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1章 総合魔法実技試験編
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「アメーッジングッ!」
ゴールの小島に辿り着いたと思えば、いきなり響いてきた声がこれだ。
恍惚に頬を染め、腕を広げているシトリンに、怯えた目でダイアの背後に隠れるバーバリィと完全に不審者を見つめる視線で睨み、バーバリィを背中へ隠すダイア、そしてため息をつくコーラル。
「あぁ、素晴らしい! 素晴らしいよ! 満点! 満点だよ!」
「げぇ……なんでこいつがいんの?」
「一応、試験の監督手伝いだそうですよ」
少し遅れながら、帽子を被り、人間姿になったアレクとクリソが、心底嫌そうな目でシトリンを見る。
「勝手に点数をつけるな。全く……」
疲れたように頭に手をやる教師がいうには、順位は7位らしい。
「先生! 早く戻ってきてください! ハートリーさんの足が!!」
「あ゛ぁ゛っ! そいつはもう解呪をかけてある! 放っておけば、4日で元に戻る!」
めんどくさそうに頭をかきながら、呼ぶ生徒の元へ足を向ける。
「まったく、面倒なことをしてくれたな。素晴らしい石化魔法だ」
去り際に、クリソへ恨み言を残していった。
「お褒めに与かり光栄です」
―― 数時間前 ――
コーラルたちと別れてから、クリソは早々に海岸へ出ると、海に飛び込み人魚の姿で小島にかけられた唯一の橋へ向かった。
予想通り、橋には生徒たちを妨害するための大量の罠が仕掛けられていた。
爆弾などの橋そのものを破壊する罠は、どうやら外されているらしいが、コーラルの考え通り、まともに橋を使ってゴールする気が起きなくなる罠の数だ。
となれば、小島へ渡る手段としては、誰かが渡った後に罠を把握して進む、もしくは、箒などで空から小島を目指すのが一般的だ。
間違っても、海を泳いで渡るなどと考えるのは、相当体力の自信があるか、人魚くらいだ。
空は、遮蔽物が無い分、視認されたら攻撃される。
ここまで泳ぐ間にも、いくつか用意されたブイに魔法が施されているものがあった。おそらく、ブイの上を飛んだ魔術師を落とすための砲撃魔法が仕掛けられているのだろう。
「ハハッ! この橋を渡ってゴールなんてできるわけねェだろォ?」
空がダメならば、ほとんど生徒は、橋を目指すことになり、必然的に他人を蹴落としたい人間は、橋の上を陣取り、直接妨害することになる。
案の定、橋の上で、ひとつの勢力が陣取ったらしい。
橋の上の人間に恨みはないが、コーラルのためにもハートリーという人物を通しては困る。
橋にもいくつか足止めの罠を仕掛けたが、ここに陣取る勢力には、できる限り他の足止めをしてもらい、その上でゴールしないでほしいところだ。
「さすが、ハートリー様!」
どうやら、容赦はいらない人物らしい。
「というわけで、足止めのためにも、高揚感のでる魔法と魔法薬の効果が上がる魔法で、ハートリーさんをささやかながら応援させていただきました」
それだけではないことは、出会って短いが察しがついた。
ついたが、ここで聞きたくはないと、それ以上聞くことはやめた。
「その後は、いつでも崖の下へ飛び込めるように、あの崖の下で待機していました」
「すごかったんだよ! 水の中からぶわーって!」
「よかったですね」
無邪気に目を輝かせるバーバリィに、邪気まみれに笑みを作るクリソに、ダイアはそれしか言えなかった。
「ありがとう。コーラル」
「別に。あの事、忘れないでよ」
「もちろんだとも」
小さく目を細めたシトリンは、明らかに威嚇しているアレクに目をやり、笑みを深める。
「さぁて! レディが体を冷やすものじゃないよ。タオルを」
「ありがとう」
タオルを受け取れば、すぐに手元から消え、頭に乗せられた。
「フフフ……やはり、いいものだね」
「アレク。痛い。痛いから」
不貞腐れたように力の込められている手だが、決して傷つけるような強さではなく、コーラルの濡れた髪を拭いていた。
「見つけたぞ! アークチスト!!」
騒がしい声に目をやれば、三年の制服を着た男が立っていた。
