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1章 開始までのあれこれ
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周りが騒がしくなったことで、シルビア王女が来たのだとわかる。
なかなか、お目にかかることが出来ないと王族の成人前の王女となれば、周りが浮れるのもわかる。
それに、ここにいるはみな王女たちと年近いものばかりだから、顔や名前を覚えてもらおうとしているのだろう。
そして、シルビア王女のエスコートをしているは、クリス様にジェード殿下だ。
まさに、両手に華とはこのことを言うのだろう。
美男と美少女。
まるで、絵本の中の世界のようで興奮している私は鼻息が荒くなりすぎて、ペーパーナプキンが動く。私の鼻息ではなくて、きっと風のせいだと思うが兄はそう思っていないらしく笑いを堪えている。
失礼な兄だと思いながら、ヒールで足を踏んでおく。
ぴょこぴょことつま先立ちをし、野次馬のように覗くものだから、ユーゴの背後に隠された。
私の行動が失礼になるというユーゴの判断だろうか。
シルビア王女をみたくて、ユーゴの裾を引っ張るが退いてくれない。
むしろ、「あまり目立つような行動は控えてください」と窘められる。
むしろ、この場合は目立ったほうがいいのではないかと思ったが、ユーゴに口答えもする気にもなれず、仕方がないので大人しく淑女になろう。
でも、やっぱり気になり「ユーゴ、ごめんなさい。私、どうしてもシルビア殿下を見てみたいの」とユーゴの横をすり抜け少しだけ前に出る。
「アン、前に行かなくてもいいのですよ」
叫ぶように私の名前を呼ぶが、そのあと何を言っているのか周りの声に掻き消されて聞き取りにくい。
それでも…
「そこにいるのはユーゴなのね」
何故かその声だけはとても澄んでいて、よく聞き取れた。
素敵な声だ。初めて聞いたが、いままで出会った人の中でも一番と言っていいほどの美しい声の持ち主で、御伽噺のお姫様みたいに美しく可愛らしいシルビア王女だ。
囲まれていたはずのシルビアが、ユーゴの名を呼んだことで人垣が分かれ、道が出来る。
エスコートをしていたジェード殿下とクリス様から手を離し、此方へ近づいてくる。
その姿に目を奪われていた私は、ユーゴが近づき腰に手を回してくるまで彼の存在を忘れかけていた。
「ユ、ユーゴ」
「挨拶だけして、何も話さないで」
耳元で囁かれる言葉に頷くしかできない。
顔には熱がこもりこんな姿、見せられたものではないので俯く。
俯いているが、見慣れないドレスの裾がみえたので王女が此方に来たのか。
顔を上げなければいけないのに、熱がまだ逃げていかない。
「久しぶりね。最近、あなた此方に来てくれないわよね。あなたに会えなくて私、寂しかったのよ」
「婚約者もいる身ですので此方に伺うのは、婚約者に悪いと思いまして」
「そう。それで、あなたの婚約者はそこで俯いている方かしら」
失礼をしてしまった。顔を上げなければ。
「そうですよ。グレアム伯爵令嬢のアンジュです。本日はあまり体調が優れないようで申し訳ありません」
「なら、休憩室を用意しているのよ、そちらに案内させますわ」
「ご配慮ありがとうございます。行こうか、アン」
挨拶もしないで、ユーゴにされるがままの状態になってしまった。
顔を上げてみれば、微笑んでいる筈なのに微笑んでいるように見えないシルビア王女がいる。
咄嗟に恐怖を感じる。
礼儀もなっていないと判断され、これからの父や兄の評判に繋がっては困るが、ユーゴは強引に休憩室へと連れていこうとする。
「あら、ユーゴはここに残っていただいてよろしいのですよ。その子も、お兄様にでもエスコートしていただければ嬉しいでしょう?」
その言葉悪意があるのかは、わからない。
ご令嬢は皆、王子に近付きたいと思っているからの配慮かもしれない。
だけれど、この方はユーゴを独り占めする私のことが気に入らないのだけはわかった。
なかなか、お目にかかることが出来ないと王族の成人前の王女となれば、周りが浮れるのもわかる。
それに、ここにいるはみな王女たちと年近いものばかりだから、顔や名前を覚えてもらおうとしているのだろう。
そして、シルビア王女のエスコートをしているは、クリス様にジェード殿下だ。
まさに、両手に華とはこのことを言うのだろう。
美男と美少女。
まるで、絵本の中の世界のようで興奮している私は鼻息が荒くなりすぎて、ペーパーナプキンが動く。私の鼻息ではなくて、きっと風のせいだと思うが兄はそう思っていないらしく笑いを堪えている。
失礼な兄だと思いながら、ヒールで足を踏んでおく。
ぴょこぴょことつま先立ちをし、野次馬のように覗くものだから、ユーゴの背後に隠された。
私の行動が失礼になるというユーゴの判断だろうか。
シルビア王女をみたくて、ユーゴの裾を引っ張るが退いてくれない。
むしろ、「あまり目立つような行動は控えてください」と窘められる。
むしろ、この場合は目立ったほうがいいのではないかと思ったが、ユーゴに口答えもする気にもなれず、仕方がないので大人しく淑女になろう。
でも、やっぱり気になり「ユーゴ、ごめんなさい。私、どうしてもシルビア殿下を見てみたいの」とユーゴの横をすり抜け少しだけ前に出る。
「アン、前に行かなくてもいいのですよ」
叫ぶように私の名前を呼ぶが、そのあと何を言っているのか周りの声に掻き消されて聞き取りにくい。
それでも…
「そこにいるのはユーゴなのね」
何故かその声だけはとても澄んでいて、よく聞き取れた。
素敵な声だ。初めて聞いたが、いままで出会った人の中でも一番と言っていいほどの美しい声の持ち主で、御伽噺のお姫様みたいに美しく可愛らしいシルビア王女だ。
囲まれていたはずのシルビアが、ユーゴの名を呼んだことで人垣が分かれ、道が出来る。
エスコートをしていたジェード殿下とクリス様から手を離し、此方へ近づいてくる。
その姿に目を奪われていた私は、ユーゴが近づき腰に手を回してくるまで彼の存在を忘れかけていた。
「ユ、ユーゴ」
「挨拶だけして、何も話さないで」
耳元で囁かれる言葉に頷くしかできない。
顔には熱がこもりこんな姿、見せられたものではないので俯く。
俯いているが、見慣れないドレスの裾がみえたので王女が此方に来たのか。
顔を上げなければいけないのに、熱がまだ逃げていかない。
「久しぶりね。最近、あなた此方に来てくれないわよね。あなたに会えなくて私、寂しかったのよ」
「婚約者もいる身ですので此方に伺うのは、婚約者に悪いと思いまして」
「そう。それで、あなたの婚約者はそこで俯いている方かしら」
失礼をしてしまった。顔を上げなければ。
「そうですよ。グレアム伯爵令嬢のアンジュです。本日はあまり体調が優れないようで申し訳ありません」
「なら、休憩室を用意しているのよ、そちらに案内させますわ」
「ご配慮ありがとうございます。行こうか、アン」
挨拶もしないで、ユーゴにされるがままの状態になってしまった。
顔を上げてみれば、微笑んでいる筈なのに微笑んでいるように見えないシルビア王女がいる。
咄嗟に恐怖を感じる。
礼儀もなっていないと判断され、これからの父や兄の評判に繋がっては困るが、ユーゴは強引に休憩室へと連れていこうとする。
「あら、ユーゴはここに残っていただいてよろしいのですよ。その子も、お兄様にでもエスコートしていただければ嬉しいでしょう?」
その言葉悪意があるのかは、わからない。
ご令嬢は皆、王子に近付きたいと思っているからの配慮かもしれない。
だけれど、この方はユーゴを独り占めする私のことが気に入らないのだけはわかった。
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