上 下
113 / 120
【三章】技術大国プラセリア

62.結末

しおりを挟む
「んーっ……休憩休憩っと」

 プラモ作りで凝り固まった身体をゆっくりと伸ばしながら、自室でプラモデル作りに没頭していた俺は、ひと息つくことにした。
 作業台の上に作りかけのパーツを置き、椅子に座りながらぼーっと窓の外を眺める。良い陽気だな、なんて思いながら、少し前に起きた出来事を思い返す。

 ――およそ一ヶ月前。

 ガオウとのあの大規模な戦いの結果、GODSは国民からの信頼を失った。トップの人間も失ったことで、社内は大混乱。地上と地下ともに、施設などの損壊も酷く、復旧にはかなりの時間がかかるようだ。
 俺たちはその隙に乗じて、再び入出国の規制がかかる前に帰国したというわけだ。
 ……もっとも、俺は魔力切れで丸一日寝ていたので、気がついたら馬車に揺られてたって感じだけど。

 これはあとで聞かされた話だが、少なくとも俺の知り合いは全員生き残っていたそうな。
 シルヴィアやフラム、アークライトの人間はもちろんのこと、二次選考で知り合った仲間たちも無事なようで安心した。顔を合わせられなくて残念だけど、GODSの圧政が緩和され、今後プラセリアの国際交流は大きく変化するだろう。
 すぐにとはいかないだろうが、もっと気軽に遊びに行けるようになる日が来るのも、そう遠くないと信じている。またプラセリアの仲間たちと会える日が非常に楽しみだ。

 それまでは、いつも通りの日常を過ごすことになる。かわいい嫁さんふたりと、趣味の時間が俺の心を満たしてくれる――。

「ケーくんご飯できたよー! リンが呼びに来ました!」

 バタンと勢いよく扉が開かれ、思い耽っていた俺は、驚きで身体が少々跳ねてしまう。……まあ、声からして誰の仕業かは明白だったので、すぐに落ち着いたけども。
 音がしたほうへ振り向くと、予想通り可愛らしい水色の猫耳が視界に入る。

「おーう、すぐ行くよ」

 ――そうそう、忘れちゃいけない。俺のいつも通りは更新されたんだったな。

 俺には新しい家族が増えた。プラセリアで出会った猫の獣人リンと、狼の獣人カティアのふたりだ。
 キャッツシーカーという会社を二人で経営してたんだけど、まあいろいろあって、彼女たちは俺といっしょにプラセリアを出て、今はこの屋敷で暮らしている。

「どーん!」

「うわっ! リン、どうしたんだ?」

 すぐ行くと言ったにも関わらず、リンは俺が椅子から立ち上がる前に突進してきた。元気なのはいいんだけど、俺の身体のことも少しは労って欲しい。こちとら運動不足の引きこもりぞ。
 
 しばらくはされるがままにしていたが、リンはいまだ俺にくっついており、離れる気はなさそうだ。
 ……あれ、ご飯に呼びに来たのでは?

「ぐりぐり~」

 リンは俺の膝の上に跨がり、胸あたりに頭を擦りつけて、満足そうに目を細めている。
 前からこんな感じだったけど、リンのスキンシップはこっちに来てからずいぶんと大胆になった気がする。当然、悪い気分ではないのだが、嫁さんがいるとはいえ、女の子慣れしてない俺には少々刺激が強い。

「リ、リン。そろそろ降りてくれないか……? ほら、リンもお腹空いただろ?」

 すぐに飽きるだろうと高を括っていたが、リンはいつまで経っても離れる様子はなかった。このままでいるわけにもいかないので、降りるよう諭してみる。

「やー。ケーくんの匂いすきー」

「そ、そりゃどうも……?」

 なぜか礼を言ってしまったが、このままではみんなを待たせてしまうことになる。我が家のルールとして、『食事は可能な限り全員集まって食べること』と決めたのは俺だ。
 そう決めた本人が遅刻してしまっては、面目が立たない。シルヴィアは笑って許してくれるだろうけど、フラムは元王族だけあって厳格なとこがあるからなぁ……。

 どうやってどいてもらおうか考えていると、ふと身体が軽くなる。

「ったく……こんなことだろうと思ったぜ。やっぱり遊んでやがったな?」

 やれやれといった感じで、リンを脇腹あたりを掴みひょいっと持ち上げたのは、カティアだった。どうやらリンが本来の目的を忘れることを予測していたみたいだ。相変わらずの以心伝心っぷりだな。

