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5.Music festival.-雨野秋良の場合-
“まだ言えない”あの話
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「秋、さっき何て言ったの?」
制御が効かなくなる前にと、抱きしめながら心を落ち着かせていると蛍が聞いてくる。
少し甘えた蛍の声だ。
「何か言ったっけ?」
「よく聞こえなかったど、興味が湧いた、どうのって」
─それ、大半合ってますね。
惚けたつもりが案外的確な言葉が出てきて、作った顔が崩れる。
「何でもない」
離れがけに軽くキスをしてやっと靴を脱ぐと、それに釣られて蛍も部屋に上がる。
─本当、何やってるんだか。
帰って早々、2人きりになれたからってがっついて、俺に興味持ったかなんて。
肯定されていたらどうなっていたか。
抑える自信は流石にもうない。
当たり前のように自分の家かのように入っていることにも呆れると、小さく息を吐いた。
慣れとは怖い。
そんなことを思いながら、リビングでテレビを付けてニュースをチェックする。
いつものスウェットを蛍から受け取ると、いつもの様に先にお風呂を勧められる。
本当は興味のある内容ではなかったが、真剣に見ているふりをしてテレビが気になるからと言って先に蛍に入ってもらった。
ここ最近忙しかったからゆっくり湯船に浸かりたいが、後がつかえていると思うとゆっくりも出来ないだろう。
蛍が常に先にと譲ってくれることに申し訳ないと感じていたのもあり、どうにか先に入ってもらおうと考えた作戦でもあった。
―そう言えば、大野との事はどうなってるんだろうか。
卒業旅行以来、山口からは聞いてもいない情報が度々入ってくる。
まぁある意味助かるんだが、それで集中力切れるなんてことも度々あった。
友達、恋愛、経験者⋯ は少し違うが、多方面からの意見が聞ける辺り、言葉を選ばないなら山口はかなり “使える” やつだ。
人当たりも、面倒見も良い。
友好関係もそこそこ広い。
そんな人間が友達にいるというのは大野にとっても同じ条件なはずだが、何故か秋良を応援し情報を回してくれている山口に感謝していた。
ソファに背中を埋めてボーッとそんなことを考えていると、蛍がタオルを肩にかけて出てきた。
「見たいテレビ終わった?」
「⋯ ああ」
テレビはニュースからバラエティ番組に変わっていた。
「今お風呂溜めてるから。もう少し待って?」
─なんて出来た人間だ。
微塵もそんな素振りを出していないのにこの意思疎通具合。
リビングから出て行こうとした蛍を呼び止めて礼を言うと、そのまま目線をテレビに戻した。
─もう一ヶ月もしない内にミュージックフェスか。
見せるようの練習と、歌のレコーディングはマストでやって⋯
やる事はそんなに多くないとしても、ひとつひとつにボリュームがあるからな。
しっかりやっていきたい所だ。
特に蛍の歌。
15日までに準備できてなければいけないのは音源だけ。
ディスク化できる様にとは言われていないから、ギリギリまで時間は使えるな。
取り敢えず蛍に出来たのを聞いてもらって、まずは練習か。
流石に直前は練習したいから10日までには音源は完成。
俺の中の締切りだな。
それから⋯
「秋!」
「え?」
「えじゃなくて。お風呂、沸いたよ?」
「ああ、ありがとう」
「何か考え事?」
「ミュージックフェスまでの予定をね。間に合うのか計算してた」
スウェットを持って立ち上がる。
「忙しくなるね⋯ 」
「ああ。風呂出たら予定合わせたいから起きてろよ」
─そんな事わざわざ言わなくたって蛍は待っているんだろう。
それでも何となく、上から押し付ける様な事を言ってしまうのは主導権を握りたい、優位に立っていたいというプライドが言わせるんだろうな。
保険をかけるような慎重な行動に、毎度の事ながら呆れる。
断りはしたし、そこまで遅い時間でもない。
昨日寝るのが遅かった分、今日は蛍もゆっくり過ごしていたはずだ。
明日に響かない程度に切り上げれば問題ないだろう。
話しがあるからと言った手前、待たせる事に申し訳なく感じたが、今日のところはやはり、ゆっくり風呂に浸からせてもらうことにしよう。
手早く体や頭を洗い終えると、湯船に浸かる。
湯船に浸かるなんてどれだけの期間していないかと考えながら至福の時間を満喫する。
自宅でゆっくりするという事ですら殆ど無く、寝に帰るか荷物を取りに行くかで、日頃から事務所で作業をしていることの方が多い。
家で食事をしたりゆっくり過ごすなんて、蛍と一緒にいるようになってからだ。
そうやって少しずつ変わっていく環境が不思議で、嬉しくもあった。
―先程は山口の話にすり変わってしまったが、大野とは実際の所どうなんだろうか?
付き合っているわけでもないのに、蛍に聞いたところで答えは聞き出せないであろう。
そうやって冷静に判断できているうちは、まだ焦っていないと言うか、敵とみなしていないと言うか⋯
だが、切羽詰まったてあちこち道が塞がれた状態で答えを導き出すのは苦しい。
そう分かり切っているから動けるうちに動いておきたい。
大野よりも優勢である事は、山口の話からも予想できる。
ただ、一番引っかかるのはナツの事だ。
下手に蒸し返すわけにもいかず、旅行以来触れないできたが、流石にこのまま動きが無いとなると辛い状況になって行くのは目に見えている。
気持ちばかりは本人に聞かないとわからないし、本人の口から聞きたいという希望もある。
それに、蛍には伝えないといけない事がある。
まだ言えない、あの話を。
だからといってナツに頼るのはズルイっていうのは分かっているんだけど、ごめん。
ごめん、ナツ。
俺の力になってくれるよな?
