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二章 王様と侍従長
迷宮探索決定?
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然てしも有らず、竜地の雷竜が視認できる位置まで来たので組合と迷宮の話をする。
「竜地、雷竜の雷守は、冒険者組合の元幹部です。現在は、雷竜と北東にある森と、迷宮の整備を行っています。組合から打診がありました。森を新人の訓練場として使えないかと。あと、冒険者も受け入れられないかと」
「そ、そうでした。失念していました。竜の狩場には、魔物が跋扈しているーーはずでしたよね」
「ーーーー」
「アラン様、気に入ったのですか、そうやって無言の眼差しで、私を苛めるのが」
「ふむ。私はこれまで、誰かと一緒に遊ぶ、ということをあまりしたことがなかった。リシェと氷竜様と遊べて、私は楽しんでいる」
「くっ! この王様めっ!? 仕方がないではないですか! 今は、こうして竜の国が目の前にあるのです。魔物のことを忘れているのは私だけではないはずです!」
ユルシャールさんと違って、国を造る前の竜の狩場に来ていながら、魔物のことをすっかり忘れていた僕は何も言えない。
藪から竜が出ない内に、あと変魔さんを助ける振りをして、彼らから情報を引き出すべく、うちの王様の悪口、もとい行いを暴露しよう。
「先に、打診、と言いましたが。実は、翠緑王は、僕に内緒で事を進めてしまっていたのです。明らかに、何かを隠しているのですが、『氷焔』と老師は非協力的で、真相がつかめません。更に不味いことに、コウさんは、これらの案件を楽しんで実行しているのです」
これらの企みに気付いたのは、昨日の朝である。
みーが持ち出して、百竜が見せてくれた書類の一枚に、「秘密の計画 その三」なる計画書があったのだ。
おっちょこちょいの王様が間違えて書類に交ぜてしまったか、竜はギザマルを捕らえず、ということで、お茶目なみーが一緒くたに持ってきてしまったのか。
「そういうわけで、冒険者組合のことで何か知っていたらーーという次第です」
内部が駄目なら外部を恃む。
コウさんが係わっているのに、僕に情報が届いていない。彼女が意図的に止めている。これは、やばい兆候である。
何か、大きなことが動いているのかもしれない。あの魔法使いをほったらかしにしておいたら世界が危ない。とまでは言わないが、竜の国の未来に禍根を残さない為にも、見張っておく必要があるのだ。
「それなのですが。大国となったストーフグレフ国に、当然組合は擦り寄ってきました。正式な使者だけでなく、功名心に逸った組合の幹部まで。遣って来た彼らを、アラン様は、撃滅なさいました。一掃、若しくは鎧袖一触と言ったほうがよろしいでしょうか。初見でアラン様の気配に魂を打擲され、何もせずとも勝手に自滅していきました。その点に於いては、商人のほうが図太いですね。商人組合の方は、そうでもありませんでしたが、在野の商人の中には、最後まで表情を保てた方もいました。ラクナル殿も、アラン様の冗談が炸裂していなければ、最後まで優雅さを保てていたかもしれません」
「ふむ。それ以降、組合の人間は、近付いてこないのだ。組合とは懇意にしたいというのに、儘ならぬものだ」
「はは、そういうわけでして、組合とは節度あるお付き合いを、ということで、こちらから呼び立てないと、彼らは遣って来なくなりました。大人しく従順であるのは面倒がなくて良いのですが。惜しむらくは情報が得られなくなってしまいました」
アランの弊害、と言ってしまうのは可哀想か。誰にでも得手不得手はある。アランの得手は、天を突き抜けるほどに有益なのだから、多少……ではないが、それなりの不利益は大したことではない。
コウさんの魔法の副産物も大したことではないーーと言えないのが哀しいところ。きっとあちら側の当事者であるユルシャールさんも、僕と同じ心境だろう。
「森が見えますね。ここからでは確認できませんが、地下にある洞窟を、翠緑王が迷宮に改装、というか、作り直しました。森の奥に、迷宮の深くに、行けば行くほど強い魔物がいるそうで。確認の為、竜騎士を連れたエンさんが、近いうちに突貫すると思われます」
「ふむ。楽しみだ」
「……リシェ殿。前倒しをお願いいたします」
「……了解しました」
たぶん、いや、確実に巻き込まれるであろう男二人が、約束を取り交わす。
はぁ、今日の内にエンさんに話を通しておかなくてはならない。つまり、今日も鍛錬は休めないと。
アランを退屈させない為とはいえ、早まったかもしれない。アランをエンさんに押し付けたいところだが、世間的に侍従長は、翠緑王に匹敵する強さだとされているので、彼と共闘する羽目になるやも。
まぁ、なるようにしかならないか。
鼻息は止めてね。という願いを込めて角をさわんさわん。円を描くように撫でる。
ーー胸に湧き上がるような喜び。
もう一つの願い、というか、お願いは、竜書庫に向かってね、というものだったのだが。ゆったりと円を描いて反転する愛娘に、体がふっと軽くなる。
