上 下
23 / 41
第3章 再会と真実

3-4 覚醒

しおりを挟む
エリーナの血統の秘密が明かされてから数週間が経過した頃、魔法学院は年に一度の実力試験の準備に追われていた。この試験は、学生たちの魔法能力を総合的に評価するもので、結果次第では学年の入れ替えも起こりうる重要なものだった。

図書館で勉強に励むエリーナのもとに、ソフィアが駆け寄ってきた。

「エリーナ! 大変よ! 試験の内容が突然変更されたの。今年は実戦形式の試験があるって」

「実戦? どういうこと?」

「魔法生物との模擬戦だって。でも、本物の魔物を使うらしいわ」

エリーナの胸に不安が広がった。これまでの学習で力は確実に伸びていたが、実戦となると話は別だ。しかも、本物の魔物との戦いとなれば危険も伴う。

「大丈夫よ、エリーナ。あなたなら絶対にできるわ」

エリーナは微笑んで頷いた。

「ありがとう、ソフィア。お互いがんばりましょう」

試験当日、学生たちは緊張した面持ちで大広間に集められた。教師が前に立ち、試験の詳細を説明し始めた。

「今年の実力試験は、学院近くの森で行われる。各自、魔法生物との一対一の戦闘を行い、その対処能力を評価する」

学生たちの間でざわめきが起こった。エリーナは深呼吸して自分を落ち着かせようとした。

「では、試験開始だ。健闘を祈る」

学生たちは次々と森へと向かっていった。エリーナも自分の順番が来るのを待った。

「エリーナ・レイヴン」

呼ばれた彼女は、決意を固めて森へ足を踏み入れた。

森の中は薄暗く、至る所から不気味な音が聞こえてくる。エリーナは警戒しながら進んでいった。突然、彼女の前に大きな影が現れた。

それは巨大な獣のような姿をしていたが、全身が炎に包まれていた。火炎獣だ。エリーナは息を呑んだ。これは上級魔法使いでも苦戦する相手だった。

「なんで、こんな魔物がここに!?」

とっさに周りを見渡したが、生徒たちを見守っているはずの教師の姿がどこにも見えず、エリーナは焦燥感に駆られた。
獣が猛烈な炎を吐き出す。エリーナは咄嗟に防御魔法を展開したが、その威力に押し戻されてしまう。

「くっ⋯⋯」

彼女は歯を食いしばった。通常の魔法では太刀打ちできない。そのとき、エリーナの瞳に熱くなるのを感じた。

紋章が輝き始めたのだ。

エリーナは直感的に、その力を引き出そうとした。すると、彼女の周りを淡い光が包み込んだ。彼女は両手を前に突き出し、全身全霊の力を込めて叫んだ。

「光よ!」

まばゆい光が彼女の手から放たれ、火炎獣に向かって一直線に飛んでいった。光は獣の炎を押し返し、その体を包み込む。

獣は苦しそうに唸り声を上げたが、次第にその姿は小さくなっていった。最後には、小さな火の玉となって消えてしまった。

エリーナは息を切らしながら、自分の手を見つめた。

「これが⋯⋯私の力」

駆けつけてきた教師たちは驚愕の表情でエリーナを見つめていた。誰もが、彼女がたった一人で上級魔法生物を倒したという事実に言葉を失っていた。

ざわめく教師たちの間に所在なげに佇んでいたエリーナに、教師の一人が森をでるように促した。戻ってきたエリーナを、ソフィアとレオナルドが駆け寄って迎えた。

「エリーナ! 大丈夫だった?」

ソフィアが心配そうに尋ねる。

「ああ、無事だったみたいだな」

レオナルドも安堵の表情を見せた。エリーナは二人に微笑みかけた。

「ええ、なんとか⋯⋯」

しかし、彼女の心の中では様々な感情が渦巻いていた。自分の力の大きさに戸惑いつつも、それを適切に制御できたことへの安堵。そして、教師たちの驚愕の表情⋯⋯この力が今後どのような扱いを受けるのか不安を感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

(完)妹が全てを奪う時、私は声を失った。

青空一夏
恋愛
継母は私(エイヴリー・オマリ伯爵令嬢)から母親を奪い(私の実の母は父と継母の浮気を苦にして病気になり亡くなった) 妹は私から父親の愛を奪い、婚約者も奪った。 そればかりか、妹は私が描いた絵さえも自分が描いたと言い張った。 その絵は国王陛下に評価され、賞をいただいたものだった。 私は嘘つきよばわりされ、ショックのあまり声を失った。 誰か助けて・・・・・・そこへ私の初恋の人が現れて・・・・・・

婚約者の浮気現場を目撃したら、魔力が暴走した結果……

四馬㋟
恋愛
保有する膨大な魔力を制御できず、他者を傷つけまいと孤立する公爵家令嬢のエメリン。ある時、婚約者が自分以外の女性と抱き合う光景を目撃してしまい、ショックのあまり魔力を暴走させてしまう。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...