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2章 アルバイト開始
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叩き落したのはいいが、すぐに手が伸びてきそうだったから後ろを向き胸の中に引き寄せる。絶対に触れるなと、睨みを効かせながら。
「人の婚約者を、目の前で口説くとはいい度胸をしていますね。ニコライさんに頼んで、仕事量を増やしていただきましょうか?」
どうせ、ここにいることはニコライさんも承知の上なのだろう。はやく、引き取りに来て欲しい。
「ニコライに頼んだところで、仕事量は変わらない。むしろ、お前たちの割り振りが増えるだけだと思うが」
そうだった。この人は容量がいいため、人より働くがその上でいろいろと他の分野にも手を付けようとしては、仕事を増やすことを得意としている。深く学んでいない分野には手を付けないで欲しいと毎度思っている。そのことを思い出すと、胃が痛くなりそうだ。
ぎゅっと胸の中にいるアンの頭を、自身の胸に押し合てるようにすれば、「では、またの機会に私の執務室にでも遊びに来て欲しい」と諦めていなかったようだ。
「あなたという方は、まだそのようなことを…‼」
感情的になり声を荒げれば、声を低くしもっともらしいことを言ってくる。
「一貴族が、王族の誘いを断れるはずがないだろう。それは、私の元で働いているお前自身がわかっているはずだ。理解していながら、反抗するのもいいが、この部屋の中だけにしろ。執務室や他の場でこのような発言をすれば、お前の立場が悪くなる」
身分を笠に着た言い方を好まない殿下がよくもそのような言葉を吐くな。
アンが王家に逆らえない性格だと見抜いてのことだと思うと、本当にタヌキやキツネのようだと思う。
「…殿下、あなたは…」
腕の中でアンを抱きしめているということを忘れ、強く力を込める。
ただ、この人がアンに目を付けた理由は簡単だ。僕がどんな仕事をしようが、それが王家の指示したことなら、仕方がないと受け入れられる女性であるからだろう。
「話がわかればいい。それよりも、お前が閉じ込めている花が息苦しそうにしているぞ。花にも呼吸は必要だからな」
力を緩めれば、腕の中から逃げ出す。それは、猫が興味ある物を見つけた時に取るような行動だった。
「あの私がいるとお話が進まないようなので、本日はこれで失礼します」
一瞬何を言っているのか、わからなかった。ここから、いなくなるはずの人物はアンではなく殿下だというのに、何故彼女がここからいなくなる。
動き出そうとしたときには既に扉の前から姿が消えていた。
クツクツと後ろで笑い声が聞こえる。寄りによって何故、殿下とふたりっきりなんだ。
「おまえ、婚約者は無知でいい」
「彼女のことを馬鹿にしているのですか?」
無知とは彼女に失礼だろう。貴族としての礼儀作法を叩き込まれているから侯爵家に嫁ぐには問題ない。ただ、危機感がなさすぎるのが問題だ。
「そういうわけではない。クリスが気に入る理由もわかる」
「またですか。あの人にだって、婚約者がいる。しかも、ケイの元婚約者だ」
「まあ、仕方がない。あの家も突然、跡取りがいなくなってしまえば娘に婿を取ってもらうのが一番だからな」
あの家の事情など知ったことはない。ただ、アンを気にいていると言う言葉が気に入らない。
自信の護衛の妹だからと目にかけているなど、他の者たちが知ればどう思うだろう。ただでさえ、アンはシルビア様に目を付けられている。クリスがアンを気に入っていると知れ渡れば、ケイの元婚約である彼女やその取り巻きなどが黙っていないだろう。友好的みせかけ、何かを仕掛けてくるに違いない。あんな汚いやり取り彼女を巻き込みたくない。
「それにしても、無知な花ほど可愛いがここで彼女がひとりになってシルビアや取り巻きや侍女に会えばどうなるだろうか」
「わかっています」
言い方がいちいち勘に触ると思いながらも、一礼を退出し走り出す。
王城に慣れていないアンはきっとグレアム伯爵の執務室を目指すだろう。慣れていない場所で彼女が迷子になっている可能性も含め探し出す。
彼女はすぐに見つかった。体力があまりないのか、先程の部屋からあまり離れていない廊下の角で息切れを起こし座り込んでいた。
その姿をみたとき、無事でよかったと思いながらも、近づいたら逃げ出されてしまうかもしれないという恐怖が沸き上がった。
「アン‼逃げないで」
声を掛ければ、案の定逃げようと無理に立ち上がろうとする。きっと、いま彼女顔は青白くなってしまっているかもしれない。
「今日はもう君に近づかない。だから、逃げないで」
一定の距離保ちながら近づく。もっと、側で彼女の存在を感じていたい。いまの彼女を捉えて側にいることは可能だけれど、そんなことをして彼女に嫌われるのは耐えられない。
