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いとこ。
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近所に住んでいる従姉妹に、とんでもないハイスペックなオトコができたらしい。
あの従姉妹に? 洒落っ気がなくて休みの日はゲームとか漫画とかしてごろごろしていて、ちょっと口が悪くてたまに暴力的な?
ありえないと母親同士の噂話は聞き流していた。
それなのに、昨日従姉妹の家の前で見てしまった。
背が高くて、顔も格好良い。従姉妹よりもずっと年上みたいで、ぴったり従姉妹にくっついて歩いていた。
「騙されているんじゃないの?」
「なに、急に」
久しぶりに入った従姉妹の家で切り出せば、首を傾げられる。それがごまかしているみたいで気に入らない。
「見たよ、彼氏。随分年上じゃん」
冷たく言ってやったのに、「見たの?」と笑う。
いつだってそうだ。何を言っても怒ることもなくさらりと受け流す。
「あんなの、遊ばれてるだけに決まってんじゃん。泣かされる前に別れた方が良いんじゃない?」
押し黙る相手を残して、家に帰った。
「初めまして。城崎です。優良さんとお付き合いさせてもらっています」
学校から家に帰ってくると、門の前で突然男に声をかけられた。前に見た従姉妹の彼氏だ。
こっちは顔を知っているけど、向こうは知らない筈なのに、なんで? それに、どうして家に?
従姉妹が教えたんだろうか。この間のことで泣きついたとか? あの従姉妹が? あんまり想像できない。
それにしても、こうやって近くで見ると、びっくりするくらい格好良い。ドラマとかに出てきそうだ。ちゃんとスーツを着ているのに、なんかチャラく見えるのはなんでなんだろう。
「ふふっ。優良のことを心配してくれる、とっても優しくて可愛い子がいるってことを聞いてね、挨拶に来たんだ」
近づいてきた男の身体で太陽が隠されたせいか、スッと気温が下がった気がした。
「君は優良が大好きだよね?だから、優良が心配なんだ」
見下ろしてくる男の目が、三日月みたいに細くなった。
「でもね、なぁーんにも心配いらないんだよ? 俺は優良一筋なの。彼女を幸せにすることが俺の喜び。彼女は俺のすべて。彼女が生きているからこの世界は意味あるものなんだから。……俺が彼女で遊ぶ? そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ない。彼女が悲しむかもしれないことをするだけで万死に値するのに、その原因が俺? 俺が俺を殺すのは簡単だけど、それじゃあ彼女からまた離れてしまうからね。いや、俺が俺を殺すよりも彼女からの冷たい別れの一言で息の根が止まる自信がある。俺が俺でいられるのは彼女がいるからだし、彼女がいてくれるから俺は幸せなの。だから俺が彼女を幸せにするのは至極当然なことなんだよ。わかるよね?」
今現在目の前の人間がヤバイ人種ではないかとの疑いを強めているところなので返事ができない。
それ以前に、声が出ない。
相手が、大人の男だからだろうか。
綺麗に微笑んでいるのに、ちっともその目が笑っていないせいだろうか。
相手の背がすごく大きくて、見下ろされているせいだろうか。
理由なんてわからない。わからないのに、目の前でうっそりと笑う相手が怖くて体が勝手に震える。
顔はわらっているのに、目の奥が冷めきっている男がこてりと頭を傾げた。
「あれ? わからない? わかってくれるよねぇ?」
「――――何をしてやがんのかなぁ?」
いつの間にか、男のすぐ後ろに優良ねーちゃんが立っていた。
「ごめんねぇ、雄大くん。びっくりしちゃったよねぇ?」
困ったように笑う優良ねーちゃんが頭を撫でてくる。いつもなら子ども扱いするな!と怒るところだが、今はそんなことしない。
優良ねーちゃんにしがみ付いていると、あいつが恨めしそうな視線を向けてくる。
さっきはすごく怖かったけれど、今はもう平気。
ねーちゃんに説教されている間のあいつが、「怒る? 怒ってる? 嫌われちゃう?」と言わんばかりの顔をしていたから。悪さをして叱られているときの家の犬にそっくりだった。
