52 / 120
【三章】技術大国プラセリア
1.プラセリアからの使者
しおりを挟む
突然だが俺は家を手に入れた。
今俺が住んでいるのはザッコブが治めていた土地、『アステイル』にある領主館。
前にお世話になっていたヴァイシルトの館に比べればこじんまりとしているが、一庶民だった俺からしたら十分すぎる豪邸だ。
なぜ庶民の俺がここに住んでいるのかというと、決闘の結果ザッコブが失脚したことで、なぜだか俺が後釜としてここの領主としての任に就くことになった。
まあ領主といっても名ばかりで、実際に領地のあれこれを取り仕切っているのは別の人間だ。
その人物とは二人の少女、『シルヴィア』と『フラムローゼ』だ。ちなみに二人とも俺の嫁である。
その一人のフラムローゼ……おっと、愛称で呼ばないと機嫌を損ねるんだった。
フラムは元王族であり、決闘による報酬で俺の嫁さんになった子だ。
俺との結婚のために王族であることを捨てるほどの思いきりのよさと、強気でサバサバとした性格が特徴の女の子だ。
紅葉のように映える赤髪と整った顔立ち……更にははち切れんばかりのワガママボディを持つ美少女が嫁に来るって言うんだ、男としては光栄の一言に尽きる。
もう一人の少女、シルヴィアは俺がこの世界に来て初めて知り合った女の子だ。
セミロングの美しい金髪に青空のように澄んだ碧眼、真面目な性格の女の子だ。
ヴァイシルト家という由緒ある家の生まれでありながら、驕らず謙虚で堅実、礼儀正しい子というのが俺の印象だった。
でも俺がフラムと結婚するという流れになったとき、顔を真っ赤にして『待った』をかけてきたときはさすがに驚いたな。
そしてなぜだかシルヴィアまで俺の嫁になったのだ。
なんだ……俺はここで一生分の運を使い果たしたのか?
こんな可愛い子が二人も同時に嫁に来るとか、下手したら来世の分まで運気を持ってかれてるかもしれないな。
――とまぁなんやかんやで三人の共同生活が始まったんだが、俺はトラブルを招く体質なのか……また面倒な事態に陥りそうな出来事が起きた。
ある日三大大国の一つである『プラセリア共和国』より、俺に会いに来たという客人が一人来訪したのだ。
初見で受けた真面目そうな印象から一変、急に自由奔放な振る舞いをする狼の獣人の女性、カティア・リーヴォルフを前に狼狽していた。
「……ん? なんだァその顔は? 今更さっきの言葉を取り下げるだなんて言ったって聞かねぇぞオレは」
「……あ、いやちょっと驚いちゃってね」
確かにさっき楽にしていいとは言ったけど、限度ってものがあるでしょうよ。態度そのものが変わっちゃってるもの。
まあ、多分こっちの不遜な性格の方が素で、さっきまでは無理して体裁を整えていたんだろうな。
俺としては直接的な被害がなければどっちでもいいんだが……。
「ちょっとあなた、ここはわたくしたちの家でしてよ。家主である旦那様に対してその態度は失礼じゃなくて!?」
あ、やっぱりフラムは怒るよね。
初対面のうえ他人の家の中で取る態度じゃないし、フラムが怒るのも無理はないが……何か被害を受けたわけじゃないし、わざわざ波風を立てるほどでもない。
これ以上険悪な雰囲気になる前に止めておこう。
俺はフラムを手で静止させ、耳打ちする。
「フラム、大丈夫だから。ここはきっと俺の器の大きさの見せ所だよ。だから俺の顔を立てると思って……ね?」
「旦那様……わかりましたわ」
フラムは納得してくれたようで、冷静さを取り戻したようだった。
シルヴィアも俺の意図を汲んでくれたようで、目配せをすると静かに頷き返してくれた。
「ハッ、内緒話は終わりか? なんだ、このオレもあんたのハーレムに加えようって魂胆か?」
「えっ!? ケイタさん……本当ですか!?」
シルヴィアさん!? さっきのアイコンタクトはなんだったの!?
