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寝台から起き上がり辺りを見回せば、いつもならここにいるはずもない人の影がみえる。
寝惚けているだけだろうと、目を擦るが一度擦っただけでは幻覚が消えない。再び擦ろうとすれば、腕を掴まれる。
「目が覚めたか」
いつもの厳しい声ではなく、穏やかな声で語り掛けられ、幻ではないと思い知る。
腕にある温もりは本物だ。その腕に縋るように、自身の頬を近づける。
たまには、甘えても問題はないだろう。いままでの関係が歪なだけだ。
心に蓋をしたつもりだったが、私はこの人のことがずっと愛しくて手放したくないと思っていた。
こんにも醜い心を持つ私でも側にいていいと、この人は言ってくれた。
「ベネディクト様、私はあなた様に側妃を娶って欲しくないです」
寝起きで訳の分からい言葉を吐き出していると思われたくない。
だけれど、私の頭は少し寝たことですっきりしたからか、いままで伝えたかったことをやっと言う決意が出来た。
「やっと、本心を伝えてくれたか。俺はお前の夫であり、ティナにとっての最初で最後の男でありたいと願っている」
嬉しそうな表情をしながら、発せられた言葉に目を丸くする。この人は、私といつもきちんと向き合おうとしてくれていた。そんな人の言葉を信じずにいた自分を恥じながらも、掛けられた言葉を嬉しく思う。
我儘な私は、子どものままなのかもしれない。大好きな人を誰かに取られたくないと心の中では思っていた。
側妃を臣下から勧められるのは、私の落ち度があるからだ。婚姻を結んで何年経っただろう。
その間に子が産まれることもなく、ただただ無駄に生きていた。私と床を一緒にするわけでもなく、顔を合わせるだけの関係を臣下たちは知っていた。
誰から漏れたのかなど、気にしても仕方がない。これが事実なのだから。
この国は、男系のみの継承となっている。皇帝であった父が決めたことを、叔父上が覆すことはしないだろう。
覆してしまえば、自身が皇帝という座から引きずり降ろされ私が女帝として君臨しなければいけなくなる。
帝王学など学ばなかった私には、そんな器は備わっていない。野心の塊のような叔父上だから出来ることだ。
ベネディクト様は兄や弟が没した後、自身で帝王学を学ばれた。その努力する姿を知っていながら私は支えることが出来なかった。
あの時に、私から離れることも出来たのに彼はせずに、まだ私の側にいてくれる。
「私は、私は…あなた様が辛いときに支えることも出来なかった愚かな女です。それなのに、側にいることを許してくれるのですか?」
「諄
くど
い。俺は自分の意思で行動する。それは、いまも昔も変わらない」
真っすぐに射貫く視線から、目を離さない。離してはいけないのだ。
いままで、この目に射貫かれることを恐怖と感じていた。全てを見抜かれ私が守ろうとしていたことを、簡単に壊されてしまうと思い。
でも、いま思えば簡単に壊されてしまえばよかったのだ。そうすれば、私たちはこんなにもすれ違うことはなかったのだから。
「…ディック様」
自然と溢れる涙を拭わなくてはいけないのに、零れてきてしまった涙を拭う布は近くにない。
はしたなく服で拭ってしまおうかと思っていたら、突然抱き寄せられきつく閉じ込められる。
痛いほどの温もりを受け入れながら、唇を奪われた。
「ふぁ…んん」
「…鼻で息をしろ。このまま続けるぞ」
鼻から抜ける息が何だか熱く感じられ、彼から漏れる息は暖かく少しだけくすぐったいと思ってしまう。
何度も絡み合い身体中に熱が篭り始める。こんなにも身体に熱が篭るなんて、何だか病に侵されている気分だ。
「ディック様、身体が熱いです」
「可愛いことを言うな。歯止めが利かなくなる」
そのまま起き上がったはずの寝台に押し倒されて、何回も啄むように唇を貪られたかと思えば、深く求められた。
