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【真実の吐露】
運命の日②
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「――改めて自己紹介させてもらう。俺の名はアース。レオナルドが言ったように『天与』を持っている」
アースが壇上に立ち淡々と話し始めるが、アースがどんな話をするのかは、彼自身しか知らない。
コハクやガウェインら、アースと親しい者や雇い主であるレオナルドとエレミアにすら知らされてはいなかった。
今、この瞬間その場に居る全ての人間がアースに注目している。
「俺の持つ天与は、植物や鉱物に触れることでその形や性質をある程度操ることができる能力だ。……そうだな、例えばこんなことができる。『天地創造』」
アースが地面に手を付けて『天与』を発動させると、舞台の周りの石畳の一部が隆起し、大きな柱が形成された。
柱ができたかと思えば、急にスライムのような不定形な形にうねりだし、それが収まったと思えば鳥の姿を模した石像が目の前にあった。
「と、まあこんな感じだな。俺は美術家ではないので出来映えについてはご容赦願いたい」
確かに出来映えとしては素人が掘った彫刻のようなものであったが、驚くべきところは、ものの数秒でここまでの物を完成させたことにある。
実際、神の所業に近いその力を目の当たりにした領民達は、全員が言葉を失っていた。
「「「………………」」」
「す、凄い……」
一人の口から漏れた一言をきっかけに、ダムが決壊したかの如く領民達が興奮して騒ぎ立て始める。
「すげぇ! 俺、『天与』ってのを初めて見たけど、こんな奇跡みたいなことができるなんて信じられない!」
「地面を隆起させる魔法なら知っているが、攻撃に使うものであって、ここまで繊細なことはできんかったはずじゃ!」
「うちの畑に柵を作って欲しいわ! きっとあっという間よね!」
アースのこの能力があれば建築に掛かる時間や費用が大幅に削減でき、領地も容易に広げることができるだろう。
やっとこの閉塞的な状況から抜け出せる。誰もがそう考え、歓喜していた。
「俺はエレミアに……この街に命を救ってもらった。そんな暖かな人達が生きるこの街を、この『天与』を使って恩返ししたいと思っている。しかしその前に皆に聞いて欲しいことが二つある」
アースが話を再開すると自然と騒ぎは収まり、人々はアースの言葉へと耳を傾ける。
「一つは俺の『天与』を使うと、悪目立ちしてしまう可能性が考えられる。リーフェルニア領が急激な成長を遂げると、それを良く思わない連中が現れないとも限らないだろう。そして、その中には危害を加えようとする者もいるかもしれない」
「そんなの構わない! 俺達だってやればできるってところを見せてやる!」
「そうだ! やってやろうぜ皆!」
「息子には充分に幸せになって欲しいんです。毎日好きなものをお腹いっぱい食べさせてあげたい……!」
領民達はそれぞれ思いの丈を叫ぶが、この状況を抜け出したいのは皆同じで、否定的な意見は無いようだった。
全ての領民が今の状況を変えたい、そう思っていた。
「そうか、ならそのために俺は全力を尽くすことを誓おう。それと、もう一つは――」
アースは思わず言葉に詰まってしまう。
正体を告げた後の事を考えると、不安による緊張で体が震えてしまうのを抑えきれない。
アースは数秒の沈黙の後、意を決して話し始める。
「――――俺は……俺の母親はユースティア人だが、父親は……『魔族』だ。俺には人間族と魔族、両方の血が流れている、どちらともつかない曖昧な存在だ。だが俺は今まで魔族として生きてきた。つい数ヶ月前まで魔王軍に所属していて、『四天王』の一人でもあった。訳あって魔王軍を追放されて今ここにいる」
アースの告白にその場の誰もが息を呑む。
魔族は人間族とは相容れぬ『敵』と教えられ育ってきたのだ。その『敵』が自分達の日常に潜み、何食わぬ顔で共に生活していたことが発覚したのだから当然の反応だろう。
「魔族だって……?」
「う、嘘だろ……」
「しかも四天王って、あの……?」
