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二章 王様と侍従長
魔法使い ばーさす 呪術師
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「レイさん。これから呪術師殿と、魔法で闘いたくありますが、判定役をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「あら、面白そうですわね。なら、二人の身は魔力で守ってやるので、私を楽しませる為にも、全力でやるのですわ」
「ありがとうございます」
「感謝する」
エルタスとユルシャールさんが、同時にレイに頭を下げる。
然あれば呪術師は、見習い魔法使いに向かって、魔法使いの危険性と心構えを説く。
「魔法使いは、魔法使いと闘わない。それは、危険だからだ。相手がどんな魔法を使ってくるかわからない。その一点だけでも余りある。相手が魔法使いではない、魔法が使えるだけの相手なら問題はない。だが、相手が魔法使いであるのなら、魔力量や技量の差は関係ない……いや、翠緑王、あの魔法王は例外だが、闘いを回避するのが賢い手段となる。だが、魔法使いを名乗るのであれば、一度は魔法使いと闘っておく必要がある。私は、これが二度目で、実力が拮抗しているであろう相手とは初めだ」
「光栄です。一度目は、子供の頃に父が相手だったので、この度は楽しめそうですね」
「事前に言っておくが、魔法使いであるならば、幾つか型を用意しておく。攻撃と、主に『結界』の守り。いざ闘いになって考えるようでは、その瞬間に敗北は決定だ」
「先に魔法を当てた方が勝ち、とそのように単純なものではありませんが、即座に放てる魔法を幾つか。当然、『結界』もその性質を考慮した上で張らなくてはなりません」
ユルシャールさんも加わって、何やら勉強会のような様相。魔法使いと呪術師の矜持に感ずるところがあったのか、双子は神妙に耳を傾けている。
スナが安全を確約してくれるというのなら、確かにこれは楽しみな一戦である。魔力量も実力もあるだろう魔法使い同士の闘い。これまで見てきたのは、コウさんが一方的に蹂躙、もとい圧倒するようなものばかりだったので、普通の魔法使いの闘いには興味津々ーー、って…なん、だ……?
「「「ーーーー」」」
ーー通り過ぎてから、吹き抜けたことに気付いた。
世界を駆け抜けた、淡銀の衝動。
風が止んだ。いや、「結界」の内だ。風など始めから吹いていなかった。
同時だった。それがレイとアランだったから、ふっと心が冷たくなる。
二人でないと感じられない何か。再び抱くようになっていた底なしの不安のようなもの。
いや、別々の事象に、勝手に繋がりを作ってしまうのは、僕に限らず人間の悪い癖だ。
「ふむ。東か」
「遠い、ですわね。草の海をーー越えますわ」
東に、狩場の山脈の、果ての空に向かって、木枯らしのような温かみのない言葉。
「「ーーーー」」
「「「「「っ!?」」」」」
暖かだが、引っ掻くような風が吹き抜けた。
須臾の間、僕の脳裏を駆け抜けた、いや、染め上げた金色の波濤。以前よりも強く響く、女の子の魔力。
見澄ますと、大広場にいる幾人かが、僕たちと同様に翠緑宮のある方角を見遣っていた。魔力放出ではなく、魔法を行使したのだろうか。だが、そうだとするなら、余波だけでこれなら、「千竜賛歌」に匹敵する極大の、世界魔法と言うべき水準の魔法ということになるのだがーー。
「ーーあの大馬鹿娘」
あの、と、娘、の間に、大馬鹿、が含まれている。
からかうでもなく、茶化すでもなく。憂うでもなく、惻隠の情を催すでもなく。ころりと、何処までも転がり落ちるような情感。
