女が言うことにも一理あります。クリスティーナ様を愛していると、以前おっしゃっていましたが、それをきちんと伝えましたか?」
弟の言葉に通り、まだ直接的には伝えていない。
側にいろとは伝えたが愛しているなどという言葉は、あまりにも恥ずかしくて伝えることが出来ない。
「兄上のことです。どうせ、言葉足らずで伝えられなかったのでしょう」
「うるさい」
声が低くなるのがわかる。
そろそろ、溜まっている仕事をしたいのだが、とも言えずに拾い上げた書類を片手に椅子に座る。
「図星ですわね。姉様に愛の言葉ひとつも囁けずに、大切にしているとは、どの口が言っているのですか。きちんと姉様の心を捉えてくれなければ、母様にすべて奪われましてよ。あの方は、私たちを駒としか思っていないのですから。死んだ兄上ですら、自分を輝かせるための駒としか思っていなかった方です」
ブリアナの言葉に感心して、書類から目を離し視線を合わせる。
先程までの挑発的な態度といいが、視線が交わっただけで怯えられた。
後退りをしそうになっているが、ケイレブに支えられている。
「ティナと違い、観察眼だけはあるようだな」
「うるさいですわ」
気丈に振る舞っているようだ。
一国の姫君のとる態度としては及第点かもしれない。
だが、この女はこの国でしか生きられない。あの大火で負った傷を、他国に晒せば侮っていると思われる。
そして、ティナよりも母のことを理解している。あの大火後に、あの女はブリアナの元に通ったことはない。
皇帝陛下の妃になった時点で、自身の地位に変わりはなくなった。ただ、自身を輝かせることもない子供になど興味がないのだ。
ティナのように、この国で地位を持たないブリアナに目を掛ける必要もないと思ったのだろう。それに、あの女の中でブリアナは傷者としてか映らなかったのだ。
少々褒めてやれば、口の悪さも改善されるかと思ったが、そのようなこともなかった。
言いたいことを聞いたのだから、部屋から追い出そうと命令しようとすれば、また突然扉が開く。
オロオロと部屋の様子を伺っているが、扉を閉めてそのまま入室して欲しい。
「あのディック様。先程は、乱れてしまい申し訳ありません」
先程まで共にいた愛しい女。
ただ、いまこの状況では頭を抱えたくなるほどの姿でやって来た。
開けた上着を誰か直してやらなかったのかと、叱咤したくなりたい。それに、ここまで来るのに何人にその姿を見せたのかと問いただしたい衝動に駆られそうになった。
本人は着こなしについては、何も気にしていないようだが、見た者たちを切り刻みたい。
自信を落ち着かせるために、深呼吸をしてから弟を睨む。
ティナを見るなと、警告の意味も込めて。
0
お気に入りに追加
55
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
皇女の切望、騎士の献身
若島まつ
恋愛
皇女エレクトラと骨の髄まで忠実な騎士ゾラ。
エレクトラの結婚相手を決める舞踏会の夜、幼い頃から保ってきた二人の関係が崩れる。
皇女と騎士の情愛が行き着く先は――
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ファムファタール
仏白目
恋愛
子爵家の娘ミシェルは、叔母の口添えで遠縁の侯爵家に行儀見習いとしてお世話になっている
将来は高位貴族の侍女になり、良い縁談に恵まれれば幸いと日々を過ごしていたある日、
侍女としてお嬢様の婚約者にお茶を淹れたことから ミシェルを取り巻く世界が変わりだす、どうして?こんな事に・・・
この物語は、作者ご都合主義の世界観でのフィクションです あしからず。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる