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2.転生
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『「戦場で死ぬのは本望」ね。よく時代劇で聞くセリフけど、私にはわかんないや。』
パラパラと流し読みして、由紀から借り(させられ)た本を閉じる。もう半分以上は読んだし、明日適当に話合わせるくらいはできるだろう。
由紀は明るく優しい子で、学級委員なんかもやっている非の打ち所がない女子高生。けど、三国志になると周りが見えなくなるのが玉にキズだ。現に私は彼女の被害を受けており、興味もない三国志を強制的に読まされている。
「ふぁ~、ちょっとだけ寝よ。」
正直デブの董卓が出てきた辺りで眠気が限界だった。晩ご飯までまだ時間あるし、ちょっとだけ仮眠とろうか。
机に伏せて目を閉じる。すぐにでも意識が沈みそうだ。
(てかそういえば明日一限から世界史だ...だる...)
そうぼんやり思ったところで、私の意識はプツリと途切れた。
………………………
刃物が何かを切り裂く音がする。
女の悲鳴、子どもの泣き声。
ハッとして目を覚ます。言いようもない、嫌な予感が頭をよぎった。
『え...なにこれ』
私は自室の机に伏せて寝ていた。確かにそうしていたはずなのに。
目の前で、兵士らしき人が小汚い男へ剣を振りかざす。その様子がスローモーションに見えた。刃が身体に食い込んだ瞬間、男は血飛沫を上げてドッと倒れる。
『っ....』
恐怖で声が出なかった。今にも叫び出したい、大声で助けを求めたいのに、体が言うことを聞かない。
(これは夢、これは夢なんだ)
そう言い聞かせても、やけにリアルな映像と血の匂いが、それを信じさせてくれない。
かろうじて動く頭を左に向けると、女が複数の男に抑え付けられているのが見えた。そして、その横で子どもが泣き叫んでいる。
阿鼻叫喚。そんな一言では片付けられないほどの、地獄。
なんなんだ。なんなんだよ、これは。
『ころ、される』
直感的に口をついて出たのは、逃れようのない現実。
強ばった体に鞭打って、ゆっくり、兵士に気づかれないように起き上がる。
横では抑えつけられた女の服が剥ぎ取られていく。小汚い男を殺した兵士が、血に濡れた剣を構えながら子どもに近づいていく。
(ごめん、ごめんなさい...!)
そんな光景から顔を逸らして後ずさった。私には何もできない。彼らを見捨てないと、私が殺されてしまう。
すぐ後ろは粗末な小屋だ。ひとまず物陰に隠れるため、一歩一歩後ろに下がる。
コツン。足に何かが当たった。
『ひっ...!』
叫びかけた口を両手で抑える。
恐る恐る下を見る。足に当たったのは、どうやら既に息絶えた兵士のようだった。先ほど見た奴らと同じ、銅色の鎧を着ていた。
ふと頭に浮かんだのは、恐ろしい考えだった。『羅生門』の中でしか見たことがない、人道に反するような、人としての大切な何かが失われるような、行為。
ゆっくりと、亡骸の鎧に手をかける。
『ごめん、なさい』
私は、自分が着ていた服を亡骸にそっと被せた。
パラパラと流し読みして、由紀から借り(させられ)た本を閉じる。もう半分以上は読んだし、明日適当に話合わせるくらいはできるだろう。
由紀は明るく優しい子で、学級委員なんかもやっている非の打ち所がない女子高生。けど、三国志になると周りが見えなくなるのが玉にキズだ。現に私は彼女の被害を受けており、興味もない三国志を強制的に読まされている。
「ふぁ~、ちょっとだけ寝よ。」
正直デブの董卓が出てきた辺りで眠気が限界だった。晩ご飯までまだ時間あるし、ちょっとだけ仮眠とろうか。
机に伏せて目を閉じる。すぐにでも意識が沈みそうだ。
(てかそういえば明日一限から世界史だ...だる...)
そうぼんやり思ったところで、私の意識はプツリと途切れた。
………………………
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女の悲鳴、子どもの泣き声。
ハッとして目を覚ます。言いようもない、嫌な予感が頭をよぎった。
『え...なにこれ』
私は自室の机に伏せて寝ていた。確かにそうしていたはずなのに。
目の前で、兵士らしき人が小汚い男へ剣を振りかざす。その様子がスローモーションに見えた。刃が身体に食い込んだ瞬間、男は血飛沫を上げてドッと倒れる。
『っ....』
恐怖で声が出なかった。今にも叫び出したい、大声で助けを求めたいのに、体が言うことを聞かない。
(これは夢、これは夢なんだ)
そう言い聞かせても、やけにリアルな映像と血の匂いが、それを信じさせてくれない。
かろうじて動く頭を左に向けると、女が複数の男に抑え付けられているのが見えた。そして、その横で子どもが泣き叫んでいる。
阿鼻叫喚。そんな一言では片付けられないほどの、地獄。
なんなんだ。なんなんだよ、これは。
『ころ、される』
直感的に口をついて出たのは、逃れようのない現実。
強ばった体に鞭打って、ゆっくり、兵士に気づかれないように起き上がる。
横では抑えつけられた女の服が剥ぎ取られていく。小汚い男を殺した兵士が、血に濡れた剣を構えながら子どもに近づいていく。
(ごめん、ごめんなさい...!)
そんな光景から顔を逸らして後ずさった。私には何もできない。彼らを見捨てないと、私が殺されてしまう。
すぐ後ろは粗末な小屋だ。ひとまず物陰に隠れるため、一歩一歩後ろに下がる。
コツン。足に何かが当たった。
『ひっ...!』
叫びかけた口を両手で抑える。
恐る恐る下を見る。足に当たったのは、どうやら既に息絶えた兵士のようだった。先ほど見た奴らと同じ、銅色の鎧を着ていた。
ふと頭に浮かんだのは、恐ろしい考えだった。『羅生門』の中でしか見たことがない、人道に反するような、人としての大切な何かが失われるような、行為。
ゆっくりと、亡骸の鎧に手をかける。
『ごめん、なさい』
私は、自分が着ていた服を亡骸にそっと被せた。
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