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3.覚悟

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これは夢じゃない。五感で感じる全てがそれを物語っている。
ならばこれはなんなのだろうか。昔にタイムスリップ...なんて、ありえない。でも、今はこの状況を受け入れざるを得ない。

私は大きく息を吸い込んだ。
兵士の亡骸から鎧一式を剥ぎ取り、兵士に成りすました。これでひとまず、奴らに斬りかかられることはない...はず。

「いやあ!助けて!!」

さっきの女の人の叫び声が聞こえる。
背筋が凍る思いがし、気が付くと声の方へ走り出していた。
先ほどの場所へ戻ると、依然女は兵士たち数人に組み敷かれている。

「うるせえ女だな。そこのガキ殺されなきゃわかんねえのか」

ゴッと鈍い音が響く。兵士が女の顔を思い切り殴ったらしい。

「うっ、うっ...」

痛みと恐怖で顔を歪める女。その女の横で刃を首元に突き付けられ、泣き叫ぶ子ども。

『......』

無意識に、鞘を掴む手に力が入る。鎧を着て、強くなった気でいるのかもしれない。複数人の男、それも兵士に女一人で立ち向かう。そんなもの、勇敢じゃなくてただの無謀だ。頭では痛いくらいわかっているのに。

私は目の前の惨劇を二度見過ごすことはできなかった。

『あ、あ、』


震える手で、柄を強く握りしめる。

『うあああ!!!』

刀を引き抜き、女に跨る兵士の後頭部目掛けて振り落とす。 

鈍い音が辺りに響いた。

「いっ...!」

男は打撃箇所を手で抑えてうずくまる。

「てめえ...何しやがる!」

痛みに顔を顰める男にギロリと睨まれる。仮にも刀で思い切り斬られたのなら、今ので死んでいたはず。
でも奴は軽傷どころか血すら出ていない。

それは、私が剣の峰で叩いたから。

『お、お前たちこそ…!なんでそんな下衆な真似できるんだよ。どうかしてるよ!』

震える声を精一杯張り上げる。結局私は、自分の手を汚す覚悟がなかった。それが原因で目の前の親子が死に、自分も死ぬのだ。

周りの男たちが立ち上がり、刀を抜いて、こちらに向かってくる。

「死ね、裏切り者」

容赦なく刀を振り上げる男。少しでも痛みを感じることなく逝けるように願いながら、私はギュッと目を瞑った。
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