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【最終章 地炎激突】
リーフェルニア領の戦い①
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一方、アースとフレアルドが戦いを始めた頃、空が白みはじめる中滅戯竜隊はいよいよ街と目鼻の先にある林へと侵入を果たす。
ゴラウンの予想とは裏腹に、ここまでの道中には罠らしい罠は何一つとして確認できなかった。それどころか、道中人っ子一人見当たらない。
「各員、ここからは慎重に動け。何があるかわからないぞ」
ここからは敵の本拠地だ。ここまで何もなかったからといって、このまま上手いこといく筈もない。
ゴラウンは気を引き締めて、これまで以上に慎重に歩を進めるよう指示する。
「しかし隊長、あまり時間をかけすぎてはフレアルド様が……!」
隊員の一人が、フレアルドが戻ってきた時のことを恐れてゴラウンに抗議する。別れ際に釘を刺されたことを気にしているのだろう。
フレアルドは強い。ゴラウンはそれをよく知っていた。
対峙するあの男、元四天王であるアースの実力の程は推し測れないでいたが、魔王亡き今、魔王軍最強との呼び声の高いフレアルドに到底敵うものではないだろうとも予想していた。
「…………」
「――もう我慢できないです! ゴラウン隊長! 俺が先陣を切ります!」
ゴラウンが判断に迷い沈黙していると、一人の隊員が飛び出していってしまう。
「リューグ!? 待て!」
飛び出して行った隊員の名はリューグ。
彼は部隊の中で最年少であり、入隊してからまだ1年程度の新人であった。
とはいえ、滅戯竜隊に入隊できるだけあって、その能力は高く、そしてまだ若い分伸び代もある。
しかしその若さ故に今のような軽率な行動を起こしがちであるのと、自分の力を過信しがちなのが玉に瑕だ。
「くっ、仕方ない……全軍突撃! リューグを追いながらまずは主要施設と思われる建物を占拠せよ!」
ゴラウンは一人で突撃してしまったリューグを一人行かせる訳にもいかず、仕方なく部隊を突撃させる。
しかし、そのすぐ後にそれは誤った判断であったことを痛感させられる。
「うわっ!」
「おおっ!?」
部隊の両翼に位置取っていた隊員二人が、地面にある何かを踏み抜き、その途端煙幕のようなものが辺りに拡がる。
「煙幕か!? ……いや、この匂いは……まずい! 全員息を止めて煙から離れろ!」
ゴラウンが何かに気付き指示を出し、部隊は煙を避けるように散開するが、煙の発生源にいた二人は退避が間に合わずに、フラフラとした様子であった。
「くっ、間に合わなかったか! フレイムバレット!」
ゴラウンは宙に漂う煙に向け炎の魔法を放つ。
すると炎が一瞬の間燃え広がり、消えた頃には煙は跡形もなくなっていた。
「これで一先ずは安心か……しかし、この二人はもうしばらくは戦えないだろう」
ゴラウンは地面に倒れる二人の様子を伺うと、苦しんだ様子もなく、むしろすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
「やはり、か」
ゴラウンが辺りを注意深く見回すと、予想通りのものがそこかしこに点在していた。
その正体は、『スリープマッシュ』と呼ばれるキノコの一種で、刺激すると誘眠効果のある胞子を噴出し、身を守る習性を持つキノコだ。
毒性は無く、胞子を吸引しても死に至ることはないが、一定量吸って一度眠ってしまえば、短くとも半日は何をしても起きることはないだろう。
「しかし……この胞子の量は異常だ。大きさも知っているものとはかけ離れている。似ているが別の種類なのか……?」
ゴラウンの知る誘眠茸とは違う特徴に疑問を覚えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
まるで地雷原のように点在するこのキノコに気を付けながら先に進まねばならないのだ。
「リューグは……先に行ってしまったか。この罠にかからないとは、運が良いのか悪いのか。――誰か2名は眠ってしまった者を、看護のため残してきた隊員の元へと運んでくれ。残りの者はこのまま進むぞ。いいか? 地面のキノコに気を付けて進むんだ」
幸か不幸か、先行したリューグはトラブルのあったゴラウン達に気付くことなく、誘眠茸に触れずに走り抜けていったようだった。
