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悪臭
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「おいおい、そんな反応をするだなんてひどいなあ。君の大好きな騎士様だよ? さあ、大人しくこっちへ来るんだ、アーイーリースちゃん」
「やめて……私の騎士様はそんな顔はしないわ……! 私の騎士様を馬鹿にしないで!」
すると、すっと無表情になったサイラスは、更に私の近くへと歩みよる。
その急激な変化による恐怖のあまり、距離を取ろうとしたのだけど、急に足から力が抜けてしまったのだ。
「……あれ? キャッ!」
足がもつれてそのまま床へと倒れ込んでしまう。予期せず倒れてしまったので、受け身も取れず体を強く床に打ち付けてしまった。
「痛……あれ? 力が入らない……?」
立ち上がろうにも体にうまく力が入らない。私の体にいったい何が起こったのだろうか。
「ふん……やっと薬が効いてきたか。普通ならもう眠りこけていてもおかしくないんだが……最初から薬で眠っていれば痛い思いをしなくて済んだものを」
薬……? そうだ。さっき飲んだお茶に混ざってた香り……あれは私が昨日飲んだハーブティーと同じものだ。
甘い匂いに紛れて気付きにくいのもあったけど、家で取り扱ってて何度も嗅いだことがある匂いなのに何で気付けなかったんだろう。
強い匂いで隠しきれないほど強い濃度だったにも関わらずすぐに効き目が出なかったのは、多分だけど私にはある程度の耐性ができているのだと思う。……でも、いっそ眠ってしまっていた方が、こんな現実を見ずにいられて幸せだったのかもしれない。
思えば怪しいと思える点はいくらでもあった。なのに私はただ何も考えずに付いていくだけで、理想の騎士様を追いかけることに夢中になってた。気が緩みきっていたんだ。
馬鹿だな、私……そりゃこんな目に遭ったって自業自得だよね。
辺りに人気も無かったし、こんな場所じゃ誰も助けになんか来ない。体も力が入らない。……もう、どうしようもないんだ。
「しかし、素材は悪くないと思って誘ったのはいいが……こんな悪臭がする女だったとはな。これじゃあ商品価値はガタ落ちだよ。そんなのと一緒に食事だなんて、何かの罰のようだったよ。あまりもの臭いに食事を吐き戻しそうになってしまったよ。なあ笑えるだろう? お前たち!」
「――っ!」
サイラスの言葉に、他の男たちも「違いない!」「こいつ下水道で暮らしてるのか!?」「いや、頭から灰をかぶってるから火葬場じゃないか?」などと言いながら腹を抱えて笑っていた。
あっ……そうだ、今日は急いで支度したので、臭い消しの香水を使うのを完全に忘れていた。いつも出かける時は必ず使っていたのに。
男たちのゲラゲラと笑う声を聞いて、心無い言葉を投げ掛けられた過去のトラウマが呼び起こされる。
私は震える体を必死に抑えるけど、目から自然と涙が溢れる。怖い……嫌だ……なんでそんなひどいこと言うの……?
「――ゃ……嫌っ! いやーーっ!!」
「大人しくしてろって、言ってるだろ!」
嗚咽する私へ向かって、サイラスは手を振り上げる。叩かれるのだと思って、私はぎゅっと目を閉じ、身構えた。
――――その時。何かが割れるような大きな音がした
「やめて……私の騎士様はそんな顔はしないわ……! 私の騎士様を馬鹿にしないで!」
すると、すっと無表情になったサイラスは、更に私の近くへと歩みよる。
その急激な変化による恐怖のあまり、距離を取ろうとしたのだけど、急に足から力が抜けてしまったのだ。
「……あれ? キャッ!」
足がもつれてそのまま床へと倒れ込んでしまう。予期せず倒れてしまったので、受け身も取れず体を強く床に打ち付けてしまった。
「痛……あれ? 力が入らない……?」
立ち上がろうにも体にうまく力が入らない。私の体にいったい何が起こったのだろうか。
「ふん……やっと薬が効いてきたか。普通ならもう眠りこけていてもおかしくないんだが……最初から薬で眠っていれば痛い思いをしなくて済んだものを」
薬……? そうだ。さっき飲んだお茶に混ざってた香り……あれは私が昨日飲んだハーブティーと同じものだ。
甘い匂いに紛れて気付きにくいのもあったけど、家で取り扱ってて何度も嗅いだことがある匂いなのに何で気付けなかったんだろう。
強い匂いで隠しきれないほど強い濃度だったにも関わらずすぐに効き目が出なかったのは、多分だけど私にはある程度の耐性ができているのだと思う。……でも、いっそ眠ってしまっていた方が、こんな現実を見ずにいられて幸せだったのかもしれない。
思えば怪しいと思える点はいくらでもあった。なのに私はただ何も考えずに付いていくだけで、理想の騎士様を追いかけることに夢中になってた。気が緩みきっていたんだ。
馬鹿だな、私……そりゃこんな目に遭ったって自業自得だよね。
辺りに人気も無かったし、こんな場所じゃ誰も助けになんか来ない。体も力が入らない。……もう、どうしようもないんだ。
「しかし、素材は悪くないと思って誘ったのはいいが……こんな悪臭がする女だったとはな。これじゃあ商品価値はガタ落ちだよ。そんなのと一緒に食事だなんて、何かの罰のようだったよ。あまりもの臭いに食事を吐き戻しそうになってしまったよ。なあ笑えるだろう? お前たち!」
「――っ!」
サイラスの言葉に、他の男たちも「違いない!」「こいつ下水道で暮らしてるのか!?」「いや、頭から灰をかぶってるから火葬場じゃないか?」などと言いながら腹を抱えて笑っていた。
あっ……そうだ、今日は急いで支度したので、臭い消しの香水を使うのを完全に忘れていた。いつも出かける時は必ず使っていたのに。
男たちのゲラゲラと笑う声を聞いて、心無い言葉を投げ掛けられた過去のトラウマが呼び起こされる。
私は震える体を必死に抑えるけど、目から自然と涙が溢れる。怖い……嫌だ……なんでそんなひどいこと言うの……?
「――ゃ……嫌っ! いやーーっ!!」
「大人しくしてろって、言ってるだろ!」
嗚咽する私へ向かって、サイラスは手を振り上げる。叩かれるのだと思って、私はぎゅっと目を閉じ、身構えた。
――――その時。何かが割れるような大きな音がした
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