2 / 4
02
しおりを挟む
ウェルカム家の仕事は、何も義賊だけではない。
義賊はあくまで裏の仕事であり、昼には昼で仕事が存在する。
ラムダの場合、それは学生だった。
「ラムダ様。今日の放課後のご予定はありますか?」
貴族としての教養はもちろん、交流関係を広げるための学校。
学生とはいえ、すでに大人と変わらず、交流関係には注意を払う必要がある。
下流貴族であるなら、上流貴族の機嫌を損なってはいけない。子供の喧嘩で、一家全員が路頭に纏う羽目になる。
上流貴族であるなら、家に対しての恨みに注意しなければいけない。普段の生活よりも、護衛がずっと少ないからだ。
「ごめんなさい。本日は予定がありまして」
「あら……それは残念です」
声をかけてきたのは、中流貴族であるアスクル令嬢。興奮が隠しきれない様子で、足早にラムダに駆け寄ってきた。
彼女については、心配いらない。というより、内容に予想がついた。
「実は、また”彼”が現れたんですって」
予想通り。
小声で語られる内容に、内心ため息をついた。
「まぁ! 本当?」
白々しくも、耳打ちされた内容に驚くラムダに、アスクルは頷き返す。
「ジャックドア様!! なんでも、新聞社の前で、号外が配られているだとか!」
彼女も”ジャックドア”のファンなのだ。
「ジャックドア様の号外!? 何それ欲しい! ヒザシ! 会合の予定、遅らせられない!?」
「無茶を言わないでください。無理です」
「でも! 号外よ! 号外!!」
写真に撮られた覚えはない。それに、もし自分に不利益な内容なら、ウェルカム家が既に潰していることだろう。
つまり、その記事は安全ということ。
ラムダも、それを理解していないわけではない。
単純に、ジャックドアの書かれた記事を読みたいだけだ。
「号外でも、です。そもそも、以前にもジャックドアの記事に、解釈違いとか言ってたじゃないですか。また解釈違いの記事かもしれませんよ」
その後、解釈違いを起こさせる余裕があるのが悪いと、散々キャラ付け指導されたのを覚えている。
一週間に及ぶ論争の果てに、解釈違いを起こすのは、育ってきた環境の違う人間の思考が大半で、むしろ勘違いさせるほどのミステリアスな余白を残しているのは、ミステリアスキャラとして完璧なのではないかという結論に落ち着いた。
「ぐっ……でも、私だって成長しているの。たとえ解釈違いであっても、多面的な視点のひとつとして、読まず嫌いは良くないと思うの!」
「読みたいって気持ちが先行し過ぎです」
「だってだって、ジャックドアの公式見解的なものよ!? 公式供給!!」
ジャックドアの生みの親が何言ってんだ。
「ラムダ様!」
頭痛が痛くなり過ぎる状況に、救いのように差し込んだアスクルの声。
「不肖、このアスクル・マーガレット。ラムダ様のために、号外を必ず手に入れてまいります!」
「!! いいの……?」
「もちろんです! カクレヤ様も、それならば問題ないですよね?」
「ま、まぁ……はい」
同担仲間同士、喜びあっているラムダとアスクルに、小さくため息をついた。
「どうして、そこまでジャックドアにのめり込むの?」
会合へ向かう馬車の中、鼻歌混じりの上機嫌なラムダに、つい問いかけてしまえば、驚いたようにこちらに視線を向けられ、まずい質問をしてしまったと悟った。
「違うよ。ラムダが、仮面、ミステリアスキャラが好きなのはよくわかってるから」
だから、慌てて否定しておいた。
こんなところで語り始めてしまったら、別の意味で会合に間に合わなくなる。
「だって、一番よくわかってるでしょ? 内容だって、想像がつくだろうし」
ラムダがキャラクターを作り上げて、僕が演じる義賊。
内容も決まっていれば、世間に公表する内容だって決まっている。
彼女にとって、新たな発見はないはずだ。
「好きな食べ物は、何度食べるし、好きなお話は、何度だって読み直すでしょ」
それと同じだと、ラムダは答える。
「それに、好きな人が、世間からどう思われてるか、気になるもの」
こちらを見つめ、微笑む彼女に、気が付けば息が止まっていた。
義賊はあくまで裏の仕事であり、昼には昼で仕事が存在する。
ラムダの場合、それは学生だった。
「ラムダ様。今日の放課後のご予定はありますか?」
