まだ、言えない

怜虎

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3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-

夏休み明けの不安

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9月に入り学校が始まった。

まだ朝でも暑い日差しの中を歩き学校に行くと、その暑い中グラウンドでの全校集会。

校長の配慮で予定よりも集会は早く終わり、ホームルームでは明日からの卒業旅行についての話が主だ。

配布された修学旅行のしおりなるものを手に入れてしまえば、その時間はただ退屈なだけで、頭の中で単語やメロディを浮かべてはペンを走らせた。


いつの間にか教室内は人も疎らになっていた。

教室を見渡すけど、蛍の姿は見当たらない。

予定があるとも聞いていなかったはずだ。

蛍からの連絡を期待して、ポケットからスマートフォンを取り出してみだが連絡はない。

教室で待っているという内容のメールを送信すると、新学期早々の席替えで引き当てた、窓際の一番後ろの席に腰をおろした。

秋良は頬杖をついて、乾いたグラウンドと帰って行く生徒達、それと机に置いたスマートフォンの時計とメールを交互に確認して、ただ蛍を待っていた。


夏休みが明けてもまだまだ暑い。

青い空をぼんやり見つめると、視界の隅にそれらしき人物が入り込み目で追う。

メガネやコンタクトで無いにしても、そこまで目が良いわけでは無い。

しっかりと認識は出来なかった。

グラウンド脇の木の下で、蛍に見える彼は誰かと話しをしているようだ。

相手は木の陰に隠れていて、わかるのは男子の制服を着ている事くらいだった。

相手は身振り手振り何かを訴えている様で、腕だけが度々見え隠れする。


次の瞬間、校舎の方に向かって走った彼の腕を掴むとすぐに振り払われた。

まるで嫌がるように振り払うと、彼はそのまま校舎の方に走ってくる。

距離が近付くにつれ、その人物は明らかになった。

その人物が蛍だと確信した秋良は、席を立つと彼の番号を呼び出す。

鳴り続けるコール音がもどかしい。

留守番電話に切り替わっては掛け直す。

3度程繰り返したが、蛍は出る事はなかった。


反射的に先程蛍がいた場所に足を向けると、そこには血相を変えた大野が立ち尽くしていた。


「大野」

「⋯⋯⋯」

俯いていた顔がゆっくりと上がる。

目が合うと睨みつけるような強い視線があった。


「お前今、蛍と話してた?」

「⋯⋯⋯」

「答えろ!」

「⋯⋯⋯」


大野は目線を逸らさないで黙り込んだ。

目が合った時からその瞳の奥に強い意志が見えた気がした。


「お前蛍に何したんだよ!」


何も答えない大野の胸ぐらを掴んで揺さぶる。

少しの間の後、先程まで逸らそうとしなかった目線がついに外れると、大野は声を絞り出すように答えた。


「⋯お前には言えない」


そう言うと大野はすぐに、掴んでいた手を振り払って走って行った。


“お前には” という言葉が妙に引っかかった。

いくら考えても決定的な答えは出てこなくて、でも凄く胸騒ぎがする。

その後もう一度蛍に電話を掛けてみたが、やはり繋がらなかった。


電話が繋がらないなら家に行くしか手段はない。

それに、家に向かう途中で会えるかもしれない。


そう思い、家の前までの道のりを辿ってみたけどそう簡単には会えなかった。


『見たら連絡がほしい』


そう入れてはみたけど、結局朝になっても蛍からの連絡は無くて、携帯を見るなり溜息が漏れた。

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