だから、「約束して欲しい。明日、一緒に観劇に行こう」と、先程誘うことが出来なかったことを伝える。
「でも、ユーゴ。あなたには仕事があるはずでしょ?」
「大丈夫。特別に休暇を貰っているから」
振りむいたアンは驚きながらも嬉しそうに頷いてくれた。それだけで、彼女を追ってよかったと思えた。
「人の婚約者を、目の前で口説くとはいい度胸をしていますね。ニコライさんに頼んで、仕事量を増やしていただきましょうか?」
どうせ、ここにいることはニコライさんも承知の上なのだろう。はやく、引き取りに来て欲しい。
「ニコライに頼んだところで、仕事量は変わらない。むしろ、お前たちの割り振りが増えるだけだと思うが」
そうだった。この人は容量がいいため、人より働くがその上でいろいろと他の分野にも手を付けようとしては、仕事を増やすことを得意としている。深く学んでいない分野には手を付けないで欲しいと毎度思っている。そのことを思い出すと、胃が痛くなりそうだ。
ぎゅっと胸の中にいるアンの頭を、自身の胸に押し合てるようにすれば、「では、またの機会に私の執務室にでも遊びに来て欲しい」と諦めていなかったようだ。
「あなたという方は、まだそのようなことを…‼」
感情的になり声を荒げれば、声を低くしもっともらしいことを言ってくる。
「一貴族が、王族の誘いを断れるはずがないだろう。それは、私の元で働いているお前自身がわかっているはずだ。理解していながら、反抗するのもいいが、この部屋の中だけにしろ。執務室や他の場でこのような発言をすれば、お前の立場が悪くなる」
身分を笠に着た言い方を好まない殿下がよくもそのような言葉を吐くな。
アンが王家に逆らえない性格だと見抜いてのことだと思うと、本当にタヌキやキツネのようだと思う。
「…殿下、あなたは…」
腕の中でアンを抱きしめているということを忘れ、強く力を込める。
ただ、この人がアンに目を付けた理由は簡単だ。僕がどんな仕事をしようが、それが王家の指示したことなら、仕方がないと受け入れられる女性であるからだろう。
「話がわかればいい。それよりも、お前が閉じ込めている花が息苦しそうにしているぞ。花にも呼吸は必要だからな」
力を緩めれば、腕の中から逃げ出す。それは、猫が興味ある物を見つけた時に取るような行動だった。
「あの私がいるとお話が進まないようなので、本日はこれで失礼します」
一瞬何を言っているのか、わからなかった。ここから、いなくなるはずの人物はアンではなく殿下だというのに、何故彼女がここからいなくなる。
動き出そうとしたときには既に扉の前から姿が消えていた。
クツクツと後ろで笑い声が聞こえる。寄りによって何故、殿下とふたりっきりなんだ。
「おまえ、婚約者は無知でいい」
「彼女のことを馬鹿にしているのですか?」
無知とは彼女に失礼だろう。貴族としての礼儀作法を叩き込まれているから侯爵家に嫁ぐには問題ない。ただ、危機感がなさすぎるのが問題だ。
「そういうわけではない。クリスが気に入る理由もわかる」
「またですか。あの人にだって、婚約者がいる。しかも、ケイの元婚約者だ」
「まあ、仕方がない。あの家も突然、跡取りがいなくなってしまえば娘に婿を取ってもらうのが一番だからな」
あの家の事情など知ったことはない。ただ、アンを気にいていると言う言葉が気に入らない。
自信の護衛の妹だからと目にかけているなど、他の者たちが知ればどう思うだろう。ただでさえ、アンはシルビア様に目を付けられている。クリスがアンを気に入っていると知れ渡れば、ケイの元婚約である彼女やその取り巻きなどが黙っていないだろう。友好的みせかけ、何かを仕掛けてくるに違いない。あんな汚いやり取り彼女を巻き込みたくない。
「それにしても、無知な花ほど可愛いがここで彼女がひとりになってシルビアや取り巻きや侍女に会えばどうなるだろうか」
「わかっています」
言い方がいちいち勘に触ると思いながらも、一礼を退出し走り出す。
王城に慣れていないアンはきっとグレアム伯爵の執務室を目指すだろう。慣れていない場所で彼女が迷子になっている可能性も含め探し出す。
彼女はすぐに見つかった。体力があまりないのか、先程の部屋からあまり離れていない廊下の角で息切れを起こし座り込んでいた。
その姿をみたとき、無事でよかったと思いながらも、近づいたら逃げ出されてしまうかもしれないという恐怖が沸き上がった。
「アン‼逃げないで」
声を掛ければ、案の定逃げようと無理に立ち上がろうとする。きっと、いま彼女顔は青白くなってしまっているかもしれない。
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だから、「約束して欲しい。明日、一緒に観劇に行こう」と、先程誘うことが出来なかったことを伝える。
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