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三章 竜の国と魔法使い
炎竜の襲来?
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エルネアの剣の本拠地である、小ぢんまりとした建物を見上げる。
まだここを出てから然程時間が経っていないというのに、ずいぶん昔のように感じてしまう。それだけ濃密な時間だったということだろう。感慨に耽っていると、待ち合わせの相手が遣って来た。
「あれ? ザーツネルさん。団長はどうしたんですか?」
「団長は、リシェ殿が怖いらしくてな、代わりに俺が来た。俺にとって、リシェ殿は命の恩人だからな」
二十半ばの好青年は、屈託のない笑顔を浮かべている。気さくに話し掛けてくれるのは嬉しいのだが、周期が上の、それも大人から「殿」などと付けられるとこそばゆくなってしまう。
命の恩人、というのは、遺跡で溺れそうになったところを裏返して助けたときのことを言っているのだろう。
あれから彼らは、コウさんの魔法で丸一日動くことが出来なかったらしい。
僕への感謝と裏腹に、彼らが必要以上に魔法使いを、王様を怖がるようなことがなければいいのだけど。
「殿、は恥ずかしいので勘弁してください。リシェ、と呼び捨てでいいですよ」
「そういうことなら、リシェ様、と呼んでもいいぞ。これから色んな呼び方をされるだろうから、今の内から慣れておくことだな、リシェ様? 服は……似合ってるぞ、リシェ様?」
冗談めかして、子供っぽく笑う。
初めて会った時は、副団長としての厳しさや、諦観や苦悩といった苦いものが目に付いたが、今は毒が抜けたようにさっぱりとしている。
僕は、竜の国が完成するまで秘密にしておいたことや、施設や役職など必要なことを伝える。「ミースガルタンシェアリ」など、重要機密はまだ言えないのだけど。あと、服のことはちゃんと自覚があるので、おべんちゃらを言わなくても大丈夫です。
「これまでありがとうございます。竜の国が完成したので、僕たちが挨拶回りに出発したあと、竜の狩場に向かってください。以前お話しした通り、竜騎士団の隊の一つとして着任をお願いします。ーーとはいえ、騎士と言っても、仕事は案内や護衛、巡回や警備になりますけど」
「ははっ。人生、わからんものだな。こんなこと、夢にも思っていなかった。竜の国か、楽しみだな。先ずは、竜の都の案内が出来るように地理に明るくなればいいんだろう?」
「目隠ししても歩けるように、なんてことは言いませんが、竜の国を護る剣として、振り下ろす先を過たないくらいには、お願いします。コウさんーー、フィア様の力は絶大ですが、すべてに行き渡るわけではありません。また、それをさせない為の竜の国であり、竜の民です」
「竜の国であり、竜の民、ーーそして竜の国の侍従長であるのかな? リシェ殿は、ずいぶんフィア様にぞっこんなようだ」
「いい意味ではそうですね。深入りしたことを後悔したことはありません。と格好良いことが言えたらいいんですけど。あとは、みー様ともうちょっと仲良くなれたらいいな、と切実に思っています」
建物の前で会話を交わしていたが、誰の出入りもなかった。見回すと、商店はもう店を開けている。
空に雲は多いが、見上げることを考慮したなら、良好な天気、と言っていいだろう。
誰か居たら取り次いでもらおうかと思っていたのだが、仕方がない。
「それでは、行きましょうか」
ザーツネルさんを伴って建物の中に入るが、受付と通路、近くの部屋にも、視認できる範囲には誰も居なかった。団員の姿がないということは、依頼か何かで大半は出払っているのだろうか。
事務室に行くと、目的の、交渉の相手であるオルエルさんがいた。
今日は、すべての席が埋まっている。忙しそうに、五人の男たちがせっせと手を動かしていた。
僕が部屋に入っても気付かれなかったが、ザーツネルさんが入ると皆が手を止めた。これは、僕の特性というだけでなく、元々の存在感の違いなのだろうか。竜の国仕様の、服の効果さえ打ち消しているとするならーー。
ん~、若しや僕の特性が強化されているなんてことが……、いやいや、考察は後である。竜の国完成後の、初仕事からしくじるわけにはいかない。
奇異なる視線にも揺るがず、ザールネルさんを従えて真っ直ぐに歩いてゆく。
ここからの僕は、竜の国の侍従長である。
「お久し振りです、オルエルさん。お変わりありませんか?」
僕の姿を見て、口篭もるオルエルさん。
クーさん手製の竜をあしらった侍従長の制服は、僕のなけなしの威厳を引き上げる……いや、自分で言っていて情けない上に恥ずかしくなってくるのだが、まぁ、そういった相手に与える影響やら何やらは、しっかりと発揮されているようである。
怪訝そうに、僕をじっくりと観察したあと、オルエルさんは口を開く。
「氷焔の噂は耳にしているが、エルネアの剣に戻ってきてくれたーーわけではないか。後ろの彼は、三周期くらい前か、一度だけ会ったことがある。慥か黄金の秤の副団長、だったか。それにその服となると。厄介ごとでも持ってきてくれたのかな?」
険しい目付きである。有能な彼も、今の団の状況では余裕を醸すことが出来ないらしい。
氷焔の噂、と彼は言ったが、ザーツネルさんに向けた眼差しに、特段の変化はなかった。どうやら、ファタさんはちゃんと仕事をしてくれたらしい。
この分では、遺跡の一件にディスニアが係わっていることも知らないのだろう。
「ディスニアを追い出したあとの、エルネアの剣の苦境は組合を通して存じております。運悪く連続して依頼を達成できず、他の団と小さいとはいえ、諍いを起こしてしまった」
オルエルさんの渋面に、苦味が混じる。そして、僕の後ろで身動ぐ気配がした。古傷、いやさ、瘡蓋になった、未だ癒えない傷が痛んだのだろう。
黄金の秤の窮地は、他の団との軋轢から齎された。小さないざこざではなく、大きな騒動を起こしてしまったことを思い出して、居心地が悪いのかもしれない。
新興の団であった黄金の秤は、活動していた地域の古株の団に目を付けられて、敵対関係になる。
先に手を出したのは、相手のほうだった。団長や副団長を始め、周期が若い者が多かった黄金の秤は遣り過ぎてしまった。