「まったく……、小さい子を威圧するなんて何を考えているのよ」
「小さいときからの刷り込みが大切なんです」
「なに言っているの……」
見た目は全然釣り合ってないのに、こうして並んでるのをみるとそんなことない。
ぽんぽん言い合う姿を見ていると、これが当たり前なんだって気にさせられる。
「……ねーちゃん、ひどいこと言ってごめんなさい……」
小さい声で謝ったら、優良ねーちゃんは「気にしてないよ」とにっこり笑ってくれた。
優良ねーちゃんは、男の前でもいつも通りの優良ねーちゃんだ。クラスの女子みたいに、一組の大石の前でだけかわい子ぶったりしていない。逆に、チャラ男の方はずっと優良ねーちゃんを見ている。こいつは優良ねーちゃんのことが好きなんだなって思えた。
まだちょっとだけ気にくわないけど、なんていうの? チャラ男が優良ねーちゃんのことが好きだってのは見ているるだけですごくよくわかるのに、それに対してフツーすぎる優良ねーちゃん。
同じオトコとして、ちょっぴりチャラ男が可哀想になったのと、あと――――
「いつまでくっついているの?」
低いオトナの男の声に、ビクッと体がすくんだ。慌てて優良ねーちゃんのスカートから手を離す。
またちょっと優良ねーちゃんに怒られてから二人は帰って行った。
優良ねーちゃんの彼氏は、チャラく見えるけどイケメンで、優良ねーちゃんのことが変なくらい大好きで、それからちょっと怖い。
でも、その怖さは優良ねーちゃんがいたら消えてなくなる。
チャラい男なんて優良ねーちゃんにちっとも似合わないって思ったけど、優良ねーちゃんに叱られているトコを見てたらそうでもないかもと思えた。
だから、少し気にくわないけど、優良ねーちゃんが大丈夫そうなら良いのかな、なんてその時は呑気に考えていた。
優良ねーちゃんと結婚したら、あいつと親戚になるという現実は、まだ遠すぎて思いつきもしなかった。
****
「子供を威圧しない。殺気出さない。これ常識。わかる?」
「わかっていますよ。けれど、何も芽吹かないうちに恐怖で叩き潰すというのは最も効率が良いと思って」
「は?相手は親戚の子どもだよ?小学生だよ?」
「子どもだと侮ってはいけません。虎視眈々と隙を狙っているものです(キリッ)」
「無いって……」
「経験則です。あなたは目下の者に優しいからすぐ懐かれてしまう」
「いや、フツーにしてるだけなんだけど……」
「優良に関係する人間には等しく迅速に俺のことを優良の恋人として認めてもらいたい気持ちが強すぎて、少しばかりやりすぎたかもしれません。それに関してはごめんなさい」
「(素直に謝られると怒りにくいな…!)……そういえば、なんで雄大くんのこと知ってるの?」
「(にっこり)」
「(情報源はどこだ……! 母親か? 弟か? まさかの盗聴とかじゃないよね? さすがにそれはない……よね? ……でも確認するのが怖い……!)」
あの従姉妹に? 洒落っ気がなくて休みの日はゲームとか漫画とかしてごろごろしていて、ちょっと口が悪くてたまに暴力的な?
ありえないと母親同士の噂話は聞き流していた。
それなのに、昨日従姉妹の家の前で見てしまった。
背が高くて、顔も格好良い。従姉妹よりもずっと年上みたいで、ぴったり従姉妹にくっついて歩いていた。
「騙されているんじゃないの?」
「なに、急に」
久しぶりに入った従姉妹の家で切り出せば、首を傾げられる。それがごまかしているみたいで気に入らない。
「見たよ、彼氏。随分年上じゃん」
冷たく言ってやったのに、「見たの?」と笑う。
いつだってそうだ。何を言っても怒ることもなくさらりと受け流す。
「あんなの、遊ばれてるだけに決まってんじゃん。泣かされる前に別れた方が良いんじゃない?」
押し黙る相手を残して、家に帰った。
「初めまして。城崎です。優良さんとお付き合いさせてもらっています」
学校から家に帰ってくると、門の前で突然男に声をかけられた。前に見た従姉妹の彼氏だ。
こっちは顔を知っているけど、向こうは知らない筈なのに、なんで? それに、どうして家に?
