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八章 千竜王と侍従長
おうさまになれない王様
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「栓ずるところ、レイズルの母親は誰なんですか? 浮気相手との子、とか、実はあなたは王弟で、王妃との不義密通の子、とかそんなのは嫌なんですけど」
「嫌だと言うのなら、増しな予想を寄越してみよ」
ふぅ、王族内のごたごたなど無視したいところだが、別の重要な事柄にも係わってくることなので、竜に見られていることを自覚して、視野を拡げるように今回の出来事を意識に浮かべてゆく。
そうして希薄な繋がりに意味を持たせていくのだが。
昔の僕には出来なかったが、今の僕ならどうだろう。軽く、意識が後ろに引かれるような感覚を覚えながら、聖王を見据えて話し始める。
「先ず、二度目の会見の前に、王妃はすでにとんずら放いていたのですから、会談の場に居たのは、弟妃ですよね?」
「そうだな」
「リズナクト卿もそうでしたが、二人は、あなたの姿に、特段気にしたような素振りは見られなかった」
「その通りだ。それで?」
「あなたは今も、そして会談でも、フフスルラニード王であるレスラン殿の姿をしていた」
「そうなると不思議だな。あの場に居るのは、王を装った王弟のレフスラであるはずなのに、弟妃とリズナクトは、魔法でも掛けられていたのかな?」
「まさか。そんなことをすれば、スナやラカ、ナトラ様が気付きます。大方、僕たちを騙す為と偽って、『魔法を行使して、兄の姿になる』とでも言っておいたのでしょう」
「ふむふむ。それも正解だ」
まったく、気軽に頷いてくれるものである。こっちはあまり情報をくれなかったエクの意地悪にも、嫌がらせにもめげず、愛娘との帰り道の団欒を犠牲にしてまで、頭を捏ね繰り回したというのに。
はぁ、つまり聖王は、僕たちと接触しないときは、魔法で王弟の姿になっていた。弟妃やリズナクト卿では、王の偽装を見破ることが出来ず、二人は王弟だと信じ込んでいたのだろう。
「もしかして、王弟よりも魔法が得意なんですか?」
「それは少し違うな。誰も私の魔法の才を見抜くことが出来なかった」
「……何をやってるんですか」
「そう言うな。私だって、後悔した。人には、隠し事をしたい周期頃ってものがあるだろう」
いや、それには同じるけど。
魔法が使えない相手には、魔法が不得意であるように振る舞い、魔法を得手とする相手には、思わせ振りに振る舞ったのだろう。そう出来るだけの技量はあるのだろうが、王弟には及ばないーーといったところか。
そしてこの流れだと、王弟のレフスラは、確実に勘違いしたことだろう。
「もういいです。兄弟喧嘩の経緯なんてどうでもいいです。竜にも角にも、レイズルは、『取り替え子』だということを知っていました」
「何だ? 兄として、相応しくあるよう振る舞った、麗しき日々の話は聞きたくないのか?」
本当に、この聖王、何処まで知っているのか。まぁ、一番疑わしい漏洩源は、エクなんだけど。聖王の味方ではないだろうけど、「竜患い」は敵でもないかもしれないから。
弟を持った兄の心情とやらは、聞きたくないわけではないが、それらはガルを始めとした後進の指導から学んでいくとしよう。
「先ず確認したいのは、王弟と弟妃の間の子について、まったく話がなかったことです。誰も口にしなかったーーそれだけの何かがあったと」
「レフスラと弟妃、どちらに問題があったのかはわからんがな。或いは、単純に運が悪かっただけなのかもしれん。弟妃は一人目も二人目も、死産だった」
「そして三人目。レイズルと、もう一人が同時期に産まれて、『取り替え子』を行った」
「さすがだな、侍従長。正解だ」
嘘は言わない、がすべては言わない。勘違いするのは相手の自由。
僕も使う手である。然かし、それが嘘だと知っていると、こんなにも嫌な気分になるのか。うん、これからは使いどころに気を付けて、もっと上手くやろう。
