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【最終章 地炎激突】
断罪の剣
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フレアルドはあり得ないことに、たった一人の男のために陸軍部隊全軍を動かすつもりなのだ。
そんなことをしても、帝国との戦いに有利になるわけでもない。むしろ軍を辺境の地へ集中させた隙を突かれて、一気に攻め入られる危険性の方が遥かに高い。
もっと言うならば、フレアルドの標的であるアースには、頭を下げてでも助力を乞うべきだとゴラウンは考えていた。
それほどまでに魔王軍の現状は厳しい。
「フレアルド様……本気でそうお考えなのですか?」
「あァ? なんか文句でもあんのか?」
「…………」
「フン……まァいい」
フレアルドはよろけながらも立ち上がり、口を閉ざしてしまったゴラウンに背を向け、たどたどしく歩き出す。
「チッ……まだまともに歩けもしねェか……おい、とりあえず肩を貸せ、ゴラウン。なァに、半日もあれば一人で歩けるぐらいには回復――――」
フレアルドが突然感じたのは冷たい感触。それは脇腹を通り抜け、次第に燃えるような熱を帯びていく。
何かと思いフレアルドがその感覚の発生源を見ると、赤く染まった刀身が目に入った。そう、背後から剣で脇腹を刺し貫かれたのだ。
「――な……にしやがる! ゴラウン――ガハッ!」
フレアルドを刺した人物、それはゴラウンだった。
ゴラウンは膝を突くフレアルドを刺し貫き、その後、背後から押し倒し、顔を踏みつけた。
「あなたの考えはよくわかりました……このままでは国が滅びかねない。私が、今ここであなたを討ちます……!」
ゴラウンはフレアルドの元へ来るまでに、ある覚悟を決めていたのだ。
フレアルドがこれ以上暴走するのかどうかを見極め、その結果によっては刺し違えてでも止めようという、決死の覚悟だ。
フレアルドがアースに負けたことで、彼に関わる事を諦めてくれるならばそれでよかった。
しかし実際は敗北したことで復讐の炎を更に燃え上がらせ、あり得ない采配を下そうとしていたのだ。
このままこの男の好きにさせては、近いうちに魔王国は滅びる。ゴラウンはそう判断したのだった。
「ふ――ざ、けるなァァァッ!!」
こう押さえつけられては、今の衰弱したフレアルドの力では、立ち上がることすら出来ない。
まともな攻撃手段がないフレアルドが取れる手段は一つだけだった。
フレアルドの怒りに呼応し、フレアルドの体が激しい熱を帯びる。
熱に耐えきれずゴラウンが離れれば、剣を一気に引き抜くことができ、体も自由になる。そういう算段であった。
しかし、ゴラウンはその手を離さないでいた。そのせいで、溶解寸前まで熱せられた剣が、それを掴むゴラウンの手の平を焼いた。
「――くっ、ああああっ!」
「くっ……こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 貴様も、貴様の家族もまとめて処刑してやる……!」
「あなたは……あなたは自分のことしか考えていない! 味方のことはゲームの駒としか思っていない! 兵士の中には戦いを望まない者だっている。しかし彼らは守るべきものがあるから戦っているんだ! その想いを踏みにじり、道具のように扱うなど許せるものか!」
魔王クロムが作った百年の安寧の時は、魔王国の長い歴史の中のほんの一部にしか過ぎないが、その時代を生きた人々にとっては決して短くない。
今までは魔族と人間族が争うのは当然だと、そういうものなのだと誰もが思い込んでいた。
しかし、いざ争うことがなくなると、戦いそのものに疑問を持つ者も少なくなかった。
ゴラウンもその内の一人だったのだ。
「――何をゴチャゴチャと……!」
「クレアだって平和を望んでいた! だから戦争を早く終わらせようと、戦いが苦手なくせに軍に志願したんだ! それなのにあなたは……!」
「クレアだァ? 誰の話をしてやがる!」
「あなたに殺された……私の妹だっ!」
フレアルドに仕えていた秘書官。彼女はゴラウンの妹だった。
両親やゴラウンの反対を押しきり、軍に入隊したことで大喧嘩をし、疎遠になってはいたが、ゴラウンは常にクレアのことを気にかけていた。
だがある日突然に、フレアルドによって理不尽に命を奪われた。
決して表には出さなかったものの、ゴラウンの心の内では腸が煮えくりかえるのを必死に押さえ込んでいたのだ。
怒りに任せて手を出しても、到底勝てない相手。そして自分が返り討ちにあうだけならまだしも、まず間違いなく残された隊員たちにも被害が及ぶ。
故に必死で平静を装い、堪え忍んだことで、この千載一遇の機会を得ることができた。
もちろんフレアルドが死ぬことによる影響は考えた。こんな男でも、個の戦力としては圧倒的だ。帝国からの進攻の抑止力としてはかなり大きい存在だった。
しかし先の復讐しか頭にない発言と、家族を殺された恨み。それらが合わさったことで、ゴラウンは覚悟を決めたのだ。
「私の残り僅かな命……ここで全て使いきる! おおおおおっ! 『生命解放』!」
ゴラウンの体が煌めき、凄まじい量の魔力を纏った。彼もまた天与を持つ者だったのだ。
ゴラウンが得た天与、『生命解放』。それは、自身の寿命を削ることで瞬間的に凄まじい力を発揮することができる能力。
「なっ!? この力は――――」
ゴラウンの年齢は、竜人族の平均寿命の半分にも満たないが、かつての戦いでこの天与を酷使してきたことにより、残された寿命はあと僅かであった。
この天与を持っている影響か、ゴラウンは自分の寿命がどの程度残っているのかを、感覚的に知り得たのだ。
ゴラウンは、より確実にフレアルドを滅するため、残りの寿命全てを力へと変換する。
そして、剣を媒介にして大規模な魔力の爆発を起こした。
「――クレア。今、そちらに行くぞ……」
「チクショウ! この俺様が、こんなところでェェェッ! やめろ、やめ――――」
天を貫く光の柱が立ち上ぼり、轟音を辺りに響かせる。
フレアルドは断末魔の叫びを上げ、破壊の奔流に呑まれていった。
光が収まった後、二人が居た筈の場所には何も無く、残響だけが虚しく響いていた。
そんなことをしても、帝国との戦いに有利になるわけでもない。むしろ軍を辺境の地へ集中させた隙を突かれて、一気に攻め入られる危険性の方が遥かに高い。
もっと言うならば、フレアルドの標的であるアースには、頭を下げてでも助力を乞うべきだとゴラウンは考えていた。
それほどまでに魔王軍の現状は厳しい。
「フレアルド様……本気でそうお考えなのですか?」
「あァ? なんか文句でもあんのか?」
「…………」
「フン……まァいい」
フレアルドはよろけながらも立ち上がり、口を閉ざしてしまったゴラウンに背を向け、たどたどしく歩き出す。
「チッ……まだまともに歩けもしねェか……おい、とりあえず肩を貸せ、ゴラウン。なァに、半日もあれば一人で歩けるぐらいには回復――――」
フレアルドが突然感じたのは冷たい感触。それは脇腹を通り抜け、次第に燃えるような熱を帯びていく。
何かと思いフレアルドがその感覚の発生源を見ると、赤く染まった刀身が目に入った。そう、背後から剣で脇腹を刺し貫かれたのだ。
「――な……にしやがる! ゴラウン――ガハッ!」
フレアルドを刺した人物、それはゴラウンだった。
ゴラウンは膝を突くフレアルドを刺し貫き、その後、背後から押し倒し、顔を踏みつけた。
「あなたの考えはよくわかりました……このままでは国が滅びかねない。私が、今ここであなたを討ちます……!」
ゴラウンはフレアルドの元へ来るまでに、ある覚悟を決めていたのだ。
フレアルドがこれ以上暴走するのかどうかを見極め、その結果によっては刺し違えてでも止めようという、決死の覚悟だ。
フレアルドがアースに負けたことで、彼に関わる事を諦めてくれるならばそれでよかった。
しかし実際は敗北したことで復讐の炎を更に燃え上がらせ、あり得ない采配を下そうとしていたのだ。
このままこの男の好きにさせては、近いうちに魔王国は滅びる。ゴラウンはそう判断したのだった。