アースもなんとなしに予想はしていたが、領民の反応は懐疑的なものであり、ざわざわと、辺りからどよめく声が上がり始める。
自分の背後にいる関わりの深いリーフェルニア家の人達の顔ですら、アースは見ることができなかった。
いや、関わりが深いからこそ、その表情が失望に染まるのを見たくなかったのかもしれない。
それでも、アースは話を続けた。
「魔族に恨みを持つ者もいるだろう、だが俺は今は亡き魔王様の遺志を継ぎ、平和な世の中にしたいと思っている。魔族も人間族も関係ない、そんな世界に……。どうか、俺の事を信じて、俺に恩返しをさせて欲しい」
そう言い終えると同時に、激しい虚脱感に襲われ、アースは地面に膝を突き、俯いてしまう。
そして、現実を直視したくないという恐怖感からか、冷や汗が止まらずきつく目を閉ざしてしまう。
目を閉じ、暗闇の中にいるアースの脳裏にかつて魔王城で起きた事件が蘇る。
仲間だと思っていた者から無実の罪を着せされ、殺されかけたこと。
仲間からの蔑むような目、冷やかな視線、目を背けられたこと、それら全てがアースの心に深い傷を残していた。
「…………」
依然としてどよめきは止まず、アースはただひたすら目を閉じ、表情を歪ませながら審判の時を待つ。
どれだけの時間が過ぎただろうか、時間の感覚も麻痺し、暗い闇の中もがき苦しむアースにとって、今この時間は永遠にも感じられた。
ふと、優しい花の香りがアースの鼻をくすぐると同時に、アースの背中が温もりに包まれる。
はっとしたアースは目を見開くが、何が起きたのかを把握するのに数秒を要した。
「エレ、ミア……?」
気付くと、膝を突くアースの背中をエレミアが抱き締めしていた。
だが、アースは恐怖からか、凍りついたように体を硬直させたまま、微かに震えるばかりだった。
「ありがとう、アース。私たちに本当のことを言ってくれて、私たちと共に歩む道を選んでくれて……こんなに震えるくらいに心を痛めてまで」
「――――エレミアは、俺が怖くないのか……?」
「怖い? どうして? あなたはあなたじゃない。美味しい料理を食べると、以外に可愛い笑顔を見せたり。初めて会う人なのに、全力を尽くして助けたり……私はあなたのそんなところが好きよ。アースという一人の存在として。そこに種族なんて関係ないわ」
どくん、と心臓が跳ねる。
昨日冷たい態度をとって別れたのにも関わらず、アースのことを魔族だからといって突き放すようなことはせずに、で一個人として見て好意を伝えてくれた。
氷が少しずつ溶けるように、こわばるアースの体から少し力が抜ける。
「それに……ほら見て、あなたを好きなのは私だけじゃないわ」
アースが顔を上げると、そこには群衆から飛び出し、アースへ向かい一歩踏み出すマーカス一家の姿があった。
「アースさん! あんたは俺達家族を救ってくれた! 見ず知らずの他人のために、一生遊んで暮らせるくらい価値のある薬を惜しげもなく譲ってくれた……! あなたが何者でも構わない、これからも俺達家族はあなたの友人でありたいと思ってる!」
「おにーちゃーん! また遊ぼーねー!」
にこりと微笑みながらマーカスの妻であるエリザかアースにお辞儀をする。
言葉は無かったが、彼女もマーカスと同じ気持ちでいるのが伝わる優しい笑みだった。
「マーカス……エリザ……カノン……」
彼らの純粋な好意がアースに伝わり、アースの視界が涙で滲んでくる。
目に涙を浮かべるのは何年ぶりだろうか、次々に湧き出る感情をアースは抑えることができないでいた。
「もう、何泣いとるんやあんちゃん。シャキッとしいや! ほら、立ちぃな」
「そッスよ兄貴! これから忙しくなるんスから!」
コハクとガウェインの二人がアースの両脇に立ち、腕を掴みアースを立ち上がらせる。
アースの正体を知っても変わらず接してくれていることから、二人もエレミアと同様の気持ちでいてくれているとわかる。
「コハク……ガウェイン……」
「ウチを命懸けで庇ってくれた色男が、そんな顔じゃカッコつかへんで! もっと自信持ちぃな!」
「兄貴は俺の英雄ッス! 兄貴がどんな過去を歩んできたとしても、大事なのはこれから何をするかッスよ! 一生ついていくッス!」
気付けばどよめきは収まり、ちらほらとアースのことを話す人が現れる。