カティアさんの発言に心底驚いたような表情をするシルヴィア。俺のことをなんだと思ってらっしゃるのでしょうか。
確かに長身でモデルさんみたいだなーとか、尻尾と耳をモフモフしたいとか、見た目クール系の美人が荒い性格なのもギャップがあっていいなーとか思っていたけど、嫁に迎えたいとはほんの少ししか思ってないからね!
「ち、違うからねシルヴィア。……カティアさんも無駄に挑発するようなこと言わないでいただきたい!」
「……あァ、すまねぇすまねぇ。少しからかいたくなってよ。それと、呼び捨てでかまわねぇよ。オレもそうすっから」
「……わかったよカティア。――それで、今日ここへ来た用件はなんだ?」
わざわざ国を跨いでまで俺個人に会いに来たってことは、それなりの理由があるのだろう。
俺は固唾を呑みながら返答を待った。
「おう、まどろっこしいことは嫌いだから簡潔に言うぜ? ケイタ、あんたの腕をウチのボスが欲している。少しでいいんだ、わりぃがプラセリアまで来てくんねぇかな?」
「――ボス? 何かの組織なのか?」
共和国というからには王政国家ではないはずだ。ということは国そのものからの働きかけではないだろう。
もしヤバい組織からのお誘いだったらお断り一択だ。カティアの返答次第では即座に帰っていただくことになるな。
「安心しな、ウチは至極まっとうなカンパニーだよ。オレはまぁ……こんな性格だがそこは信用してほしい」
カンパニー……会社か。
そういや前にプラセリアについて少し調べたっけな。
プラセリアでは数多くのカンパニーが立ち上げられ、それぞれが覇権を争い合っているんだったか。
ふむ……正直に言うと是が非でも行きたい。この世界における最高峰のプラモデル制作技術ってのを見てみたいし、吸収できるところがあれば取り入れたいしね。
でも一応俺も今は領主やってるし、国から出るのって絶対なんかしらの手続きいるよね?
それにいつ帰ってこれるかもわからないし、アークライト王国への魔動人形の納品ノルマもあるしなぁ……。
俺の前向きな気持ちとは裏腹に、実際はしがらみだらけだ。
――はて、どうしたものか。
今俺が住んでいるのはザッコブが治めていた土地、『アステイル』にある領主館。
前にお世話になっていたヴァイシルトの館に比べればこじんまりとしているが、一庶民だった俺からしたら十分すぎる豪邸だ。
なぜ庶民の俺がここに住んでいるのかというと、決闘の結果ザッコブが失脚したことで、なぜだか俺が後釜としてここの領主としての任に就くことになった。
まあ領主といっても名ばかりで、実際に領地のあれこれを取り仕切っているのは別の人間だ。
その人物とは二人の少女、『シルヴィア』と『フラムローゼ』だ。ちなみに二人とも俺の嫁である。
その一人のフラムローゼ……おっと、愛称で呼ばないと機嫌を損ねるんだった。
フラムは元王族であり、決闘による報酬で俺の嫁さんになった子だ。
俺との結婚のために王族であることを捨てるほどの思いきりのよさと、強気でサバサバとした性格が特徴の女の子だ。
紅葉のように映える赤髪と整った顔立ち……更にははち切れんばかりのワガママボディを持つ美少女が嫁に来るって言うんだ、男としては光栄の一言に尽きる。
もう一人の少女、シルヴィアは俺がこの世界に来て初めて知り合った女の子だ。
セミロングの美しい金髪に青空のように澄んだ碧眼、真面目な性格の女の子だ。
ヴァイシルト家という由緒ある家の生まれでありながら、驕らず謙虚で堅実、礼儀正しい子というのが俺の印象だった。
でも俺がフラムと結婚するという流れになったとき、顔を真っ赤にして『待った』をかけてきたときはさすがに驚いたな。
そしてなぜだかシルヴィアまで俺の嫁になったのだ。
なんだ……俺はここで一生分の運を使い果たしたのか?