 リンがいなくなったので、か「よっこらせ」とおっさんみたいな掛け声とともに俺は椅子から立ち上がり、やや目線を上げて笑みを浮かべた。

「ありがとな、カティア」

「お、おう……。気にすんなよ」

 なぜか頬を赤らめながら、カティアは目線を逸らしてしまった。
 リンはというと、カティアに抱えられながら、むすっとした表情で頬を膨らませている。

「むー、カーちゃんが邪魔するー」

「あのなあ、リン。シルヴィアとフラムローゼを待たせてるだろ? ふたりが嫌いになったのか?」

「むっ、そうだった! シーちゃんとフーちゃんが待ってるんだった! ほらほら、早く行かなくちゃだよ、カーちゃん!」

「やれやれ……」

 そう言って、カティアの腕を器用にするするとすり抜けていったリンは、我先にと食卓へ飛んでいく。そんな背中を見送りながら、カティアは軽くため息を吐いた。

 再び目があった俺とカティアは、お互いに苦笑いをしながら、リンのあとを追うのだった。


 ――ああ、なんて幸せな時間だろう。
 彼女たちの背中を追いかけながら、ふとそう思った。

 シルヴィア、フラム、カティア、リン。この世界で出会った大好きな女の子たちと笑いあって、なにげない日常を送る日々。それに加えプラモデルだってある。俺にとってこんなに幸せなことはない。

 最初にこの世界に来たときは、俺の持つ『モデラー』のスキルに絶望しかなかったけど、今となってはこれ以上俺に相応しいスキルはないと思っている。

 この世界に来れて……このスキルを持っていてよかった。そう思うと同時に、俺はひとつ決意をする。

 俺のスキルは絶対的な強さがあるわけじゃない。一般等級コモングレード銀等級シルバーグレードに勝ったり、コンペティションで順調に勝ち抜いたり……少し調子に乗っていた部分があった。
 でも、圧倒的な力の前では、俺なんか大したことはない。ガオウ戦ってそのことが身に染みた。

 だから、今後どんなトラブルに巻き込まれたって、大切な人を守れる強さが欲しい。
 どんな敵が現れても、どんな困難に直面しようとも、打ち克つ強さが。

 大切な人との、かけがえのない時間。それ守り抜いてみせる。俺はそう強く心に誓った。

 そう、この『モデラー』のスキルとともに――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界旅館『えるぷりや』へ! ~人生に迷った僕が辿り着いたのはムフフが溢れる温泉宿でした~ 

日奈 うさぎ
ファンタジー
〝今、僕の尊厳が危ない!(性的に)〟  青年・秋月夢路は偶然、奇妙な宿へと辿り着く。一見は高級和式旅館。しかし泊まる客はどう見ても人間じゃない。しかも充てられた「担当者」は妙に距離感が近いし、温泉にまで一緒に入って来るだって!? ……だけどこのシチュエーションを恥じるのはどうやら地球人だけらしい。この旅館に集まるのは性に寛容的な方々ばかり。たとえ人前で「行為」にふけろうとも誰も気にしない場所だという。これが真の多様性!?    そんな不思議な場所との縁ができた夢路は徐々にのめり込んでいく。旅館の効力と、従業員や客達との出会いと触れ合いに惹かれて。もちろん健全な意味で、ファンとして。  でも夢路と触れ合った女性は皆、なんだか彼に性的に惹かれているんだけど? ネコミミ少女もウサミミレディも、エルフの姫も羊ママも、ついでに触手生物も。怒涛の愛溢れるその旅館で、夢路は果たして奥底に隠れた願いを成就できるのだろうか……。  ちょっぴりドジだけど可愛い女将に、個性豊かな従業員達。常連さんや一見さん。ありとあらゆる人種・亜人・異生物が集う場所で一人の青年が奮闘する! ラブみがちょっと強火なハートフルラブコメファンタジー、遂に開店です! いかがわしくないよ!(たぶん) ※毎日19時に更新しています。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

睡眠スキルは最強です! 〜現代日本にモンスター!? 眠らせて一方的に倒し生き延びます!〜

八代奏多
ファンタジー
不眠症に悩んでいた伊藤晴人はいつものように「寝たい」と思っていた。 すると突然、視界にこんな文字が浮かんだ。 〈スキル【睡眠】を習得しました〉 気付いた時にはもう遅く、そのまま眠りについてしまう。 翌朝、大寝坊した彼を待っていたのはこんなものだった。 モンスターが徘徊し、スキルやステータスが存在する日本。 しかし持っているのは睡眠という自分を眠らせるスキルと頼りない包丁だけ。 だが、その睡眠スキルはとんでもなく強力なもので──

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...