「……うちも、この間彼に無償で薬を譲ってもらったんだ、母が急病で倒れてしまったんだが、あっという間に回復したんだ。今思えばかなり高級な薬だったんじゃ……」
「私の息子は彼が遊び相手になってくれたと喜んでいたわ……それも一度や二度じゃないわ」
「彼が通りがかっただけなのに、ワシが抱えてた重い荷物を家まで運んでもらったことがあるぞい」
「うん……魔族だからって悪い人ではないよね」
「ああ、俺達を蔑み追い出した奴らに比べたらよっぽど人が出来てると思う」
驚くべきことに、表立ってアースを否定するような意見を言う者はいなかった。
むしろ好意的な意見が多く見られるのは、アースがリーフェルニア領で行ってきた行動の賜物だろう。
「――決めた! 俺達の未来、あんたに預けるよ!」
「これからも息子と仲良くしてやってくださいね」
「今度酒でも飲もうや!」
「うちにもまた買い物しにきてね!」
次々と上がるアースを思う言葉に胸が熱くなるのを感じる。
アースを魔族だと知った上で、領民達は一切のわだかまりなくアースを受け入れていた。
「皆……ありがとう」
「フム……どうやら話は終わったようだな。特に反対する者もいないようであるし、アースはここに居てもらうこととする。無論、我輩もこやつが魔族であろうと異論はないぞ。」
「と、いうわけで……これからもよろしくね、アース」
エレミアはアースの手を握り、少し紅潮した頬で微笑む。
「ム……そういえばエレミア。さっきこやつのことを好きだとか何とか言っておったが、まさか……」
「ち、ちがうわよお父様! そういうのじゃないって前にも言ったでしょ!」
「――ふふ、ははははっ!」
エレミアとレオナルドの普段と変わらぬやり取りに安堵したのか、アースは大声で笑いだす。
それは、今まで被っていた仮面を外したアースの本当の笑顔だった。
彼自身もまた、この街と共に変わってゆくのだろう。
こうしてアースはこのリーフェルニア領で、嘘偽りない本当の自分の姿で暮らしていくこととなる。
魔王が築き上げた100年という平和な歴史は、人々から『魔族』と『人間族』の争いを忘れさせることができたのだろうか。
それを証明するのは、これからの彼らの行動にかかっているのかもしれない。
アースが壇上に立ち淡々と話し始めるが、アースがどんな話をするのかは、彼自身しか知らない。
コハクやガウェインら、アースと親しい者や雇い主であるレオナルドとエレミアにすら知らされてはいなかった。
今、この瞬間その場に居る全ての人間がアースに注目している。
「俺の持つ天与は、植物や鉱物に触れることでその形や性質をある程度操ることができる能力だ。……そうだな、例えばこんなことができる。『天地創造』」
アースが地面に手を付けて『天与』を発動させると、舞台の周りの石畳の一部が隆起し、大きな柱が形成された。
柱ができたかと思えば、急にスライムのような不定形な形にうねりだし、それが収まったと思えば鳥の姿を模した石像が目の前にあった。
「と、まあこんな感じだな。俺は美術家ではないので出来映えについてはご容赦願いたい」
確かに出来映えとしては素人が掘った彫刻のようなものであったが、驚くべきところは、ものの数秒でここまでの物を完成させたことにある。
実際、神の所業に近いその力を目の当たりにした領民達は、全員が言葉を失っていた。
「「「………………」」」
「す、凄い……」
一人の口から漏れた一言をきっかけに、ダムが決壊したかの如く領民達が興奮して騒ぎ立て始める。
「すげぇ! 俺、『天与』ってのを初めて見たけど、こんな奇跡みたいなことができるなんて信じられない!」
「地面を隆起させる魔法なら知っているが、攻撃に使うものであって、ここまで繊細なことはできんかったはずじゃ!」
「うちの畑に柵を作って欲しいわ! きっとあっという間よね!」
アースのこの能力があれば建築に掛かる時間や費用が大幅に削減でき、領地も容易に広げることができるだろう。
やっとこの閉塞的な状況から抜け出せる。誰もがそう考え、歓喜していた。
「俺はエレミアに……この街に命を救ってもらった。そんな暖かな人達が生きるこの街を、この『天与』を使って恩返ししたいと思っている。しかしその前に皆に聞いて欲しいことが二つある」
