まだ、言えない

怜虎

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6.Music festival.-吉澤蛍の場合-

ミュージックフェス

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『さぁここまではクイズにゲームと、熱き闘いをお届けして参りましたが、いよいよミュージックフェス、投票の結果上位に入りました、Juice、ナナツボシ、来栖樹里、この3ユニットの獲得票数の発表です!
昨日の投票締切3時間前に、Webでの獲得票の表示は伏せさせていただきました。ご本人達も自分達が何票獲得しているか、何位なのかを知りません。
一体、どのユニットが優勝するんでしょうか??
優勝しましたユニットには、番組のレギュラーと賞金100万円が送られます!』


本番が始まると、体調も周りに迷惑をかけることなく好調で、問題無く進んで行った。

気付けばミュージックフェスも、メインである獲得票と順位の発表が行われる終盤に差し掛かっている。

司会の説明に観客からも歓声が上がった。


「本当に凄いやつだったんだね、ミュージックフェス」



─賞金が出るとは聞いていたけど、予想以上の金額だし、番組レギュラーまで貰えるなんて豪華過ぎる。



数ヶ月前までただの高校生やってた蛍の頭ではただ凄いという言葉しか出て来なかった。


「今更感あるけど、確かに蛍に説明して無かったかもね。
TRAPの時の事があるからみんなその辺は知ってるつもりだった」

「だと思った」

「何か蛍はずっと一緒にいる気がしてさ?」


言い訳なのか本心なのか、ちょっとしたその一言にドキッとする。


「変な事言わないでよ。緊張する」


伏せた目の下が熱い。

赤くなった顔を見たらあはからかうと思ったが、予想に反して頭を撫でられただけだった。


「人前じゃ無かったら危なかったかも」


屈んで耳元で囁くと、イタズラっぽく笑って見せた。


「面白がってるでしょ」

「いや、蛍が可愛くて」

「⋯⋯ 」


ジトっとした目で見ると、ごめんと宥めにかかる。

そんな事している間にもミュージックフェスは進行していて、気持ちを切り替える。


いよいよ順位発表だ。


『皆様と一緒に、この瞬間を楽しみたいと思います!遂に順位発表です!!後ろのモニターに表示されます。皆様、ご注目下さい!
来栖樹里が赤、ナナツボシが黄色、Juiceが緑のグラフです。
さぁ15日間の投票時間を経て、皆様の愛がこの票数としてここに集まりました。
グラフがどんどん伸びて行っています。
どのユニットが優勝するんでしょうか?!

おっと!来栖樹里、97,482票でストップです。
優勝はナナツボシかJuiceか?!
まだまだ伸びる、どんどん伸びる!接戦です!!
さぁどちらも15万票を超えました!
どちらが優勝でしょうか??

あー!ここでストップしましたJuice!
Juiceは172,513票です。

という事は、ナナツボシが優勝!
優勝はナナツボシです!!!

獲得票数が出ました!
獲得票数、191,827です!
おめでとうございます!!』


司会の軽快な実況と共にあっという間に開票が終わる。

会場からも歓声が絶えなかった。



─仕事も個人的にも忙しかったから、途中経過を全く見れていなかった。

こんなに票が集まるなんて⋯

それに優勝?ナナツボシが?



『さぁまずは、優勝したナナツボシのお2人に話を聞いてみましょう。
Keiさん、今のお気持ちはどうですか?』


驚きの中、司会者の呼び掛けに一気に現実へと引き戻される。


「ありがとうございます⋯
まさか、俺達ナナツボシがこのミュージックフェスで優勝できるとは思っていなかったので驚いています。みなさんの応援のお陰です。本当にありがとうございます!」

『Akiさん、どうですか?』

「はい。実は昨日Keiが熱出してダウンしていたので、出演も危なかったんですが、結果こんなにも票を頂いて⋯ 本当に嬉しく思います。
応援してくださって、本当にありがとうございました!」


話す度に歓声が上がる、という不思議な会場の空気の中、司会者の質問に答えながら秋良が背中をしっかりと支えてくれていた。


『熱!体調は大丈夫なんですか?』

「はい、もうすっかり!」

「いや、そんな事無いんですよ」


砂月が、横からマイクを通して割り込んで来る。


「今も秋、蛍くんの事さり気なく後ろから支えてますからね」

「ちょっ!ツキ、そこ伏せる所でしょ!」

「昨日40℃まで上がったんですって」


秋良が少し慌てた様子でツッコミを入れると、砂月が更に客席を煽る。

まんまと、客席からは大丈夫?無理しないで!の言葉を引き出して、満足そうに秋良の顔を見て笑った。


『40℃?!それは大変でしたよね?』

「実はひとりでパフォーマンスする心の準備もしてたんですが、こうやって2人でステージに立てて、それをみなさんにお見せする事が出来て本当に最高の時間でした!」


秋良の言葉で会場から拍手が起こる。


「本当、ありがとうございます。
こうやって応援してくださったり、秋もそうだし周りにいる人に本当支えられているなと感じました。そんな機会を与えてくれたのは間違いなく、このフェスなので、無事このステージに立つことが出来て、そして優勝出来て本当に幸せです!」

