52 / 76
4.Autumn.
彼女の存在
しおりを挟む
今日の宿は昨日までのホテルとは大分雰囲気の違う旅館だ。
夕飯も旅館の広間での食事で、部屋も6人ずつに配分されている。
夕飯が終わり、振り分けられた各部屋に散らばっていく。
同室は今回の旅行で行動を共にした、秋良、山口、悠和に、長谷川と安藤が加わっての6人だ。
お風呂等寝る準備は終わり、室内に布団を敷き詰めていく。
よくある修学旅行の図だ。
現在、室内には4人。
秋良と悠和がまだ部屋に戻っていなかった。
「吉澤、彼女いるんだ?」
敷き終わって早速布団の上で寝っ転がると、安藤がニヤニヤしながら近くに腰を下ろした。
驚いた。
朝にも同じような質問をされたばかりだ。
「なんで?」
「なんでって、首筋に」
そう言って自身の首筋をトントンと指差した。
―首筋⋯?
“彼女”と“首筋”から連想されるものと言えばひとつしか思いつかず、慌てて首を手で塞いだ。
蒸気し顔が赤くなり、鈍くなった思考回路でも犯人の予想はつく。
しかし2日間も気付いていなかったなんて本当に間抜けだ。
その2日間、行動を共にしていた山口や悠和は気付いていたのだろうか。
眉間に皺を寄せて山口を見ると、微かに口角を上げた。
「いるよ。吉澤に彼女」
山口がでっちあげる。
「マジで?羨ましいなリア充。どんな子?」
「えーと⋯」
どんな子?と言われても存在しないものは説明出来ない。
「年上。すげー美人」
「山口!」
しれっと話を作っていく山口を止めに入ると、まぁまぁと丸め込まれた。
確かに彼女がいないのに、キスマークの理由を見つける方が難しいかも知れない。
そう言えばナツの事はモデルという事しか知らない事に気付く。
どこに住んでるのか、歳すらも。
また胸が痛む。
胸の辺りを掴むと俯いていた。
「⋯吉澤?大丈夫か?」
「ごめん吉澤。調子に乗った」
違う。
山口達のせいでは無いんだ。
「大丈夫⋯何でもない」
ゆっくりと息をして呼吸を整える。
「蛍?」
そこへ秋良と悠和が戻ってきた。
少し苦しげな表情をしていただろうか。
またしても2人に心配を掛けてしまった。
「どうした?蛍?」
「おいお前!蛍に何した?」
秋良は長谷川の胸ぐらを掴む。
ひとりだけ離れて立ち尽くす長谷川が標的になってしまったようだ。
「雨野!辞めろ!」
山口が制しても弱まらない手に、目を真っ直ぐ見つめると、諭すように告げた。
「秋、手離して」
沈黙が耐えられないという様子で首元を緩めると長谷川が呟いた。
「⋯吉澤の彼女の話してただけだよ」
「彼女?!」
すぐに悠和が拾う。
「⋯ちゃんと言う機会なかったけど俺、彼女いるんだ」
「「⋯⋯」」
秋良は目を伏せ、悠和は目を見開いた。
それ以上、言葉を発するものはおらず、暫くの間は居た堪れない様な沈黙が漂った。
「⋯⋯ちょっと頭冷やしてくる」
「蛍!」
「吉澤?」
呼び止める声も聞かず、部屋を飛び出していた。
建物からも出て暫く走ると、そびえ立つ木に囲まれたちょっとした空間に出た。
上を見上げると、木の隙間からは綺麗な星空が望める。
こんな風に夜空を見る用だろうか。
いくつか配置されたベンチのひとつに仰向けになって夜空を見つめた。
秋良はあんな嘘、簡単に見抜くだろう。
しかし、嘘をついた事に対しては凄く怒るかもしれない。
今度はどんな顔して会えば良い?