錯覚、だろうか。もしかしたら心が、或いはもっと深くの何かが、揺らめいて、昇華したのかもしれない。
答えは求めず、僕は、それらに触れるだけに留めた。
「竜地、雷竜の雷守は、冒険者組合の元幹部です。現在は、雷竜と北東にある森と、迷宮の整備を行っています。組合から打診がありました。森を新人の訓練場として使えないかと。あと、冒険者も受け入れられないかと」
「そ、そうでした。失念していました。竜の狩場には、魔物が跋扈しているーーはずでしたよね」
「ーーーー」
「アラン様、気に入ったのですか、そうやって無言の眼差しで、私を苛めるのが」
「ふむ。私はこれまで、誰かと一緒に遊ぶ、ということをあまりしたことがなかった。リシェと氷竜様と遊べて、私は楽しんでいる」
「くっ! この王様めっ!? 仕方がないではないですか! 今は、こうして竜の国が目の前にあるのです。魔物のことを忘れているのは私だけではないはずです!」
ユルシャールさんと違って、国を造る前の竜の狩場に来ていながら、魔物のことをすっかり忘れていた僕は何も言えない。
藪から竜が出ない内に、あと変魔さんを助ける振りをして、彼らから情報を引き出すべく、うちの王様の悪口、もとい行いを暴露しよう。
「先に、打診、と言いましたが。実は、翠緑王は、僕に内緒で事を進めてしまっていたのです。明らかに、何かを隠しているのですが、『氷焔』と老師は非協力的で、真相がつかめません。更に不味いことに、コウさんは、これらの案件を楽しんで実行しているのです」
これらの企みに気付いたのは、昨日の朝である。
みーが持ち出して、百竜が見せてくれた書類の一枚に、「秘密の計画 その三」なる計画書があったのだ。
おっちょこちょいの王様が間違えて書類に交ぜてしまったか、竜はギザマルを捕らえず、ということで、お茶目なみーが一緒くたに持ってきてしまったのか。
「そういうわけで、冒険者組合のことで何か知っていたらーーという次第です」
内部が駄目なら外部を恃む。
コウさんが係わっているのに、僕に情報が届いていない。彼女が意図的に止めている。これは、やばい兆候である。
何か、大きなことが動いているのかもしれない。あの魔法使いをほったらかしにしておいたら世界が危ない。とまでは言わないが、竜の国の未来に禍根を残さない為にも、見張っておく必要があるのだ。
「それなのですが。大国となったストーフグレフ国に、当然組合は擦り寄ってきました。正式な使者だけでなく、功名心に逸った組合の幹部まで。遣って来た彼らを、アラン様は、撃滅なさいました。一掃、若しくは鎧袖一触と言ったほうがよろしいでしょうか。初見でアラン様の気配に魂を打擲され、何もせずとも勝手に自滅していきました。その点に於いては、商人のほうが図太いですね。商人組合の方は、そうでもありませんでしたが、在野の商人の中には、最後まで表情を保てた方もいました。ラクナル殿も、アラン様の冗談が炸裂していなければ、最後まで優雅さを保てていたかもしれません」
「ふむ。それ以降、組合の人間は、近付いてこないのだ。組合とは懇意にしたいというのに、儘ならぬものだ」
「はは、そういうわけでして、組合とは節度あるお付き合いを、ということで、こちらから呼び立てないと、彼らは遣って来なくなりました。大人しく従順であるのは面倒がなくて良いのですが。惜しむらくは情報が得られなくなってしまいました」
アランの弊害、と言ってしまうのは可哀想か。誰にでも得手不得手はある。アランの得手は、天を突き抜けるほどに有益なのだから、多少……ではないが、それなりの不利益は大したことではない。
コウさんの魔法の副産物も大したことではないーーと言えないのが哀しいところ。きっとあちら側の当事者であるユルシャールさんも、僕と同じ心境だろう。
「森が見えますね。ここからでは確認できませんが、地下にある洞窟を、翠緑王が迷宮に改装、というか、作り直しました。森の奥に、迷宮の深くに、行けば行くほど強い魔物がいるそうで。確認の為、竜騎士を連れたエンさんが、近いうちに突貫すると思われます」
「ふむ。楽しみだ」
「……リシェ殿。前倒しをお願いいたします」
「……了解しました」
たぶん、いや、確実に巻き込まれるであろう男二人が、約束を取り交わす。
はぁ、今日の内にエンさんに話を通しておかなくてはならない。つまり、今日も鍛錬は休めないと。
アランを退屈させない為とはいえ、早まったかもしれない。アランをエンさんに押し付けたいところだが、世間的に侍従長は、翠緑王に匹敵する強さだとされているので、彼と共闘する羽目になるやも。
まぁ、なるようにしかならないか。
鼻息は止めてね。という願いを込めて角をさわんさわん。円を描くように撫でる。
ーー胸に湧き上がるような喜び。
もう一つの願い、というか、お願いは、竜書庫に向かってね、というものだったのだが。ゆったりと円を描いて反転する愛娘に、体がふっと軽くなる。
錯覚、だろうか。もしかしたら心が、或いはもっと深くの何かが、揺らめいて、昇華したのかもしれない。
答えは求めず、僕は、それらに触れるだけに留めた。
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