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「宮田さえよかったら、私たち付き合わない?」

 暇そうだという理由だけで選んだ環境委員。三か月に一度の定例報告会を終え、同じくクラスの環境委員として参加していた小林さんと、教室に戻る廊下を並んで歩いている時だった。 

「来年また同じクラスになれるか分からないし、どうせ付き合うならクリスマス前がいいかなって。どう? 宮田的に私ってナシ?」
「いや、ナシとかじゃ……」
「じゃ、決まりね」

 ――トントン拍子で彼女が出来た。 

 宮田守みやた まもる。17歳。
 自慢ではないが、今まで一度も女子に告られた経験がない。漫画に出てくるようなイケメンならいざしらず、男子高校生としてごく平均的な容姿を持つ俺は、そういったこととは無縁なのだと思い込んでいた。けれど考えてみれば、世の彼女持ちの男たちの大多数はとびきりのイケメンという訳でもないのだし、むしろ平均的な男である俺は、平均的にこういった出来事が起きたっておかしくはないのかもしれない。

「えっと、小林さんは……」
「綾香。カレシなのに変だよ。私も守って呼ぶし」
「あ、じゃあ、綾香……は、俺のこと好きだったの?」
「うん? 好きだよ? 守って優しいじゃん。委員会の後いつも送ってくれるし」

 それは優しいっていうか、俺の中では常識っていうか。暗くなると駅前とか治安が悪いし、女の子一人は危ないから、俺は別に相手が小林さんじゃなくてもそうする。  
(好きってそんなモンなんだ?)
 随分とノリが軽いなって思うけど、俺だって別に小林さんを特別好きってワケでもないのに付き合うことにしてしまったのだから(ん? 俺OKって言ったか? 言ってないけどなんかそんな流れになってるっぽい)、文句は言えない。

 高校生同士のお付き合いなんて、それでいい。クリスマスにデートの予定が入れられるなんて、周りの奴らにちょっとした優越感だ。ちょっと楽しくなってきたな。
 ふっと頭に浮かんだのは、俺の家の向かいに住む幼馴染の顔だ。
 思えばこの十数年間、恋人たちの為に用意されたイベントを、ことごとく俺はこの男の幼馴染とこなしてきた。初詣しかり、夏の花火大会しかり、その他もろもろ。俺はともかく、アイツには彼女がいた時期もあった気がするのだが、とにかく俺たちは何かイベントごとがあればまずは二人で、というのが当然になっていた。

(今年はついに、アイツと別々のクリスマスになるのか)

 なんだかちょっと心細い気もするが、この年になって男同士でクリスマスを過ごしている方がきっと変だ。これでようやく、俺たちも普通の男子高校生のクリスマスってやつを過ごせるってワケだ。アイツは俺と違ってモテるから、俺に彼女が出来たって知れば、すぐに彼女作って、クリスマスもその子と過ごすだろう。だから俺が気に病むことなんて、全然ないんだ。

「綾香はクリスマスどこ行きたい?」
「んー、イルミが綺麗なとこ! ランドとかもよくない? ほら、これとか」
「あー、いいねー」

 さっきよりぐっと近くなった距離で、小林さんが俺の腕を掴んでスマホの画面を見せる。そこにはズラリとクリスマス用のデートプランが載っていて、見ているだけでワクワクした。
 小林さんはいわゆる量産型女子というやつで、流行の髪型に流行のメイク。正直俺にはよくわからないけど、普通に可愛いと思う。ぱっちりとした目が、上目遣いに俺を見上げて来る。ジワジワと”この子が俺の彼女”と言う実感が湧いてきて、たまらない気持ちになった。
 窓から差し込む夕陽と、部活で走っている野球部の声が遠くに聞こえる。俺たち以外は誰もいない、放課後の廊下。アニメとかで、何度となく見て来たシチュエーション。

(これは絶好のチャンスなのでは!?)

 俺はきょろきょろと辺りを見回してから、ぎこちなく身体を屈め、小林さんの顔に顔を近づけていく。俺がキスをしようとしているのを、小林さんの方も察したのだろう。ゆっくりと目を閉じた小林さんが、ほんの少し背伸びした。

 人生初の彼女とのファーストキス。
 心臓が飛び出しそうなほどドキドキしながら、その柔らかそうな唇に触れようとした。
 
 ――その時。
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