「本当に嫌な想像なんですけどね。弟妃は、幸いにも元気な子を産んだ。そして逆に王妃は、病弱な子を産んだ」
「…………」
「そう、この時点で、すでに『取り替え子』が行われていた」
「ーーーー」
「然し、それを知っていたのは、あなた一人」
実際に行われたことであるなどと信じたくない、行き着いてしまった妄想ーーであることを期待して、重た過ぎるものをどうにか運んできて、やっとこ口まで、転び出るように言葉を連ねて詳らかにする。
「王弟は、あなたに対して劣等感ーーなどという単純なものではないでしょうが、長い周期で育まれた縺れがあった。王弟は、弟妃の不安に付け込んだ。『自分たちが育てれば、大切な子を失ってしまうかもしれない。私たちの子は、兄に育てて貰おう』と唆して、どれほど悩んだのでしょうか、死産の辛い記憶からか、弟妃は、その提案を受け容れてしまった」
そう、「取り替え子」は二度行われたのだ。
果たして、お互いの子は、正しく親の許に戻されることとなる。魔法や、他にも様々な手段を用いたのだろう、重要なのは、この事実を知っている、いや、知っていたのは聖王だけということだ。
「はぁ、……弟妃の子は、弟妃が王と王妃の子だと思っていた赤子は、病か何かで亡くなってしまったのでしょう。弟妃はーーああ、あと王弟も、レイズルが自分の子であると思っている」
初めは冷たい印象だった弟妃は、ラカを抱いて、母親の顔になった。あの柔らかな、優しい面に、嘘があるなどとは思えない。
彼女にとって、レイズルは大切な、本当の宝物、希望なのだろう。この状況を作った、演出ーーという言葉は悪いか、いったい誰にとっての幸せだったのか。
子どころか、結婚も恋人も居たことがない、経験したことがない僕が、軽々に語れるものではない。
「知っているだろうが、妻はな、二人の王子を産んで、役割は果たしたと、レイズルに興味を持たなかった。母親代わり、といえるほど接触は多くなかったがな、レイズルは弟妃を母のように慕い、弟妃も我が子のように可愛がった。レイズルは強情でもあるからな、色々と企んで、弟妃を前王妃と偽って、それなりの地位に据えてしまうやもしれんな」
ああ、うん、レイズルなら遣ってしまいそうだ。
正しいことを、正しいと信じて、行ってしまう。聖王とはまた違った危うさを、あの子も抱えている。まぁ、そこはすべての元凶とも言える聖王がどうにかするのだろう。そこまでは、僕の知ったこっちゃない。
「あとは、リズナクト卿ですか。可哀想じゃないですか、とんずら放く前に、土下寝でもしていってください」
「それでも良いのだがな。それは正しいのか?」
「敢えて憎まれることで、生きる意味を与えたーーなんてことじゃないですよね」
「どうだろうな。正解のある人生とやらは、楽なのか詰まらないのか、難しいところだ」
どうして、この人はこんなにもこんがらがっているのだろう。
どうにか出来てしまうから、どうにかしてしまった。出来なければ、不幸を共に背負って、前に進むーーそんな道もあっただろうに。
責任を、相手に背負わせることが出来なかった、いや、下手だった、のほうが適切かもしれない、ある意味、不器用な人間ーーと言っていいのか。王様ならぬ王さまな女の子を思い出してしまったが、今は気が緩んでしまうので、仔炎竜と一緒に遠くで昼寝していてもらう。
「で、リシェよ。お主は、どう見たのだ?」
「そうですね。非常に嫌なことに、ここまであなたと話して、あなたの性格を程好く理解してしまいました。あなたがリズナクト卿に対して、謝ることも真相を話すこともしていないとなると。不幸なのか不運なことに、リズナクト卿は勘違いをしているーーという線が濃厚になってきます」
今度は何も答えない。教えてやるから、さっさと続きを話せ(訳、ランル・リシェ)、ということだろう。思惟の湖ではない場所に、もう一段、深く潜る心象を行う。
