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【最終章 地炎激突】

魔王因子

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(『魔王因子』……その存在は俺も知っている。その因子を持つ者は規格外の力と引き換えに、高い狂暴性を得て、理性の喪失を促すという。実体のない概念のような存在だ)

 誰も観測できないものではある。だが確実にそれは存在すると言われていた。何故ならば過去の魔王は全員同じ能力を持っていたからだ。

 魔王因子は魔族の中から一人が選ばれ発現する。基本的には親から子へと遺伝するものなのだが、子供が複数人いたとしても受け継がれるのは誰か一人のみだ。
 例外として、子へと受け継がれる前に因子の所有者が死亡した場合は、魔王因子は新たな器を探して辺りを彷徨う。

 ――決して絶えることのない世界の理……あるいは『呪い』に近いものだとも言える。

(そんなものが俺の中にあっただなんて……まさか、魔王様が死んだことで俺が新たな宿主に選ばれていたのか……?
 ――いや、それはおかしい。魔王様には実の娘がいるはずだ。因子が受け継がれるのであれば、俺ではなく彼女でなくては辻褄が合わない。それに、奴は俺が生まれた瞬間から俺の中にいたと言っていた)

 そう、つまり――

「お前は魔王の子だよ」

「――っ!?」

 声が頭の中に響く、気配すら感じられないのにも関わらず聞こえた声にアースは驚愕する。

「何を驚いてる? 今俺とお前は一つなんだぞ? 考えていることぐらいわかるさ」

「……なら聞かせてくれ。俺の父が魔王だったというのか? だとしたら俺の知る魔王様はいったい……?」

「――さあな、俺だってそこまでは知らねぇよ。俺はお前の中にいたんだ。お前が知らないことは俺も知らない。記憶や知識なんかはお前と共有しているんだからな。
 ……ただ一つ、俺だけが知っているのは、俺が魔王因子による影響で生まれた存在だってことだけだ。
 人格が別れたのは、魔族と人間族の血を併せ持つ体だからこそ起きた異例……ってやつかもな」

 アースは幼少の頃両親と共に人が立ち入らない地で暮らしていた。母が錬金術師だったのは聞いたが、父親が昔何をしていたかを聞いたことがなかった。
 仮に父親が魔王だったのだとしたら、魔王クロムとは一体何者なのか、その疑問だけがアースの中に残った。

「――結局は何もわからず終いか。しかし、俺の中に存在していたにも関わらず、今日まで一切何も感じられなかったのは何故だ……?」

「フン……それはな、俺が産まれて間もなく何らかの力によって成長を妨げられていたんだ。俺はお前の中で眠り続け、表に出ることもできず、ただお前の経験や記憶を見ていただけだ。まったく、誰の仕業なのか知らねぇが忌々しいぜ」

「成長を妨げられていた? もしそれがなかったらどうなっていたんだ?」

「簡単なことだ。力が強い方が体の主導権を握ることができる。つまり俺が順当に成長していたらこの体は完全に俺の物になっていただけだぜ? 新たな魔王の誕生ってワケ

「……しかし何故今になって現われたんだ。成長を妨げられているならこうやって出てこれないんじゃないのか?」

「ああ、それな……どういうわけか少し前に俺を縛っていた力が消えたのさ。ま、解放されたばかりの俺の力じゃ、成熟したお前の精神には敵わなかった。
 ……だが、お前の感じる深い憎しみや怒りが俺の糧となった。そしてお前の心が壊れ、体も壊れ弱りきった今この瞬間が入れ代わる絶好のチャンスだったってことだ。
 ……ああ、安心しろ。入れ代わった後でも、俺の力なら今の状態からでもなんとかできる」

(そうか……あのままだったら俺は死んでいた。入れ代わることで守れるのであれば、それが良いのかもな。
 ……守る? 何をだ……?
 ああ……急に意識が……思考が遠のいていく――――)


「…………沈んだか。さて、久々の自由だ。目一杯楽しむとしようか」
 
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