アースが話を再開すると自然と騒ぎは収まり、人々はアースの言葉へと耳を傾ける。
「一つは俺の『天与』を使うと、悪目立ちしてしまう可能性が考えられる。リーフェルニア領が急激な成長を遂げると、それを良く思わない連中が現れないとも限らないだろう。そして、その中には危害を加えようとする者もいるかもしれない」
「そんなの構わない! 俺達だってやればできるってところを見せてやる!」
「そうだ! やってやろうぜ皆!」
「息子には充分に幸せになって欲しいんです。毎日好きなものをお腹いっぱい食べさせてあげたい……!」
領民達はそれぞれ思いの丈を叫ぶが、この状況を抜け出したいのは皆同じで、否定的な意見は無いようだった。
全ての領民が今の状況を変えたい、そう思っていた。
「そうか、ならそのために俺は全力を尽くすことを誓おう。それと、もう一つは――」
アースは思わず言葉に詰まってしまう。
正体を告げた後の事を考えると、不安による緊張で体が震えてしまうのを抑えきれない。
アースは数秒の沈黙の後、意を決して話し始める。
「――――俺は……俺の母親はユースティア人だが、父親は……『魔族』だ。俺には人間族と魔族、両方の血が流れている、どちらともつかない曖昧な存在だ。だが俺は今まで魔族として生きてきた。つい数ヶ月前まで魔王軍に所属していて、『四天王』の一人でもあった。訳あって魔王軍を追放されて今ここにいる」
アースの告白にその場の誰もが息を呑む。
魔族は人間族とは相容れぬ『敵』と教えられ育ってきたのだ。その『敵』が自分達の日常に潜み、何食わぬ顔で共に生活していたことが発覚したのだから当然の反応だろう。
「魔族だって……?」
「う、嘘だろ……」
「しかも四天王って、あの……?」
アースもなんとなしに予想はしていたが、領民の反応は懐疑的なものであり、ざわざわと、辺りからどよめく声が上がり始める。
自分の背後にいる関わりの深いリーフェルニア家の人達の顔ですら、アースは見ることができなかった。
いや、関わりが深いからこそ、その表情が失望に染まるのを見たくなかったのかもしれない。
それでも、アースは話を続けた。
「魔族に恨みを持つ者もいるだろう、だが俺は今は亡き魔王様の遺志を継ぎ、平和な世の中にしたいと思っている。魔族も人間族も関係ない、そんな世界に……。どうか、俺の事を信じて、俺に恩返しをさせて欲しい」
そう言い終えると同時に、激しい虚脱感に襲われ、アースは地面に膝を突き、俯いてしまう。
そして、現実を直視したくないという恐怖感からか、冷や汗が止まらずきつく目を閉ざしてしまう。
目を閉じ、暗闇の中にいるアースの脳裏にかつて魔王城で起きた事件が蘇る。
仲間だと思っていた者から無実の罪を着せされ、殺されかけたこと。
仲間からの蔑むような目、冷やかな視線、目を背けられたこと、それら全てがアースの心に深い傷を残していた。
「…………」
依然としてどよめきは止まず、アースはただひたすら目を閉じ、表情を歪ませながら審判の時を待つ。
どれだけの時間が過ぎただろうか、時間の感覚も麻痺し、暗い闇の中もがき苦しむアースにとって、今この時間は永遠にも感じられた。
ふと、優しい花の香りがアースの鼻をくすぐると同時に、アースの背中が温もりに包まれる。
はっとしたアースは目を見開くが、何が起きたのかを把握するのに数秒を要した。
「エレ、ミア……?」
気付くと、膝を突くアースの背中をエレミアが抱き締めしていた。
だが、アースは恐怖からか、凍りついたように体を硬直させたまま、微かに震えるばかりだった。
「ありがとう、アース。私たちに本当のことを言ってくれて、私たちと共に歩む道を選んでくれて……こんなに震えるくらいに心を痛めてまで」
「――――エレミアは、俺が怖くないのか……?」
「怖い? どうして? あなたはあなたじゃない。美味しい料理を食べると、以外に可愛い笑顔を見せたり。初めて会う人なのに、全力を尽くして助けたり……私はあなたのそんなところが好きよ。アースという一人の存在として。そこに種族なんて関係ないわ」
どくん、と心臓が跳ねる。
