上 下
79 / 120
【迫り来る危機】

魔王軍のその後⑦

しおりを挟む
 とうに日は沈み、辺りが完全な漆黒に包まれた頃、フレアルド率いる滅戯竜メギドラ隊は、リーフェルニア領と目と鼻の先にある森で野営をしていた。
 今の位置から目的地までは約一時間もあれば到着する算段だ。
 休みなしでここまで来たので、部隊員の体力回復に努めるためにしばしの休息を取っている。

「決行は明日の早朝だ。連中がまだ目も覚めないうちに制圧してやるぞ」

 フレアルドは焚き火の近くで座りながらそう告げたが、隊員達は返事をする気力もないのか、俯いたままであり、中には眠りこけている者もいた。

「ケッ……だらしのねェ連中だぜ。まァ戦いになればシャキッとするか。まァそれに、最悪俺様一人でもなんとかなるだろ」

 実際問題、部隊のコンディションは最悪であるのだが、フレアルドはそれを一切考慮しないでいた。
 フレアルドは基本的に自分を基準として物事を判断する癖があり、部隊の指揮経験も浅い。

 そんなフレアルドに振り回された結果が、この疲弊しきった状態である。
 せめて満足のいく食事が取れていれば、ここまで身を削ることもなかったのであろうか。
 
「ハッ、楽しみ過ぎてウズウズしてきやがったぜ。待っていやがれアース……!」

「アース……? あの……フレアルド様。今回の目的地はどこなのてしょうか?」

 行動目的すら知らされていなかった秘書官の女性が、単純に疑問に思いフレアルドに尋ねた。
 彼女は非戦闘員であるのだが、他の部隊が撤退している中、一人置いていくわけにもいかなかったので、今回の行軍に同行していた。
 ここまで付いてこれたのは、戦闘による疲労がなかったのもあるが、やはり彼女も竜人族であり、一般兵と比べ優れた能力を持つからに他ならない。

「あァ? あー……確かリーフェルニアって街だ」

 フレアルドも機嫌が良いのか、普段なら怒鳴り付けるところであったが、秘書官に対して素直に返答した。

「リーフェルニア……? あまり聞いたことがないのですが、何か有益な物があるんでしょうか?」

「あァ? そんなん知らねェよ。俺様の目的はただ一つ。アースの野郎を今度こそこの手でブッ殺すことだけだ」

「えっ!? アースと言うと……あの処刑された元四天王のアース様ですか? ――あっ」

 以前アースの名前を口にしただけでひどい目にあったことを思い出し、驚愕していたとはいえ、迂闊に口に出してしまった秘書官は身構えてしまう。
 
「あァそうだ。マダラからの情報なんだが……確度は高いんじゃねェか? つーか俺様は確信してんだ。アースの野郎が、俺様に対して恨みを持っていて、今まで妨害工作をしてきただろう? でなければ今頃帝都を制圧しているところだぜ?」

 意外にも咎められることはなく、そのまま会話を続けるフレアルドに、秘書官はほっと胸を撫で下ろす。

「そ――それは……いえ、そう……ですね。失礼しました」

 妨害工作など何かあったのだろうかと疑問に思ったが、あまり口答えして機嫌を損ねるのも良くないので、なにも言わずに同調する。
 しかし、フレアルドの言っていること……元四天王のアースが生きているのであれば、どうしても言わねばならないことが秘書官にはあった。
 彼女は意を決した様子で、フレアルドに進言する。

「あの……フレアルド様! 失礼を承知で一つ申し上げたいことがございます」

「あァ? なんだ? 今俺様はすこぶる機嫌が良い。聞いてやるから言ってみろ」

 フレアルドが秘書官とこうして喋っているのも、進言を許可したのも、アースを自らの手で葬り去れるという愉悦の感情から来る気まぐれに過ぎなかった。
 普段ならこんな会話も無いだろうし、進言しようとしても話す間もなく一蹴されて終わっただろう。
 もしそうであったのならば、この先起きる悲劇は回避できたのかもしれない……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

自宅で受けるダンジョン委託、究極の引き籠もりテレワーカーは狭間の世界で異世界を牛耳る

まったりー
ファンタジー
世間から逃げる様に田舎に家を持った主人公、そこで設計の仕事をしていました、ゲームの設計の仕事だと思いダンジョンを作り始めました、それはゲームではなく本物のダンジョンだったのです。 主人公は元々秘められた力を持っていて、それのせいで世間から離れていました、それが遠い異世界で猛威を振るう、そんな物語です。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―

ぽへみやん
ファンタジー
魔王城への結界を維持する四天王を倒すべく、四属性の勇者が選ばれた。【地属性以外完全無効】の風の四天王に対抗すべき【地の勇者】ドリスは、空を飛び、高速で移動し、強化した物理攻撃も通用しない風の四天王に惨敗を喫した。このままでは絶対に勝てない、そう考えたドリスは、【大陸一の賢者】と呼ばれる男に教えを乞うことになる。 // 地属性のポテンシャルを引き出して、地属性でしか倒せない強敵(主観)を倒そう、と色々試行錯誤するお話です。

処理中です...