制御が効かなくなる前にと、抱きしめながら心を落ち着かせていると蛍が聞いてくる。
少し甘えた蛍の声だ。
「何か言ったっけ?」
「よく聞こえなかったど、興味が湧いた、どうのって」
─それ、大半合ってますね。
惚けたつもりが案外的確な言葉が出てきて、作った顔が崩れる。
「何でもない」
離れがけに軽くキスをしてやっと靴を脱ぐと、それに釣られて蛍も部屋に上がる。
─本当、何やってるんだか。
帰って早々、2人きりになれたからってがっついて、俺に興味持ったかなんて。
肯定されていたらどうなっていたか。
抑える自信は流石にもうない。
当たり前のように自分の家かのように入っていることにも呆れると、小さく息を吐いた。
慣れとは怖い。
そんなことを思いながら、リビングでテレビを付けてニュースをチェックする。
いつものスウェットを蛍から受け取ると、いつもの様に先にお風呂を勧められる。
本当は興味のある内容ではなかったが、真剣に見ているふりをしてテレビが気になるからと言って先に蛍に入ってもらった。
ここ最近忙しかったからゆっくり湯船に浸かりたいが、後がつかえていると思うとゆっくりも出来ないだろう。
蛍が常に先にと譲ってくれることに申し訳ないと感じていたのもあり、どうにか先に入ってもらおうと考えた作戦でもあった。
―そう言えば、大野との事はどうなってるんだろうか。
卒業旅行以来、山口からは聞いてもいない情報が度々入ってくる。
まぁある意味助かるんだが、それで集中力切れるなんてことも度々あった。
友達、恋愛、経験者⋯ は少し違うが、多方面からの意見が聞ける辺り、言葉を選ばないなら山口はかなり “使える” やつだ。
人当たりも、面倒見も良い。
友好関係もそこそこ広い。
そんな人間が友達にいるというのは大野にとっても同じ条件なはずだが、何故か秋良を応援し情報を回してくれている山口に感謝していた。
ソファに背中を埋めてボーッとそんなことを考えていると、蛍がタオルを肩にかけて出てきた。
「見たいテレビ終わった?」
「⋯ ああ」
テレビはニュースからバラエティ番組に変わっていた。
「今お風呂溜めてるから。もう少し待って?」
─なんて出来た人間だ。
微塵もそんな素振りを出していないのにこの意思疎通具合。
リビングから出て行こうとした蛍を呼び止めて礼を言うと、そのまま目線をテレビに戻した。
─もう一ヶ月もしない内にミュージックフェスか。
見せるようの練習と、歌のレコーディングはマストでやって⋯
やる事はそんなに多くないとしても、ひとつひとつにボリュームがあるからな。
しっかりやっていきたい所だ。
特に蛍の歌。
15日までに準備できてなければいけないのは音源だけ。
ディスク化できる様にとは言われていないから、ギリギリまで時間は使えるな。
取り敢えず蛍に出来たのを聞いてもらって、まずは練習か。
流石に直前は練習したいから10日までには音源は完成。
俺の中の締切りだな。
それから⋯
「秋!」
「え?」
「えじゃなくて。お風呂、沸いたよ?」
「ああ、ありがとう」
「何か考え事?」
「ミュージックフェスまでの予定をね。間に合うのか計算してた」
スウェットを持って立ち上がる。
「忙しくなるね⋯ 」
「ああ。風呂出たら予定合わせたいから起きてろよ」
─そんな事わざわざ言わなくたって蛍は待っているんだろう。
それでも何となく、上から押し付ける様な事を言ってしまうのは主導権を握りたい、優位に立っていたいというプライドが言わせるんだろうな。
保険をかけるような慎重な行動に、毎度の事ながら呆れる。
断りはしたし、そこまで遅い時間でもない。
昨日寝るのが遅かった分、今日は蛍もゆっくり過ごしていたはずだ。
明日に響かない程度に切り上げれば問題ないだろう。
話しがあるからと言った手前、待たせる事に申し訳なく感じたが、今日のところはやはり、ゆっくり風呂に浸からせてもらうことにしよう。
手早く体や頭を洗い終えると、湯船に浸かる。
湯船に浸かるなんてどれだけの期間していないかと考えながら至福の時間を満喫する。
自宅でゆっくりするという事ですら殆ど無く、寝に帰るか荷物を取りに行くかで、日頃から事務所で作業をしていることの方が多い。
家で食事をしたりゆっくり過ごすなんて、蛍と一緒にいるようになってからだ。
そうやって少しずつ変わっていく環境が不思議で、嬉しくもあった。
―先程は山口の話にすり変わってしまったが、大野とは実際の所どうなんだろうか?
付き合っているわけでもないのに、蛍に聞いたところで答えは聞き出せないであろう。
そうやって冷静に判断できているうちは、まだ焦っていないと言うか、敵とみなしていないと言うか⋯
だが、切羽詰まったてあちこち道が塞がれた状態で答えを導き出すのは苦しい。
そう分かり切っているから動けるうちに動いておきたい。
大野よりも優勢である事は、山口の話からも予想できる。
ただ、一番引っかかるのはナツの事だ。
下手に蒸し返すわけにもいかず、旅行以来触れないできたが、流石にこのまま動きが無いとなると辛い状況になって行くのは目に見えている。
気持ちばかりは本人に聞かないとわからないし、本人の口から聞きたいという希望もある。
それに、蛍には伝えないといけない事がある。
まだ言えない、あの話を。
だからといってナツに頼るのはズルイっていうのは分かっているんだけど、ごめん。
ごめん、ナツ。
俺の力になってくれるよな?
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