「テメェだな!? 弟の足を石にしやがったのは!」
「言いがかりはやめてもらえる? だいたい、私のアリバイは、貴方のお友達がよく知っているんじゃなくて?」
ピクリを震えた眉。
「本当に、海水に混ざった石化の魔法薬が靴の中に入るなんて、不運でしたね」
興奮さえしていなければ気が付けたかもしれないが、誰よりも優位に立った状況に文字通り、足元が疎かになってしまったのだろう。結果、石化の魔法は、じわじわと靴の中で足を蝕んだ。
「石化の魔法薬が、混じってるわけないだろ!!」
「星の道行が悪かったのでしょう。貴方に、星の導きがあらんことを」
優雅に微笑みながら、礼をするコーラルに、バーバリィが首をかしげているが、気にしなくていいと頭に手をやる。
「おっと!」
頭を下げるコーラルに、ハートリーは杖を振り上げるが、妙に明るい声が制止する。
「それは良くない。実に良くない。
ここで、アークチストに手を上げれば、僕も然るべき処置を取らなければならなくなる」
口元は笑っているが、その目は、瞳の奥は一切笑っていなかった。
「~~ッ! ヴェナーティオ! お前は、そいつの味方をするのか!?」
「アークチストは常に中立。手を上げるならば、然るべき覚悟を、と言っているだけだよ」
「っ」
微笑むシトリンに、ハートリーは分が悪いと、去っていった。
「さて、青バラの君は人が悪い。愛を試すなんて」
「妙なこと言わないで。アイツらが、本当に貴方が怖いのか確認したかっただけ。まさか、本当だとは思わなかったけど」
心底呆れたようにため息をつくコーラルに、シトリンも小首を傾げた。
ようやく終わりを迎えたと思っためんどうごとに、胸を撫で押そうとした、その時、
「おい」
ひどく苛立った声が、シトリンへ向けられた。
声の主は、その声色とそっくりな表情でシトリンを睨んでいた。
「ヴェナーティオだと?」
その言葉に表情を変えたのは、シトリンではなく、コーラルだった。
あえて、ダイアたちの前では、シトリンのことを、ヴェナーティオだとは言わなかった。面倒ごとになることが目に見えていたからだ。
「あぁ。シトリン・T・ヴェナーティオだよ。
以後お見知りおきを。獣の太陽。そして、獅子の君」
最大の敬意を表し、礼をするシトリンに、掴みかかる。
「なにを、ふざけたことを……!!
テメェが、テメェらが、何をしてるかわかってるのか!?」
掴みかかられているというのに、その表情は恍惚とした笑み。
「仲間を、家族を、売ってるんだ!!」
ヴェナーティオ家は、獣人や人魚などを販売する商人だった。
獣人たちからすれば、憎しみと恐怖の象徴そのものだ。
「そうだね」
「なんで、そんな笑顔で……」
「もちろん、大切な家族や仲間と離れ離れというのは、かわいそうだとは思うよ。できることなら、新たな主人と仲良くやれることが一番だ。
難しいこととはわかっているけどね」
「……」
「だからこそ、幸せになれた彼らに祝福をするのさ!」
当たり前の顔で、当たり前の言葉を高らかに告げたシトリンに、価値観の違いに圧倒される他ない。
彼には、自分の言葉など通じない。
「あーあー、だから言ったでしょ。ヴェナーティオは変態だって。まともに気にする方が疲れるわよ」
「……でも、テメェらさえいなければ、姉さんは……」
「……何があったかは聞く気がしないけど、お前が呆れるほどのことなら教えてあげる。
ヴェナーティオは、獣人とか他種族の販売が有名だけど、人間も当たり前のように売ってるわ」
「……は?」
「狩りをして、自分たちより弱いなら捉えて、愛をもって販売する。それがこいつらなの。理解できる?」
もはや、理解する気があって、何度言葉を交わしたところで、理解などできる気がしない。
緩やかに力が抜けた手からシトリンも、そっと抜ける。
「ダイア。その……まだちゃんと言えないけど、ヴェナーティオさんたちは、許しちゃいけない、けど、ボクたちを助けてくれたのも、ヴェナーティオさんたちだから」
王族の子供を逃がしたのは、ヴェナーティオだ。
たとえ、その理由が理解し難くても。
それには感謝しなければいけない。
「あぁ……それは、感謝してる。だが! 許さねェことは事実だ!」
「あぁ、すばらしい。それでこそ、獣人の太陽たる君だ」
