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第八章 孤独と再誕の童話
灰と砂と花弁と(上)
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その日、放浪の魔女は鎖の魔女の下を訪れた。
山奥の洞窟のように偽装された魔女の家。
その奥に隠された扉を開くと、いつも魔女のお茶会が開かれる雑多な部屋があった。
「……いらっしゃい。待っていた、わよ」
その部屋には、いつも通りに鎖の魔女が。
しかし、彼女はいつもより神妙な面持ちで、放浪の魔女を迎えた。
部屋の中には二人の魔女。しかし、その見た目から受ける印象は対照的だ。
片や、外見は十歳にも満たない童女にも見える放浪の魔女。彼女は黄金の絹糸のような髪をサイドテールにまとめている。
そして、今日も着ているのは萌木色のドレス。その上にはローブを羽織っていた。
美少女と称するにしても、やや幼過ぎる容姿。
その姿は童話なんかに登場する“魔女”のイメージとはかけ離れていて……どちらかといえば“魔法少女”といった呼称のほうが、まだピッタリなのかもしれない。
対して、鎖の魔女は妖艶な大人の女性だ。
褐色の肌に、束ねられた白くて長い髪。黄金の瞳に、横向きの瞳孔。捻じれたヒツジの角とヤギの蹄。そして額に輝くは紅の宝石――彼女はそれらを有した、バフォメット族の美女である。
全身に刻まれた呪刺青を隠そうともしない扇情的な服装。そして、彼女を象徴する“誓約”を課せられた無数の鎖。
その姿はまさに、神話や童話に登場する“妖しい魔女”か……あるいは“悪魔”の典型的なイメージと言えるだろう。
鎖の魔女は水煙草の煙をふかしながら、悩ましげに口にする。
「要件は……まあ、やっぱり、その話よね?」
彼女の視線の先には、小さな腕に抱えられている細長いドーム状のガラスのケース。
その中に飾られているのは、一本の植物の茎……花が散ってしまったバラの残骸であった。
ただ刺が生えているだけの茎。客観的に見て、そこまで大切に飾られるほどの価値があるとは到底思えない。
その先端から散った花弁も、ドームの底で質の悪い絨毯のように萎びて黒ずんでいる。
しかし、放浪の魔女はそんな無価値なゴミを、まるで大切なものであるかのように――例えるなら、幼子が大切な人形を抱えるように、あるいは母親が愛する我が子にするのと同じように、これ以上傷付けてしまわないよう優しく抱きかかえていた。
「……仕方ないわ。貴女にとっては、残念な結末だったかもしれない……けれど、ね? 彼にとって必要だったのは、『愛』よりも、『強さ』だった。それだけの事なの」
鎖の魔女は放浪の魔女を慰めるように微笑みかける。
「理不尽に抗うため、力を求める……それも、きっと、一つの解答だったのかもしれないわね。だから、いつまでも、気に病んでばかりいるのは……」
「下手な気休めは要らん。儂の頼みたいことは、もう分かっておるじゃろ?」
放浪の魔女は散ったバラのケースを鎖の魔女に差し出す。
だが、鎖の魔女はそれを受け取らず、静かに首を横に振った。
「……じゃあ、結論から、言わせてもらうわね――無理、よ」
それは回答を勿体ぶりがちな彼女にしては珍しく、きっぱりと頭ごなしな否定だった。
「貴女も、知っているはずでしょう? 誓約の魔術は、簡単には覆せない。だからこそ、誓約の魔術足り得るの」
鎖の魔女は優しく諭すような口調で、放浪の魔女の頼みを聞けない理由を説明する。
「そんなこと、分かっておる」
「結末が気に入らないから、都合が悪いから。そんな理由で、魔法をやり直したい……なんて、そんなことを思うような覚悟じゃ、何も成し遂げられないわ」
「だから! そんなこと、儂だって、分かっておる!」
駄々っ子のように声を荒げる放浪の魔女。そんな彼女に、鎖の魔女は尋ねた。
「それなら、貴女は契約を違える代償に、何を差し出す心算なの? 生半な代償じゃ、何一つ、貴女の望みは叶わない……」
「――無論、儂の、全てじゃ」
スミレ色の瞳に確かな覚悟を宿して、放浪の魔女はその言葉を口にした。
「…………却下、ね」
鎖の魔女はにべも無く答える。そして、憂わしげにため息を吐いた。
「これはね、別に意地悪で言っている……そんな心算じゃ、ないのよ?」
「ほう。それなら、どういった心算なのじゃ?」
放浪の魔女は鎖の魔女をジッと睨みつけた。
「もう、そんなに怖い顔しないで……“足りない”のよ。単純に」
彼女は伝える言葉を、慎重に選びながらゆっくりと口にする。
「彼にとって貴女は……そう、ただのお節介な魔女。貴女と彼との間には……差し出せるほどの縁が無い。だから……たとえ“貴女の全て”を支払ったところで、それは彼を救うための代償足り得ない」
努めるように無慈悲な声音でそう言って、鎖の魔女は水煙草の吸い口をテーブルの上に置いた。
誓約とは、ある意味で最も素直な原初の魔術だ。それこそ、魔術師や魔女でなくとも、本能的にその原理を利用している存在は珍しくない。
誓約は、制約が厳しいほど、得られる恩恵は大きくなる。
誓約は、失うものが大きいほど、与えられるものが大きくなる。
誓約は、捧げる代償が致命的なほど、起こせる奇跡は大きくなる。
これらこそが、誓約の基本となる原則。
それは、誰もが抱きがちな、都合の良い幻想。
現実には、努力が結果に繋がるとは限らないし、痛みや苦労が報われるとも限らない。
それなのに、万人が感覚的に誤解してしまう。そうであってほしいと無意識に願ってしまう。
そんな幻想に魔力を与えて現実に引きずり出す――これこそが、誓約と呼ばれる魔術。
そして、この“幻想を具現化する”過程は全ての魔術の基礎となり、それ故に誓約は“原初の魔術”とも呼ばれていた。
しかし逆に言えば、原始的な誓約の魔術は、痛みを伴わないと奇跡を起こせない。
そして痛みとは、困難を享受すること。
あるいは、価値がある物か行為を捧げること。
「要するに、ね? 簡単に差し出せる命に、重みは無いの。簡単に捨てられる軽い命では、天秤は動かせないわ……」
路傍の石ころを捧げたところで、奇跡なんて起こせるはずがない。また、見ず知らずの他人を犠牲にして起こす奇跡は非効率だ。
――だが、そんな当たり前の事実を、放浪の魔女が知らないはずがなかった。
「詭弁じゃな」
幼い見た目の魔女はなにかを確信した表情で、往生際の悪い鎖の魔女を見つめる。
「……なによ。嘘は、言っていない、でしょ?」
なぜか焦りと動揺を見せる鎖の魔女。それは、いつでも余裕のある彼女らしからぬ態度だった。
「並の術師の話なら、そうかもしれん。しかし、お主は“鎖の魔女”。理不尽な奇跡など、お手の物じゃろうて。そんな一般論で誤魔化される程度の、短い付き合いではないぞ?」
放浪の魔女は、鎖の魔女が意図的に条件を限定していると気が付いた。
そして、鎖の魔女がこうやって誤魔化そうとしているということは――散ったバラをどうにか救う手だてが、まだ存在するということだ。
つまり、希望はまだ、潰えてはいなかった。
もちろん、鎖の魔女の不自然な様子からしても、それなり以上の犠牲を支払う必要があるのだろう。
とはいえ、これはもともと自分が蒔いた種だ。
しかも生まれてしまったのは、憎悪に染まった不死の怪物。もはや自分とあの男だけの問題ではない。このまま放って置いて良いわけが無いのだ。
放浪の魔女には自分で責任を取る覚悟があった。