「本当、楽屋でフラフラしていて大丈夫かと思ってたんですけど、いざ歌い始めたら微塵も体調悪いだなんて感じさせなくて、俺たちJuiceにもいい刺激になりました!流石のパフォーマンスでした!」


『本当ですね!優勝したナナツボシのお2人にはこのあと、もう一度歌っていただきますが、折角なのでこのまま聞いてみましょう。
Juiceのみなさんは2位という結果になりましたが、ミュージックフェス如何でしたか?』


「はい。優勝出来なかったのは本当に悔しいですが、予選からナナツボシは特に素晴らしくて、優勝したのも納得のパフォーマンスでした。
俺自身本当勉強になりましたし、さっきも言ったようにメンバーも良い刺激を受けたんじゃないかなと思います。
ミュージックフェスに出る事が出来て本当に良い経験になりました。ありがとうございました!」


客席から再び完成と拍手が上がると、砂月は一礼する。

それに続いてJuiceのメンバーも頭を下げた。


『Juiceのみなさん、ありがとうございました!
では3位になりました来栖樹里くん、如何でしたか?』

「はい!
1位、2位とは大きく差が開いての3位ですが、今日このステージに立てた事が本当に嬉しいです。
僕はひとりなので、メンバーっていうのが羨ましいなと思っていたんですが、ナナツボシのお二人やJuiceのみなさんと交流が出来た事も嬉しく思います!
投票してくださって、本当にありがとうございました!」

『来栖樹里さんありがとうございました!
今一度、ナナツボシ、Juice、来栖樹里、この3ユニットに大きな拍手をお願い致します!』


司会者の合図で拍手が大きくなると、全員でまた一例をする。


ふと頭に過ぎったのは、舞台のカーテンコール。

こんな風に出演者が横一列に並んで、深々とお辞儀をする。

それと重なり、懐かしさと妙にやり遂げた気分になった。


体を起こすと、とっくにみんな頭を上げ終わっていた様で、両サイドからツッコミが入る。


「蛍、長かったな」
「蛍くん丁寧だね」

「やっぱりつっこむ?⋯ 今ちょうどカーテンコールっぽいなって思ってたところ」

「確かに⋯ 役者って何故かこの挨拶深いよね」


そう言って秋良が笑うと、砂月がへぇと感心したような声を出した。


「蛍くん、役者なの?」

「ううん、中学の頃に少しだけやっていたってだけ」

「へぇ、どんな事やってたの?」

「うーん⋯ 」



─女役⋯ は言わない方が良いだろう。

秋も聞いてるし、雪弥と一緒にやってたの知ってるんだし、間違いなく秋の機嫌は悪くなりそう。



当たり障りのない言葉を頭の中で考えていると、最後のライブの準備の為に呼ばれてしまい、砂月に後でと断ってその場から移動をする。

後でと言う程詳しく話すような事もないが、相手も興味があって聞いてきた様にも思えない。

興味があればまた聞いてくるだろうし、敢えて後で話しかける事も無いだろう。


秋良の背中を追ってステージ袖に入ると、直ぐにライブの準備の為にスタッフに囲まれる。

準備と言っても自分達がしなければいけない事なんて殆ど無くて、イヤモニを取り付ける為にじっとしているだけ。

目線だけステージを映したモニターにやる。

いつの間にかステージ上では、TRAPや他の先輩ユニットのトークショーが行われていて、会場は盛り上がっている様子だった。


「蛍、さっきも問題無さそうだったけど、体はどう?大丈夫そう?」

「うん、問題無いよ」


笑顔で返事をすると、笑顔が返ってきた。


『ナナツボシさん、後3分程でエンディングになりますのでこのまま奥でスタンバイお願いします』

「はい」
「お願いします」


指示通り、スタンバイ位置に移動をする。



─ヤバイ、緊張してきた。

既に一度、お客さんの前でパフォーマンスしたのにな。



─いや、緊張⋯ ではない。


今日みたいに、秋と雪弥が顔を合わせる日は妙にソワソワする。

それが引っ掛かっていて、体が緊張と間違えているんだ。


出来れば秋の前では雪弥との過去の関係を知られたくない。

でも雪弥には、自分の秋に対する感情を悟られたくない。


それが本心なら、自分の本当の気持ちはどれなんだろうか?



ステージから漏れる光を見つめていると、腹の前で重ねた手を、秋良の手が包み込んだ。


「珍しく緊張してる?」

「うん⋯ そうかも」


秋良は蛍の体を抱き寄せると、後ろに回した手で頭をポンポンと撫でる。


「大丈夫。ステージの上でも俺が一緒にいる」

「⋯ うん」



─こうやって気にかけてくれる秋を、遠ざけたり拒んだり出来る訳じゃない。

一緒にいると、傍に居てくれると安心する。

でも、何も引っかからないわけではない。


あれだけひとりで考えない様にしようって思っていたのに、駄目だな。

頻度も高くなっている気がするし。


⋯ 困った時の山口様だな、これは。



「蛍、出るよ」

「うん」


決して良いとは言えないコンディションでも時は流れていき、ステージに出ると大きな歓声が迎えてくれた。
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