「僕が思うに、リズナクト卿が命懸けの特攻を仕掛けずとも、防衛は可能だったんじゃないかと分析しています。結果論ですが、リズナクト卿の特攻は無駄だった。それだけでなく、下手をすれば全軍が瓦解する危機を孕んでいた」
「リズナクトは、手に入れた情報から、自分に都合の良い物語を創ってしまった。それはもう、奴にとっての事実だ。誰もが本当のことを言うわけではない。領民を喪ったリズナクトは、愚かなことに、問い詰められ、命を失う危険があった者の言葉を信じてしまった」
「解き解せば、リズナクト卿は、罪の意識に耐え切れず、自裁を選択してしまうと?」
「どうだろうな。私は臆病だったのかもしれない。一歩、踏み出すことが出来なかった。内部にも敵はいる。その為の対策も講じた。だが、正しい場所には辿り着けなかった」
リズナクト卿の特攻は、命令無視だった。巧まずして、想定外の勝利を拾ったが、それは聖王の戦略から外れるものであった。
言いたくはないが、不幸中の幸い。命令を守っていれば、「レイドレイクの豪弓」は倒せなかっただろうが、少ない犠牲で撃退できていただろう。
過去は取り返せないものだけど、リズナクト卿は、聖王を信じ切ることが出来なかったのだ。領民を想う気持ちが強かったとはいえ、自分のほうが正しいと、行動を、決断してしまった。その結果、生じてしまった、ただの勘違い、たった一つの齟齬が、今に至るまでの糸を縺れさせてしまった。
縺れた糸は、他にも波及して。テルミナの母親である〝目〟も、リズナクト卿の特攻から勘違いを犯してしまった。当然、その誤謬も聖王に利用されることになる。
恐らくリズナクト卿は、聖王が企んだことだと思い、彼の王を最後まで信じ切ることが出来なかった自身の心情には心付いていない。
こんな危うい均衡を長周期保ってきた。
やだなぁ、僕もあと何十周期か巡ったら、こんな面倒臭い、それでいて温かさを伴っているかもしれない運命を背負うことになるのだろうか。
人生とは、縁の糸を結わえていくもので、絡ませていくものではないと信じたい、思いたいところだが。ちょっと老師に似ていなくもない聖王に、そこのところ、安心できる、希望が持てる言葉を吐き出させたいのだが。
望み薄かもしれないが、組み込んでみるとしよう。
「嫌だと言うのなら、増しな予想を寄越してみよ」
ふぅ、王族内のごたごたなど無視したいところだが、別の重要な事柄にも係わってくることなので、竜に見られていることを自覚して、視野を拡げるように今回の出来事を意識に浮かべてゆく。
そうして希薄な繋がりに意味を持たせていくのだが。
昔の僕には出来なかったが、今の僕ならどうだろう。軽く、意識が後ろに引かれるような感覚を覚えながら、聖王を見据えて話し始める。
「先ず、二度目の会見の前に、王妃はすでにとんずら放いていたのですから、会談の場に居たのは、弟妃ですよね?」
「そうだな」
「リズナクト卿もそうでしたが、二人は、あなたの姿に、特段気にしたような素振りは見られなかった」
「その通りだ。それで?」
「あなたは今も、そして会談でも、フフスルラニード王であるレスラン殿の姿をしていた」
「そうなると不思議だな。あの場に居るのは、王を装った王弟のレフスラであるはずなのに、弟妃とリズナクトは、魔法でも掛けられていたのかな?」
「まさか。そんなことをすれば、スナやラカ、ナトラ様が気付きます。大方、僕たちを騙す為と偽って、『魔法を行使して、兄の姿になる』とでも言っておいたのでしょう」
「ふむふむ。それも正解だ」
まったく、気軽に頷いてくれるものである。こっちはあまり情報をくれなかったエクの意地悪にも、嫌がらせにもめげず、愛娘との帰り道の団欒を犠牲にしてまで、頭を捏ね繰り回したというのに。
はぁ、つまり聖王は、僕たちと接触しないときは、魔法で王弟の姿になっていた。弟妃やリズナクト卿では、王の偽装を見破ることが出来ず、二人は王弟だと信じ込んでいたのだろう。
「もしかして、王弟よりも魔法が得意なんですか?」
「それは少し違うな。誰も私の魔法の才を見抜くことが出来なかった」