悠和は軽蔑しただろうか。
昼間あんな大口叩いておいて、すぐにこれだ。
呆れられてもしょうがない。
「はぁ⋯」
腕で目を覆い隠して、次々に浮かんでくる自分の言動は嫌悪へと変わっていった。
夕飯も旅館の広間での食事で、部屋も6人ずつに配分されている。
夕飯が終わり、振り分けられた各部屋に散らばっていく。
同室は今回の旅行で行動を共にした、秋良、山口、悠和に、長谷川と安藤が加わっての6人だ。
お風呂等寝る準備は終わり、室内に布団を敷き詰めていく。
よくある修学旅行の図だ。
現在、室内には4人。
秋良と悠和がまだ部屋に戻っていなかった。
「吉澤、彼女いるんだ?」
敷き終わって早速布団の上で寝っ転がると、安藤がニヤニヤしながら近くに腰を下ろした。
驚いた。
朝にも同じような質問をされたばかりだ。
「なんで?」
「なんでって、首筋に」
そう言って自身の首筋をトントンと指差した。
―首筋⋯?
“彼女”と“首筋”から連想されるものと言えばひとつしか思いつかず、慌てて首を手で塞いだ。
蒸気し顔が赤くなり、鈍くなった思考回路でも犯人の予想はつく。
しかし2日間も気付いていなかったなんて本当に間抜けだ。
その2日間、行動を共にしていた山口や悠和は気付いていたのだろうか。
眉間に皺を寄せて山口を見ると、微かに口角を上げた。
「いるよ。吉澤に彼女」
山口がでっちあげる。
「マジで?羨ましいなリア充。どんな子?」
「えーと⋯」
どんな子?と言われても存在しないものは説明出来ない。
「年上。すげー美人」
「山口!」
しれっと話を作っていく山口を止めに入ると、まぁまぁと丸め込まれた。
確かに彼女がいないのに、キスマークの理由を見つける方が難しいかも知れない。
そう言えばナツの事はモデルという事しか知らない事に気付く。
どこに住んでるのか、歳すらも。
また胸が痛む。
胸の辺りを掴むと俯いていた。
「⋯吉澤?大丈夫か?」
「ごめん吉澤。調子に乗った」
違う。
山口達のせいでは無いんだ。
「大丈夫⋯何でもない」
ゆっくりと息をして呼吸を整える。
「蛍?」
そこへ秋良と悠和が戻ってきた。
少し苦しげな表情をしていただろうか。
またしても2人に心配を掛けてしまった。
「どうした?蛍?」
「おいお前!蛍に何した?」
秋良は長谷川の胸ぐらを掴む。
ひとりだけ離れて立ち尽くす長谷川が標的になってしまったようだ。
「雨野!辞めろ!」
山口が制しても弱まらない手に、目を真っ直ぐ見つめると、諭すように告げた。
「秋、手離して」
沈黙が耐えられないという様子で首元を緩めると長谷川が呟いた。
「⋯吉澤の彼女の話してただけだよ」
「彼女?!」
すぐに悠和が拾う。
「⋯ちゃんと言う機会なかったけど俺、彼女いるんだ」
「「⋯⋯」」
秋良は目を伏せ、悠和は目を見開いた。
それ以上、言葉を発するものはおらず、暫くの間は居た堪れない様な沈黙が漂った。
「⋯⋯ちょっと頭冷やしてくる」
「蛍!」
「吉澤?」
呼び止める声も聞かず、部屋を飛び出していた。
建物からも出て暫く走ると、そびえ立つ木に囲まれたちょっとした空間に出た。
上を見上げると、木の隙間からは綺麗な星空が望める。
こんな風に夜空を見る用だろうか。
いくつか配置されたベンチのひとつに仰向けになって夜空を見つめた。
秋良はあんな嘘、簡単に見抜くだろう。
しかし、嘘をついた事に対しては凄く怒るかもしれない。
今度はどんな顔して会えば良い?
悠和は軽蔑しただろうか。
昼間あんな大口叩いておいて、すぐにこれだ。
呆れられてもしょうがない。
「はぁ⋯」
腕で目を覆い隠して、次々に浮かんでくる自分の言動は嫌悪へと変わっていった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる