上 下
67 / 120
【無視できない招待状】

業を背負う

しおりを挟む
 しばらくしてアースとエレミアは馬車を降り、昨夜ぶりにコンクエスター家の敷居を跨いだ。
 敷地内では昨夜の戦闘の処理に追われているのか、慌ただしい様子だった。
 キサラも到着するなり作業に合流するため、遠くへと走り去っていく。
 
「……仕方なかったとはいえ、悪いことをしたな」

 ところどころ戦闘での爪痕が残されていたが、特に庭園があった場所は、ロウガとの戦闘の影響で、もはや荒れ地と化していた。

「いいえ、アースのせいじゃないわ。あ、そうだ! アースならすぐに直せるんじゃない?」

「そうだな……館の損傷などは修復可能だと思うが、庭園の方は元通りというわけにはいかないな。持ち主のこだわりがあるだろうし、どんな植物が植えてあったかも把握していない。俺に出来るのは土地を均す事ぐらいだろうな」

「そうね……まあ、あまりアースの能力をひけらかすのも良くないわよね。今更な感じはするけど」

 アースが『天与ギフト』持ちであることは、の使昨日の戦闘を目撃したものであればおおよそ察しがつくことだろう。
 天与を持つ者を従えるのは貴族にとって一つのステータスであり、それを実現できる者は一握りだ。
 本来ならば、エレミアのような辺境の貴族令嬢ごときに決して実現できることではない。

 それを知った他の貴族達は、色仕掛けだの人質を取っているだの、エレミアに対してあらぬ疑いをかける可能性がある。
 アースとてそれは理解してはいたが、あの状況を切り抜けるには、耳目の集まる場所だろうと天与を使わざるを得なかったのだ。

「すまない……あの状況ではやむを得なかったんだ。エレミアには迷惑をかける」

「あっ、違うのよ! アースを責めるつもりはないの! 私のために戦ってくれたんだもの。感謝こそすれ、責めることなんて有り得ないわ。ありがとうね、アース」

「そうか……ならここは、『どういたしまして』と言っておこう」

 他愛のない会話をしながら歩を進める二人のもとに、一人の人物が声をかける。

「おーい! 二人とも! こっちじゃ、こっち!」

 声がする方へ振り向くと、そこにはエドモンドの姿があった。

「エドモンドおじちゃん!? もう出歩いてて大丈夫なの!?」

 病から快復したばかりで、本来ならまだ休んでいた方が身のためなのだが、どうやら現場で指揮を執り続けているようだった。
 アースとエレミアは、早足にエドモンドの下へと駆けつける。

「なあに、今はすこぶる調子が良くてのぅ。実は昨日から寝ずに働き詰めじゃよ」

「またそんなこと言って! 無理しないでよ?」

「ハハハ! ありがとうな、エレミアちゃん。……まあ、色々と確認したいことがあってな。悠々と寝てるわけにもいかなかったんじゃよ」

 あの後エドモンドは、自身が寝たきりの間に領地で様々な変化があったことを聞かされた。
 その件に関しての調査や、館の修復などに追われ殆ど休めていなかったのである。

「ワシが動けないのを良いことに、孫のダストンが好き勝手やってくれたみたいでな……しかも息子夫婦はそれを知りながら容認しておったんじゃ。まったく……情けない」

「そういえば街中で奴隷のように扱われる領民もいたな。確か帝国の取り決めで奴隷制度は禁止されているはずだが……」

「ああ、情けないがそれもあのダストンの仕業じゃよ。ワシの調べた限りでは突然領民全員に莫大な税金を課して、それを払えない者は下級民と呼ばれ、奴隷のような扱いを受けているらしい。もちろん、税金を払えない者は領地の外に出ることは禁止されていたようじゃ」

「そんな……! そんなことがまかり通るはずがないわ! 皇帝陛下がそんな事を見逃すとは思えない……!」

「――低賃金で多量の仕事をさせていたことによって、それなりに利益を出していたみたいでな。領地の経済自体は良好じゃったよ。帝都に賄賂を送っていたことも確認している。まあ、そのおかげで多少のお目こぼしはあったみたいだが……このようなやり方がいつまでも続けられるとは到底思えん」

 エドモンドは虚空を見つめながらそう呟いた。
 コンクエスター領の今後のことを考えると憂鬱でしかないだろう。
 事後処理に追われ、休みなく動き続けなければならないだろうし、一度失われた領民の信頼を取り戻すのは簡単なことではない。

 それでも、エドモンドの理想とする街を取り戻すために、彼は戦い続けるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

明日は晴れますか

春紗
ファンタジー
そこは国で一番美しく魔法の技術も高く誰もが理想とする活気ある領地だった。だが、ある日を境にゴーストタウンのような領地へと変わってしまった。瘴気に覆われ…作物は実りにくく…住人はほんの数人…建物は廃墟だらけ…呪いの魔法使いの噂…そんな領地を昔のように快適で素晴らしい場所へと変えていく 『私はここを素晴らしい場所へと変えるために来ました。約束は必ず果たすそれが私のモットーです』 策略、チート、技術、知識、有能な部下…この領地昔より…いや、国で一番最強の領地へと成り上がっている これは、13歳の謎に満ちた彼女が領地開拓をする物語。彼女は何者なのか…なぜ領地を守るのか… 最恐の領地から最高の領地へと成り上がる

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助
ファンタジー
 清水悠里は先輩に苛められ会社を辞めてしまう。異世界生活研修所の広告を見て10日間の研修に参加したが、女子率が高くテンションが上がっていた所、異世界に連れて行かれてしまう。現地実習する普通の研修生のつもりだったが事故で帰れなくなり、北欧神話の中の人に巻き込まれて強くなっていく。ただ無事に帰りたいだけなのだが。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...