さらに隊員を失ったゴラウンだが、リューグを一人置いていくわけにもいかないので、仕方なしに進まざるを得ない。
この先に何が待ち受けていようとも。
ゴラウンの予想とは裏腹に、ここまでの道中には罠らしい罠は何一つとして確認できなかった。それどころか、道中人っ子一人見当たらない。
「各員、ここからは慎重に動け。何があるかわからないぞ」
ここからは敵の本拠地だ。ここまで何もなかったからといって、このまま上手いこといく筈もない。
ゴラウンは気を引き締めて、これまで以上に慎重に歩を進めるよう指示する。
「しかし隊長、あまり時間をかけすぎてはフレアルド様が……!」
隊員の一人が、フレアルドが戻ってきた時のことを恐れてゴラウンに抗議する。別れ際に釘を刺されたことを気にしているのだろう。
フレアルドは強い。ゴラウンはそれをよく知っていた。
対峙するあの男、元四天王であるアースの実力の程は推し測れないでいたが、魔王亡き今、魔王軍最強との呼び声の高いフレアルドに到底敵うものではないだろうとも予想していた。
「…………」
「――もう我慢できないです! ゴラウン隊長! 俺が先陣を切ります!」
ゴラウンが判断に迷い沈黙していると、一人の隊員が飛び出していってしまう。
「リューグ!? 待て!」
飛び出して行った隊員の名はリューグ。
彼は部隊の中で最年少であり、入隊してからまだ1年程度の新人であった。
とはいえ、滅戯竜隊に入隊できるだけあって、その能力は高く、そしてまだ若い分伸び代もある。
しかしその若さ故に今のような軽率な行動を起こしがちであるのと、自分の力を過信しがちなのが玉に瑕だ。
「くっ、仕方ない……全軍突撃! リューグを追いながらまずは主要施設と思われる建物を占拠せよ!」
ゴラウンは一人で突撃してしまったリューグを一人行かせる訳にもいかず、仕方なく部隊を突撃させる。
しかし、そのすぐ後にそれは誤った判断であったことを痛感させられる。
「うわっ!」
「おおっ!?」
部隊の両翼に位置取っていた隊員二人が、地面にある何かを踏み抜き、その途端煙幕のようなものが辺りに拡がる。
「煙幕か!? ……いや、この匂いは……まずい! 全員息を止めて煙から離れろ!」
ゴラウンが何かに気付き指示を出し、部隊は煙を避けるように散開するが、煙の発生源にいた二人は退避が間に合わずに、フラフラとした様子であった。
「くっ、間に合わなかったか! フレイムバレット!」
ゴラウンは宙に漂う煙に向け炎の魔法を放つ。
すると炎が一瞬の間燃え広がり、消えた頃には煙は跡形もなくなっていた。
「これで一先ずは安心か……しかし、この二人はもうしばらくは戦えないだろう」
ゴラウンは地面に倒れる二人の様子を伺うと、苦しんだ様子もなく、むしろすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
「やはり、か」
ゴラウンが辺りを注意深く見回すと、予想通りのものがそこかしこに点在していた。
その正体は、『スリープマッシュ』と呼ばれるキノコの一種で、刺激すると誘眠効果のある胞子を噴出し、身を守る習性を持つキノコだ。
毒性は無く、胞子を吸引しても死に至ることはないが、一定量吸って一度眠ってしまえば、短くとも半日は何をしても起きることはないだろう。
「しかし……この胞子の量は異常だ。大きさも知っているものとはかけ離れている。似ているが別の種類なのか……?」
ゴラウンの知る誘眠茸とは違う特徴に疑問を覚えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
まるで地雷原のように点在するこのキノコに気を付けながら先に進まねばならないのだ。
「リューグは……先に行ってしまったか。この罠にかからないとは、運が良いのか悪いのか。――誰か2名は眠ってしまった者を、看護のため残してきた隊員の元へと運んでくれ。残りの者はこのまま進むぞ。いいか? 地面のキノコに気を付けて進むんだ」
幸か不幸か、先行したリューグはトラブルのあったゴラウン達に気付くことなく、誘眠茸に触れずに走り抜けていったようだった。
さらに隊員を失ったゴラウンだが、リューグを一人置いていくわけにもいかないので、仕方なしに進まざるを得ない。
この先に何が待ち受けていようとも。
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