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2章 アルバイト開始

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「休憩時間が終わっても戻って来ないと思ったら、胡のような場で逢引きしていたとはな」
「そもそも、私は午後休ですので休憩時間は関係ないですよ」
「その申請を通した覚えはない」
 殿下の入室で、先程までの気まずい雰囲気はなくなり、「チッ」と音が聞えた。
 たまに、兄が母に反抗して出す音と同じで「そのような品がないことはしないで」と注意されている。
 その音の出処が目の前に座っている男からだとは、考えないようにしよう。
 それにしても、今日のユーゴは男性に対して少しピリピリしているようだ。それとも、これが普段のユーゴなのだろうか。
「ユーゴ、あまり失礼なことをしないで。それに、ユーゴの品位を疑われてしまうから止めて」
「グレアム嬢は、よく教育されている」
 切れ長な目つきが特徴な彼の目が細くなる。感情を失くしたような目で見られると、身が震える。感情がない瞳は虚ろというよりも、ユーゴの場合は睨んでいるようにも見える。女性に睨まれるよりも、男性に睨まれることが、これほど心臓に痛みが奔るとは思わなかった。
 ゆっくりと誰も座っていないこの部屋で一番日当たりが良さそうなソファーに腰掛ける。
 そして、「ユーゴ、私にも紅茶をくれるか」と、有無を言わせない笑みを浮かべながら、指示している。
「いまは、婚約者との大切な時間ですのでお断りします」
 殿下が来るまでの一瞬の冷たい雰囲気を出した彼が、そう思っていたことに驚いてしまう。
 はやく、退出して欲しいと思ってしまった私は何て馬鹿なんだろう。
 席を立ち上がり私の傍らまで来ると、そっと肩を抱き寄せられる。
「そうか。なら、明日からの休暇申請はなかったことにするか」
「横暴ですね。これで、あなたが暴君にならなければいいですが」
「民や臣下の前で、そのような振る舞いをするわけがないだろう」
 断りながらも、殿下のために淹れるユーゴを眺めていると、先程の目つきのことを無くしてもやっぱり格好いいと思う。
 ジェード殿下とユーゴは似ているとよく言われるが、私からすればそんなことはない。
 殿下のことを知らないからなのか、婚約者のことを贔屓目でみているからなのかは、わからない。
 ユーゴは表情で勘違いされやすいが、とっても紳士なのだ。
 比べる対象があまりにもいないため、他の方がどうかはよくわからないが。
「やっぱり、優しいね」
「いま、何か言った?」
 集中していたようで、私の言葉は届かなかったようだ。
 反対にジェード殿下には届いていたようで笑いを堪えているようで、肩を震わせている。
 その反応に対して、口は出さないが眉間に皺を寄せ不機嫌な顔を作り出す。
「淹れましたよ。これを飲んではやく執務室に戻ってください」
 はやく退出して欲しいのか態度でも、「戻れ」と示している。
 その態度に内心ハラハラしてしまうが、殿下は気にしていない様子だ。
「ああ、そうだな。だが、私にも休息が必要だと思わないか。それに、たまには、執務室にも花が欲しいと思っているのだが…、どう思う?」
「それは…」
「返答に困ることか?」
 花なら庭師に頼んで分けてもらえばいいのに。
 きっと、殿下の頼みなら聞いてくれるはずだから。
 文句を言いながらも、指示されたことをするユーゴにしては、珍しく動く気配も言葉を返すこともしないで、黙ってしまった。
「あの…差し出がましいのは、わかっています。よろしければ、私が花をお持ちしましょうか?」
 ユーゴが困っているなら助けたいと思い、オロオロと手を上げてみた。
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