実力主義で集められた団員は、若さと義憤に飽かせて、敵対する団を壊滅させてしまう。
その行いにより、組合に所属できなくなった彼らは、自分たちで仕事を得られるよう名声を上げる為、ディスニアの姦計に乗ってしまうことになる。
遺跡での一件のあと、ファタさんに要望したものの一つが、黄金の秤との接触である。そうして、途方に暮れる彼らを、僕が雇うことになる。
正確には竜の国が、ということになるのだが、その頃はまだ狩場やみーのことを明かすことは出来なかった。
「今日は、依頼に来ました。エルネアの剣を持ち直せるくらいの報酬は約束できます」
「君を信頼してはいるが、聞かせてもらいたい。エルネアの剣に何をさせたいんだ?」
オルエルさんの予想以上の警戒に、詳しい説明を省くことにした。
動揺しているのなら、もっと情報を与えて混乱させることで、真意を引き出せるところまでいければいいのだが。
「荷運びや護衛などです。それとは別に、オルエルさんに要請したいことがあります」
無言で聞き入るだけになった六人の男たちの前で、エルネアの剣を訪れた要諦を告げる。
「竜の国の竜官になって頂きたい。ああ、竜官というのは、他の国での大臣に相当する役職です。竜官として、通商や物流を担当してくださることを期待しています」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、竜の国とは何だ? いったい何の話をしているんだ!?」
苛立ちより驚きのほうが勝ったらしい、オルエルさんは身を乗り出して質してくる。それに答えようとしたところで、ザーツネルさんが僕の肩に触れる。
横目で確認すると、彼は後ろを指差していた。舞台が調ったことを知って、小さく頷く。
「すでに噂は耳にしていると思いますが。氷焔は襲撃を受け、『火焔』と『薄氷』が手傷を負いますが、魔法使いが本来の力を発揮して、事態を収めました」
この場に居るすべての者が聞き逃すことのないよう、大きな声で続ける。
「強過ぎる力は、忌避の対象になります。危険視され、排斥され、目の敵にされるかもしれない。そうならない為にはどうすればいいのか。その一つの処方が、為政者に、王となること。個人ではなく、国が相手となる。危険とわかっていても容易には手が出せない。況してその王が危険どころか、優し過ぎる王だとしたならどうでしょう。民が護る王に、民が望む王に、剣も魔法も言葉も、王を傷付ける何物も、届くことはない」
理解が行き届くだけの時間を置いてから、結論を差し出した。
「僕らは『ミースガルタンシェアリ』と盟約を交わし、竜の狩場に国を造りました」
ゆるりと両手を広げて穏やかに言い切ると、オルエルさんを始め、部下たちが息を呑んだ。
そんな彼らの様子に、内心で少し笑ってしまった。僕も、彼らの側にいれば、似たような姿を晒していたのだろう。
ほんの些細な選択の結果で、こうも立ち位置が変化するとは。だが、今は人生の妙を味わっている場合ではない。
「……俄には信じられないが、とりあえず君の依頼は受けよう。あと、申し出はありがたいが、竜官とやらは断らせてもらうーー」
「って、あいやしばらくやらいでかー! 団長さんは、見たっ、聞いたっ、ちょっと待ったーー!?」
「その話、詳しく聞こうかーー?!」
部屋の扉から二人の男が叫びながら駆け込んでくる。また、然かと思えば、他の隠れていた団員たちが雪崩れ込んでくる。
ザーツネルさんが知らせてくれた通り、盗み聞きしていたようだ。然あれど、後から後から入ってくる。これはもしかして、エルネアの剣の全員がいるのではないだろうか。
竜にも角にも、人の流入が止まると、団長らが喚き立てる。
「くおらっ、オルエル! 大臣だぞっ、大臣! 断る奴があるか!」
「俺たちのことなら気にすんな! どうにかなるって、がはははっ!」
「そーゆーわけだっ! うはははっ!」
オルエルさんと共にエルネアの剣を立ち上げた団長と第二隊隊長が捲くし立てる。
「言わせるな。大臣なんぞより、エルネアの剣の、副団長のほうが大事だ」
有無を言わせない、静かだが重みのある言葉に、全員が押し黙るが、
「……あ、あ~、ん? あーう? あーっ! あぁーー!!」
痩身だが、隙のなさそうな強面の団長が奇声を発した。
彼は何かを思い付いたようで、僕の前に遣って来ると、両肩をがっしりと掴んで、大声で詰め寄ってきた。
「竜の国ってのは出来たばっかりなんだよな!? ってことは騎士はいないんだろ!!」
「えっと、今のところ竜騎士団は、団長のエンさんと黄金の秤隊の一隊があるだけですが」
団長の突然の奇行に気後れして、うっかり素で反応してしまった。
「そうかっ、まだ空きがあるんだろ! あるに決まってる! 決まり捲りだ!!」
「……竜騎士と言っても、騎乗する竜がいるわけではありませんし、領地も与えられません。それで良ければ、枠はーーあるかな? 『城街地』から採る予定があるけど」
竜騎士団の団長はエンさんなので、彼に聞いてからでないと確約は出来ないのだが。あと、まだ秘密にしておかなければならない城街地のことを……。
いや、これはもう言っても構わないか。などと僕が悩んでいるのを尻目に、団長の怪気炎は続く。
「ふっふっふっ、よし、決定だ! 団長の俺が決めたっ、今決めた!! てめぇらは、今日から竜騎士だっ、文句がある奴ぁ、叩っ斬ってやるから前に出やがれぶごぁっ!?」
机を飛び越えて肉薄するオルエルさんが、謎炎を上げる団長を問答無用で殴り付ける。
素早く横に移動すると、団長は一瞬前まで僕が居た場所を通り越して、密集していた団員たちに激突。見ると、ザーツネルさんはしっかりと難を逃れていた。
そして団長だが、ぴくりともしなかった。まぁ、彼も冒険者であるし、きっとたぶん、大丈夫だといいな。
「相変わらず、乗りだけで決めようとするんじゃない。リシェ君、馬鹿ん長はこう言っていたが、受け入れる用意は、本当にあるのかね」
嘘や偽りを許さない、責任をその身に背負った者の威圧が放たれる。
「了解しました。身命を賭して、竜騎士に取り立てられるよう、僕が請け負います」
これは覚悟を決めないといけないようだ。お腹に手を当て、軽く頭を下げる。
「そうか。では最後に、証しを示してくれ。竜の狩場に、竜の国があるという証しをーー」
外が俄に騒がしくなって、オルエルさんが言葉を切る。