「今すぐ、どうこうなるものではないのですわ。お膳立てをしてやったのですから、とっととつっつとやるですわ。魔法を引き継いでやるから、きりきりさくさくぱっぱとやるですわ」
「八つ当たり、ではなく、竜当たりが怖いので、御二人の準備は完竜?」
「「……っ」」
今は、世界の滅亡より卑近な愛娘の感情のほうが重要な気がするので、呪術師と魔法使いを急かす。
お腹の中までひゃっこいなのか、お菓子を目の前にした仔竜の食欲のようなはしたない冷気をもうもうと。ああ、双子がお互い抱き締め合って、冷え冷え~である。
僕とアランと双子がスナの後ろに移動すると、冷気か魔力で作ったのだろうか、まっさらな雪を詰め込んだような球体が、十歩ほど距離を空けた呪術師と魔法使いの間に飛んでゆく。
華やかな魔法使いと地味な呪術師、いや、問題はそこではなく、二人とも杖を持っていないことだ。いやさ、しつこいと思われるかもしれないが、いまいち魔法使い同士の闘いに見えないのだ。
魔力で強化すれば鈍器にもなるのだし、投げることだってーー、
「球が割れたときが開始の合図ですわ。体を覆う二層の魔力の、上層を先に破壊したほうが勝者となりますわ。致命傷水準なら一度で、それ以下の魔法なら三度で消失しますわ」
然あらじ、おかしなことを考えていないで二人の闘いを凝望、虎視ならぬ竜視で見逃すことがないよう視野を広げる。
見ると、惟る仕草の二人。駆け引きが必要な面白い規定の為、戦術の練り直しだろうか。
然し、球が割れるまで、という時間制限がある。
コウさんと違って、魔力量に限りのある普通の人間は、相手に致命傷を与える水準の魔法を連発することなんて出来ない。同じく、超絶魔法を一瞬で無数に放つ規格外と異なって、高等魔法には魔力を練り込む時間が、戦闘に於いては勝敗に直結するくらいのずれが生じる。
エルタスが言っていたように、魔法戦は危険なのだろう、里で行われることはなかった。一部の魔法以外は見ることが出来ないとわかっていても、竜の息吹である。
先ずユルシャールさんが、「結界」を張る為だろうか、左の掌を前面に出して、引いた右手で魔法を放つ体勢。
ある意味、正統的な、事前に予測されても構わないということだろう。対してエルタスは、自然体である。
集中しているのか、平時では見られない厳かな風情がある。さすがにスナも球を割るのを引き延ばして悪戯をするようなこーーぱりんっ。
「「ーーっ」」
霧雪のような清かな白さが馴染むより早く、ユルシャールさんの「結界」が張られるも、
「くっ!?」
彼の足元がほんのわずかに陥没していた。
微かな認識の齟齬、なれど主導権を握るには十分。
奇襲を成功させたエルタスは、追撃の魔法を放つことなく駆け出して、正面から「結界」へ。対して、「結界」の強化よりも迎撃を優先するユルシャールさん。
接近戦を選択したエルタスは、性質を見抜いていたのか、直接「結界」に触れて破壊して、直後に魔法を打ち込む。
単調な攻撃に戸惑ったユルシャールさんだが、二つの、或いは三つ以上の併行魔法で、呪術師の魔法ごと吹き飛ばす。
だが、彼が予想した通りに、エルタスの攻撃は牽制。
魔法攻撃で「幻影」の呪術師の姿が掻き消されたときには、すでにエルタスは側面に回っていた。
後手に回りながらも魔力を捉えたのか、相対する間際に、狙いを付けず、不意打ち気味に下位の攻撃魔法を複数放つユルシャールさん。
形勢をひっくり返そうと、いや、持ち直せれば御の字という伏撃。
エルタスが対応を誤れば、勝負が決する場面だったが。読み切った詰竜棋のように、呪術師は落ち着いて手順通りに魔法を行使する。
三歩の距離に縮まった、軋むような二人の間隙に、エルタスの魔法だろう、石畳を壊して出現した土壁が、って、こらっ! あとで魔法で直せなかったら、給金から差っ引いてやる!