従姉妹が教えたんだろうか。この間のことで泣きついたとか? あの従姉妹が? あんまり想像できない。
それにしても、こうやって近くで見ると、びっくりするくらい格好良い。ドラマとかに出てきそうだ。ちゃんとスーツを着ているのに、なんかチャラく見えるのはなんでなんだろう。
「ふふっ。優良のことを心配してくれる、とっても優しくて可愛い子がいるってことを聞いてね、挨拶に来たんだ」
近づいてきた男の身体で太陽が隠されたせいか、スッと気温が下がった気がした。
「君は優良が大好きだよね?だから、優良が心配なんだ」
見下ろしてくる男の目が、三日月みたいに細くなった。
「でもね、なぁーんにも心配いらないんだよ? 俺は優良一筋なの。彼女を幸せにすることが俺の喜び。彼女は俺のすべて。彼女が生きているからこの世界は意味あるものなんだから。……俺が彼女で遊ぶ? そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ない。彼女が悲しむかもしれないことをするだけで万死に値するのに、その原因が俺? 俺が俺を殺すのは簡単だけど、それじゃあ彼女からまた離れてしまうからね。いや、俺が俺を殺すよりも彼女からの冷たい別れの一言で息の根が止まる自信がある。俺が俺でいられるのは彼女がいるからだし、彼女がいてくれるから俺は幸せなの。だから俺が彼女を幸せにするのは至極当然なことなんだよ。わかるよね?」
今現在目の前の人間がヤバイ人種ではないかとの疑いを強めているところなので返事ができない。
それ以前に、声が出ない。
相手が、大人の男だからだろうか。
綺麗に微笑んでいるのに、ちっともその目が笑っていないせいだろうか。
相手の背がすごく大きくて、見下ろされているせいだろうか。
理由なんてわからない。わからないのに、目の前でうっそりと笑う相手が怖くて体が勝手に震える。
顔はわらっているのに、目の奥が冷めきっている男がこてりと頭を傾げた。
「あれ? わからない? わかってくれるよねぇ?」
「――――何をしてやがんのかなぁ?」
いつの間にか、男のすぐ後ろに優良ねーちゃんが立っていた。
「ごめんねぇ、雄大くん。びっくりしちゃったよねぇ?」
困ったように笑う優良ねーちゃんが頭を撫でてくる。いつもなら子ども扱いするな!と怒るところだが、今はそんなことしない。
優良ねーちゃんにしがみ付いていると、あいつが恨めしそうな視線を向けてくる。
さっきはすごく怖かったけれど、今はもう平気。
ねーちゃんに説教されている間のあいつが、「怒る? 怒ってる? 嫌われちゃう?」と言わんばかりの顔をしていたから。悪さをして叱られているときの家の犬にそっくりだった。
「まったく……、小さい子を威圧するなんて何を考えているのよ」
「小さいときからの刷り込みが大切なんです」
「なに言っているの……」
見た目は全然釣り合ってないのに、こうして並んでるのをみるとそんなことない。
ぽんぽん言い合う姿を見ていると、これが当たり前なんだって気にさせられる。
「……ねーちゃん、ひどいこと言ってごめんなさい……」
小さい声で謝ったら、優良ねーちゃんは「気にしてないよ」とにっこり笑ってくれた。
優良ねーちゃんは、男の前でもいつも通りの優良ねーちゃんだ。クラスの女子みたいに、一組の大石の前でだけかわい子ぶったりしていない。逆に、チャラ男の方はずっと優良ねーちゃんを見ている。こいつは優良ねーちゃんのことが好きなんだなって思えた。
まだちょっとだけ気にくわないけど、なんていうの? チャラ男が優良ねーちゃんのことが好きだってのは見ているるだけですごくよくわかるのに、それに対してフツーすぎる優良ねーちゃん。
同じオトコとして、ちょっぴりチャラ男が可哀想になったのと、あと――――
「いつまでくっついているの?」
低いオトナの男の声に、ビクッと体がすくんだ。慌てて優良ねーちゃんのスカートから手を離す。
またちょっと優良ねーちゃんに怒られてから二人は帰って行った。
優良ねーちゃんの彼氏は、チャラく見えるけどイケメンで、優良ねーちゃんのことが変なくらい大好きで、それからちょっと怖い。
でも、その怖さは優良ねーちゃんがいたら消えてなくなる。
チャラい男なんて優良ねーちゃんにちっとも似合わないって思ったけど、優良ねーちゃんに叱られているトコを見てたらそうでもないかもと思えた。
だから、少し気にくわないけど、優良ねーちゃんが大丈夫そうなら良いのかな、なんてその時は呑気に考えていた。
優良ねーちゃんと結婚したら、あいつと親戚になるという現実は、まだ遠すぎて思いつきもしなかった。
****
「子供を威圧しない。殺気出さない。これ常識。わかる?」
「わかっていますよ。けれど、何も芽吹かないうちに恐怖で叩き潰すというのは最も効率が良いと思って」
「は?相手は親戚の子どもだよ?小学生だよ?」
「子どもだと侮ってはいけません。虎視眈々と隙を狙っているものです(キリッ)」
「無いって……」
「経験則です。あなたは目下の者に優しいからすぐ懐かれてしまう」
「いや、フツーにしてるだけなんだけど……」
「優良に関係する人間には等しく迅速に俺のことを優良の恋人として認めてもらいたい気持ちが強すぎて、少しばかりやりすぎたかもしれません。それに関してはごめんなさい」
「(素直に謝られると怒りにくいな…!)……そういえば、なんで雄大くんのこと知ってるの?」
「(にっこり)」
「(情報源はどこだ……! 母親か? 弟か? まさかの盗聴とかじゃないよね? さすがにそれはない……よね? ……でも確認するのが怖い……!)」
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