アストラ金貨物語

友永ゆう

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第一章

透ける覚悟

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二人はフランクの遺体を、カレルとディラの墓の傍に葬った。

「こんなに早くまたここに来るなんてね・・・」

「油断しすぎてた。フランクの死は私たちのせいだよね」

二人はフランクの墓の前にしゃがみ込んだ。
墓の前には、何本かの白い花が置かれていた。
ラウルもそれを見ている。
ルパルナは立ち上がって言った。

「ここでこうしてても仕方ないよね」

ラウルは難しい顔をしながら、促されて渋々立ち上がると墓を背にして歩き出した。


 とりあえず二人は、ギルドに報告するためにファルサクスの街に向かうことにした。

――3日の行程の後、ファルサクスの街・ギルド

二人は、ギルドの受付にいた。
受付嬢がラウルに尋ねる。
ラウルは今回の討伐で、ゴブリン共を殲滅したことを報告した。
受付嬢はその報告を受けて、報酬を渡した。
ゴブリンは、大した金にはならない。
そのために、受付嬢も登録証のランクだけで確認もせず報酬を渡しているのだ。

「ルパルナ・・・今日はこのままギルドの宿に泊まろう。俺は今日はこのまま休む」

「え?どうしたの?具合悪いの?」

「ああ、ちょっと疲れていてね」

「そう・・・何か食べるものとか持っていこうか?」

「いや、いいんだ。ありがとう」


ラウルは自室に向かった。
そして中に入ると扉の鍵をしっかりとかけて、一つため息をついてベッドに腰かけた。

「おい、出て来いよ」

虚空にそう呟くと、どこからともなく鈍色の羽の黒いフェアリーが姿を現した。
「やーっと出てこれたわ。別に秘密にすることないじゃない?」
悪戯な笑顔でラウルを見つめる。

「大まかに状況は理解している。だが、まだ混乱しているんだ。説明してもらおうか・・・えーっと」

「急いでいたから名乗って無かったわよね?私はベルヒナ。ベルでもヒナでもベルヒナでもすきに呼んでくれていいわ。よろしくね、フランク・・・いえ、今後はラウルかしら?」

「・・・俺をラウルと入れ替えたな?何故だ」

「あの場はそれしか方法が無かったの。あなたは死ぬ寸前で時間が無かった。だったらすぐ近くの若い肉体を使うしかないじゃない?女の子の方よりそのラウルのほうが強いし同性で相性もいいかなーって思ったのよ」

~今後この黒い妖精はベルと呼ぶことにする~

ベルはうーんっと伸びをしながら答える。
「時間があれば赤ちゃんからやり直すこともできたけどね。まあ、いいんじゃない?悪くない肉体でしょ?」

「だが・・・俺はこの男の事をほとんど知らないんだぞ。きっとどこかでボロが出る」

「そこはうまく誤魔化しなさいよ~」
クスクス笑いながら言う。
「ルパルナが邪魔なら、パーティ解散して一人で旅するとか、今後の事も考えて殺しちゃうとか」

その言葉に慌ててラウルは食って掛かる。
「そ、そんなことできるか!あの子は死んだ俺の為に泣いてくれたんだ」

「ふーん。まあ、いいんだけどねー」
全く悪ぶれない妖精。

「それよりベル、突然望みを叶えるとか・・・それにいったいあの声・・・お前もだ。何なんだ?」

ベルはその時一瞬冷たい表情を見せた。
「ラウル、あなたはアストラ金貨って知ってるかしら?」

「・・・いや、聞いたこともないな」

「そう・・・それじゃ、昔話の『願いを叶える金貨』って知ってるぅ?」

「ん?知ってる。子供の頃何度も聞いたことがある」
この昔話というより童話は、妖精のベルが今話を出すまで世界でもよく知られている方の『ただの有名なお話』だった

「つまり、あなたは偶然にもその願いを叶える金貨『アストラ金貨』を手に入れていたの。そしてこれも全くの偶然に金貨に施された封印を解き、その代償として願いを叶えることができたのよ」

ラウルは妖精から語られるその話に、多少なりともショックを受けていた。
小さい頃、よく父から寝物語に聞かされた、あの物語が本当の事であり、自分が今まさにその影響を受けているという事実に・・・・。

「よく封印を解いてくれたわ!ありがとう!そして、おめでとう!」
拍手をして飛び回るベル。

「・・・で、声とお前はなんなんだ?」

妖精は表情を歪ませて舌打ちすると
「覚えてたのね。まあいいわ。あのお声は魔神ソルゼウデル。かつて世界を恐怖と暗黒に陥れた存在。私はその眷属にして、あなたの運命を導くもの」

