上 下
118 / 120
番外編

辺境で 8 (ウルス視点)

しおりを挟む
※ 今回も引き続き、ウルス視点です。


ルイスとマークはアリス嬢を心配し、フィリップはルイスを心配する。

過保護に思う相手は違っても、似たところのある三人。
なかでもルイスとフィリップの思いは強すぎて、過剰というか異常というか……。

このまま、こいつらを放置していたら、変な相乗効果を発揮する。
そして、気が付いたら、とんでもない奇天烈な方向へ話が行ってしまうに違いない。

というか、もう、すでに変だよな……。

アリス嬢のかわりに、ルイスが自分が行くといい、しかも、フィリップもルイスについていくと言う。
なんでそうなるのか意味が分からん……。

つまり、この二人の言う通りになるのなら、肝心のアリス嬢は行かず、何故か、王子二人が王妃様の辺境の城で茶会をするわけだ。

万が一にも、そんなことになってみろ……。想像するだけで恐ろしい。

王妃様にとったら楽しみにしていたアリス嬢が来ず、なぜか、呼んでもない息子たちが来た。まあ、控えめにいっても荒れ狂うだろうな……。

で、普段は冷静沈着なルイスも、ことアリス嬢のこととなると一気におかしな方向へ突っ走る。
アリス嬢を辺境まで呼び寄せようとした一点で、王妃様に怒りをぶつけるだろう。

そこへ、いつなんどきでも全身全霊でルイスの味方をするフィリップが参戦。
そうなると、その構図は王妃様 VS フィリップにすりかわる。もはや、誰もとめられない……。

なんという、カオス……。
茶会というか、茶器が頭上を飛び交う絵しか想像できない……。

そうなる前に、ここは、なんとしてでも、俺が止めなければ!

話し込む三人のテーブルを俺はバンっと叩いた。
王太子と王子を相手に不敬だろうが、関係ない!

三人の視線が俺にむいた。

アリス嬢のことで殺気立つルイスと、ルイスとの会話に水をさされたフィリップの不満げな視線がつきささる。
が、付き合いが長い俺は、こんなことではひるまない。

思っていることを一気にまくしたてた。

「三人とも冷静になれ! 確かに辺境伯様の城は遠いが、アリス嬢が行くと決めたのなら、それで、いいじゃないか。なんといっても、あの辺境騎士団の団長でもある王妃様の城だぞ。絶対に大丈夫だ。だから、ルイスもフィリップも行く必要なんてない。とういうか、行くな! 王妃様から呼ばれてもないのに勝手に行ったら、もめるだけだ!」

どうだ、正論だろう! と、胸をはる俺に、すぐさま、ルイスが冷たい声で言った。 

「母上ともめようが、そんなことはどうでもいい。それよりもアリスだ。なぜ、アリスを一人で行かせて絶対大丈夫だなんて、ウルスは言いきれる!?」

ルイスが挑むように俺を見た。
ものすごい美貌なだけに、こんな目つきをしたら、ド迫力だ……。

ルイスを見慣れた俺でも、思わず息をのむ。

が、飲まれている場合じゃない! 
なにがなんでも、俺が止めないと!

「そりゃ、辺境の城は鉄壁だからな。道中だって、辺境騎士団の騎士が護衛する馬車に何かしかけるバカはいないだろ? つまり、アリス嬢の身は絶対に安全だ!」

「なら、アリスの心は? アリスが一人で知らないところにいって、心細くて泣いたらどうする?」

間髪入れずに、ルイスが言い返してきた。

「は? ……いや、そこまでは知らん。だが、それこそ、別にルイスたちがどうこうできる話じゃあない……」
と言いかけて、俺は口をつぐんだ。

ルイスに殺されそうな視線を向けられていたからだ。

そこで、バチンと手を叩いた音がした。
フィリップだ。

「あ、そうだ! 僕、いいこと思いついた!」

やけに楽しそうな笑顔で、そう宣言したフィリップ。

が、その顔を見ると、俺の脳内では、自然と「僕、悪いこと思いついた!」に変換されてしまった。
長年の条件反射だな……。

フィリップ……。
これ以上、俺に面倒なことをふるのだけはやめてくれ……。





※ またまた更新が遅くなりました!
不定期な更新で読みづらいと思いますが、読んでくださったかた、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、いいねもありがとうございます! とても励みになっております!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...