貴族としての教養はもちろん、交流関係を広げるための学校。
学生とはいえ、すでに大人と変わらず、交流関係には注意を払う必要がある。
下流貴族であるなら、上流貴族の機嫌を損なってはいけない。子供の喧嘩で、一家全員が路頭に纏う羽目になる。
上流貴族であるなら、家に対しての恨みに注意しなければいけない。普段の生活よりも、護衛がずっと少ないからだ。
「ごめんなさい。本日は予定がありまして」
「あら……それは残念です」
声をかけてきたのは、中流貴族であるアスクル令嬢。興奮が隠しきれない様子で、足早にラムダに駆け寄ってきた。
彼女については、心配いらない。というより、内容に予想がついた。
「実は、また”彼”が現れたんですって」
予想通り。
小声で語られる内容に、内心ため息をついた。
「まぁ! 本当?」
白々しくも、耳打ちされた内容に驚くラムダに、アスクルは頷き返す。
「ジャックドア様!! なんでも、新聞社の前で、号外が配られているだとか!」
彼女も”ジャックドア”のファンなのだ。
「ジャックドア様の号外!? 何それ欲しい! ヒザシ! 会合の予定、遅らせられない!?」
「無茶を言わないでください。無理です」
「でも! 号外よ! 号外!!」
写真に撮られた覚えはない。それに、もし自分に不利益な内容なら、ウェルカム家が既に潰していることだろう。
つまり、その記事は安全ということ。
ラムダも、それを理解していないわけではない。
単純に、ジャックドアの書かれた記事を読みたいだけだ。
「号外でも、です。そもそも、以前にもジャックドアの記事に、解釈違いとか言ってたじゃないですか。また解釈違いの記事かもしれませんよ」
その後、解釈違いを起こさせる余裕があるのが悪いと、散々キャラ付け指導されたのを覚えている。
一週間に及ぶ論争の果てに、解釈違いを起こすのは、育ってきた環境の違う人間の思考が大半で、むしろ勘違いさせるほどのミステリアスな余白を残しているのは、ミステリアスキャラとして完璧なのではないかという結論に落ち着いた。
「ぐっ……でも、私だって成長しているの。たとえ解釈違いであっても、多面的な視点のひとつとして、読まず嫌いは良くないと思うの!」
「読みたいって気持ちが先行し過ぎです」
「だってだって、ジャックドアの公式見解的なものよ!? 公式供給!!」
ジャックドアの生みの親が何言ってんだ。
「ラムダ様!」
頭痛が痛くなり過ぎる状況に、救いのように差し込んだアスクルの声。
「不肖、このアスクル・マーガレット。ラムダ様のために、号外を必ず手に入れてまいります!」
「!! いいの……?」
「もちろんです! カクレヤ様も、それならば問題ないですよね?」
「ま、まぁ……はい」
同担仲間同士、喜びあっているラムダとアスクルに、小さくため息をついた。
「どうして、そこまでジャックドアにのめり込むの?」
会合へ向かう馬車の中、鼻歌混じりの上機嫌なラムダに、つい問いかけてしまえば、驚いたようにこちらに視線を向けられ、まずい質問をしてしまったと悟った。
「違うよ。ラムダが、仮面、ミステリアスキャラが好きなのはよくわかってるから」
だから、慌てて否定しておいた。
こんなところで語り始めてしまったら、別の意味で会合に間に合わなくなる。
「だって、一番よくわかってるでしょ? 内容だって、想像がつくだろうし」
ラムダがキャラクターを作り上げて、僕が演じる義賊。
内容も決まっていれば、世間に公表する内容だって決まっている。
彼女にとって、新たな発見はないはずだ。
「好きな食べ物は、何度食べるし、好きなお話は、何度だって読み直すでしょ」
それと同じだと、ラムダは答える。
「それに、好きな人が、世間からどう思われてるか、気になるもの」
こちらを見つめ、微笑む彼女に、気が付けば息が止まっていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
【ワタシのセンセイ外伝2】 嘘と真実とアレルギー
悠生ゆう
恋愛
ワタシのセンセイ 外伝の第二弾
外伝第一弾で鍋島先生が出会った女性・久我楓子の視点の物語。
鍋島晃子の嘘に振り回される楓子はどうなっていくのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる