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3話 狩猟

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 久留米から頼まれていた任務で、最も同意を得るのが難しいと思われていた変異種の毒味役が、意外にもあっさりと決まったことに牧野は、なんとも腑に落ちない気持ちだった。

 確かに、彼らの育ってきた環境を考えれば、拒否権など無かったのだろう。
 確実に苦しみ、最悪死ぬかもしれない毒だと知りながら、それを口に入れなければいけない。
 それがどれだけ辛いことかなど、彼らはきっと知らないのだろう。

「とりあえず、小さいのは二匹だな。どっちから行く?」
「んー……これって、無毒だったら、アンタらが食うわけ?」

 与えられた仕事をこなすために、近くの森を歩いていれば、S08とT19がこちらを見つめる。

「駐屯地全体の食料になる。余るようなら、居住区内にも入れる予定だ」

 土や水、空気を含め全ての物質に対して、徹底管理を行い、ウイルスの侵入を防ぐ居住区内で、食料の確保というものは重要な課題の割に、難易度の高い課題である。
 動植物を育てるためには、広大な土地が必要であるが、そんな管理された広大な土地が確保できるはずもなく、常に人々は食糧不足に悩んでいた。

「まぁ、中に残れるような連中のほとんどは、変異種の肉なんて食いたくないだろうから、ほとんど俺たちが食うことになるがな」

 人間の間引きを正当化した徴兵制だ。一応、居住区内からも少ない支援物資として食料が届くこともあるが、自給自足が基本だ。

「ってわけだから、自分たちの飯になるんだ。真面目に――」

 探せよ。と言いかけて、ふとT19を見下ろす。

 どうして、今、狩った変異種の利用先を確認した?
 彼らの狩りの方法は、シンプルだ。
 まず、S08が音で索敵、次にT19が匂いを頼りに追跡。そして、O12が肉眼で確認。仕留めた後は、G45が毒味する。
 つまり、匂いで追うT19の役目は、見えない獲物の選択でもある。
 どのような匂いを拾っているかはわからないが、明らかに狂暴な可能性がする変異種は狙わないだろう。それなら、迷わないはずだ。
 もし、迷ったのなら、それには理由がある。

、こっちかな」
「……お前、まさかと思うが、俺たちだけが食うって言ったら激臭がする方選んでたとかないよな?」

 自分では絶対に食べたくないくらいの激臭がする獲物である可能性だ。

「あ、遠ざかってる。急がないとなー」

 仲間が既に倒された可能性がある状況で、早々に投降し、自分を殺そうとしてきた奴が。十分にありえる。
 むしろ、嫌がらせ程度で済むならかわいく思えてくる。

 前途多難な状況に、牧野はついため息をついてしまった。

「いける」

「いけない」

「酸っぱいけどいける」

「しっぶいっ!! けど、んー……たぶん、いける」

 職人のように、食べられそうな果実や変異種を食らっては、判別するG45に、次々と無毒と判別された物を口に入れるヴェノリュシオンたち。
 多少のつまみ食いであれば、目を瞑ることもするが、さすがに見過ごすには量が多くなってきた。

「お前ら、生でよく食えるな……」

 果物はまだ構わないが、変異種すら生で食らっている姿は、もはや動物にしか見えない。

「腹壊すぞ。まぁ、Gは、大丈夫なんだろうけど」
「前は問題なかったから平気だ」
「あ、そう」

 淡々と言葉を返すS19に、牧野はそっと視線を逸らした。

「だいたい、持って帰ったら他の連中に分けるんでしょ。それだったら、先に腹いっぱいにしたって良くない?」
「いつものうまいけど、量が少ないもんな」
「量だけなら前の方がマシだよな」
「マジで? そんなに足りなかった?」

 確かに食事に関しては、少ないと文句を言われてから、量を大幅に増やしていた。
 大人でも食べきるには少々手こずる量のはずだが、全員が残すこともなく平らげた上で、本気で取り合っていることがある様子に、もしやとは思っていたが、ここまで足りていないとは思っていなかった。
 だが、今以上の量の請求は、いくらなんでも不可能だ。
 無毒であれば無心で食らえと言われる兵士たちですら、常に食糧不足には悩まされている。

「仕方ねーな。ほら、食っていいぜ」

 やれやれと言った様子で、O12がたぶん無毒と言われた果実を牧野へ渡すが、他のヴェノリュシオンたちと同じように放り投げた。

「せめて、たぶんじゃねェのくれよ」

 油断も隙もないと、頬が引きつるのを感じるが、O12とT19がニヤニヤと笑いながら渡してきたのは、無毒判定はされていたが『酸っぱい』と評されていた果実。
 レモンのような見た目で、酸っぱいと言われてもおかしくない。
 ヴェノリュシオンたちは、わざわざ食べていなかったが、もしレモンの変異種であれば、使い道は多いかもしれない。
 子供は酸っぱいや苦い食品が苦手なことも多いからと、ナイフで中身の果実を切り出し、恐る恐る齧りついた。

「………………」

 背筋が凍るほど酸っぱいと感じたのは、初めてかもしれない。

「ま、じ、か……」

 舌が痺れるわけではない。吐き気がするわけでもない。
 本当にG45の言う通り、無毒なのだろう。
 だが、人が食べていい酸っぱさではない。

「……薄めりゃいけるか?」

 あまりの衝撃で感じられなかったが、少し落ち着けば、レモンのような香りも感じられる。
 調理方法は、専門家に任せれば、何とかなる類かもしれないと、いくつか鞄に詰め込んでおいた。
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