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つまり、事の顛末はこういうことであった。

「なっ…!それでは、僕を試していたということですか?」

「平たく言えばそうだ。まあ、小姓になるための試験のようなものだと思え。」

そう言って欠伸をする正宗は、自身の欲のために白菊を押し倒したのではなかった。この身元不明の孤児に、自分が見込んだ力があるかどうかを確認していたのであった。

「小姓というのは、私にとって一番身近な家臣だ。故に、暗殺を企てたり色仕掛けをしてきたりする不届き者が度々紛れ込む。」

政宗は億劫そうにため息を一つ吐いた。

「ぼ、僕はなんて事を…」

白菊は顔を青くしながら俯いた。この国の皇帝に対して、清々しいほどの啖呵を切った自覚がじわじわと湧いてくる。

「…正宗様、申し訳ございませんでした。僕は、とんだご無礼を…」

白菊は丁寧に床に手をつけて頭を下げる。
政宗はそんな白菊を一瞥すると、呆れたようにため息をついた。

「だから何度も言っているだろう。お前の無礼など今更だ。そんなもの気にしていたらこちらが気疲れする。それに…」

正宗はちらりと白菊の方を見た。

「それに、私はお前のその無礼でしたたかな所を買っているのだからな。」

「…え?」

白菊は予想外の言葉にパッと顔を上げる。

「私には諌言する者がいないのだ。皆私を恐れるか、あるいは先代のことで同情して口出しをしない。」

そう言った正宗は、少し寂しそうに見えた。そんな正宗を庇うように白菊は言った。

「でも、正宗様には佐助さんがいるのでは」

「佐助は…どうも私に忠実すぎるきらいがあってな。私を大袈裟に立てようとするのだ。」

そう小さくため息を吐いた正宗だったが、今の自分の発言を思い返して、フッと笑った。

「いや、案外そうでもないか。私の許可も得ずにベラベラと何かお前に話していたようだからな。」

そう言って意地の悪い笑みを浮かべる正宗に、白菊はぎくりとした。

(佐助さんに聞いた事、正宗様に口止めされてた訳じゃなさそうだったのに…)

後で佐助は咎められるかもしれない、と白菊は後ろめたく思った。

「すみません、僕のせいです。僕が佐助さんにお聞きしたのです。」

白菊は俯きながら言った。

「正宗様のことを知りたくて、佐助さんに無理を言って頼みました。佐助さんは、正宗様は僕に知られたくないだろうと言っていたのに…」

そんな白菊に、正宗は鋭い視線を向ける。

「佐助を庇うのか?」

「そ、そういう訳では…」

困り果てた白菊を尻目に、正宗は小さくため息を吐いた。

「別に話されて困ることではない。どうせこの国と周辺国、常磐氏のことくらいだろう。というか、お前がどうせ佐助に聞くだろうとも思っていたしな。」

正宗は、白菊が自分について知りたいと言った時からこの状況を見越していた。無論、自分でなく佐助に尋ねることも分かっていた。だからこそ佐助には何も言わず、佐助もその無言を話して良いという肯定と受け取っていた。

「で、では僕をからかっていたんですか!」

「お前の反応を見てると面白くてついな。」

くつくつと笑う正宗に、白菊は信じられないといった表情を浮かべた。

しかし、しばらくすると正宗は急に真剣な顔付きになる。

「だが、いいか。次からは私に聞け。私のことが知りたいのなら直接尋ねろ。」

そう言って正宗は白菊にグッと顔を近づけた。突然目の前に綺麗な顔が現れ、白菊の心臓はドクリと大きな音を立てた。

「ま、正宗。ちょっと、近いです…」

白菊は、先程の出来事を思い出していた。下から見上げた正宗の美しい顔、艶のある黒髪、芳しい香り。そして、肌に触れた指の感触…それらを思い浮かべると、自然と顔に熱が集まった。

「…安心しろ、私に男色の趣味はない。」

そんな白菊の気配を感じ取ったように、正宗はコホン、と咳払いをして白菊から離れる。

「も、もちろん存じております!正宗様には皇后様がいらっしゃいますものね。」

白菊は正宗をフォローしようと慌てて言葉を紡いだ。

「…まあ、そうだな。」

正宗は、歯切れの悪い感じで白菊の言葉を肯定すると、すくりと立ち上がった。

「もう私は寝床に戻る。仕事のことは佐助に聞くといい。」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさいませ。」

白菊はそう言って軽くお辞儀をした。正宗はそんな白菊を見ながら何か言いたそうに佇んでいたが、やがて諦めたようにゆっくり襖の方へ歩いていった。

「あの、正宗様!」

白菊が急に声を掛けると、正宗は肩をビクリとさせて振り返った。

「なんだ急に。」

「僕、正宗様のお役に立てるよう頑張ります。」

そう言って白菊はニコリと笑った。

「…そうか。」

正宗は一瞬目を見開いたものの、直ぐにバッと前を向いてぶっきらぼうに答えた。

「…白菊」

「はい、なんでしょう?」

正宗は白菊に背中を向けたまま話しかける。

「…ごくたまに蘭の元へ行くのは、不仲だと噂されるのが煩わしいからだ。事務的な連絡だけして帰っている。決してやましい関係ではないからな。」

「…?そうですか。」

正宗はそう言うと、スタスタと歩いて部屋を後にした。白菊は、なぜか蘭との関係を詳細に話していった正宗の背中を、ただ不思議そうに見つめていた。
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