そもそも、件の男を魔獣に変えた魔法は彼女が手掛けた術式である。
誓いの内容は、“真実の愛を知る”こと。
その際に捧げられた代償は、かつて男が望んでいたもの――『故郷』と『ぬくもり』と、そして『死』の三つ。
彼にとっては身に覚えのない、ひたすら理不尽な誓いと奪われた対価。それによって、彼の身に起こった奇跡は……存在の書き換えと固定による完全なる魔獣化。
一見すると、魔獣の側に一切の恩恵は無い。これは誓約の原則に反する矛盾である。しかし、誓約は問題なく成立していた。
複数の誓約を鎖のように繋ぎ合わせることで、因果も繋がりも見えない理不尽な奇跡を実現する――其れこそが、鎖の魔女の誇る“魔法”なのだ。
「理不尽な奇跡……凄い言われ様、ね? 言っておくけど、なんでもできるわけじゃ、ないのよ? 代償が必要なのは、変わらない。それに、ちゃんと制約だって、あるんだから……」
だが、先ほどの彼女は、あくまで“足りない”と言っただけ。そして、その事実はすでに見破られている。
「分かっておる。じゃからこそ、この生まれ持った稀有なる能力、それを捧げると言っておるのじゃ。誰にも捕えることのできない“放浪”の力。それならば、十分な対価となろう?」
放浪の魔女がそう言うと、鎖の魔女は置いていた水煙草を手に取り一服する。そして考えをまとめると、観念したように本心を煙と一緒に吐き出した。
「そうね……ごめんなさい。私、やっぱり、嘘を吐いていたみたい」
何を言っても目の前の少女をはぐらかすことはできないだろう。それを理解した鎖の魔女はもう、完全に降参した様子だった。
「まあ、そうじゃろうな」
放浪の魔女は別段気にした様子も無く返す。
「もう一度、バラの花を咲かせること。それ自体は、対価さえ支払えばできるの。でも……本当は、私がやりたくないだけよ。だって、こうなることは……貴女が自分を対価にって言い出すことは、目に見えていたから……」
そう言って、鎖の魔女は目を伏せたのだった。
山奥の洞窟のように偽装された魔女の家。
その奥に隠された扉を開くと、いつも魔女のお茶会が開かれる雑多な部屋があった。
「……いらっしゃい。待っていた、わよ」
その部屋には、いつも通りに鎖の魔女が。
しかし、彼女はいつもより神妙な面持ちで、放浪の魔女を迎えた。
部屋の中には二人の魔女。しかし、その見た目から受ける印象は対照的だ。
片や、外見は十歳にも満たない童女にも見える放浪の魔女。彼女は黄金の絹糸のような髪をサイドテールにまとめている。
そして、今日も着ているのは萌木色のドレス。その上にはローブを羽織っていた。
美少女と称するにしても、やや幼過ぎる容姿。
その姿は童話なんかに登場する“魔女”のイメージとはかけ離れていて……どちらかといえば“魔法少女”といった呼称のほうが、まだピッタリなのかもしれない。
対して、鎖の魔女は妖艶な大人の女性だ。
褐色の肌に、束ねられた白くて長い髪。黄金の瞳に、横向きの瞳孔。捻じれたヒツジの角とヤギの蹄。そして額に輝くは紅の宝石――彼女はそれらを有した、バフォメット族の美女である。
全身に刻まれた呪刺青を隠そうともしない扇情的な服装。そして、彼女を象徴する“誓約”を課せられた無数の鎖。
その姿はまさに、神話や童話に登場する“妖しい魔女”か……あるいは“悪魔”の典型的なイメージと言えるだろう。
鎖の魔女は水煙草の煙をふかしながら、悩ましげに口にする。
「要件は……まあ、やっぱり、その話よね?」
彼女の視線の先には、小さな腕に抱えられている細長いドーム状のガラスのケース。
その中に飾られているのは、一本の植物の茎……花が散ってしまったバラの残骸であった。
