117 / 120
番外編
辺境で 7 (ウルス視点)
しおりを挟む
※ 今回はウルス視点です。
フィリップの執務室の中へ早く入るように促したにもかかわらず、入口で足がぴたりと止まったままのマーク。
ルイスの親友で、切れ者宰相に似た頭脳を持ち、次世代の貴族の子息の中ではぬきんでて有望で、一見、無敵のように思えるが、今は、唯一にして最大の弱点フィリップを前に警戒心まるだしになっている。
「敵の住処には入るな」という本能からの指令なのか、足が動かないようだ。
「へえ、いいね、その警戒心。マークは野生でも生きられそうだよね」
脅かしている張本人のフィリップが、動けないマークに楽しそうに声をかけている。
どの口が言うんだ……。
「恐縮です」
と、答えるマーク。
なんなんだ、この変な会話は……。
このままだと埒が明かないので、俺はマークの手をつかみ、執務室の中に引きずりこむと、テーブルのところに案内して、無理やり椅子に座らせた。
その隣にルイスが坐った。
そして、ルイスの目の前にはフィリップが坐った。
「ウルス、マークにもお茶とケーキを」
にこやかに言ったフィリップ。
即座に、マークが猛烈に首を横にふった。
「いえいえいえ、お気遣いなく! 話したら、すぐに失礼しますので」
「ああ、そのほうがいい」
思わず、俺の心の声が飛び出した。
「遠慮せずにゆっくりしていってよ、マーク」
にっこり微笑むフィリップに、マークの顔が更にひきつった。
次の瞬間、ルイスがマークの肩をがしっとつかみ、自分の方へ向けた。
「アリスに関する話とはなんだ? 何があった? 早く話せ、マーク」
待ちきれない様子で、マークを急かすルイス。
無表情と言われるルイスだが、俺から見れば、アリス嬢に関することになったら、全身から感情がもれだしまくっているように思える。
そんなルイスを、にこにこと嬉しそうに見つめながら、「ほんと一途で、愛らしくて、輝いていて、誠実で、まさに光の天使だよね、うちのルイスは!」とか、気持ち悪いことをつぶやくフィリップ。
上機嫌のフィリップが余計に怖いのか、マークが顔を固くさせたまま、言葉を選ぶようにして、慎重に話し始めた。
「実は、アリスに王妃様から、お茶会の招待状が届いたんです……」
「お茶会? 母上、こっちへ来るの? ウルス、その予定、聞いてないんだけど?」
不満げに俺を見たフィリップ。ルイスを見る目との落差がすごいな……。
王妃様とフィリップは一見真逆のようでいて、本質は似ている。
そのためか、よくぶつかる二人。しかも、お互い一歩もひかず、ど派手な言い争いになる。
ちなみに、そんな二人の言い争いに口を挟めるのは、家族である王様とルイスだが、ルイスはアリス嬢のことでなかったら、どうでもよさそうで、大抵は聞き流している。
王様は毎度毎度、止めようとするが、その声は、王妃様の声量にかき消されてしまって、二人の耳には届かない。
そう、王様では全く止められないんだよな……。
なんて考えていたら、あわてた様子で、マークが言った。
「あ、いえ……、王太子様、違います! アリスが招待されたのは、王宮ではなく、辺境伯様の城にです」
次の瞬間、ルイスが椅子を蹴って立ち上がった。
「アリスは辺境へ行くのか!?」
ルイスの言葉に、マークがうなずいた。
「ああ。しかも、ひとりでだ。護衛はよこしてくださるらしいが、あんな遠くまで、アリスだけで行くなんて、心配だ。俺も付き添いたいが、領地に行かないといけなくて無理なんだ」
「母上は一体何を考えてる? アリスに何かあったらどうするんだ! わかった。俺がアリスの代わりに辺境へ行く」
そう言い放ったルイス。
アリス嬢の代わりに、ルイスが辺境へ行く?
いやいや、ルイス……。それは、いくらなんでも、おかしくないか……?
それに、そこまで騒ぐことか?
確かに、辺境までは遠いが、王妃様の差配なら、何の心配もいらないだろう?