「……何をやってるんですか」
「そう言うな。私だって、後悔した。人には、隠し事をしたい周期頃ってものがあるだろう」
いや、それには同じるけど。
魔法が使えない相手には、魔法が不得意であるように振る舞い、魔法を得手とする相手には、思わせ振りに振る舞ったのだろう。そう出来るだけの技量はあるのだろうが、王弟には及ばないーーといったところか。
そしてこの流れだと、王弟のレフスラは、確実に勘違いしたことだろう。
「もういいです。兄弟喧嘩の経緯なんてどうでもいいです。竜にも角にも、レイズルは、『取り替え子』だということを知っていました」
「何だ? 兄として、相応しくあるよう振る舞った、麗しき日々の話は聞きたくないのか?」
本当に、この聖王、何処まで知っているのか。まぁ、一番疑わしい漏洩源は、エクなんだけど。聖王の味方ではないだろうけど、「竜患い」は敵でもないかもしれないから。
弟を持った兄の心情とやらは、聞きたくないわけではないが、それらはガルを始めとした後進の指導から学んでいくとしよう。
「先ず確認したいのは、王弟と弟妃の間の子について、まったく話がなかったことです。誰も口にしなかったーーそれだけの何かがあったと」
「レフスラと弟妃、どちらに問題があったのかはわからんがな。或いは、単純に運が悪かっただけなのかもしれん。弟妃は一人目も二人目も、死産だった」
「そして三人目。レイズルと、もう一人が同時期に産まれて、『取り替え子』を行った」
「さすがだな、侍従長。正解だ」
嘘は言わない、がすべては言わない。勘違いするのは相手の自由。
僕も使う手である。然かし、それが嘘だと知っていると、こんなにも嫌な気分になるのか。うん、これからは使いどころに気を付けて、もっと上手くやろう。
「本当に嫌な想像なんですけどね。弟妃は、幸いにも元気な子を産んだ。そして逆に王妃は、病弱な子を産んだ」
「…………」
「そう、この時点で、すでに『取り替え子』が行われていた」
「ーーーー」
「然し、それを知っていたのは、あなた一人」
実際に行われたことであるなどと信じたくない、行き着いてしまった妄想ーーであることを期待して、重た過ぎるものをどうにか運んできて、やっとこ口まで、転び出るように言葉を連ねて詳らかにする。
「王弟は、あなたに対して劣等感ーーなどという単純なものではないでしょうが、長い周期で育まれた縺れがあった。王弟は、弟妃の不安に付け込んだ。『自分たちが育てれば、大切な子を失ってしまうかもしれない。私たちの子は、兄に育てて貰おう』と唆して、どれほど悩んだのでしょうか、死産の辛い記憶からか、弟妃は、その提案を受け容れてしまった」
そう、「取り替え子」は二度行われたのだ。
果たして、お互いの子は、正しく親の許に戻されることとなる。魔法や、他にも様々な手段を用いたのだろう、重要なのは、この事実を知っている、いや、知っていたのは聖王だけということだ。
「はぁ、……弟妃の子は、弟妃が王と王妃の子だと思っていた赤子は、病か何かで亡くなってしまったのでしょう。弟妃はーーああ、あと王弟も、レイズルが自分の子であると思っている」
初めは冷たい印象だった弟妃は、ラカを抱いて、母親の顔になった。あの柔らかな、優しい面に、嘘があるなどとは思えない。
彼女にとって、レイズルは大切な、本当の宝物、希望なのだろう。この状況を作った、演出ーーという言葉は悪いか、いったい誰にとっての幸せだったのか。
子どころか、結婚も恋人も居たことがない、経験したことがない僕が、軽々に語れるものではない。
「知っているだろうが、妻はな、二人の王子を産んで、役割は果たしたと、レイズルに興味を持たなかった。母親代わり、といえるほど接触は多くなかったがな、レイズルは弟妃を母のように慕い、弟妃も我が子のように可愛がった。レイズルは強情でもあるからな、色々と企んで、弟妃を前王妃と偽って、それなりの地位に据えてしまうやもしれんな」
ああ、うん、レイズルなら遣ってしまいそうだ。