彼が視線を向けると、釣られて皆の意識が窓の外に、聞こえてくる街の人々の言葉にざわつき始める。しだいに恐慌を来した悲鳴や喚声、罵声が外から届き始めて、室内に響き渡る。
この時機で来てくれるとは、僕は運がいいのかもしれない。いや、もしかして、コウさん、覗き見していたとかありませんよね。
どこかに小さな「遠観」の「窓」があるのではないかと探してしまいそうになるが、今は喫緊の問題からである。
僕は、団員たちの不安や恐怖が堰を切らない内に、ゆっくりと、だが強い声で行動を促した。
「来たようです。皆さん、外に出て、その証しを確認してください」
わずかな沈黙のあと、がやがやと祭りの最後のような囂然たる様でごった返して、扉に近い団員たちから駆け出してゆく。
外からは、一つの単語が、この世界で神と並び称される存在が、幾度も繰り返し叫ばれているが、実際に自分の目で見ないと信じられないのだろう。
わかっていても、頭が、心が受け付けず、想像力が追い付かない。現実のものとして認めながらも、永い断裂と幻想に取り巻かれた根深い部分が否定しようとする。
「では、僕たちも行きましょうか」
大方の団員たちが姿を消したので、オルエルさんに声を掛ける。
ほったらかしにされていた団長がちょうど意識を取り戻したので、ザーツネルさんを含めた四人で部屋を出る。
「あいたた……、だ~れも介抱してくれないとか、団長さん、いじけちゃうぞー。治癒魔法使えるからって、手加減しないのは、おーぼーだー」
歩きながら治癒魔法を使っているらしい団長が愚痴っていた。
外の喧騒はいや増しているが、彼に慌てた様子は見られない。奇矯な振る舞いが目に付いたが、そこはさすがに肝が据わっているというか、団を率いるだけの器があるということだろう。
「やっぱり、衰えているか。骨を砕けないとは、冒険者復帰は絶望的だな」
自然と先頭を歩くことになった僕の後ろから、オルエルさんの落胆した声が聞こえてくる。
彼が絶望的なら、僕は破滅的だろうか。侍従長を首になったら冒険者に復帰できるだろうかと考えて、暗澹たる気持ちになった。然あらば今は侍従長に邁進しよう。
「ーーくぅっ」
「「「っ!」」」
エルネアの剣の建物から出ると、熱を孕んだ塵風が吹き抜けた。
半瞬だけ揺れた炎と影に追い付かせようとするが、空へと放った視線は遥かに届かない。
体の芯を穿つような風の嘶きが、憧憬と畏怖に溺れる人々の只中に紛れて遠ざかってゆく。
転びそうになった年嵩の女性が、軟風に抱き留められたかのように、ふわりと地面に降ろされる。
どうやら、コウさんが言っていた、魔法による配慮、が機能しているようだ。
「竜だ! あっちにいるぞ!!」
「ねぇ! あれって、炎竜じゃないの!?」
「ミースガルタンシェアリか!? でかいぞ!!」
「今どこにいるんだ!? まだちゃんと見てないのにっ!」
当然といえば当然だけど、凄い騒ぎである。
こういうとき、危機感よりも好奇心のほうが勝つのか、多くの者が屋根に上って望んでいる。いや、人々は見失っているのだ、天秤に載せるべきものの重さを。
天秤の片方に幻想を載せたとして、誰が正しく量れよう。
みーを追い掛ける、屋根の上の彼らの、見開いたまま釘付けになる視線から、街をゆったりと周回していることが窺える。
僕は居回りを確認してから、団員に声を掛ける。
「皆さん、僕の前方を空けてください。ーー来ますよ」
人々の感情を焼き尽くし、焦がし、撒き散らして迫ってくる。
団員たちが泡を食って、僕の後ろに下がる。
ーー冷静であろうと心掛けていたが、どうやら無駄な足掻きのようだ。先程から煩い心臓の鼓動が、みーの登場を待ち侘びて、今にも壊れてしまいそうだ。
「「「「「ーーーー」」」」」
一瞬の空白が、人々の言葉を奪い去った存在の到来を知らせてくれる。
口から這い出た空気が熱い。炎熱で逆上せたのか、勝手に言葉を浮かび上がらせる。
ーー理解できないものは存在しないも同じ。
昔に聞いた言葉だが、頭の奥が痺れて誰の箴言だったか思い出せない。竜が居る、そこに在るのに、認識できない、いや、認識はしているのか、理解が追い付かないのか、心が追い付かないのか、圧倒的な、比ぶべくもない存在に、奪われてしまう。
意識も感覚も抜け落ちて、ただただ見詰めてしまう。
有り得ない大きさの生物が空に現れて、空を隠した影に埋もれる僕たちは、百の炎風を散々に掻き混ぜつつ顕現した炎竜を、見上げているだけだった。
気付けば、いや、目覚めれば、のほうが正しいだろうか、みーは目の前に降り立っていた。
「「「「「…………」」」」」
誰も声を発しない。
いや、遠くの、みーを見ることが出来ない人々のざわめきは届いているが、それは現実感を削いでいくだけで、静寂よりも静かな圧迫感に苛まれる。
竜の睥睨に、永いようで短い、幻想と現の名残が絡まりあって。遥かな高みで仰いだ炎竜が、空の彼方まで奏でるように名乗りを上げる。
「われは『みーすがるたんしぇあり』である」
重厚だが、甘い痛みを伴うような響きが、頭の天辺から足の爪先まで揺り動かす。
魂を奪われる、そんな瞬間があるとするなら、今がそうではないのか。
今更ながら、呼吸を止めていたことに気付いて、ゆっくりと空気を吸い込む。鈍っていた頭を覚醒させる。
みーのことを知っている僕には、その声質が意外に子供っぽいものだと感受することが出来たが、竜の威容に晒されている人々には、そのような余裕はない。
殆どの者が、ただ立ち尽くすのみである。
伝説の竜である、もはや幻想の存在と言ってもいい、希代の炎竜が現れたのだ。彼らの様は、しごく当然の反応だろう。
見上げた先に、みーの頭の上に乗っているエンさんの姿があった。「人化」のときと同じく、反り返った二本の角の片方に寄り掛かっているようだ。
コウさんの三角帽子の先っぽが少しだけ覗いたが、クーさんの姿はない。
大きくなったみー、と気軽に話していたが、先達ての僕を殴り付けてやりたい気分だ。
種の違いをまざまざと見せ付ける体躯に、言葉を失ってしまう。あまりの途方のなさに、みーの面影を見出すのは困難を極める。
然てしもみーが竜になっている姿を見るのは初めてだった。というか、どうもみーは、僕の前で竜に戻るのを嫌がっていた節がある。クーさんから聞いたところによると、通常のみーは、人一人乗るのがやっとの大きさの仔竜らしいが。