キラキラと輝く黄金の瞳に、シトリンはまた微笑んだ。
ゴールの小島に辿り着いたと思えば、いきなり響いてきた声がこれだ。
恍惚に頬を染め、腕を広げているシトリンに、怯えた目でダイアの背後に隠れるバーバリィと完全に不審者を見つめる視線で睨み、バーバリィを背中へ隠すダイア、そしてため息をつくコーラル。
「あぁ、素晴らしい! 素晴らしいよ! 満点! 満点だよ!」
「げぇ……なんでこいつがいんの?」
「一応、試験の監督手伝いだそうですよ」
少し遅れながら、帽子を被り、人間姿になったアレクとクリソが、心底嫌そうな目でシトリンを見る。
「勝手に点数をつけるな。全く……」
疲れたように頭に手をやる教師がいうには、順位は7位らしい。
「先生! 早く戻ってきてください! ハートリーさんの足が!!」
「あ゛ぁ゛っ! そいつはもう解呪をかけてある! 放っておけば、4日で元に戻る!」
めんどくさそうに頭をかきながら、呼ぶ生徒の元へ足を向ける。
「まったく、面倒なことをしてくれたな。素晴らしい石化魔法だ」
去り際に、クリソへ恨み言を残していった。
「お褒めに与かり光栄です」
―― 数時間前 ――
コーラルたちと別れてから、クリソは早々に海岸へ出ると、海に飛び込み人魚の姿で小島にかけられた唯一の橋へ向かった。
予想通り、橋には生徒たちを妨害するための大量の罠が仕掛けられていた。
爆弾などの橋そのものを破壊する罠は、どうやら外されているらしいが、コーラルの考え通り、まともに橋を使ってゴールする気が起きなくなる罠の数だ。
となれば、小島へ渡る手段としては、誰かが渡った後に罠を把握して進む、もしくは、箒などで空から小島を目指すのが一般的だ。
間違っても、海を泳いで渡るなどと考えるのは、相当体力の自信があるか、人魚くらいだ。
空は、遮蔽物が無い分、視認されたら攻撃される。
ここまで泳ぐ間にも、いくつか用意されたブイに魔法が施されているものがあった。おそらく、ブイの上を飛んだ魔術師を落とすための砲撃魔法が仕掛けられているのだろう。
「ハハッ! この橋を渡ってゴールなんてできるわけねェだろォ?」
空がダメならば、ほとんど生徒は、橋を目指すことになり、必然的に他人を蹴落としたい人間は、橋の上を陣取り、直接妨害することになる。
案の定、橋の上で、ひとつの勢力が陣取ったらしい。
橋の上の人間に恨みはないが、コーラルのためにもハートリーという人物を通しては困る。
橋にもいくつか足止めの罠を仕掛けたが、ここに陣取る勢力には、できる限り他の足止めをしてもらい、その上でゴールしないでほしいところだ。
「さすが、ハートリー様!」
どうやら、容赦はいらない人物らしい。
「というわけで、足止めのためにも、高揚感のでる魔法と魔法薬の効果が上がる魔法で、ハートリーさんをささやかながら応援させていただきました」
それだけではないことは、出会って短いが察しがついた。
ついたが、ここで聞きたくはないと、それ以上聞くことはやめた。
「その後は、いつでも崖の下へ飛び込めるように、あの崖の下で待機していました」
「すごかったんだよ! 水の中からぶわーって!」
「よかったですね」
無邪気に目を輝かせるバーバリィに、邪気まみれに笑みを作るクリソに、ダイアはそれしか言えなかった。
「ありがとう。コーラル」
「別に。あの事、忘れないでよ」
「もちろんだとも」
小さく目を細めたシトリンは、明らかに威嚇しているアレクに目をやり、笑みを深める。
「さぁて! レディが体を冷やすものじゃないよ。タオルを」
「ありがとう」
タオルを受け取れば、すぐに手元から消え、頭に乗せられた。
「フフフ……やはり、いいものだね」
「アレク。痛い。痛いから」
不貞腐れたように力の込められている手だが、決して傷つけるような強さではなく、コーラルの濡れた髪を拭いていた。
「見つけたぞ! アークチスト!!」
騒がしい声に目をやれば、三年の制服を着た男が立っていた。
「テメェだな!? 弟の足を石にしやがったのは!」
「言いがかりはやめてもらえる? だいたい、私のアリバイは、貴方のお友達がよく知っているんじゃなくて?」
ピクリを震えた眉。
「本当に、海水に混ざった石化の魔法薬が靴の中に入るなんて、不運でしたね」
興奮さえしていなければ気が付けたかもしれないが、誰よりも優位に立った状況に文字通り、足元が疎かになってしまったのだろう。結果、石化の魔法は、じわじわと靴の中で足を蝕んだ。
「石化の魔法薬が、混じってるわけないだろ!!」
「星の道行が悪かったのでしょう。貴方に、星の導きがあらんことを」
優雅に微笑みながら、礼をするコーラルに、バーバリィが首をかしげているが、気にしなくていいと頭に手をやる。
「おっと!」
頭を下げるコーラルに、ハートリーは杖を振り上げるが、妙に明るい声が制止する。
「それは良くない。実に良くない。
ここで、アークチストに手を上げれば、僕も然るべき処置を取らなければならなくなる」
口元は笑っているが、その目は、瞳の奥は一切笑っていなかった。
「~~ッ! ヴェナーティオ! お前は、そいつの味方をするのか!?」
「アークチストは常に中立。手を上げるならば、然るべき覚悟を、と言っているだけだよ」
「っ」
微笑むシトリンに、ハートリーは分が悪いと、去っていった。
「さて、青バラの君は人が悪い。愛を試すなんて」
「妙なこと言わないで。アイツらが、本当に貴方が怖いのか確認したかっただけ。まさか、本当だとは思わなかったけど」
心底呆れたようにため息をつくコーラルに、シトリンも小首を傾げた。
ようやく終わりを迎えたと思っためんどうごとに、胸を撫で押そうとした、その時、
「おい」
ひどく苛立った声が、シトリンへ向けられた。
声の主は、その声色とそっくりな表情でシトリンを睨んでいた。
「ヴェナーティオだと?」
その言葉に表情を変えたのは、シトリンではなく、コーラルだった。
あえて、ダイアたちの前では、シトリンのことを、ヴェナーティオだとは言わなかった。面倒ごとになることが目に見えていたからだ。
「あぁ。シトリン・T・ヴェナーティオだよ。
以後お見知りおきを。獣の太陽。そして、獅子の君」
最大の敬意を表し、礼をするシトリンに、掴みかかる。
「なにを、ふざけたことを……!!
テメェが、テメェらが、何をしてるかわかってるのか!?」
掴みかかられているというのに、その表情は恍惚とした笑み。
「仲間を、家族を、売ってるんだ!!」
ヴェナーティオ家は、獣人や人魚などを販売する商人だった。
獣人たちからすれば、憎しみと恐怖の象徴そのものだ。
「そうだね」
「なんで、そんな笑顔で……」
「もちろん、大切な家族や仲間と離れ離れというのは、かわいそうだとは思うよ。できることなら、新たな主人と仲良くやれることが一番だ。
難しいこととはわかっているけどね」
「……」
「だからこそ、幸せになれた彼らに祝福をするのさ!」
当たり前の顔で、当たり前の言葉を高らかに告げたシトリンに、価値観の違いに圧倒される他ない。
彼には、自分の言葉など通じない。
「あーあー、だから言ったでしょ。ヴェナーティオは変態だって。まともに気にする方が疲れるわよ」
「……でも、テメェらさえいなければ、姉さんは……」
「……何があったかは聞く気がしないけど、お前が呆れるほどのことなら教えてあげる。
ヴェナーティオは、獣人とか他種族の販売が有名だけど、人間も当たり前のように売ってるわ」
「……は?」
「狩りをして、自分たちより弱いなら捉えて、愛をもって販売する。それがこいつらなの。理解できる?」
もはや、理解する気があって、何度言葉を交わしたところで、理解などできる気がしない。
緩やかに力が抜けた手からシトリンも、そっと抜ける。
「ダイア。その……まだちゃんと言えないけど、ヴェナーティオさんたちは、許しちゃいけない、けど、ボクたちを助けてくれたのも、ヴェナーティオさんたちだから」
王族の子供を逃がしたのは、ヴェナーティオだ。
たとえ、その理由が理解し難くても。
それには感謝しなければいけない。
「あぁ……それは、感謝してる。だが! 許さねェことは事実だ!」
「あぁ、すばらしい。それでこそ、獣人の太陽たる君だ」
キラキラと輝く黄金の瞳に、シトリンはまた微笑んだ。
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