ととっ、今は熱闘に集中だ。
土壁の左下の部分は、攻撃を放つ為だろう、空いているのだが、「幻影」か「隠蔽」か、ユルシャールさんは気付いていない。
これで、すでに練っていた高等魔法を放って、エルタスの勝利ーーかと思ったが、矢庭に詰め寄った変魔さんが起死回生の、慮外な行動に打って出る。
土壁に両手を突いた、いや、その勢いは、衝いた、と表現するのが的確だろう、エルタスの魔法が直撃して跳ね飛ばされるまでの瞬息にすら満たない、凝縮されたような空間と魔力の狭間に、錯綜する魔法が両者に襲い掛かる。
「っ!?」
「ぐっ!」
ばぁーーん。
いや、そんな単調な音ではなく、実際には、地を揺るがすような、圧迫するような重い音だったのだが。
刹那、ぷちっ、という呪術師が潰れるような幻聴が、って、いやいや、そうじゃなくて、いったい何が起こったかというと。
土壁が俄然として猛烈な速さで倒れたのだ。
竜事休するユルシャールさんは、土壁を硬化したのだろうか、尚更破壊行為で大広場を傷付けるが、って、それは今は措いておいて。
エルタスの魔法を利用した、見事な機転と創意である。そして、実行する胆力たるや雄国の魔法団団長の面目躍如である。と直近の魔法使いの蹉跌やら醜態やらが、ちょっとばかり哀れ、というか気の毒だったので持ち上げてみる。
然ても、魔法が見えない僕ではあるが、想像力と、それに倍する妄想力で脚色してみました。見たまんまを語ると、最後の土壁の攻防以外は、謎舞踊な感じでちょっと、ではないくらいに滑稽なので、二人の名誉の為にも頑張って解説してみました。
「「…………」」
魔法の効力が失われたのか、柔になって崩れた土塊の中から、もぞもぞと這い出て立ち上がるエルタス。
仰向けに倒れていたユルシャールさんも問題ないようだ、服の汚れを払いながら戻ってくる。
二人が遣って来ると、判定役のスナは片目を瞑って、人差し指で軽く顎をとんとんとん。
ーーどくんっ、とゆくりなく発作のように心臓が跳ねる。可愛い仕草にのっぴきならない衝動が込み上げてくるが、くぅっ、竜心だ! 昨晩一緒に寝ていないからといって、み成分ならぬスナ成分欠乏病に罹患している場合ではないっ。
「ーーーー」
「「ーーーー」」
「わくどきそわっ」
「そわどきわくっ。とギッタが言ってます」
迷っているのだろうか、紙一重の差であるが、ユルシャールさんのほうが若干分が悪いように見えたが、はてさて。
……少し頭が緩くなったようなので、今一度引き締める。
「ーーま、引き分けですわね」
すっと、優雅な動作で、二人の間に手刀を振り下ろす。
「あら、面白そうですわね。なら、二人の身は魔力で守ってやるので、私を楽しませる為にも、全力でやるのですわ」
「ありがとうございます」
「感謝する」
エルタスとユルシャールさんが、同時にレイに頭を下げる。
然あれば呪術師は、見習い魔法使いに向かって、魔法使いの危険性と心構えを説く。
「魔法使いは、魔法使いと闘わない。それは、危険だからだ。相手がどんな魔法を使ってくるかわからない。その一点だけでも余りある。相手が魔法使いではない、魔法が使えるだけの相手なら問題はない。だが、相手が魔法使いであるのなら、魔力量や技量の差は関係ない……いや、翠緑王、あの魔法王は例外だが、闘いを回避するのが賢い手段となる。だが、魔法使いを名乗るのであれば、一度は魔法使いと闘っておく必要がある。私は、これが二度目で、実力が拮抗しているであろう相手とは初めだ」
「光栄です。一度目は、子供の頃に父が相手だったので、この度は楽しめそうですね」
「事前に言っておくが、魔法使いであるならば、幾つか型を用意しておく。攻撃と、主に『結界』の守り。いざ闘いになって考えるようでは、その瞬間に敗北は決定だ」
「先に魔法を当てた方が勝ち、とそのように単純なものではありませんが、即座に放てる魔法を幾つか。当然、『結界』もその性質を考慮した上で張らなくてはなりません」
ユルシャールさんも加わって、何やら勉強会のような様相。魔法使いと呪術師の矜持に感ずるところがあったのか、双子は神妙に耳を傾けている。
スナが安全を確約してくれるというのなら、確かにこれは楽しみな一戦である。魔力量も実力もあるだろう魔法使い同士の闘い。これまで見てきたのは、コウさんが一方的に蹂躙、もとい圧倒するようなものばかりだったので、普通の魔法使いの闘いには興味津々ーー、って…なん、だ……?