「・・・え?じゃ、俺はそのとんでもない魔神に願いを叶えてもらったってことか?」
それは更なる驚きだった。体中から血の気が引いてくる。

「うんうん。魔神ソルゼウデルの封印の一つを解いた見返りにね」
ベルはそのあと、魔人の力が封印されたアストラ金貨の話をしてくれた。
要約するとこんな感じだ。

───アストラ金貨は今から千年以上昔の古代王国の英雄王アストラによって鋳造された金貨である。
その古代王国に現れた魔神を討伐し、王の偉業を国内だけでなく世界に知らしめるために、当時の大賢者が魔神の黄金の心臓(核)を使って造った。
鋳造数は一般的な金貨より少ないが、それなりに流通する量が世界にばらまかれている。
このまま何もしなければ、魔神は封印されたまま、それは永久にに続くだろう。
逆に魔神を復活させる場合には、それら全ての金貨を集めて封印を解く必要がある・・・・と。

ベルは続ける。
「もちろん、全部集める必要があるんだけど、それをあなたがやる必要はないの。既に長い時を経てそれなりの枚数は集まっているから。あなたにも、先人たち同様、その人生で集められる限りのアストラ金貨を探してもらうことになるわ。でも、あなたの代で集め終わるかもしれないけど、何とも言えないわ」

「あの・・・断ってもいいんだよな?」

「無理かなー。私が出現したということは、あなたの運命は既にアストラ金貨に引き寄せられているの。望む望まないに関わらず、集めることになるわ。そして封印も解かざるを得なくなる」

「冗談じゃない!」
ラウルは叫んだ。もし自分の代で封印が解けた場合、世界がとんでもないことになるだろう。確実に大勢が死ぬ。生き残っても明日をも知れない地獄を味わう事になるんだろう。
チバ・ヨウタだったころは28年生きた。だが、フランクとして50年以上この世界で生きてきたため、彼は既にこの世界の人間としての考え方に変わっていた。それに・・・根無し草の苦しみは十分知っている。
あんな思いを多くの人々にさせることになるかもしれないきっかけを自分が作るだなんて・・・

「冗談なんかじゃないわ。でもちゃんと見返りもあったでしょ?封印が解けるたびに一つ願いが叶うのよ」
ベルは優しく微笑みながら、ラウルの耳元でこっそりと言った。
「もちろん、魔神ソルゼウデルにとって不利な願いや、海の水をすべて干上がらせるとか無茶なのは叶えられないけど、それ以外ならやりたい放題よ?欲望のままにできるの」

「・・・・・お前が俺の運命を司るなら・・・お前をここで斬り捨てれば、俺はこんな大それたことなんかしなくていいんだよな?」
ラウルは妖精を見ずに、殺気を放った。この身体なら思い通りに動いて、この小さな少女も簡単に真っ二つにできるだろうという確信があった。

だがベルは全く動じなかった。それどころかコロコロ笑って
「それは賢明じゃないかも?既に私はあなた。あなたは私。運命の糸で絡まりあっているの。私が死ねば、あなたも死ぬわ。でも、魔神復活を死んでも阻止したいなんて思っているのなら・・・やってもいいんじゃない?」

「くそ・・・これじゃ呪いじゃないか・・・・」
ラウルは諦めたように言って項垂れた。

「フフフ。あと何か質問があったらいつでも言ってね。知ってることなら教えてあげる。それと今から私は姿を現したままにするから、ルパルナに紹介してね」

「・・・わかった・・・」
(とんでもないことに巻き込まれちまったな・・・だが、封印解くたびに望みを叶えてくれるのは気に入った。この身体も思ったように動くし、力も漲っている。現状、またとない幸運を得たと思っていいんだろう。魔人のことは俺の代で封印完全解除なんて無理かもしれないしな・・・勘だけど。まあ、人生のやり直し、楽しませてもらおうか)

彼の本質は世界を憂える者でも聖人・善人でもない。英雄勇者を夢見ても、所詮そんなものにはなれはしない。ただの小悪党なのだった。
ラウルは多少混乱が残っているものの、うまくやり通す決意を固めたのだった。

不意にベルが言った。
「ねえ、ラウル。私おなかすいたわ。ごはんちょうだい~」

「わかった。じゃ食堂にいこう。ルパルナもいるかもしれない」

ギルドの1Fに行くと、思った通り、ルパルナがいた。片肘を突きながら料理を突っついている。

「お嬢さん、行儀が悪いですよ」
元のラウルがやりそうな微笑みを浮かべて、彼女に声を掛けてみる。

そんな彼を見て、さっきまで憂鬱そうだったルパルナの表情が明るくなった。
「ラウル!大丈夫なの?」

「ああ、少し休んだら落ち着いたよ。俺たちも食事をしにきたんだよ」

ラウルがそういうや否や、背中に隠れていたベルが飛び出して、テーブルの肉料理にかぶりつく。
「これ美味しそうね。ちょっと分けてー」

面喰ったルパルナが声をあげる
「!!ちょっ!何よこれ!?」

「何ってないんじゃない~?」

「あー・・・妖精のベルだ。これから一緒に行動することになるからよろしくな」

「ラウル!いきなりそんな!あ、コラ私の食べるなっ」

「かわいい妖精の一口位いいじゃないの」

「ガッツリ喰ってるでしょっ!」

「ま、まあまあ・・・すぐ何か頼むから」

「ベルって呼んでね。ルパルナ」

「もー!とっといたのにぃっ!!」



こうして転生者・チバ・ヨウタの運命はゆっくりと動き始めたのだった。


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