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【一章】異世界でプラモデル

12.熱中

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 パチン。

 スキルで召喚したニッパーを使って、ランナーと各パーツを接続している部分、『ゲート』を切り離していく。
 ニッパーはあの時より小さいものを選択したが、鎖を切断できるだけあって切れ味は文句無しに良い。

 パチン、パチン。

 うーん、この音! プラモデル作ってるって感じがして好きなんだよなあ。
 まだ1日しか経ってないけど、まさかこの世界でまたこの音が聞ける日がくるとは思ってなかっただけに、感動もひとしおだ。

 まずはパーツの形にそって切るのではなく、ゲートを少し残して切り取るのがコツだ。無理やりギリギリの所を切ろうとすると、接続部に負荷がかかって白化してしまうことが多い。
 キレイにパーツを切り取るには、少しだけゲートを残した後にヤスリ等で削り取る処理。いわゆるゲート処理をするのがいいだろう。

 スキルでヤスリを召喚できるから問題ない。まずは金属ヤスリで大雑把にゲート部分を削り、そのあとは順に紙ヤスリの目を細かくしていきながら慎重にパーツの面に合わせていく。

「よし、こんなものかな」
 
 最後はかなり細かい仕上げ目のヤスリを使う。すると、切断面がほぼ目立たなくなり、美しく仕上げることができるのだ。ここに塗装をすれば完全に見えなくなるだろう。

 もっと道具があれば時短も可能なのだが、1パーツのゲート処理を終えるのに10分はかかった。
 幸いパーツ総数は多くないので、明日までには余裕で作り終わるだろう。

「よっし! どんどんパーツの処理していきますか――」

 その後も黙々と作業をしていると、部屋の扉をノックする音が響く。
 その乾いた木の音で、作業に集中していた俺の意識が引き戻される。時間を気にしてなかったけど、作り始めてから結構な時間が経過した気がするな……。

「――はーい、どうぞ」

 ノックの主へと返事をすると、扉を開けて中へと入ってきたのはシルヴィアだった。

「ケイタさん? お待ちしていたのですが、なかなか部屋から出てこられないようでしたので来てしまいました」

「待ってた? ……あ」

 シルヴィアが持っていたものを見て腹の虫が鳴った。
 シルヴィアは食事の時間になっても現れない俺を心配して、食事を持ってきてくれたのだ。

「ごめん……集中しすぎてお腹が空いているのに今気が付いたよ」

 危ない危ない。途中で倒れたらシャレにならないな。
 シルヴィアが来てくれてよかった。というか……もうそんな時間なのか。後は組み立てるだけで終わりだとは言え、思ったより時間かかかったな。

「私たちのために頑張ってくださるのはありがたいのですが、あまり無理はしないでくださいね」

 自分の家が無くなる可能性があるのに俺の心配をしてくれるだなんて、やっぱり優しい子だな。
 シルヴィアのためにも、もうひと踏ん張りだ!

 ……とはいえ、空腹で倒れたら元も子もない。
 食事を摂るためいったん休憩を挟むことにしよう。

「心配してくれてありがとう。じゃあ早速食べようかな」

 
 食べた後、俺はシルヴィアからいろんな話を聞いた。
 この世界、『アルズガルド』のことを。

 この世界には魔法やスキルなんかは異世界テンプレよろしく存在するのだが、かつてあった国家間の戦争では魔動人形マギアドールをどれだけ投入したかで戦況が決まっていたらしい。

 それはそうだろう。10メートル級のデカブツが相手なんだから、生半可な魔法や剣技では太刀打ちできないだろう。
 それこそ俺が最初に見たドラゴンと良い勝負が出来るぐらいの猛者じゃないと、相手にすらならない。

 しかもそんな戦力があるにも関わらず、一定以上の魔力を保有していれば誰でも乗れるときたものだ。一度乗ってしまえばドラゴン級の力を振るえるのだ、そりゃあ保有数が大勢を決するのも頷ける。

 とはいえ、実際にこの目で見たわけじゃないし、今俺の手で作ってるこいつにそんな力があるだなんて想像できない。
 まあ……俺が乗るわけじゃないし、今回の俺の仕事はこいつを完璧に仕上げることだ。

 ゲート処理とかして意味があるのかは知らんけど……モデラーのさがとして、雑になんて作れない。
 もう少しで完成するとシルヴィアに伝えると、彼女は嬉しそうに退室していった。

「さて……あとは組み立てるだけだし、サクッと終わらせて今日は寝よう。」

 ピロン

「ん? スマホから通知……?」

 俺が作業を再開しようとしたその瞬間、スマホから久々に通知音が鳴った。
 慌てて画面を見た俺は、頭を抱えることになる。

「――あー、これは徹夜コースかもな……」
 
 長い夜が、今始まった。
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