「「「ーーーー」」」
ーー通り過ぎてから、吹き抜けたことに気付いた。
世界を駆け抜けた、淡銀の衝動。
風が止んだ。いや、「結界」の内だ。風など始めから吹いていなかった。
同時だった。それがレイとアランだったから、ふっと心が冷たくなる。
二人でないと感じられない何か。再び抱くようになっていた底なしの不安のようなもの。
いや、別々の事象に、勝手に繋がりを作ってしまうのは、僕に限らず人間の悪い癖だ。
「ふむ。東か」
「遠い、ですわね。草の海をーー越えますわ」
東に、狩場の山脈の、果ての空に向かって、木枯らしのような温かみのない言葉。
「「ーーーー」」
「「「「「っ!?」」」」」
暖かだが、引っ掻くような風が吹き抜けた。
須臾の間、僕の脳裏を駆け抜けた、いや、染め上げた金色の波濤。以前よりも強く響く、女の子の魔力。
見澄ますと、大広場にいる幾人かが、僕たちと同様に翠緑宮のある方角を見遣っていた。魔力放出ではなく、魔法を行使したのだろうか。だが、そうだとするなら、余波だけでこれなら、「千竜賛歌」に匹敵する極大の、世界魔法と言うべき水準の魔法ということになるのだがーー。
「ーーあの大馬鹿娘」
あの、と、娘、の間に、大馬鹿、が含まれている。
からかうでもなく、茶化すでもなく。憂うでもなく、惻隠の情を催すでもなく。ころりと、何処までも転がり落ちるような情感。
「今すぐ、どうこうなるものではないのですわ。お膳立てをしてやったのですから、とっととつっつとやるですわ。魔法を引き継いでやるから、きりきりさくさくぱっぱとやるですわ」
「八つ当たり、ではなく、竜当たりが怖いので、御二人の準備は完竜?」
「「……っ」」
今は、世界の滅亡より卑近な愛娘の感情のほうが重要な気がするので、呪術師と魔法使いを急かす。
お腹の中までひゃっこいなのか、お菓子を目の前にした仔竜の食欲のようなはしたない冷気をもうもうと。ああ、双子がお互い抱き締め合って、冷え冷え~である。
僕とアランと双子がスナの後ろに移動すると、冷気か魔力で作ったのだろうか、まっさらな雪を詰め込んだような球体が、十歩ほど距離を空けた呪術師と魔法使いの間に飛んでゆく。
華やかな魔法使いと地味な呪術師、いや、問題はそこではなく、二人とも杖を持っていないことだ。いやさ、しつこいと思われるかもしれないが、いまいち魔法使い同士の闘いに見えないのだ。
魔力で強化すれば鈍器にもなるのだし、投げることだってーー、
「球が割れたときが開始の合図ですわ。体を覆う二層の魔力の、上層を先に破壊したほうが勝者となりますわ。致命傷水準なら一度で、それ以下の魔法なら三度で消失しますわ」
然あらじ、おかしなことを考えていないで二人の闘いを凝望、虎視ならぬ竜視で見逃すことがないよう視野を広げる。
見ると、惟る仕草の二人。駆け引きが必要な面白い規定の為、戦術の練り直しだろうか。
然し、球が割れるまで、という時間制限がある。
コウさんと違って、魔力量に限りのある普通の人間は、相手に致命傷を与える水準の魔法を連発することなんて出来ない。同じく、超絶魔法を一瞬で無数に放つ規格外と異なって、高等魔法には魔力を練り込む時間が、戦闘に於いては勝敗に直結するくらいのずれが生じる。
エルタスが言っていたように、魔法戦は危険なのだろう、里で行われることはなかった。一部の魔法以外は見ることが出来ないとわかっていても、竜の息吹である。
先ずユルシャールさんが、「結界」を張る為だろうか、左の掌を前面に出して、引いた右手で魔法を放つ体勢。
ある意味、正統的な、事前に予測されても構わないということだろう。対してエルタスは、自然体である。
集中しているのか、平時では見られない厳かな風情がある。さすがにスナも球を割るのを引き延ばして悪戯をするようなこーーぱりんっ。
「「ーーっ」」
霧雪のような清かな白さが馴染むより早く、ユルシャールさんの「結界」が張られるも、
「くっ!?」
彼の足元がほんのわずかに陥没していた。
