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6話 外敵

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 楸は嫌というほど慣れ親しんだ、硬い座席が揺れる感覚に、ため息をついていた。
 今回は遠征ではない。セーフ区画の外壁の確認だ。

「例えばだけどさ、外壁が壊れてたとして、それを塞ぐってどんだけ大変だと思う? 何日がかり?」

 それは、セーフ区画を覆う外壁の異常を知らせるアラームの作動だった。
 しかも、扉ではなく壁面。
 そのため、肉眼での確認はできず、こうして人が派遣されることになった。

 昨夜の嵐が直接の原因の可能性もあるし、間接的な影響をもたらし、変異種たちも急な環境の変化で縄張りを移動し、外壁が壊された可能性もある。
 何にしろ、確認が必要ということだ。

「重い荷物運ぶにしてもさ、Gたち呼んだ方がラクだって。絶対。アイツ、俺より全然力持ちだし」
「アイツらに、遠出させるような許可下りないだろ」

 特に今回は、セーフ区画の最も外側の壁の確認だ。
 監視の目は届きにくく、逃げ出されたり、反旗を翻されたら、応援も呼べない。

「…………あっそ。使えるもんは使いたい主義なのよ。自分ラク主義派ぁ~」
「Gに殴られちまえ」
「勘弁して……Gって、手加減びっくりするほど苦手なんだから」

 他のヴェノリュシオンたちとじゃれ合いのような喧嘩をしているのを見かけたことがあるが、傍から見ている時には、微笑ましい程度だった。
 だが、同じようにG45をからかった時、軽く腕に痕が残った。
 ただその痕を見た時、G45が驚いて謝ってきた表情を見れば、それが本意でないことはわかったし、翌日には不思議と痕が消えていた。

「まっ、頼りにしてるよ。アウトサイドに比べて、ずっと安全だろ」
「どっちとかないっての。結局、大事なのは、運と――」

 楸の言葉は、大きく揺れた車体に遮られる。

「イ゛ッた゛ァ゛!!! 舌噛んだァッ!!」

 反射的に口を抑えながら、傾いた車体の外へ身を乗り出し、何があったのかと地面を見下ろす。
 薄っすらと広がる濁った水たまりの一部が深くなっていたらしく、タイヤが嵌ってしまったようだ。
 降りて押すしかないかと、他に続き楸も荷台から下りると、ちょうどいい獣道だと使われていたらしいうっすらと水たまりが溜まっている道を見て、突然やや窪んだ獣道から抜け出すように駆け出した。

 直後、車の嵌ったタイヤの辺りから生えてきた黒い光沢をもつ尻尾。
 その尻尾は、車を叩きつけると、巻き付き、水たまりの中、穴へ引きずり込もうとする。

「変異種!? 総員退避!! 退避!!」

 仲間たちの叫びに目もくれず、楸は走り続け、森の中にそびえる電波塔へ走り続けた。

 アウトサイドに何度も行って、おまじない程度の感覚ではあるが、確かに感じる感覚があった。
 変異種は、人工物にあまり近づきたがらない。
 縄張りのようなものだ。最初から、争う気でこちらを襲ってきている変異種はともかく、事故で遭遇してしまったのなら、人間の縄張りを現している場所がある場所には近づいてこない。

「って、なんで……!」

 息を切らしながら辿り着いた電波塔は、破壊されていた。
 つまり、明確な意思を持って、こちらを襲ってきている。

「楸?」

 だが、そこには別部隊として外壁に向かっていたはずの川窪たちの部隊がいた。
 向かっている途中で、無線の通信が突然悪くなったことに疑問を感じ、念のため、外壁の前に電波塔へ立ち寄っていたのだという。
 楸は、つい先ほど起きたことを川窪に説明すれば、その表情はすぐに険しくなる。

「本部へすぐに連絡を! 楸、その変異種の特徴は?」
「地面の中に潜ってました。大きさ……とにかく大きそう……色とかは、なんだろ……ヤスデとかムカデとか、そんな感じです!」

 やけに形のはっきりとした溝に、雨が止んだ後に作られた溝だと気が付いた楸は、一目散に逃げだしたため、正直変異種の姿をほとんど見ていなかった。
 むしろ、目撃しているような状況になっていたら、息を切らす程度では済んでいなかった。

「地面の中か……厄介だな」

 楸のいた部隊のことも気になるが、地面の中を潜ると言うのは、救助に行くにも危険を伴う。
 川窪たちですら、安全にその変異種に出会わず逃げることができるかもわからない。

 最低でも、自分たちの部隊だけでも、この場所から離脱しなければと、周囲に目をやれば、波紋が立つ水たまり。

「チッ……」

 波紋は徐々に細かく、高波を立てていく。

「変異種が来るぞ!! 構えろ!!」

 はっきりと足から感じる振動に、川窪は銃を構え、周囲を睨んだ。
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