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1.Rainy season.
梅雨の憂鬱
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「雨野くんが好きです⋯」
暖かな陽気に、本を日除けにしてのお昼寝タイム。
穏やかな時間が突然の告白によって崩されてしまった事に、本の下で蛍は顔を顰めた。
学校の裏庭、漫画等では割とよくあるシチュエーション。
昼食を取る為にセレクトした、最近のお気入りの場所。
まさかこの何気ない日常の中で “第三者として“ 告白現場に居合わせる事になるなんて、と30分前の自分を恨んだ。
読みかけのハードカバーの本が、しっかりと顔を隠してくれているのがせめてもの救いだ。
存在を消すように静かに、時が過ぎるのを蛍はじっと待つ。
季節は梅雨時期だが、特有のジメジメとした感じはなく、爽やかな風が吹く昼下がりだ。
風の音の向こう側に集中しながら身を潜めること数十秒。
女子生徒のものだろう、パタパタと走り去る足音が聞こえた。
暫く間を置いてからのそのそと起き上がると、男子生徒と目が合った。
先程声のした方向にいた彼がきっと“告白された”側なんだろう。
“えっち”
身を隠したい様な気まずさよりも、しまったという感情が勝りひとり焦っていると、彼の口の形がそう動いた様に見えた。
無音でそう残すと、彼はすぐに校舎の方へと戻って行った。
たまたま居合わせただけ、たまたま目が合っただけなのに、とんだとばっちりだと溜まったモヤモヤを吐き出すように溜息を吐いた。
見られたくないのならばしっかり場所を選べば良い。
周りも確認せずに告白なんてするからだ。
いや告白したのは女子生徒の方で、そういう意味では彼に非はないのだが、わざわざそれを見せつける様な振る舞いには単純に腹が立った。
ただひとつだけ、蛍にとって良かったことは知り合いではなかったこと。
とは言え人の名前を覚えるのが苦手で、一、二度会ったくらいでは相当なインパクトがなければ覚えていないことが多く、蛍にとっての “知り合いではない” なのだが。
関わりのある人達だけ把握していれば必要のない事は覚える必要がないというマイナスな考えが、今回ばかりはプラスの結果、となった。
もう6月になるが、クラスメイトの名前だって数える程度しか覚えていない。
それも去年同じクラスだったという理由の付く “関わりのあった” 人間だけ。
他人に興味が無い訳でも無いし、人見知りではあるが決して会話ができないわけでは無い。
ただ誰かとつるんだり、気を遣ってまで人と関わりを持ちたいと思わないだけだ。
クラスメイトに話しかけられれば、普通に喋るし冗談を言って笑う時だってある。
付き合いにくい人間だと思われているかもしれないが、それで良い。
一人の方が確実に楽だから。
特にああいう、自分が優位に立ったような態度を取る奴とは関わりたくない。
先程の事を思い出し眉間に皺を寄せると、遠くで予鈴が聞こえた。
蛍は心を落ち着かせるように少しだけ深めに呼吸をし、顰め面をしながら裏庭を後にした。
暖かな陽気に、本を日除けにしてのお昼寝タイム。
穏やかな時間が突然の告白によって崩されてしまった事に、本の下で蛍は顔を顰めた。
学校の裏庭、漫画等では割とよくあるシチュエーション。
昼食を取る為にセレクトした、最近のお気入りの場所。
まさかこの何気ない日常の中で “第三者として“ 告白現場に居合わせる事になるなんて、と30分前の自分を恨んだ。
読みかけのハードカバーの本が、しっかりと顔を隠してくれているのがせめてもの救いだ。
存在を消すように静かに、時が過ぎるのを蛍はじっと待つ。
季節は梅雨時期だが、特有のジメジメとした感じはなく、爽やかな風が吹く昼下がりだ。
風の音の向こう側に集中しながら身を潜めること数十秒。
女子生徒のものだろう、パタパタと走り去る足音が聞こえた。
暫く間を置いてからのそのそと起き上がると、男子生徒と目が合った。
先程声のした方向にいた彼がきっと“告白された”側なんだろう。
“えっち”
身を隠したい様な気まずさよりも、しまったという感情が勝りひとり焦っていると、彼の口の形がそう動いた様に見えた。
無音でそう残すと、彼はすぐに校舎の方へと戻って行った。
たまたま居合わせただけ、たまたま目が合っただけなのに、とんだとばっちりだと溜まったモヤモヤを吐き出すように溜息を吐いた。
見られたくないのならばしっかり場所を選べば良い。
周りも確認せずに告白なんてするからだ。
いや告白したのは女子生徒の方で、そういう意味では彼に非はないのだが、わざわざそれを見せつける様な振る舞いには単純に腹が立った。
ただひとつだけ、蛍にとって良かったことは知り合いではなかったこと。
とは言え人の名前を覚えるのが苦手で、一、二度会ったくらいでは相当なインパクトがなければ覚えていないことが多く、蛍にとっての “知り合いではない” なのだが。
関わりのある人達だけ把握していれば必要のない事は覚える必要がないというマイナスな考えが、今回ばかりはプラスの結果、となった。
もう6月になるが、クラスメイトの名前だって数える程度しか覚えていない。
それも去年同じクラスだったという理由の付く “関わりのあった” 人間だけ。
他人に興味が無い訳でも無いし、人見知りではあるが決して会話ができないわけでは無い。
ただ誰かとつるんだり、気を遣ってまで人と関わりを持ちたいと思わないだけだ。
クラスメイトに話しかけられれば、普通に喋るし冗談を言って笑う時だってある。
付き合いにくい人間だと思われているかもしれないが、それで良い。
一人の方が確実に楽だから。
特にああいう、自分が優位に立ったような態度を取る奴とは関わりたくない。
先程の事を思い出し眉間に皺を寄せると、遠くで予鈴が聞こえた。
蛍は心を落ち着かせるように少しだけ深めに呼吸をし、顰め面をしながら裏庭を後にした。
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