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【三章】技術大国プラセリア

14.魔動人形の不思議

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「よし、じゃあまずは腕をなんとかしないとだな」

「なんとかするー!」

 他の魔動人形があれば差し替えをすれば事が済むのだが、残念ながら今手元には何も無い。
 となると、イマジナリークラフターを使うしかないのだが……失敗もあるみたいだし慎重にやらないとな。

「なあリン、イマジナリークラフターは俺でも使えるのか?」

「うーん……わかんない! でもカーちゃんは「オレには無理だ」って言ってたよ」

 うーん、人によって適性があるのだろうか。
 まあ物は試しだ、まずはやってみよう。

「少しやってみてもいい?」

「うん、いーよ!」

 作業場へ移動し、装置の前に座る。

(やっぱり魔動人形のコックピットに似てるな……)

 昨日リンがやっていたのを思い出しながら専用のゴーグルを装着し、スフィアに触れる……が、特に何かが起こる様子がなかった。
 俺には適性がなかったのだろうか、属性適性もゼロだったし、その可能性も十分あるかもしれない。

「あっ、ごめんねケーくん。リンが触らないと動かないんだった!」

「えっ、そうなの?」

 生体認証機能でもあるのかな?
 そう思ってゴーグルを外そうとした時、体に衝撃が走った。

「ぐえっ!」

「うんしょっと……」

 この暖かい感触……リンが俺の膝の上に乗ってきたのか!?

「ちょ、リン!?」

「いくよー!」

 スフィアに置かれた俺の手にリンの手が重なる。
 すると装置が起動したのか、真っ暗だった視界が白く染まる。

「おお!? これは凄いな……!」

 眼前に広がるのは真っ白で何もない空間。それがずっと続いていた。

 何もないと思われた空間だったが、その中央に黒い球体が浮かんでいた。

「この黒いのはなんだ……?」

「えとね、それをコネコネするんだよ!」

 コネコネ? 粘土みたいなもんなのか?
 というか触れるのかこれ。

 そもそも手はスフィアに置かれているので動かせない。いや、スフィアと同じ機能があるならイメージすればいけるのか……?

 俺は球体を粘土に見立て、四角くなるようイメージをする。
 すると思惑通りに球体は形を変え、立方体へと変形したのだった。

「おおっ! 楽しいなこれ!」

「でしょー? 楽しいよね!」

 これをパーツの形に整形していけばいいんだな。
 スクラッチビルド……様々な素材を用いて一からプラモデルを自作した経験はあるけど、手間がかかるし完成されたキットに比べたら出来映えも悪い。

 でもこれならイメージ通りに好きなパーツを作り出すことができるんじゃないか?
 男の子なら誰もが夢見た『俺の考えた最強のロボット』を実現することすら可能に思える。

 だが原料も有限だ。今日集めた分だけだと両腕をつくるので精一杯だろう。
 
 の話だが。

「さて、どうしたもんか……。リンはいつもどうやって作ってるんだ?」

「えーとね、コネコネして~、びびっときてみょーんってやるの」

「そ、そっか……」

 ……うん。まったく参考にならない。

 何をすれば失敗するかとかの条件を把握できればよかったんだが、そうもいかないらしい。
 こうなればぶっつけ本番でやるしかないか。

 大丈夫だ、今までプラモデルは死ぬほど作ってきた。
 一つのパーツを想像するなんて朝飯前のはずだ。

「よし、やるぞ……!」

 せっかく自分の想像が形になるんだから、何かしらのギミック的なものをつけてみよう。
 実際に思い通りになるかは未知数だけど、普通の腕じゃつまらないもんな。

「……ところでリンはいつまで乗ってるんだ?」

「えー? でもリンが触ってないと動かないよ?」

 起動時だけじゃなくて、リンが触れていなければいけないのか。この機械は完全にリン専用に作られているんだな。

 まあそういうことなら膝に乗ったままでもいいか。

「ごめんごめん、じゃあリンはそのままサポートよろしく! 待ってろよー、凄いの作ってやるからな!」

「わーい! たのしみ!」
 
 意識を黒い立方体へと集中させる。
 
 イメージすることで粘土のように形を変える不思議な物体。それを前腕部の形へと成形する。
 
(大丈夫……プラモデルの構造は理解している。俺は知っている通りに形を整えるだけでいいんだ)