「ふ――ざ、けるなァァァッ!!」
こう押さえつけられては、今の衰弱したフレアルドの力では、立ち上がることすら出来ない。
まともな攻撃手段がないフレアルドが取れる手段は一つだけだった。
フレアルドの怒りに呼応し、フレアルドの体が激しい熱を帯びる。
熱に耐えきれずゴラウンが離れれば、剣を一気に引き抜くことができ、体も自由になる。そういう算段であった。
しかし、ゴラウンはその手を離さないでいた。そのせいで、溶解寸前まで熱せられた剣が、それを掴むゴラウンの手の平を焼いた。
「――くっ、ああああっ!」
「くっ……こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 貴様も、貴様の家族もまとめて処刑してやる……!」
「あなたは……あなたは自分のことしか考えていない! 味方のことはゲームの駒としか思っていない! 兵士の中には戦いを望まない者だっている。しかし彼らは守るべきものがあるから戦っているんだ! その想いを踏みにじり、道具のように扱うなど許せるものか!」
魔王クロムが作った百年の安寧の時は、魔王国の長い歴史の中のほんの一部にしか過ぎないが、その時代を生きた人々にとっては決して短くない。
今までは魔族と人間族が争うのは当然だと、そういうものなのだと誰もが思い込んでいた。
しかし、いざ争うことがなくなると、戦いそのものに疑問を持つ者も少なくなかった。
ゴラウンもその内の一人だったのだ。
「――何をゴチャゴチャと……!」
「クレアだって平和を望んでいた! だから戦争を早く終わらせようと、戦いが苦手なくせに軍に志願したんだ! それなのにあなたは……!」
「クレアだァ? 誰の話をしてやがる!」
「あなたに殺された……私の妹だっ!」
フレアルドに仕えていた秘書官。彼女はゴラウンの妹だった。
両親やゴラウンの反対を押しきり、軍に入隊したことで大喧嘩をし、疎遠になってはいたが、ゴラウンは常にクレアのことを気にかけていた。
だがある日突然に、フレアルドによって理不尽に命を奪われた。
決して表には出さなかったものの、ゴラウンの心の内では腸が煮えくりかえるのを必死に押さえ込んでいたのだ。
怒りに任せて手を出しても、到底勝てない相手。そして自分が返り討ちにあうだけならまだしも、まず間違いなく残された隊員たちにも被害が及ぶ。
故に必死で平静を装い、堪え忍んだことで、この千載一遇の機会を得ることができた。
もちろんフレアルドが死ぬことによる影響は考えた。こんな男でも、個の戦力としては圧倒的だ。帝国からの進攻の抑止力としてはかなり大きい存在だった。
しかし先の復讐しか頭にない発言と、家族を殺された恨み。それらが合わさったことで、ゴラウンは覚悟を決めたのだ。
「私の残り僅かな命……ここで全て使いきる! おおおおおっ! 『生命解放』!」
ゴラウンの体が煌めき、凄まじい量の魔力を纏った。彼もまた天与を持つ者だったのだ。
ゴラウンが得た天与、『生命解放』。それは、自身の寿命を削ることで瞬間的に凄まじい力を発揮することができる能力。
「なっ!? この力は――――」
ゴラウンの年齢は、竜人族の平均寿命の半分にも満たないが、かつての戦いでこの天与を酷使してきたことにより、残された寿命はあと僅かであった。
この天与を持っている影響か、ゴラウンは自分の寿命がどの程度残っているのかを、感覚的に知り得たのだ。
ゴラウンは、より確実にフレアルドを滅するため、残りの寿命全てを力へと変換する。
そして、剣を媒介にして大規模な魔力の爆発を起こした。
「――クレア。今、そちらに行くぞ……」
「チクショウ! この俺様が、こんなところでェェェッ! やめろ、やめ――――」
天を貫く光の柱が立ち上ぼり、轟音を辺りに響かせる。
フレアルドは断末魔の叫びを上げ、破壊の奔流に呑まれていった。
光が収まった後、二人が居た筈の場所には何も無く、残響だけが虚しく響いていた。
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