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プロローグ

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その日、東京の夜はいつもより暗く感じられた。

ある若い女性がアルバイト先の居酒屋から急ぎ足で帰路についていた。
夏休み最後の週末、彼女は学費を稼ぐために遅くまで働いており、時計はもう既に午後11時を指していた。

「はぁ⋯⋯もう少しで家だ」

彼女は小さくつぶやいた。疲れた体を引きずりながら暗い路地を抜けていく。
街灯の光が不気味な影を作り出し、何かが潜んでいるかのような錯覚を覚えた。
すると突然、後ろから荒い息遣いが聞こえてきた。

「おい、お嬢ちゃん」

低い、しわがれた声。彼女は思わず振り返る。
そこには3人の男が立っていた。アルコールの匂いが風に乗って漂ってくる。

「ちょっと付き合ってくれよ」

リーダー格らしき男がにやりと笑うと、彼女の体が凍りつき、頭の中で警報が鳴り響く。

(逃げなきゃ⋯⋯っ)

彼女は咄嗟に走り出した。

「おい! 逃げるな!」

男たちの怒号が背中に突き刺さる。彼女は必死に足を動かした。
暗い路地を駆け抜け、曲がり角を曲がる。しかし、男たちの足音が近づいてきた。

「誰か⋯⋯ 誰か助けて!」

彼女の悲鳴が夜空に吸い込まれていく。
そして小さな路地に飛び込んだが、そこは行き止まりだった。
周りを見回したが、逃げ場はない。
高いブロック塀に囲まれ、出口は彼女が入ってきた一箇所だけだった。

「見~つけた」

男たちが路地の入り口に立っていた。
ゆっくりと、まるで獲物を追い詰める猟犬のように近づいてくる。

「や、やめて⋯⋯お願い⋯⋯」

震える声で言うと、彼女は壁に背中をつけ、必死に体を小さく縮めた。

「おいおい、怖がるなよ。ちょっと楽しもうぜ?」

リーダー格の男が、不敵な笑みを浮かべる。
彼女は目を閉じた。頭の中で、必死に助けを求める声を上げる。

(誰か⋯⋯誰か助けて⋯⋯)

その時だった、大通りの方でけたたましいクラクションの音が聞こえた。

「なんだ?」

男たちは一瞬気を取られる。
彼女はその隙を逃さず全力で男たちの間を突っ切り、路地を飛び出した。

「くそっ! 逃がすな!」

男たちの怒号が背後から聞こえたが、必死に走り、暗い路地を抜けて大通りに飛び出した。
だがその時、彼女は致命的な間違いを犯した。
周りを確認せずに、車道に飛び出してしまったのだ。
強烈な光が彼女の目に飛び込んでくる。

そして⋯⋯激しい衝撃。
彼女の体が宙を舞った。

「あ⋯⋯」

お父さん⋯⋯お母さん⋯⋯ごめんなさい。
意識が遠のいていく。最後に見たのは、夜空に輝く星々だった。

そして、全てが闇に包まれた。

***

どれくらいの時間が経ったのだろうか。
彼女の目の前に、まぶしい光が広がる。

「ここは⋯?」

彼女は自分の声で話しているつもりだったが、音は聞こえなかった。
周りを見回すが、何も見えず、ただ光だけが存在する不思議な空間だった。

「私⋯⋯死んじゃったの?」

現実味がない。
たった今まで必死に逃げていたのに、今はこんな所にいる。

突然、彼女の前に人影が現れた。
輪郭のはっきりしない、光に包まれた存在。
それは優しく微笑んでいるように見えた。

「――――」

声が響く。
どこからともなく、しかし確かに彼女に向けられた声。
彼女の名前を呼ぶ声。

「はい⋯」

彼女は恐る恐る答えた。

「あなたの人生は、まだ終わっていません」

光の存在が語りかける。

「でも、私⋯⋯事故に⋯⋯」

「そう、あなたは確かに命を落としました。しかし、それは新たな始まりでもあるのです」

彼女は困惑した。

「新たな⋯⋯始まり?」

「あなたには、まだやるべきことがある。別の世界で、新たな人生を歩むのです」

光の存在の言葉に、彼女は言葉を失った。

「別の⋯⋯世界?」

「そう。あなたの魂は、今から異世界へと旅立つのです」

彼女は混乱していた。異世界? そんなSF小説のような話を信じられるはずがない。
しかし、今の状況を考えると、それも不思議ではないのかもしれない。

「私に⋯⋯何ができるというのでしょうか」

光の存在は優しく答えた。

「それは、あなた自身が見つけ出す答えです。新しい世界で、あなたは多くの試練に直面するでしょう。しかし、それを乗り越えることで、あなたは成長し、真の力を手に入れるのです。けれど、決めるのはあなたです。何をするのもあなたの自由なのですよ」

深く息を吐いた。
恐怖と期待が入り混じる複雑な感情が彼女を包み込む。

「準備はいいですか?」

光の存在が問いかける。
一瞬躊躇したが、すぐに決意を固めた。
これが彼女に与えられた二度目のチャンスだ。
逃げるわけにはいかない。

「はい」

力強く答えると、光が強くなった。
そして、彼女の体がその光に包まれていく。

「さようなら――――。そして⋯」

光の中で、彼女の意識が遠のいていく。

「⋯⋯おかえりなさい、エリーナ・レイヴン」

最後の言葉が響き渡ったとき、全てが白く染まった。
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