竜の国の侍従長

風結

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三章 風竜地竜と侍従長

竜の桎梏

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「リシェに聞きたいことがある。『千竜王』のことだ」

 あー、それはまぁ、聞かれてもいまいち答え難かったりするんだけど。

 如何様に応えたものかと思案を巡らせていると、僕の逡巡をどう捉えたのか、アランは言葉を継いで、いささか以上に予想とは離れた内容を口にした。

「ふむ。ストーフグレフを建国した初代の王から伝わっていることなのだが、王族は『千竜王』の血を引いているそうだ」
「えっと、『千竜王』の……血?」

 ぶふ~、とここで百竜の鼻息。

 竜の介入に、僕らの視線が下に向けられる。

 「千竜王」に執着しているらしい炎竜のげんは気になるので、二人にも了承いただけたので、竜の叡智ひゃくりゅう言葉しゅくふくが降り注ぐのを翹望ぎょうぼうすることにした。

「『千竜王』の系譜けいふだとのたまうが、断じて斯様なことなど有り得ぬ」

 怒気をはらんだ竜声が、属性か魔力が影響しているのだろうか、大気を震わせる。

 空間ごときしんでいるのではないかと危惧きぐしてしまうくらいの、聞く者の耳をさいなむ、竜の桎梏しっこく

「ゆれる~ゆれる~、ゆれゆれなのよ~~」
「『炎竜賛歌』を踊るから~、ゆるしてなのよ~~。とギッタが言ってるのよ~~」
「ほのおやっほのおっ、ほのおやっほのおっ」

 あ、本当に謎舞踊の開始である。

 百竜の魔力を受けて、恐慌きょうこうきたしたのだろうか。

「大丈夫。百竜は本気で怒っているわけじゃないからね」

 おためごかし、だとは思いたくないが、僕がこう言えば、百竜の怒りを鎮められるはず。

 ぶ~、と百竜の鼻息。

 それが拗ねているようにも聞こえて、口からまろび出ようとした笑いの欠片を、必死になって呑み込む。

 気付かれていない、と信じたいところだが、竜の感覚から逃れることは出来ないだろう。

 然り乍ら百竜の勘気は回避できたようで、

「今一度言うが、有り得ぬ。ーー然し、『千竜王』の名を知っていようものなら、何かしらあったとしても不思議ではないのであろうよ」

 認めたくはないが、認めてやらぬでもない(訳、ランル・リシェ)。と一応の決着を見たしだい。

 然ても、スナと同じように、角をさわさわしてみるが、効果はあるだろうか。

「…………」

 反応はない。なので、そろそろ頃合いかと、腰に括り付けておいた革袋を手に取る。

 中に入っていた白い欠片の一つを、ぽいっ、と投げ落とす。

 説明するよりも見せたほうが、魔力を感じてもらったほうが早いかと、革袋を二人の前に持ってゆく。

「ふむ。これはスナ様の鱗を砕いたものか」
「はい。スナが魔力を届かせることが出来るのが、ここら辺りまでなので、中継の為に一定区間ごとに落としていきます」
「上手くすれば、エタルキアからでも連絡が取れると。さすが竜、いや、ヴァレイスナ様の御力か」
「これは実験なので、確実なものではないですけどね。成る丈遠くまで届くように、スナには頑張ってもらいましょう」

 出発間際に、スナから革袋と一抱えもある箱を手渡された。

 徹夜だったのだろうか、ぶっ倒れたクーさんをほっぽって、険悪な炎竜氷竜が魔力と、序でに言葉を投げ付け合っていた。どうやら、箱の中身の説明をしていたらしい。僕ではなく百竜にしたということは、魔法や魔力が関係している物なのかもしれない。

 空にある、少ない雲が太陽を隠す。

 見ると、蛇行するユミファナトラ大河と、周辺五国の山河襟帯さんがきんたいまで続く平原。

 竜の国よりも、いや、比べものにならないくらいの漠々ばくばくとした印象。ここが世界の中心だと言われても納得し兼ねない、天竜の庭先、風竜の遊び場。

 山々に囲われて幼周期を過ごした僕には、目に痛い光景だ。

 広過ぎて、大き過ぎて、頭が処理し切れていないのだろうか。

 然てまた鱗の欠片を、ぽいっ。

「ふむ。これなら日が高い内にストーフグレフに着けるだろう。ーー楽しみだ」

 ん?

 と、アランが何か言っていたようだが、聞き漏らしてしまった。

 アランから何かを感じ取ったらしいベルさんの表情を、確認しておけば良かったと、後悔する羽目になるのだが。

 大空に白竜がいないか探していた僕は、世界の一幕に見惚れたまま、脳天気に死地へと赴くことになるのだった。
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