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2章 アルバイト開始

婚約者の幻覚が(ユーゴ視点)

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 アンジュが何故ここに。王城内でアンジュを見かけたときに疑問に思ったが、それでも最近会うことが叶わないでいた婚約者に会えたことに、心が躍った。
 これも全て、ジェードが面倒ごとを全て僕に押し付けるからだ。
 この前、たまたまトロント伯爵令嬢とグラッチェへいったらケイやクリスに会ってしまい不要な憶測をされるかと思った。彼女がどうしてもケイとの縁談を纏めたいと言うから、下手にふたりきりになるよりも人目がある場がいいと思いグラッチェに入ったというのに。
 姉の友人である彼女を無碍に扱うことも出来ずにいれば、ケイ本人が来る。
 アンではない女性といる場を見られたときは、内心舌打ちしたくて仕方がなかったが、このような場に、アンがいなくてよかったと内心ホッともしていた。
 馬車を降りるアンを見ていると、僕や家族以外の男に手を預けている。その男が同僚であることを確認すると、持っていた書類がぐしゃりと音を立て歪む。
 午前中で仕事をあがろう。胃のあたりからムカムカしてしまい、仕事どころではない。
 それに、午後休暇をとれと言われていたから丁度いい。このまま、用事を済ませたアンをグレアム邸まで送り届けたいと、衝動に駆られた。
「殿下、午後休の話、本日いただきたいです。また、明日は有給で休ませていただきます」
「突然、どうした」
 揶揄う様にニコライさんが、窓辺にいる僕に近づいてくる。同じように外をみれば、ちょうど門をグレンさんと一緒に通るところだ。
 その姿をみて、隣から「ヒュー」と口笛が聞こえてくる。人の肩に腕を置きながら、寄りかかって来るから疎しい。
「可愛い婚約者をグレンに取られそうで、冷静さを欠いている?」
「グレンさんに限って、横恋慕するはずがない」
「わからないよ。恋は突然にはじまるから…ね。ジェード」
 上座にいる殿下に話し掛けるニコライさんの腕を払おうとするが、それを察知したのか自身で離れていく。何て、自由な人なんだ。
「仕事をしろ。それに、ユーゴ先程のは急すぎて受け入れる気にもならない」
「いいじゃないか。たまには、ユーゴくんにも休みは必要だよ。いつも真面目に仕事に取り組んでいるのだから、これくらいの我儘叶えてあげなよ。それに、彼には此方が動けない仕事を頼んでいるんだから」
 ニコライさんが援護してくれることが意外で驚いていると「たまには、可愛い部下のために一肌脱ぐよ」と笑っている。
 ニコライさんの妹―――カロリーナ嬢からアンのことで何か聞いているのだろう。あまり関わりたくはないが、休みが貰えるなら、明日行われる観劇にアンを誘おう。
 元々、アンを誘うつもりでいたが休みが貰えるかわからなかった。いまが忙しい時期だから、休んでいいのかと躊躇っていたが、グレンさんと一緒にいるアンを見ていたら休みを取る決意が出来た。
「お前がそこまで言うなら仕方がないか」
 我が従兄殿は、ニコライさんには頭が上がらないようだ。心強い方がいてよかったと思う。
 それにしても、グレンさんとアンは何処に向かったのだろう。
「では、本日の仕事はここまででよろしいですか?」
「おい。自身の机にある書類だけは片づけろ」
 隠すことなく舌打ちをすれば、眉を顰められるが気にしている場合ではない。ここは、実力主義で側近候補として同じ執務室で仕事をしているが、実力が供わなければ切り捨てられる。わかっているが、いまはアンのことで頭を一杯で仕事が手に着きそうにない。
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