昨日冷たい態度をとって別れたのにも関わらず、アースのことを魔族だからといって突き放すようなことはせずに、で一個人として見て好意を伝えてくれた。
氷が少しずつ溶けるように、こわばるアースの体から少し力が抜ける。
「それに……ほら見て、あなたを好きなのは私だけじゃないわ」
アースが顔を上げると、そこには群衆から飛び出し、アースへ向かい一歩踏み出すマーカス一家の姿があった。
「アースさん! あんたは俺達家族を救ってくれた! 見ず知らずの他人のために、一生遊んで暮らせるくらい価値のある薬を惜しげもなく譲ってくれた……! あなたが何者でも構わない、これからも俺達家族はあなたの友人でありたいと思ってる!」
「おにーちゃーん! また遊ぼーねー!」
にこりと微笑みながらマーカスの妻であるエリザかアースにお辞儀をする。
言葉は無かったが、彼女もマーカスと同じ気持ちでいるのが伝わる優しい笑みだった。
「マーカス……エリザ……カノン……」
彼らの純粋な好意がアースに伝わり、アースの視界が涙で滲んでくる。
目に涙を浮かべるのは何年ぶりだろうか、次々に湧き出る感情をアースは抑えることができないでいた。
「もう、何泣いとるんやあんちゃん。シャキッとしいや! ほら、立ちぃな」
「そッスよ兄貴! これから忙しくなるんスから!」
コハクとガウェインの二人がアースの両脇に立ち、腕を掴みアースを立ち上がらせる。
アースの正体を知っても変わらず接してくれていることから、二人もエレミアと同様の気持ちでいてくれているとわかる。
「コハク……ガウェイン……」
「ウチを命懸けで庇ってくれた色男が、そんな顔じゃカッコつかへんで! もっと自信持ちぃな!」
「兄貴は俺の英雄ッス! 兄貴がどんな過去を歩んできたとしても、大事なのはこれから何をするかッスよ! 一生ついていくッス!」
気付けばどよめきは収まり、ちらほらとアースのことを話す人が現れる。
「……うちも、この間彼に無償で薬を譲ってもらったんだ、母が急病で倒れてしまったんだが、あっという間に回復したんだ。今思えばかなり高級な薬だったんじゃ……」
「私の息子は彼が遊び相手になってくれたと喜んでいたわ……それも一度や二度じゃないわ」
「彼が通りがかっただけなのに、ワシが抱えてた重い荷物を家まで運んでもらったことがあるぞい」
「うん……魔族だからって悪い人ではないよね」
「ああ、俺達を蔑み追い出した奴らに比べたらよっぽど人が出来てると思う」
驚くべきことに、表立ってアースを否定するような意見を言う者はいなかった。
むしろ好意的な意見が多く見られるのは、アースがリーフェルニア領で行ってきた行動の賜物だろう。
「――決めた! 俺達の未来、あんたに預けるよ!」
「これからも息子と仲良くしてやってくださいね」
「今度酒でも飲もうや!」
「うちにもまた買い物しにきてね!」
次々と上がるアースを思う言葉に胸が熱くなるのを感じる。
アースを魔族だと知った上で、領民達は一切のわだかまりなくアースを受け入れていた。
「皆……ありがとう」
「フム……どうやら話は終わったようだな。特に反対する者もいないようであるし、アースはここに居てもらうこととする。無論、我輩もこやつが魔族であろうと異論はないぞ。」
「と、いうわけで……これからもよろしくね、アース」
エレミアはアースの手を握り、少し紅潮した頬で微笑む。
「ム……そういえばエレミア。さっきこやつのことを好きだとか何とか言っておったが、まさか……」
「ち、ちがうわよお父様! そういうのじゃないって前にも言ったでしょ!」
「――ふふ、ははははっ!」
エレミアとレオナルドの普段と変わらぬやり取りに安堵したのか、アースは大声で笑いだす。
それは、今まで被っていた仮面を外したアースの本当の笑顔だった。
彼自身もまた、この街と共に変わってゆくのだろう。
こうしてアースはこのリーフェルニア領で、嘘偽りない本当の自分の姿で暮らしていくこととなる。
魔王が築き上げた100年という平和な歴史は、人々から『魔族』と『人間族』の争いを忘れさせることができたのだろうか。
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