こんな可愛い子が二人も同時に嫁に来るとか、下手したら来世の分まで運気を持ってかれてるかもしれないな。
――とまぁなんやかんやで三人の共同生活が始まったんだが、俺はトラブルを招く体質なのか……また面倒な事態に陥りそうな出来事が起きた。
ある日三大大国の一つである『プラセリア共和国』より、俺に会いに来たという客人が一人来訪したのだ。
初見で受けた真面目そうな印象から一変、急に自由奔放な振る舞いをする狼の獣人の女性、カティア・リーヴォルフを前に狼狽していた。
「……ん? なんだァその顔は? 今更さっきの言葉を取り下げるだなんて言ったって聞かねぇぞオレは」
「……あ、いやちょっと驚いちゃってね」
確かにさっき楽にしていいとは言ったけど、限度ってものがあるでしょうよ。態度そのものが変わっちゃってるもの。
まあ、多分こっちの不遜な性格の方が素で、さっきまでは無理して体裁を整えていたんだろうな。
俺としては直接的な被害がなければどっちでもいいんだが……。
「ちょっとあなた、ここはわたくしたちの家でしてよ。家主である旦那様に対してその態度は失礼じゃなくて!?」
あ、やっぱりフラムは怒るよね。
初対面のうえ他人の家の中で取る態度じゃないし、フラムが怒るのも無理はないが……何か被害を受けたわけじゃないし、わざわざ波風を立てるほどでもない。
これ以上険悪な雰囲気になる前に止めておこう。
俺はフラムを手で静止させ、耳打ちする。
「フラム、大丈夫だから。ここはきっと俺の器の大きさの見せ所だよ。だから俺の顔を立てると思って……ね?」
「旦那様……わかりましたわ」
フラムは納得してくれたようで、冷静さを取り戻したようだった。
シルヴィアも俺の意図を汲んでくれたようで、目配せをすると静かに頷き返してくれた。
「ハッ、内緒話は終わりか? なんだ、このオレもあんたのハーレムに加えようって魂胆か?」
「えっ!? ケイタさん……本当ですか!?」
シルヴィアさん!? さっきのアイコンタクトはなんだったの!?
カティアさんの発言に心底驚いたような表情をするシルヴィア。俺のことをなんだと思ってらっしゃるのでしょうか。
確かに長身でモデルさんみたいだなーとか、尻尾と耳をモフモフしたいとか、見た目クール系の美人が荒い性格なのもギャップがあっていいなーとか思っていたけど、嫁に迎えたいとはほんの少ししか思ってないからね!
「ち、違うからねシルヴィア。……カティアさんも無駄に挑発するようなこと言わないでいただきたい!」
「……あァ、すまねぇすまねぇ。少しからかいたくなってよ。それと、呼び捨てでかまわねぇよ。オレもそうすっから」
「……わかったよカティア。――それで、今日ここへ来た用件はなんだ?」
わざわざ国を跨いでまで俺個人に会いに来たってことは、それなりの理由があるのだろう。
俺は固唾を呑みながら返答を待った。
「おう、まどろっこしいことは嫌いだから簡潔に言うぜ? ケイタ、あんたの腕をウチのボスが欲している。少しでいいんだ、わりぃがプラセリアまで来てくんねぇかな?」
「――ボス? 何かの組織なのか?」
共和国というからには王政国家ではないはずだ。ということは国そのものからの働きかけではないだろう。
もしヤバい組織からのお誘いだったらお断り一択だ。カティアの返答次第では即座に帰っていただくことになるな。
「安心しな、ウチは至極まっとうなカンパニーだよ。オレはまぁ……こんな性格だがそこは信用してほしい」
カンパニー……会社か。
そういや前にプラセリアについて少し調べたっけな。
プラセリアでは数多くのカンパニーが立ち上げられ、それぞれが覇権を争い合っているんだったか。
ふむ……正直に言うと是が非でも行きたい。この世界における最高峰のプラモデル制作技術ってのを見てみたいし、吸収できるところがあれば取り入れたいしね。
でも一応俺も今は領主やってるし、国から出るのって絶対なんかしらの手続きいるよね?
それにいつ帰ってこれるかもわからないし、アークライト王国への魔動人形の納品ノルマもあるしなぁ……。
俺の前向きな気持ちとは裏腹に、実際はしがらみだらけだ。
――はて、どうしたものか。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。
きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕!
突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。
そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?)
異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!
矢立まほろ
ファンタジー
大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。
彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。
そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。
目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。
転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。
しかし、そこには大きな罠が隠されていた。
ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。
それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。
どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。
それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。
果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。
可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる