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プロローグ
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「いやぁ、おっしゃるとおりこの写真には悪霊が映ってますねぇ」
ほら、ここ、と千堂多季は一枚の写真を指さした。
応接用のソファーの真ん中に置かれたテーブルの、その上に広げられた複数の写真。それらの写真には全てに若い女性が映っている。
その中の一枚に、背景が暗い――おそらく夜に撮影された写真があった。多季が示しているのはその写真で、指の先には確かに何か白い靄のようなものがある。
それを見て、多季の前に座っている女性はぶるりと身体を震わせた。綺麗に上げられた睫毛が数度瞬いて、大きな瞳からはぼろりと涙が零れる。グロスの塗られた艶やかな唇は恐怖故か真っ青だ。
「……やっぱり、そうなんですね」
「大川さんの周りに起こっている不幸は間違いなくこの写真のせいでしょう。けれども大丈夫です! 写真はこちらで除霊しておきますから安心してください!」
「それで、もう悪いことは起きませんか?」
「はい。神楽宮陰陽探偵事務所が自信をもってお約束します」
よく上司兼同居人に胡散臭い、と言われる笑顔を張り付けて、多季は断言した。
絶対に悪いことは起こらない。それは間違いないので、何の憂いもなく力いっぱい頷くことが出来る。なにせ、この心霊写真は偽物だ。大方、光の反射か埃の加減で変な影が入ったのだろう。
しかし不安でいっぱいの依頼人にわざわざそんなことを言う必要はない。大切なのは相手の安心感。こちらの言葉で相手が納得して、お金を払ってくれればそれでいいのだ。
「よかった……」
ハンカチで目頭を押さえて言った彼女の言葉に、多季はにこりと微笑んで写真を手に取った。
「どうぞ、他にも気になる写真があれば遠慮なく置いていってくださいね」
「はい」
「それで、料金の方なんですけれども――」
つらつらと説明する多季の背後では、くつくつと笑いを堪える声がする。
事務所の窓を背にするように置かれたデスクに、座った男がこちらの様子を眺めては笑っているのだ。
その何とも無礼千万な態度に多季は舌打ちをしてやりたくなった。しかし、客の手前貼り付けた笑顔を崩すわけにはならない。故ににこにこと笑ったままの多季だったが、内心はそれどころではない。
こちらは真面目にやっているというのに、所長である彼がそんな態度では怪しまれるではないか。そんな気持ちを込めてじろりとにらみつけると、相手は肩をすくめて人差し指を一本だけたてた。
その瞬間、多季が持っていた写真が、突然ぼっと燃え上がった。
ライターやマッチでは決して点かない紫色の炎が、写真をゆっくりと舐るように燃やしていく。
もちろん、目の前の彼女は突然燃え上がった写真に驚いて目を見開いている。それに多季は取り繕うようにへらりと笑って言った。
「お焚き上げ、しておきました」
これが神楽宮陰陽探偵事務所の日常である。
ほら、ここ、と千堂多季は一枚の写真を指さした。
応接用のソファーの真ん中に置かれたテーブルの、その上に広げられた複数の写真。それらの写真には全てに若い女性が映っている。
その中の一枚に、背景が暗い――おそらく夜に撮影された写真があった。多季が示しているのはその写真で、指の先には確かに何か白い靄のようなものがある。
それを見て、多季の前に座っている女性はぶるりと身体を震わせた。綺麗に上げられた睫毛が数度瞬いて、大きな瞳からはぼろりと涙が零れる。グロスの塗られた艶やかな唇は恐怖故か真っ青だ。
「……やっぱり、そうなんですね」
「大川さんの周りに起こっている不幸は間違いなくこの写真のせいでしょう。けれども大丈夫です! 写真はこちらで除霊しておきますから安心してください!」
「それで、もう悪いことは起きませんか?」
「はい。神楽宮陰陽探偵事務所が自信をもってお約束します」
よく上司兼同居人に胡散臭い、と言われる笑顔を張り付けて、多季は断言した。
絶対に悪いことは起こらない。それは間違いないので、何の憂いもなく力いっぱい頷くことが出来る。なにせ、この心霊写真は偽物だ。大方、光の反射か埃の加減で変な影が入ったのだろう。
しかし不安でいっぱいの依頼人にわざわざそんなことを言う必要はない。大切なのは相手の安心感。こちらの言葉で相手が納得して、お金を払ってくれればそれでいいのだ。
「よかった……」
ハンカチで目頭を押さえて言った彼女の言葉に、多季はにこりと微笑んで写真を手に取った。
「どうぞ、他にも気になる写真があれば遠慮なく置いていってくださいね」
「はい」
「それで、料金の方なんですけれども――」
つらつらと説明する多季の背後では、くつくつと笑いを堪える声がする。
事務所の窓を背にするように置かれたデスクに、座った男がこちらの様子を眺めては笑っているのだ。
その何とも無礼千万な態度に多季は舌打ちをしてやりたくなった。しかし、客の手前貼り付けた笑顔を崩すわけにはならない。故ににこにこと笑ったままの多季だったが、内心はそれどころではない。
こちらは真面目にやっているというのに、所長である彼がそんな態度では怪しまれるではないか。そんな気持ちを込めてじろりとにらみつけると、相手は肩をすくめて人差し指を一本だけたてた。
その瞬間、多季が持っていた写真が、突然ぼっと燃え上がった。
ライターやマッチでは決して点かない紫色の炎が、写真をゆっくりと舐るように燃やしていく。
もちろん、目の前の彼女は突然燃え上がった写真に驚いて目を見開いている。それに多季は取り繕うようにへらりと笑って言った。
「お焚き上げ、しておきました」
これが神楽宮陰陽探偵事務所の日常である。
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