右手で胸を押さえて、鼓動を落ち着かせようと試みる。
猛々しい炎色の双眸に、みーのやんちゃな感じが少し浮かんでいるだろうか。
みーの心象をわずかでも感じて、強張っていた体が、筋肉が弛緩したのがわかる。不思議なことに、それは安堵というより納得といったもので。良くわからない衝動に胸を、魂を掻き毟りたくなった。
今は畳まれている蝙蝠のような翼、体を覆う燃えるような紅い鱗、前に戦った巨鬼の鉤爪が玩具としか思えなくなるような長大な爪。蛇や蜥蜴に似ていると言われるが、実際に目にすればわかる、これは明らかに別種の生き物である。
巨大で強大で極大で、天と地を統べる優美な……いや、止めよう、竜の威風を語るにはあまりに言葉が足りない。
どれほど連ねようと、陳腐なものに成り下がるだけ。
雄々しく圧倒的な存在感が、そこに居るだけで厳かな心地を抱かせる。
「オルエルさん。証しとして不足していますか?」
「……い、いや、あるはずがない……」
みーから視線を逸らすことなく、オルエルさんは呻くように言葉を搾り出す。
「……あ」
失敗した。これは僕の見当違い。
みーが降り立ったエルネアの剣の本拠地に面する空き地は、竜が寛げるほどには広くないので、窮屈そうに頭を降ろしてきた。
「あっ……」
いや、口癖じゃないんだから二度も、って、そんな場合ではなく。
みーの尻尾が近くの家を直撃しそうになって声が漏れたが、続く言葉を、みーの尻尾の成り行きに意識を集中することで我慢する。
もし声を上げたりなんかしたら、対策を施してあると言ったコウさんを信用していないことの証左になってしまう。
それだけは絶対に避けなければ。
ーーふぅ、竜にも角にも、竜心を心掛けよう。みーの威容に、まだ心が吃驚しているのだろうか、頭の中が冗漫になっている気がする。
コウさんの魔法はいみじくも行使されて、ほんの少しだけ(?)心配した僕の不安など炎竜に焼かれて消し炭に、触れたら火傷しそうな赫赫たる、それでいて艶かしいみーの尻尾が、不自然な方向に曲がって、ぺたりっ、とゆっくり地面に落ちる。
尻尾の位置が気に入らないのか、陸に上がった魚が跳ねるように何度か躍動して、満足したようだ、尻尾が大人しくなる。
あれ? この表現は何か違うような……。いや、今は目の前にある、僕よりも大きな、みーの頭部とご対面。って、いやいや、ほんと、何なんだろう、この僕の内側の妙などよめきは。
「よー、おっちゃん、久し振りだなぁ」
「……あ、ああ」
みーの頭の上に乗っているエンさんが暢気に挨拶をするが、オルエルさんはまともに対応できないようだ。それも無理はない。僕も同じ気分を味わっている。
「ほーれ、行くぞー、こぞー。さっさと乗りやがれー」
「……はい」
みーの口先から登っていくのだが、こうも間近に居られると、ぱくりと食べられそうな予感がしてしまう。
目といい牙といい、何もかもが巨大で、自らの矮小さに尻込みしそうになる。
う~む、どこに足を掛けて登ればいいのか。迷っていると、早くしろ、とばかりにみーにじろりと炎眼で見られたので、然もあれ、意を決して頭の上まで駆け上がった。
「それではザーツネルさん、あとの手筈は、よろしくお願いします」
「……っ、ああ、わかった、あ、いえ、……その命、承りました。侍従長様」
ザーツネルさんは、畏まって頭を下げる。いや、みーを前に動揺しているのはわかるが、侍従長に「様」を付けるのはどうなのだろう。そこまで遜られると、こちらのほうが困ってしまう。
コウさんが合図をすると、みーの頭が一気に持ち上がってゆく。
体が重くなったかと思うと、ふわっとした浮遊感。
慌ててみーの一抱えもある角に掴まる。自分の意思とは無関係に体ごと移動させられるのは、慣れていない所為なのか、感覚に齟齬が生じる。
遺跡でコウさんに掴まって振り回されたが、あのときは必死で「飛翔」を味わっている余裕なんてなかった。
角に沿うように移動して、喧騒が戻ってきた街を見下ろす。それから、ゆっくりと視線を動かして、空を見上げる。
何故だろう、実際の距離以上に、空が近くなったような気がする。
「こぞー、落っこちたくなけりゃあ、角んがっちり掴まってたほーがいいぞー」
僕とは反対の角に寄り掛かっている、緊張感の欠片もないエンさんの警告で悟らされる。
命の危機が迫っていることを。僕と彼らでは、状況に対する危険の度合いが異なる。エンさんたちにとっての注意は、僕にとって命に直結する重大事なのである。
「ーーっ!」
みーが前屈みになった、その刹那、角にしがみ付いた僕の上に空が落ちてきた。いや、そう感じただけで、僕のほうが空に近付いたのだ。
途轍もない速度でみーが舞い上がって、全力で踏ん張っていないと、みーの頭に叩き付けられそうになる。
重圧が消えて、恐々と目を開けると、そこは見渡す限り空の世界だった。
上昇が止まったあと、みーの翼が広がって、尽きることなき雲の波間に飛び立ってゆく。
「地上で羽ばたくと、迷惑になってしまうのです。なので、問題のない高さまで移動できるように工夫したのです。みーちゃんの特訓の成果なのです」
「えっへんっ!」
みーは得意げに胸を反らして、子供っぽい口調で、体の奥まで響く深みのある声を発する。
僕は、慌てて角に掴まり直す。みーにとっては、少し体を動かしただけなのかもしれないが、僕にとっては大地が揺動するような発災である。
然ても、コウさん、魔法やら魔力やらが係わると、大胆になるというか、遠慮がなくなるというか。それは正しい気の使い方だと思うのだけど、やっていることが大掛かり過ぎて、本当に正しいのかわからなくなってくる。
とりあえずわかったのは、地上にいた人たちは仰天しただろうな、ということだけ。
振り返ると、豆粒以下の大きさになった人々。ちょこちょこと動き回っている彼らに、都合のいいお願いをする。
ーー街の皆さま、お騒がせして申し訳ございません。就きましては竜の拝観料として、僕らの為に南の国々へ存分に「ミースガルタンシェアリ」の降臨を流布してくださいませ。
さて、もう後戻りは出来ないし、するつもりはない。
竜はここに居る。詳らかにせよ、竜が何たるかを想起せよ、世界に遍く打ち鳴らせ、幻想と神秘に裏打ちされた紛う方なき万象を司りし悠久の覇者……ん?
ここは覇者ではなく覇竜のほうがいいだろうか。と内面で盛り上がっていたところに、みーの頭にどっかりと座り込んだエンさんが、地竜が住まう大地のように落ち着いた声で尋ねてくる。
「んで、どっから行くんだ? こっからなら、どっちでも行けそーだが」
「そうですね。問題が少なそうな、三寒国から行きましょう。何かしら問題や懸念、軋轢が生じるなら、それを同盟国との挨拶回りに活かすということで」
僕は、狩場の位置から故郷のある場所を把握して、ヴァレイスナ連峰を眺め遣った。
茹だっていた頭を、楽しげに戯れる氷竜と風竜の心象で、穏やかに冷ましてゆく。みーに乗って空を飛んでいるので気が大きくなっているのだろうか、想像力まで空の彼方に羽ばたいていってしまう勢いだ。
「それじゃあ、みーちゃん、あっちなのです!」
コウさんは、びしっと空の果てを指し示すが、曖昧な物言いに何ともしまらない空気が漂う。
でも、これが僕たちらしいかな、としっくりくるような気もしてしまう。
「ばやぁーう!!」
コウさんに応えて、みーがごきげんな咆哮を轟かせた。
まだここを出てから然程時間が経っていないというのに、ずいぶん昔のように感じてしまう。それだけ濃密な時間だったということだろう。感慨に耽っていると、待ち合わせの相手が遣って来た。
「あれ? ザーツネルさん。団長はどうしたんですか?」
「団長は、リシェ殿が怖いらしくてな、代わりに俺が来た。俺にとって、リシェ殿は命の恩人だからな」
二十半ばの好青年は、屈託のない笑顔を浮かべている。気さくに話し掛けてくれるのは嬉しいのだが、周期が上の、それも大人から「殿」などと付けられるとこそばゆくなってしまう。
命の恩人、というのは、遺跡で溺れそうになったところを裏返して助けたときのことを言っているのだろう。
あれから彼らは、コウさんの魔法で丸一日動くことが出来なかったらしい。
僕への感謝と裏腹に、彼らが必要以上に魔法使いを、王様を怖がるようなことがなければいいのだけど。
「殿、は恥ずかしいので勘弁してください。リシェ、と呼び捨てでいいですよ」
「そういうことなら、リシェ様、と呼んでもいいぞ。これから色んな呼び方をされるだろうから、今の内から慣れておくことだな、リシェ様? 服は……似合ってるぞ、リシェ様?」
冗談めかして、子供っぽく笑う。
初めて会った時は、副団長としての厳しさや、諦観や苦悩といった苦いものが目に付いたが、今は毒が抜けたようにさっぱりとしている。
僕は、竜の国が完成するまで秘密にしておいたことや、施設や役職など必要なことを伝える。「ミースガルタンシェアリ」など、重要機密はまだ言えないのだけど。あと、服のことはちゃんと自覚があるので、おべんちゃらを言わなくても大丈夫です。
「これまでありがとうございます。竜の国が完成したので、僕たちが挨拶回りに出発したあと、竜の狩場に向かってください。以前お話しした通り、竜騎士団の隊の一つとして着任をお願いします。ーーとはいえ、騎士と言っても、仕事は案内や護衛、巡回や警備になりますけど」
「ははっ。人生、わからんものだな。こんなこと、夢にも思っていなかった。竜の国か、楽しみだな。先ずは、竜の都の案内が出来るように地理に明るくなればいいんだろう?」
「目隠ししても歩けるように、なんてことは言いませんが、竜の国を護る剣として、振り下ろす先を過たないくらいには、お願いします。コウさんーー、フィア様の力は絶大ですが、すべてに行き渡るわけではありません。また、それをさせない為の竜の国であり、竜の民です」
「竜の国であり、竜の民、ーーそして竜の国の侍従長であるのかな? リシェ殿は、ずいぶんフィア様にぞっこんなようだ」
「いい意味ではそうですね。深入りしたことを後悔したことはありません。と格好良いことが言えたらいいんですけど。あとは、みー様ともうちょっと仲良くなれたらいいな、と切実に思っています」
建物の前で会話を交わしていたが、誰の出入りもなかった。見回すと、商店はもう店を開けている。
空に雲は多いが、見上げることを考慮したなら、良好な天気、と言っていいだろう。
誰か居たら取り次いでもらおうかと思っていたのだが、仕方がない。
「それでは、行きましょうか」
ザーツネルさんを伴って建物の中に入るが、受付と通路、近くの部屋にも、視認できる範囲には誰も居なかった。団員の姿がないということは、依頼か何かで大半は出払っているのだろうか。
事務室に行くと、目的の、交渉の相手であるオルエルさんがいた。
今日は、すべての席が埋まっている。忙しそうに、五人の男たちがせっせと手を動かしていた。
僕が部屋に入っても気付かれなかったが、ザーツネルさんが入ると皆が手を止めた。これは、僕の特性というだけでなく、元々の存在感の違いなのだろうか。竜の国仕様の、服の効果さえ打ち消しているとするならーー。
ん~、若しや僕の特性が強化されているなんてことが……、いやいや、考察は後である。竜の国完成後の、初仕事からしくじるわけにはいかない。
奇異なる視線にも揺るがず、ザールネルさんを従えて真っ直ぐに歩いてゆく。
ここからの僕は、竜の国の侍従長である。
「お久し振りです、オルエルさん。お変わりありませんか?」
僕の姿を見て、口篭もるオルエルさん。
クーさん手製の竜をあしらった侍従長の制服は、僕のなけなしの威厳を引き上げる……いや、自分で言っていて情けない上に恥ずかしくなってくるのだが、まぁ、そういった相手に与える影響やら何やらは、しっかりと発揮されているようである。
怪訝そうに、僕をじっくりと観察したあと、オルエルさんは口を開く。
「氷焔の噂は耳にしているが、エルネアの剣に戻ってきてくれたーーわけではないか。後ろの彼は、三周期くらい前か、一度だけ会ったことがある。慥か黄金の秤の副団長、だったか。それにその服となると。厄介ごとでも持ってきてくれたのかな?」
険しい目付きである。有能な彼も、今の団の状況では余裕を醸すことが出来ないらしい。
氷焔の噂、と彼は言ったが、ザーツネルさんに向けた眼差しに、特段の変化はなかった。どうやら、ファタさんはちゃんと仕事をしてくれたらしい。
この分では、遺跡の一件にディスニアが係わっていることも知らないのだろう。
「ディスニアを追い出したあとの、エルネアの剣の苦境は組合を通して存じております。運悪く連続して依頼を達成できず、他の団と小さいとはいえ、諍いを起こしてしまった」
オルエルさんの渋面に、苦味が混じる。そして、僕の後ろで身動ぐ気配がした。古傷、いやさ、瘡蓋になった、未だ癒えない傷が痛んだのだろう。
黄金の秤の窮地は、他の団との軋轢から齎された。小さないざこざではなく、大きな騒動を起こしてしまったことを思い出して、居心地が悪いのかもしれない。
新興の団であった黄金の秤は、活動していた地域の古株の団に目を付けられて、敵対関係になる。
先に手を出したのは、相手のほうだった。団長や副団長を始め、周期が若い者が多かった黄金の秤は遣り過ぎてしまった。
実力主義で集められた団員は、若さと義憤に飽かせて、敵対する団を壊滅させてしまう。
その行いにより、組合に所属できなくなった彼らは、自分たちで仕事を得られるよう名声を上げる為、ディスニアの姦計に乗ってしまうことになる。
遺跡での一件のあと、ファタさんに要望したものの一つが、黄金の秤との接触である。そうして、途方に暮れる彼らを、僕が雇うことになる。
正確には竜の国が、ということになるのだが、その頃はまだ狩場やみーのことを明かすことは出来なかった。
「今日は、依頼に来ました。エルネアの剣を持ち直せるくらいの報酬は約束できます」
「君を信頼してはいるが、聞かせてもらいたい。エルネアの剣に何をさせたいんだ?」
オルエルさんの予想以上の警戒に、詳しい説明を省くことにした。
動揺しているのなら、もっと情報を与えて混乱させることで、真意を引き出せるところまでいければいいのだが。
「荷運びや護衛などです。それとは別に、オルエルさんに要請したいことがあります」
無言で聞き入るだけになった六人の男たちの前で、エルネアの剣を訪れた要諦を告げる。
「竜の国の竜官になって頂きたい。ああ、竜官というのは、他の国での大臣に相当する役職です。竜官として、通商や物流を担当してくださることを期待しています」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、竜の国とは何だ? いったい何の話をしているんだ!?」
苛立ちより驚きのほうが勝ったらしい、オルエルさんは身を乗り出して質してくる。それに答えようとしたところで、ザーツネルさんが僕の肩に触れる。
横目で確認すると、彼は後ろを指差していた。舞台が調ったことを知って、小さく頷く。
「すでに噂は耳にしていると思いますが。氷焔は襲撃を受け、『火焔』と『薄氷』が手傷を負いますが、魔法使いが本来の力を発揮して、事態を収めました」
この場に居るすべての者が聞き逃すことのないよう、大きな声で続ける。
「強過ぎる力は、忌避の対象になります。危険視され、排斥され、目の敵にされるかもしれない。そうならない為にはどうすればいいのか。その一つの処方が、為政者に、王となること。個人ではなく、国が相手となる。危険とわかっていても容易には手が出せない。況してその王が危険どころか、優し過ぎる王だとしたならどうでしょう。民が護る王に、民が望む王に、剣も魔法も言葉も、王を傷付ける何物も、届くことはない」
理解が行き届くだけの時間を置いてから、結論を差し出した。
「僕らは『ミースガルタンシェアリ』と盟約を交わし、竜の狩場に国を造りました」
ゆるりと両手を広げて穏やかに言い切ると、オルエルさんを始め、部下たちが息を呑んだ。
そんな彼らの様子に、内心で少し笑ってしまった。僕も、彼らの側にいれば、似たような姿を晒していたのだろう。
ほんの些細な選択の結果で、こうも立ち位置が変化するとは。だが、今は人生の妙を味わっている場合ではない。
「……俄には信じられないが、とりあえず君の依頼は受けよう。あと、申し出はありがたいが、竜官とやらは断らせてもらうーー」
「って、あいやしばらくやらいでかー! 団長さんは、見たっ、聞いたっ、ちょっと待ったーー!?」
「その話、詳しく聞こうかーー?!」
部屋の扉から二人の男が叫びながら駆け込んでくる。また、然かと思えば、他の隠れていた団員たちが雪崩れ込んでくる。
ザーツネルさんが知らせてくれた通り、盗み聞きしていたようだ。然あれど、後から後から入ってくる。これはもしかして、エルネアの剣の全員がいるのではないだろうか。
竜にも角にも、人の流入が止まると、団長らが喚き立てる。
「くおらっ、オルエル! 大臣だぞっ、大臣! 断る奴があるか!」
「俺たちのことなら気にすんな! どうにかなるって、がはははっ!」
「そーゆーわけだっ! うはははっ!」
オルエルさんと共にエルネアの剣を立ち上げた団長と第二隊隊長が捲くし立てる。
「言わせるな。大臣なんぞより、エルネアの剣の、副団長のほうが大事だ」
有無を言わせない、静かだが重みのある言葉に、全員が押し黙るが、
「……あ、あ~、ん? あーう? あーっ! あぁーー!!」
痩身だが、隙のなさそうな強面の団長が奇声を発した。
彼は何かを思い付いたようで、僕の前に遣って来ると、両肩をがっしりと掴んで、大声で詰め寄ってきた。
「竜の国ってのは出来たばっかりなんだよな!? ってことは騎士はいないんだろ!!」
「えっと、今のところ竜騎士団は、団長のエンさんと黄金の秤隊の一隊があるだけですが」
団長の突然の奇行に気後れして、うっかり素で反応してしまった。
「そうかっ、まだ空きがあるんだろ! あるに決まってる! 決まり捲りだ!!」
「……竜騎士と言っても、騎乗する竜がいるわけではありませんし、領地も与えられません。それで良ければ、枠はーーあるかな? 『城街地』から採る予定があるけど」
竜騎士団の団長はエンさんなので、彼に聞いてからでないと確約は出来ないのだが。あと、まだ秘密にしておかなければならない城街地のことを……。
いや、これはもう言っても構わないか。などと僕が悩んでいるのを尻目に、団長の怪気炎は続く。
「ふっふっふっ、よし、決定だ! 団長の俺が決めたっ、今決めた!! てめぇらは、今日から竜騎士だっ、文句がある奴ぁ、叩っ斬ってやるから前に出やがれぶごぁっ!?」
机を飛び越えて肉薄するオルエルさんが、謎炎を上げる団長を問答無用で殴り付ける。
素早く横に移動すると、団長は一瞬前まで僕が居た場所を通り越して、密集していた団員たちに激突。見ると、ザーツネルさんはしっかりと難を逃れていた。
そして団長だが、ぴくりともしなかった。まぁ、彼も冒険者であるし、きっとたぶん、大丈夫だといいな。
「相変わらず、乗りだけで決めようとするんじゃない。リシェ君、馬鹿ん長はこう言っていたが、受け入れる用意は、本当にあるのかね」
嘘や偽りを許さない、責任をその身に背負った者の威圧が放たれる。
「了解しました。身命を賭して、竜騎士に取り立てられるよう、僕が請け負います」
これは覚悟を決めないといけないようだ。お腹に手を当て、軽く頭を下げる。
「そうか。では最後に、証しを示してくれ。竜の狩場に、竜の国があるという証しをーー」
外が俄に騒がしくなって、オルエルさんが言葉を切る。
彼が視線を向けると、釣られて皆の意識が窓の外に、聞こえてくる街の人々の言葉にざわつき始める。しだいに恐慌を来した悲鳴や喚声、罵声が外から届き始めて、室内に響き渡る。
この時機で来てくれるとは、僕は運がいいのかもしれない。いや、もしかして、コウさん、覗き見していたとかありませんよね。
どこかに小さな「遠観」の「窓」があるのではないかと探してしまいそうになるが、今は喫緊の問題からである。
僕は、団員たちの不安や恐怖が堰を切らない内に、ゆっくりと、だが強い声で行動を促した。
「来たようです。皆さん、外に出て、その証しを確認してください」
わずかな沈黙のあと、がやがやと祭りの最後のような囂然たる様でごった返して、扉に近い団員たちから駆け出してゆく。
外からは、一つの単語が、この世界で神と並び称される存在が、幾度も繰り返し叫ばれているが、実際に自分の目で見ないと信じられないのだろう。
わかっていても、頭が、心が受け付けず、想像力が追い付かない。現実のものとして認めながらも、永い断裂と幻想に取り巻かれた根深い部分が否定しようとする。
「では、僕たちも行きましょうか」
大方の団員たちが姿を消したので、オルエルさんに声を掛ける。
ほったらかしにされていた団長がちょうど意識を取り戻したので、ザーツネルさんを含めた四人で部屋を出る。
「あいたた……、だ~れも介抱してくれないとか、団長さん、いじけちゃうぞー。治癒魔法使えるからって、手加減しないのは、おーぼーだー」
歩きながら治癒魔法を使っているらしい団長が愚痴っていた。
外の喧騒はいや増しているが、彼に慌てた様子は見られない。奇矯な振る舞いが目に付いたが、そこはさすがに肝が据わっているというか、団を率いるだけの器があるということだろう。
「やっぱり、衰えているか。骨を砕けないとは、冒険者復帰は絶望的だな」
自然と先頭を歩くことになった僕の後ろから、オルエルさんの落胆した声が聞こえてくる。
彼が絶望的なら、僕は破滅的だろうか。侍従長を首になったら冒険者に復帰できるだろうかと考えて、暗澹たる気持ちになった。然あらば今は侍従長に邁進しよう。
「ーーくぅっ」
「「「っ!」」」
エルネアの剣の建物から出ると、熱を孕んだ塵風が吹き抜けた。
半瞬だけ揺れた炎と影に追い付かせようとするが、空へと放った視線は遥かに届かない。
体の芯を穿つような風の嘶きが、憧憬と畏怖に溺れる人々の只中に紛れて遠ざかってゆく。
転びそうになった年嵩の女性が、軟風に抱き留められたかのように、ふわりと地面に降ろされる。
どうやら、コウさんが言っていた、魔法による配慮、が機能しているようだ。
「竜だ! あっちにいるぞ!!」
「ねぇ! あれって、炎竜じゃないの!?」
「ミースガルタンシェアリか!? でかいぞ!!」
「今どこにいるんだ!? まだちゃんと見てないのにっ!」
当然といえば当然だけど、凄い騒ぎである。
こういうとき、危機感よりも好奇心のほうが勝つのか、多くの者が屋根に上って望んでいる。いや、人々は見失っているのだ、天秤に載せるべきものの重さを。
天秤の片方に幻想を載せたとして、誰が正しく量れよう。
みーを追い掛ける、屋根の上の彼らの、見開いたまま釘付けになる視線から、街をゆったりと周回していることが窺える。
僕は居回りを確認してから、団員に声を掛ける。
「皆さん、僕の前方を空けてください。ーー来ますよ」
人々の感情を焼き尽くし、焦がし、撒き散らして迫ってくる。
団員たちが泡を食って、僕の後ろに下がる。
ーー冷静であろうと心掛けていたが、どうやら無駄な足掻きのようだ。先程から煩い心臓の鼓動が、みーの登場を待ち侘びて、今にも壊れてしまいそうだ。
「「「「「ーーーー」」」」」
一瞬の空白が、人々の言葉を奪い去った存在の到来を知らせてくれる。
口から這い出た空気が熱い。炎熱で逆上せたのか、勝手に言葉を浮かび上がらせる。
ーー理解できないものは存在しないも同じ。
昔に聞いた言葉だが、頭の奥が痺れて誰の箴言だったか思い出せない。竜が居る、そこに在るのに、認識できない、いや、認識はしているのか、理解が追い付かないのか、心が追い付かないのか、圧倒的な、比ぶべくもない存在に、奪われてしまう。
意識も感覚も抜け落ちて、ただただ見詰めてしまう。
有り得ない大きさの生物が空に現れて、空を隠した影に埋もれる僕たちは、百の炎風を散々に掻き混ぜつつ顕現した炎竜を、見上げているだけだった。
気付けば、いや、目覚めれば、のほうが正しいだろうか、みーは目の前に降り立っていた。
「「「「「…………」」」」」
誰も声を発しない。
いや、遠くの、みーを見ることが出来ない人々のざわめきは届いているが、それは現実感を削いでいくだけで、静寂よりも静かな圧迫感に苛まれる。
竜の睥睨に、永いようで短い、幻想と現の名残が絡まりあって。遥かな高みで仰いだ炎竜が、空の彼方まで奏でるように名乗りを上げる。
「われは『みーすがるたんしぇあり』である」
重厚だが、甘い痛みを伴うような響きが、頭の天辺から足の爪先まで揺り動かす。
魂を奪われる、そんな瞬間があるとするなら、今がそうではないのか。
今更ながら、呼吸を止めていたことに気付いて、ゆっくりと空気を吸い込む。鈍っていた頭を覚醒させる。
みーのことを知っている僕には、その声質が意外に子供っぽいものだと感受することが出来たが、竜の威容に晒されている人々には、そのような余裕はない。
殆どの者が、ただ立ち尽くすのみである。
伝説の竜である、もはや幻想の存在と言ってもいい、希代の炎竜が現れたのだ。彼らの様は、しごく当然の反応だろう。
見上げた先に、みーの頭の上に乗っているエンさんの姿があった。「人化」のときと同じく、反り返った二本の角の片方に寄り掛かっているようだ。
コウさんの三角帽子の先っぽが少しだけ覗いたが、クーさんの姿はない。
大きくなったみー、と気軽に話していたが、先達ての僕を殴り付けてやりたい気分だ。
種の違いをまざまざと見せ付ける体躯に、言葉を失ってしまう。あまりの途方のなさに、みーの面影を見出すのは困難を極める。
然てしもみーが竜になっている姿を見るのは初めてだった。というか、どうもみーは、僕の前で竜に戻るのを嫌がっていた節がある。クーさんから聞いたところによると、通常のみーは、人一人乗るのがやっとの大きさの仔竜らしいが。
右手で胸を押さえて、鼓動を落ち着かせようと試みる。
猛々しい炎色の双眸に、みーのやんちゃな感じが少し浮かんでいるだろうか。
みーの心象をわずかでも感じて、強張っていた体が、筋肉が弛緩したのがわかる。不思議なことに、それは安堵というより納得といったもので。良くわからない衝動に胸を、魂を掻き毟りたくなった。
今は畳まれている蝙蝠のような翼、体を覆う燃えるような紅い鱗、前に戦った巨鬼の鉤爪が玩具としか思えなくなるような長大な爪。蛇や蜥蜴に似ていると言われるが、実際に目にすればわかる、これは明らかに別種の生き物である。
巨大で強大で極大で、天と地を統べる優美な……いや、止めよう、竜の威風を語るにはあまりに言葉が足りない。
どれほど連ねようと、陳腐なものに成り下がるだけ。
雄々しく圧倒的な存在感が、そこに居るだけで厳かな心地を抱かせる。
「オルエルさん。証しとして不足していますか?」
「……い、いや、あるはずがない……」
みーから視線を逸らすことなく、オルエルさんは呻くように言葉を搾り出す。
「……あ」
失敗した。これは僕の見当違い。
みーが降り立ったエルネアの剣の本拠地に面する空き地は、竜が寛げるほどには広くないので、窮屈そうに頭を降ろしてきた。
「あっ……」
いや、口癖じゃないんだから二度も、って、そんな場合ではなく。
みーの尻尾が近くの家を直撃しそうになって声が漏れたが、続く言葉を、みーの尻尾の成り行きに意識を集中することで我慢する。
もし声を上げたりなんかしたら、対策を施してあると言ったコウさんを信用していないことの証左になってしまう。
それだけは絶対に避けなければ。
ーーふぅ、竜にも角にも、竜心を心掛けよう。みーの威容に、まだ心が吃驚しているのだろうか、頭の中が冗漫になっている気がする。
コウさんの魔法はいみじくも行使されて、ほんの少しだけ(?)心配した僕の不安など炎竜に焼かれて消し炭に、触れたら火傷しそうな赫赫たる、それでいて艶かしいみーの尻尾が、不自然な方向に曲がって、ぺたりっ、とゆっくり地面に落ちる。
尻尾の位置が気に入らないのか、陸に上がった魚が跳ねるように何度か躍動して、満足したようだ、尻尾が大人しくなる。
あれ? この表現は何か違うような……。いや、今は目の前にある、僕よりも大きな、みーの頭部とご対面。って、いやいや、ほんと、何なんだろう、この僕の内側の妙などよめきは。
「よー、おっちゃん、久し振りだなぁ」
「……あ、ああ」
みーの頭の上に乗っているエンさんが暢気に挨拶をするが、オルエルさんはまともに対応できないようだ。それも無理はない。僕も同じ気分を味わっている。
「ほーれ、行くぞー、こぞー。さっさと乗りやがれー」
「……はい」
みーの口先から登っていくのだが、こうも間近に居られると、ぱくりと食べられそうな予感がしてしまう。
目といい牙といい、何もかもが巨大で、自らの矮小さに尻込みしそうになる。
う~む、どこに足を掛けて登ればいいのか。迷っていると、早くしろ、とばかりにみーにじろりと炎眼で見られたので、然もあれ、意を決して頭の上まで駆け上がった。
「それではザーツネルさん、あとの手筈は、よろしくお願いします」
「……っ、ああ、わかった、あ、いえ、……その命、承りました。侍従長様」
ザーツネルさんは、畏まって頭を下げる。いや、みーを前に動揺しているのはわかるが、侍従長に「様」を付けるのはどうなのだろう。そこまで遜られると、こちらのほうが困ってしまう。
コウさんが合図をすると、みーの頭が一気に持ち上がってゆく。
体が重くなったかと思うと、ふわっとした浮遊感。
慌ててみーの一抱えもある角に掴まる。自分の意思とは無関係に体ごと移動させられるのは、慣れていない所為なのか、感覚に齟齬が生じる。
遺跡でコウさんに掴まって振り回されたが、あのときは必死で「飛翔」を味わっている余裕なんてなかった。
角に沿うように移動して、喧騒が戻ってきた街を見下ろす。それから、ゆっくりと視線を動かして、空を見上げる。
何故だろう、実際の距離以上に、空が近くなったような気がする。
「こぞー、落っこちたくなけりゃあ、角んがっちり掴まってたほーがいいぞー」
僕とは反対の角に寄り掛かっている、緊張感の欠片もないエンさんの警告で悟らされる。
命の危機が迫っていることを。僕と彼らでは、状況に対する危険の度合いが異なる。エンさんたちにとっての注意は、僕にとって命に直結する重大事なのである。
「ーーっ!」
みーが前屈みになった、その刹那、角にしがみ付いた僕の上に空が落ちてきた。いや、そう感じただけで、僕のほうが空に近付いたのだ。
途轍もない速度でみーが舞い上がって、全力で踏ん張っていないと、みーの頭に叩き付けられそうになる。
重圧が消えて、恐々と目を開けると、そこは見渡す限り空の世界だった。
上昇が止まったあと、みーの翼が広がって、尽きることなき雲の波間に飛び立ってゆく。
「地上で羽ばたくと、迷惑になってしまうのです。なので、問題のない高さまで移動できるように工夫したのです。みーちゃんの特訓の成果なのです」
「えっへんっ!」
みーは得意げに胸を反らして、子供っぽい口調で、体の奥まで響く深みのある声を発する。
僕は、慌てて角に掴まり直す。みーにとっては、少し体を動かしただけなのかもしれないが、僕にとっては大地が揺動するような発災である。
然ても、コウさん、魔法やら魔力やらが係わると、大胆になるというか、遠慮がなくなるというか。それは正しい気の使い方だと思うのだけど、やっていることが大掛かり過ぎて、本当に正しいのかわからなくなってくる。
とりあえずわかったのは、地上にいた人たちは仰天しただろうな、ということだけ。
振り返ると、豆粒以下の大きさになった人々。ちょこちょこと動き回っている彼らに、都合のいいお願いをする。
ーー街の皆さま、お騒がせして申し訳ございません。就きましては竜の拝観料として、僕らの為に南の国々へ存分に「ミースガルタンシェアリ」の降臨を流布してくださいませ。
さて、もう後戻りは出来ないし、するつもりはない。
竜はここに居る。詳らかにせよ、竜が何たるかを想起せよ、世界に遍く打ち鳴らせ、幻想と神秘に裏打ちされた紛う方なき万象を司りし悠久の覇者……ん?
ここは覇者ではなく覇竜のほうがいいだろうか。と内面で盛り上がっていたところに、みーの頭にどっかりと座り込んだエンさんが、地竜が住まう大地のように落ち着いた声で尋ねてくる。
「んで、どっから行くんだ? こっからなら、どっちでも行けそーだが」
「そうですね。問題が少なそうな、三寒国から行きましょう。何かしら問題や懸念、軋轢が生じるなら、それを同盟国との挨拶回りに活かすということで」
僕は、狩場の位置から故郷のある場所を把握して、ヴァレイスナ連峰を眺め遣った。
茹だっていた頭を、楽しげに戯れる氷竜と風竜の心象で、穏やかに冷ましてゆく。みーに乗って空を飛んでいるので気が大きくなっているのだろうか、想像力まで空の彼方に羽ばたいていってしまう勢いだ。
「それじゃあ、みーちゃん、あっちなのです!」
コウさんは、びしっと空の果てを指し示すが、曖昧な物言いに何ともしまらない空気が漂う。
でも、これが僕たちらしいかな、としっくりくるような気もしてしまう。
「ばやぁーう!!」
コウさんに応えて、みーがごきげんな咆哮を轟かせた。
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