 幸いなことに、頭で思い描くだけで形を変えることができたので、シンプルだがベースとなる形はすぐにできあがった。

 よし、これなら可動域もしっかり確保できている……ハンドパーツも想像通りだ。

 ――――考えてみれば不思議なもんだな。このハンドパーツは握り拳で固定されているのに、実際に戦う時には本物の手のように指を一本一本自在に動かせるんだもんな。
 スラスターや武器だってそうだ。プラモデルの状態では当然スラスターを噴かしたり、弾を撃つことはできない。

 言ってしまえば機体含めだ。だけど起動式を唱え巨大化した後は、銃は銃として、スラスターはスラスターとしてちゃんと機能する。
 
(つまり、デザインを読み取って自動的にその機能が付与される仕組みなのか……?)

 ――あっ!

 いいこと思い付いたぞ。腕のギミックっていったらこれだよな。
 さて……上手くいくかわからないけど、やってみる価値はありそうだ。



「――よし、完成したぞ!」

「んー……できた~?」

 リンの眠たげな声が聞こえる。
 集中していてどれぐらい時間が経ったのかわからなかったが、リンはそのままの体勢で寝てしまっていたようだ。

「ごめんなリン、起こしちゃったか。――お?」

 成形を終えたパーツが光り輝き、数瞬後には光りとともにパーツはきれいさっぱり消えていた。
 
「うっそぉ、消えた!?」

「だいじょぶだよ。できあがるとピカーって光って、あっちから出てくるの」

 そうなのか……。データぶっ飛んだかと思ってめっちゃ焦ったわ。
 多分俺の『完成した』という思考を読み取って、自動的に出力したんだろう。

 期待半分、不安半分の心持ちでゴーグルを外した俺は、例の電子レンジ的な見た目の機械の前で待機する。

「うまいことできてればいいんだが……」

「わくわくなのだ~」

 機械がガタガタと揺れ動き、煙を噴出している。
 今まさに出力中のようだ。

 前にも見たけどこれ結構怖いよな――あ、ていうか失敗したら爆発するんだよな。
 わざわざ機械の前で待たないで退避していた方がよかったのでは……?

 逃げるタイミングを逸してしまったが、幸運にも今回のパーツ生成は成功したようだ。暴れていた機械が沈黙している。

「リンが開けるのだー!」

 リンは俺の膝から飛び降り、機械の蓋を開け完成品を取り出した。

「おおー、これがケーくんの作ったやつ? おっきい腕だね」

「ああ、原料を余すことなく使ったからな」

 ギミックを盛り込んだこともあり、前腕部のパーツは平均的なものよりも五割増しぐらいの大きさがある。
 
「よし、これで機体は五体満足の状態で出られそうだな。あとはいったんバラして補修しつつ組み立てなおそう。あとは武装の選択と塗装と……ああっ、やることが多いな」

 時間的猶予があまりないのは毎度のことだけど、今回はいつにも増して時間がない。
 果たしてこの程度の改造でトップに立てるのかと、不安になってしまう。

「ケーくん、リンも手伝うよ! あとカーちゃんもいるよ!」

「――ああ、そうだったね。よーし、皆で協力して一等賞目指そう! えいえい、おー!」

「おー!」

 その後カティアにも作業を分担し、深夜まで時間をかけてなんとか納得いく完成度まで仕上げることができた。
 
 あとは本番を待つのみ。
 俺は重い瞼に逆らうのをやめ、深い眠りに落ちた。
 
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