そのまま、服を乱され抵抗することもなくベネディクト様を受け入れた。
寝惚けているだけだろうと、目を擦るが一度擦っただけでは幻覚が消えない。再び擦ろうとすれば、腕を掴まれる。
「目が覚めたか」
いつもの厳しい声ではなく、穏やかな声で語り掛けられ、幻ではないと思い知る。
腕にある温もりは本物だ。その腕に縋るように、自身の頬を近づける。
たまには、甘えても問題はないだろう。いままでの関係が歪なだけだ。
心に蓋をしたつもりだったが、私はこの人のことがずっと愛しくて手放したくないと思っていた。
こんにも醜い心を持つ私でも側にいていいと、この人は言ってくれた。
「ベネディクト様、私はあなた様に側妃を娶って欲しくないです」
寝起きで訳の分からい言葉を吐き出していると思われたくない。
だけれど、私の頭は少し寝たことですっきりしたからか、いままで伝えたかったことをやっと言う決意が出来た。
「やっと、本心を伝えてくれたか。俺はお前の夫であり、ティナにとっての最初で最後の男でありたいと願っている」
嬉しそうな表情をしながら、発せられた言葉に目を丸くする。この人は、私といつもきちんと向き合おうとしてくれていた。そんな人の言葉を信じずにいた自分を恥じながらも、掛けられた言葉を嬉しく思う。
我儘な私は、子どものままなのかもしれない。大好きな人を誰かに取られたくないと心の中では思っていた。
側妃を臣下から勧められるのは、私の落ち度があるからだ。婚姻を結んで何年経っただろう。
その間に子が産まれることもなく、ただただ無駄に生きていた。私と床を一緒にするわけでもなく、顔を合わせるだけの関係を臣下たちは知っていた。
誰から漏れたのかなど、気にしても仕方がない。これが事実なのだから。
この国は、男系のみの継承となっている。皇帝であった父が決めたことを、叔父上が覆すことはしないだろう。
覆してしまえば、自身が皇帝という座から引きずり降ろされ私が女帝として君臨しなければいけなくなる。
帝王学など学ばなかった私には、そんな器は備わっていない。野心の塊のような叔父上だから出来ることだ。
ベネディクト様は兄や弟が没した後、自身で帝王学を学ばれた。その努力する姿を知っていながら私は支えることが出来なかった。
あの時に、私から離れることも出来たのに彼はせずに、まだ私の側にいてくれる。
「私は、私は…あなた様が辛いときに支えることも出来なかった愚かな女です。それなのに、側にいることを許してくれるのですか?」
「諄
くど
い。俺は自分の意思で行動する。それは、いまも昔も変わらない」
真っすぐに射貫く視線から、目を離さない。離してはいけないのだ。
いままで、この目に射貫かれることを恐怖と感じていた。全てを見抜かれ私が守ろうとしていたことを、簡単に壊されてしまうと思い。
でも、いま思えば簡単に壊されてしまえばよかったのだ。そうすれば、私たちはこんなにもすれ違うことはなかったのだから。
「…ディック様」
自然と溢れる涙を拭わなくてはいけないのに、零れてきてしまった涙を拭う布は近くにない。
はしたなく服で拭ってしまおうかと思っていたら、突然抱き寄せられきつく閉じ込められる。
痛いほどの温もりを受け入れながら、唇を奪われた。
「ふぁ…んん」
「…鼻で息をしろ。このまま続けるぞ」
鼻から抜ける息が何だか熱く感じられ、彼から漏れる息は暖かく少しだけくすぐったいと思ってしまう。
何度も絡み合い身体中に熱が篭り始める。こんなにも身体に熱が篭るなんて、何だか病に侵されている気分だ。
「ディック様、身体が熱いです」
「可愛いことを言うな。歯止めが利かなくなる」
そのまま起き上がったはずの寝台に押し倒されて、何回も啄むように唇を貪られたかと思えば、深く求められた。
そのまま、服を乱され抵抗することもなくベネディクト様を受け入れた。
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