正しいことを、正しいと信じて、行ってしまう。聖王とはまた違った危うさを、あの子も抱えている。まぁ、そこはすべての元凶とも言える聖王がどうにかするのだろう。そこまでは、僕の知ったこっちゃない。
「あとは、リズナクト卿ですか。可哀想じゃないですか、とんずら放く前に、土下寝でもしていってください」
「それでも良いのだがな。それは正しいのか?」
「敢えて憎まれることで、生きる意味を与えたーーなんてことじゃないですよね」
「どうだろうな。正解のある人生とやらは、楽なのか詰まらないのか、難しいところだ」
どうして、この人はこんなにもこんがらがっているのだろう。
どうにか出来てしまうから、どうにかしてしまった。出来なければ、不幸を共に背負って、前に進むーーそんな道もあっただろうに。
責任を、相手に背負わせることが出来なかった、いや、下手だった、のほうが適切かもしれない、ある意味、不器用な人間ーーと言っていいのか。王様ならぬ王さまな女の子を思い出してしまったが、今は気が緩んでしまうので、仔炎竜と一緒に遠くで昼寝していてもらう。
「で、リシェよ。お主は、どう見たのだ?」
「そうですね。非常に嫌なことに、ここまであなたと話して、あなたの性格を程好く理解してしまいました。あなたがリズナクト卿に対して、謝ることも真相を話すこともしていないとなると。不幸なのか不運なことに、リズナクト卿は勘違いをしているーーという線が濃厚になってきます」
今度は何も答えない。教えてやるから、さっさと続きを話せ(訳、ランル・リシェ)、ということだろう。思惟の湖ではない場所に、もう一段、深く潜る心象を行う。
「僕が思うに、リズナクト卿が命懸けの特攻を仕掛けずとも、防衛は可能だったんじゃないかと分析しています。結果論ですが、リズナクト卿の特攻は無駄だった。それだけでなく、下手をすれば全軍が瓦解する危機を孕んでいた」
「リズナクトは、手に入れた情報から、自分に都合の良い物語を創ってしまった。それはもう、奴にとっての事実だ。誰もが本当のことを言うわけではない。領民を喪ったリズナクトは、愚かなことに、問い詰められ、命を失う危険があった者の言葉を信じてしまった」
「解き解せば、リズナクト卿は、罪の意識に耐え切れず、自裁を選択してしまうと?」
「どうだろうな。私は臆病だったのかもしれない。一歩、踏み出すことが出来なかった。内部にも敵はいる。その為の対策も講じた。だが、正しい場所には辿り着けなかった」
リズナクト卿の特攻は、命令無視だった。巧まずして、想定外の勝利を拾ったが、それは聖王の戦略から外れるものであった。
言いたくはないが、不幸中の幸い。命令を守っていれば、「レイドレイクの豪弓」は倒せなかっただろうが、少ない犠牲で撃退できていただろう。
過去は取り返せないものだけど、リズナクト卿は、聖王を信じ切ることが出来なかったのだ。領民を想う気持ちが強かったとはいえ、自分のほうが正しいと、行動を、決断してしまった。その結果、生じてしまった、ただの勘違い、たった一つの齟齬が、今に至るまでの糸を縺れさせてしまった。
縺れた糸は、他にも波及して。テルミナの母親である〝目〟も、リズナクト卿の特攻から勘違いを犯してしまった。当然、その誤謬も聖王に利用されることになる。
恐らくリズナクト卿は、聖王が企んだことだと思い、彼の王を最後まで信じ切ることが出来なかった自身の心情には心付いていない。
こんな危うい均衡を長周期保ってきた。
やだなぁ、僕もあと何十周期か巡ったら、こんな面倒臭い、それでいて温かさを伴っているかもしれない運命を背負うことになるのだろうか。
人生とは、縁の糸を結わえていくもので、絡ませていくものではないと信じたい、思いたいところだが。ちょっと老師に似ていなくもない聖王に、そこのところ、安心できる、希望が持てる言葉を吐き出させたいのだが。
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