ただ刺が生えているだけの茎。客観的に見て、そこまで大切に飾られるほどの価値があるとは到底思えない。
その先端から散った花弁も、ドームの底で質の悪い絨毯のように萎びて黒ずんでいる。
しかし、放浪の魔女はそんな無価値なゴミを、まるで大切なものであるかのように――例えるなら、幼子が大切な人形を抱えるように、あるいは母親が愛する我が子にするのと同じように、これ以上傷付けてしまわないよう優しく抱きかかえていた。
「……仕方ないわ。貴女にとっては、残念な結末だったかもしれない……けれど、ね? 彼にとって必要だったのは、『愛』よりも、『強さ』だった。それだけの事なの」
鎖の魔女は放浪の魔女を慰めるように微笑みかける。
「理不尽に抗うため、力を求める……それも、きっと、一つの解答だったのかもしれないわね。だから、いつまでも、気に病んでばかりいるのは……」
「下手な気休めは要らん。儂の頼みたいことは、もう分かっておるじゃろ?」
放浪の魔女は散ったバラのケースを鎖の魔女に差し出す。
だが、鎖の魔女はそれを受け取らず、静かに首を横に振った。
「……じゃあ、結論から、言わせてもらうわね――無理、よ」
それは回答を勿体ぶりがちな彼女にしては珍しく、きっぱりと頭ごなしな否定だった。
「貴女も、知っているはずでしょう? 誓約の魔術は、簡単には覆せない。だからこそ、誓約の魔術足り得るの」
鎖の魔女は優しく諭すような口調で、放浪の魔女の頼みを聞けない理由を説明する。
「そんなこと、分かっておる」
「結末が気に入らないから、都合が悪いから。そんな理由で、魔法をやり直したい……なんて、そんなことを思うような覚悟じゃ、何も成し遂げられないわ」
「だから! そんなこと、儂だって、分かっておる!」
駄々っ子のように声を荒げる放浪の魔女。そんな彼女に、鎖の魔女は尋ねた。
「それなら、貴女は契約を違える代償に、何を差し出す心算なの? 生半な代償じゃ、何一つ、貴女の望みは叶わない……」
「――無論、儂の、全てじゃ」
スミレ色の瞳に確かな覚悟を宿して、放浪の魔女はその言葉を口にした。
「…………却下、ね」
鎖の魔女はにべも無く答える。そして、憂わしげにため息を吐いた。
「これはね、別に意地悪で言っている……そんな心算じゃ、ないのよ?」
「ほう。それなら、どういった心算なのじゃ?」
放浪の魔女は鎖の魔女をジッと睨みつけた。
「もう、そんなに怖い顔しないで……“足りない”のよ。単純に」
彼女は伝える言葉を、慎重に選びながらゆっくりと口にする。
「彼にとって貴女は……そう、ただのお節介な魔女。貴女と彼との間には……差し出せるほどの縁が無い。だから……たとえ“貴女の全て”を支払ったところで、それは彼を救うための代償足り得ない」
努めるように無慈悲な声音でそう言って、鎖の魔女は水煙草の吸い口をテーブルの上に置いた。
誓約とは、ある意味で最も素直な原初の魔術だ。それこそ、魔術師や魔女でなくとも、本能的にその原理を利用している存在は珍しくない。
誓約は、制約が厳しいほど、得られる恩恵は大きくなる。
誓約は、失うものが大きいほど、与えられるものが大きくなる。
誓約は、捧げる代償が致命的なほど、起こせる奇跡は大きくなる。
これらこそが、誓約の基本となる原則。
それは、誰もが抱きがちな、都合の良い幻想。
現実には、努力が結果に繋がるとは限らないし、痛みや苦労が報われるとも限らない。
それなのに、万人が感覚的に誤解してしまう。そうであってほしいと無意識に願ってしまう。
そんな幻想に魔力を与えて現実に引きずり出す――これこそが、誓約と呼ばれる魔術。
そして、この“幻想を具現化する”過程は全ての魔術の基礎となり、それ故に誓約は“原初の魔術”とも呼ばれていた。