微かな認識の齟齬、なれど主導権を握るには十分。
奇襲を成功させたエルタスは、追撃の魔法を放つことなく駆け出して、正面から「結界」へ。対して、「結界」の強化よりも迎撃を優先するユルシャールさん。
接近戦を選択したエルタスは、性質を見抜いていたのか、直接「結界」に触れて破壊して、直後に魔法を打ち込む。
単調な攻撃に戸惑ったユルシャールさんだが、二つの、或いは三つ以上の併行魔法で、呪術師の魔法ごと吹き飛ばす。
だが、彼が予想した通りに、エルタスの攻撃は牽制。
魔法攻撃で「幻影」の呪術師の姿が掻き消されたときには、すでにエルタスは側面に回っていた。
後手に回りながらも魔力を捉えたのか、相対する間際に、狙いを付けず、不意打ち気味に下位の攻撃魔法を複数放つユルシャールさん。
形勢をひっくり返そうと、いや、持ち直せれば御の字という伏撃。
エルタスが対応を誤れば、勝負が決する場面だったが。読み切った詰竜棋のように、呪術師は落ち着いて手順通りに魔法を行使する。
三歩の距離に縮まった、軋むような二人の間隙に、エルタスの魔法だろう、石畳を壊して出現した土壁が、って、こらっ! あとで魔法で直せなかったら、給金から差っ引いてやる!
ととっ、今は熱闘に集中だ。
土壁の左下の部分は、攻撃を放つ為だろう、空いているのだが、「幻影」か「隠蔽」か、ユルシャールさんは気付いていない。
これで、すでに練っていた高等魔法を放って、エルタスの勝利ーーかと思ったが、矢庭に詰め寄った変魔さんが起死回生の、慮外な行動に打って出る。
土壁に両手を突いた、いや、その勢いは、衝いた、と表現するのが的確だろう、エルタスの魔法が直撃して跳ね飛ばされるまでの瞬息にすら満たない、凝縮されたような空間と魔力の狭間に、錯綜する魔法が両者に襲い掛かる。
「っ!?」
「ぐっ!」
ばぁーーん。
いや、そんな単調な音ではなく、実際には、地を揺るがすような、圧迫するような重い音だったのだが。
刹那、ぷちっ、という呪術師が潰れるような幻聴が、って、いやいや、そうじゃなくて、いったい何が起こったかというと。
土壁が俄然として猛烈な速さで倒れたのだ。
竜事休するユルシャールさんは、土壁を硬化したのだろうか、尚更破壊行為で大広場を傷付けるが、って、それは今は措いておいて。
エルタスの魔法を利用した、見事な機転と創意である。そして、実行する胆力たるや雄国の魔法団団長の面目躍如である。と直近の魔法使いの蹉跌やら醜態やらが、ちょっとばかり哀れ、というか気の毒だったので持ち上げてみる。
然ても、魔法が見えない僕ではあるが、想像力と、それに倍する妄想力で脚色してみました。見たまんまを語ると、最後の土壁の攻防以外は、謎舞踊な感じでちょっと、ではないくらいに滑稽なので、二人の名誉の為にも頑張って解説してみました。
「「…………」」
魔法の効力が失われたのか、柔になって崩れた土塊の中から、もぞもぞと這い出て立ち上がるエルタス。
仰向けに倒れていたユルシャールさんも問題ないようだ、服の汚れを払いながら戻ってくる。
二人が遣って来ると、判定役のスナは片目を瞑って、人差し指で軽く顎をとんとんとん。
ーーどくんっ、とゆくりなく発作のように心臓が跳ねる。可愛い仕草にのっぴきならない衝動が込み上げてくるが、くぅっ、竜心だ! 昨晩一緒に寝ていないからといって、み成分ならぬスナ成分欠乏病に罹患している場合ではないっ。
「ーーーー」
「「ーーーー」」
「わくどきそわっ」
「そわどきわくっ。とギッタが言ってます」
迷っているのだろうか、紙一重の差であるが、ユルシャールさんのほうが若干分が悪いように見えたが、はてさて。
……少し頭が緩くなったようなので、今一度引き締める。
「ーーま、引き分けですわね」
すっと、優雅な動作で、二人の間に手刀を振り下ろす。
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