まだ、言えない

怜虎

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7.Winter song.-雨野秋良の場合-

最終確認

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「秋、準備出来た?」

「あぁ、いつでも良いよ」

「じゃあ早速。
まずマゴコロは?そのままで良いと思うけど」

「俺もそれはそう思う。
Ambivalenceは全体的に厚みを持たせたい所だけど手が無い。だから逆に、薄くしている所はより薄く意識だな。
最後のフェイクの辺りとか特に、弾かないくらいで丁度良いかも知れない。まぁ実際やってみないと何とも言えないけど」

「そうなる予定って事で頭に入れておくよ。取り敢えず一度やってみたい」

「OK.
じゃあ2コーラス目のサビから⋯ One,Two.」


ギターを鳴らすと部屋中に蛍の声が響き渡る。

確か視聴覚室は防音だから、こういう練習が出来るのは有難い。

家とはまた違った響き。

野外だと家よりは視聴覚室の環境の方が近いかもしれない。


「カウントダウンは今みたいな感じで良かった?」

「ああ、問題ない。
2回目の “構わない~” と “敵わない~” とでもうちょい落差付けたい」

「OK」

「後、三連符のとこは気持ち食い気味で良いよ。
ここは正確にというよりかはテンション重視でいきたいから」

「ん、わかった」


次々に伝える修正や意見を聞いて、直ぐに歌い直して見せる蛍。

歌う方は殆ど迷いもブレもなく、毎回歌い直しは1回だけなのも感心する所だ。

今日は演奏の調整も同時に行っているせいか、うっすらと眉間に皺が寄っている。

それでも、偶に弦を多めに弾く程度。

納得してひとつ頷くと、次の修正点に進む。

黙々とされるその作業には真剣な様子が伝わってきて、何故か見蕩れてしまう。


「うん、こんなもんか」

「何か⋯すげーな、お前等」


山口が感心して腕を組む。


「凄い?」

「うん。雨野も言う事に迷いが無いし、吉澤も言われた事よく直ぐに修正出来るな」

「え?山口も凄い。俺何言ってるのか、どこが直ってるのか全然分からなかったけど」

「えっ、まじで?」

「山口は耳が良いんだろうね。
蛍の修正の速さは俺もいつも感心するよ。俺のは褒められるようなもんじゃないけど」


チューニングをしながらそう言うと、そんな事ないだろと山口が目を輝かせていた。



─山口ってこんな風にわかり易く自分の興味を表現する奴だったか?

進路の話にしても、趣味だとか興味のある事とかも聞いたことなかったな⋯



「秋、あと見るところある?」

「いや、気になったのはこのくらい。蛍は?ある?」

「ううん。気になってたのは全部秋が言ってくれたから大丈夫。
“行方”はそのままでいいと思うし」

「OK,じゃあ⋯ 14時までは文化祭回るか」

「うん!」


調整の間、室内でその様子を見ていた付き人達と一緒に文化祭を回り、あっという間にライブの準備時間になる。

一般の人はいなくても、文化祭は現在進行形で開催中だ。

ステージ上で音が出るようなリハーサルは勿論出来ない。

昨日帰る前に簡単なサウンドチェックはしたけど、そこから随分アレンジしてしまっているし、昨日のは無かったものと思っても良いくらいだ。

またしても準備不足で立つことになったステージだったが、思いの外好評でステージ周辺にいた人は盛り上がってくれた様で安心した。



翌日は出発時間が遅め、鷹城の送り付きで学校へ。

ライブも問題無く始まると、さくっと終わらせて帰ることにする。


帰りの車の中で、明日は2ステージに変更と業務連絡を受けた。

昨日のライブがSNSで広がり、今日の来場者数が予想を遥かに超えていたらしい。

特にライブ中のステージ周りの人口密度が高かったらしく、明日はより一層混雑が予想される為の変更だ。
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