しかし逆に言えば、原始的な誓約の魔術は、痛みを伴わないと奇跡を起こせない。
そして痛みとは、困難を享受すること。
あるいは、価値がある物か行為を捧げること。
「要するに、ね? 簡単に差し出せる命に、重みは無いの。簡単に捨てられる軽い命では、天秤は動かせないわ……」
路傍の石ころを捧げたところで、奇跡なんて起こせるはずがない。また、見ず知らずの他人を犠牲にして起こす奇跡は非効率だ。
――だが、そんな当たり前の事実を、放浪の魔女が知らないはずがなかった。
「詭弁じゃな」
幼い見た目の魔女はなにかを確信した表情で、往生際の悪い鎖の魔女を見つめる。
「……なによ。嘘は、言っていない、でしょ?」
なぜか焦りと動揺を見せる鎖の魔女。それは、いつでも余裕のある彼女らしからぬ態度だった。
「並の術師の話なら、そうかもしれん。しかし、お主は“鎖の魔女”。理不尽な奇跡など、お手の物じゃろうて。そんな一般論で誤魔化される程度の、短い付き合いではないぞ?」
放浪の魔女は、鎖の魔女が意図的に条件を限定していると気が付いた。
そして、鎖の魔女がこうやって誤魔化そうとしているということは――散ったバラをどうにか救う手だてが、まだ存在するということだ。
つまり、希望はまだ、潰えてはいなかった。
もちろん、鎖の魔女の不自然な様子からしても、それなり以上の犠牲を支払う必要があるのだろう。
とはいえ、これはもともと自分が蒔いた種だ。
しかも生まれてしまったのは、憎悪に染まった不死の怪物。もはや自分とあの男だけの問題ではない。このまま放って置いて良いわけが無いのだ。
放浪の魔女には自分で責任を取る覚悟があった。
そもそも、件の男を魔獣に変えた魔法は彼女が手掛けた術式である。
誓いの内容は、“真実の愛を知る”こと。
その際に捧げられた代償は、かつて男が望んでいたもの――『故郷』と『ぬくもり』と、そして『死』の三つ。
彼にとっては身に覚えのない、ひたすら理不尽な誓いと奪われた対価。それによって、彼の身に起こった奇跡は……存在の書き換えと固定による完全なる魔獣化。
一見すると、魔獣の側に一切の恩恵は無い。これは誓約の原則に反する矛盾である。しかし、誓約は問題なく成立していた。
複数の誓約を鎖のように繋ぎ合わせることで、因果も繋がりも見えない理不尽な奇跡を実現する――其れこそが、鎖の魔女の誇る“魔法”なのだ。
「理不尽な奇跡……凄い言われ様、ね? 言っておくけど、なんでもできるわけじゃ、ないのよ? 代償が必要なのは、変わらない。それに、ちゃんと制約だって、あるんだから……」
だが、先ほどの彼女は、あくまで“足りない”と言っただけ。そして、その事実はすでに見破られている。
「分かっておる。じゃからこそ、この生まれ持った稀有なる能力、それを捧げると言っておるのじゃ。誰にも捕えることのできない“放浪”の力。それならば、十分な対価となろう?」
放浪の魔女がそう言うと、鎖の魔女は置いていた水煙草を手に取り一服する。そして考えをまとめると、観念したように本心を煙と一緒に吐き出した。
「そうね……ごめんなさい。私、やっぱり、嘘を吐いていたみたい」
何を言っても目の前の少女をはぐらかすことはできないだろう。それを理解した鎖の魔女はもう、完全に降参した様子だった。
「まあ、そうじゃろうな」
放浪の魔女は別段気にした様子も無く返す。
「もう一度、バラの花を咲かせること。それ自体は、対価さえ支払えばできるの。でも……本当は、私がやりたくないだけよ。だって、こうなることは……貴女が自分を対価にって言い出すことは、目に見えていたから……」
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