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1章 開始までのあれこれ

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 ぷくりまたと頬を膨らませている私は、ドングリを頬張るリスみたいだとミーシャが言うものだから、そのまま目の前にあったクッキーを頬張ればリスの完成だ。
 もう、今日はこのままリスのようにしていようかと思う。
「それにしても、あなたの婚約者様は女性の噂が絶えないわね」
「シルビア王女もユーゴ様に執着しているのは大変有名な話ですものね」
「いまから権力者に媚を売っているのか。それとも王家と縁続きになりたいのか。わかったものではないけれどね」
「そうね。それに比べたら、ここにいるアンなんてとっても純粋で食い意地の張ったリスですもの」
「カロリーナ、私のこと貶しているの?」
 15枚目に突入するクッキーを手に、はしたないとはわかっていながらも口に物が詰まった状態で話す。
 やはり、ミーシャはそれが気に入らないようで、ぺちんと持っている扇子で手の甲を叩く。
「はしたないわ。それでも、未来のハミルトン侯爵夫人なの」
「でも…」
「でも、も、だっても、駄目よ」
 やはり、侯爵令嬢はマナーに厳しかった。落ち込んでいる私を横にカロリーナは「いまのアンを見たらユーゴ様、婚約解消を申し出たかもよ」と冗談にも思えない冗談を言うものだから、食欲が失せそうだ。
「もう、意地悪しないの。ユーゴ様もこんなに可愛いアンを放っておいて他の御令嬢と一緒にいるなんてね」
「そうよね。シルビア王女の他にもクリストファー殿下の婚約者であるカミリア様もユーゴ様にご執着あるみたいよ」
 カミリア様か…。兄の元婚約者であるあの人は華やかな美人だった。
 確か、ユーゴと同じ年だったから社交界のデビューからずっと素敵になっていく彼を見ていたのだろう。
 それとも、兄に愛されていないと思い、私の婚約者であるユーゴに愛を求めたのだろうか。
 でも、結局は王家とサザンドーラ家によって婚約解消をさせられたから、本当のことはわからない。
 ただ、ユーゴとクリス様は従兄弟だけれど顔の造りはジェード殿下ほど似ていない。ユーゴの顔が好きだったら、ジェード殿下の婚約者になりたかったはずだ。
「あの方は、ジェード殿下に憧れているから仕方がないのよ」
「手が届かないからと、ユーゴ様を代替品のように扱うのは、些か癪に障るものよね。ケイ様のでクリストファー殿下のだとしても」
 辛口なふたりといると、私の知らない情報ばかり入って来る。
 綿菓子みたいに頭の中には中身が詰まっていないよう私にも優しいふたりが大好きだ。
 だから、私はこの社交界を生きていけるはずだ。デビューしてから数度しか夜会には参加していない。勿論、婚約者であるユーゴが同伴なのだが、いつも距離がおかしい。
 普通はエスコートしてもらえるはずなのに、馬車での乗り降りでは手を貸してくれるのに、ダンス以外では触れてもくれない。
 そんな私たちを見て他の令嬢たちは仲が悪いと思っているのだろう。仲は悪くないのに、どうしてこうなってしまったのかはわからない。
 ただ、昔みたいにユーゴと手を繋いで歩きたいと思ってしまう。
「大丈夫よ。アンには私たちがいるのだから。あんなのような女たちなんて蹴散らしてしまえばいいのよ」
 扇子をぱっと開き口元を隠しながら声高らかにカロリーナが言うものだから、つい笑っています。
 それにしても、王族や王族の婚約者を蛾に例えるあたり不敬にならないのだろうか。
 なりそうになったら、ニコライさんあたりがジェード殿下に手回しそうでリブロン伯爵家恐ろしい。
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