とにかく、フィリップが首をつっこむような、面倒ごとでなくてよかった……。
マークとルイスには、さっさと帰ってもらい、フィリップには仕事に戻ってもらうか……。
と思ったら、フィリップまで、立ち上がった。
「それなら、僕もルイスと一緒に行く! あんな遠いところへ、ルイス一人で行かせられないよ!」
は……?
いやいやいや、フィリップ……。なんで、そうなるんだ……?
※ 不定期な更新で、読みづらいと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、いいね、ご感想、エールもありがとうございます!
大変、励みになっております!!
フィリップの執務室の中へ早く入るように促したにもかかわらず、入口で足がぴたりと止まったままのマーク。
ルイスの親友で、切れ者宰相に似た頭脳を持ち、次世代の貴族の子息の中ではぬきんでて有望で、一見、無敵のように思えるが、今は、唯一にして最大の弱点フィリップを前に警戒心まるだしになっている。
「敵の住処には入るな」という本能からの指令なのか、足が動かないようだ。
「へえ、いいね、その警戒心。マークは野生でも生きられそうだよね」
脅かしている張本人のフィリップが、動けないマークに楽しそうに声をかけている。
どの口が言うんだ……。
「恐縮です」
と、答えるマーク。
なんなんだ、この変な会話は……。
このままだと埒が明かないので、俺はマークの手をつかみ、執務室の中に引きずりこむと、テーブルのところに案内して、無理やり椅子に座らせた。
その隣にルイスが坐った。
そして、ルイスの目の前にはフィリップが坐った。
「ウルス、マークにもお茶とケーキを」
にこやかに言ったフィリップ。
即座に、マークが猛烈に首を横にふった。
「いえいえいえ、お気遣いなく! 話したら、すぐに失礼しますので」
「ああ、そのほうがいい」
思わず、俺の心の声が飛び出した。
「遠慮せずにゆっくりしていってよ、マーク」
にっこり微笑むフィリップに、マークの顔が更にひきつった。
次の瞬間、ルイスがマークの肩をがしっとつかみ、自分の方へ向けた。
「アリスに関する話とはなんだ? 何があった? 早く話せ、マーク」
待ちきれない様子で、マークを急かすルイス。
無表情と言われるルイスだが、俺から見れば、アリス嬢に関することになったら、全身から感情がもれだしまくっているように思える。
そんなルイスを、にこにこと嬉しそうに見つめながら、「ほんと一途で、愛らしくて、輝いていて、誠実で、まさに光の天使だよね、うちのルイスは!」とか、気持ち悪いことをつぶやくフィリップ。
上機嫌のフィリップが余計に怖いのか、マークが顔を固くさせたまま、言葉を選ぶようにして、慎重に話し始めた。
「実は、アリスに王妃様から、お茶会の招待状が届いたんです……」
「お茶会? 母上、こっちへ来るの? ウルス、その予定、聞いてないんだけど?」
不満げに俺を見たフィリップ。ルイスを見る目との落差がすごいな……。
王妃様とフィリップは一見真逆のようでいて、本質は似ている。
そのためか、よくぶつかる二人。しかも、お互い一歩もひかず、ど派手な言い争いになる。
ちなみに、そんな二人の言い争いに口を挟めるのは、家族である王様とルイスだが、ルイスはアリス嬢のことでなかったら、どうでもよさそうで、大抵は聞き流している。
王様は毎度毎度、止めようとするが、その声は、王妃様の声量にかき消されてしまって、二人の耳には届かない。
そう、王様では全く止められないんだよな……。
なんて考えていたら、あわてた様子で、マークが言った。
「あ、いえ……、王太子様、違います! アリスが招待されたのは、王宮ではなく、辺境伯様の城にです」
次の瞬間、ルイスが椅子を蹴って立ち上がった。
「アリスは辺境へ行くのか!?」
ルイスの言葉に、マークがうなずいた。
「ああ。しかも、ひとりでだ。護衛はよこしてくださるらしいが、あんな遠くまで、アリスだけで行くなんて、心配だ。俺も付き添いたいが、領地に行かないといけなくて無理なんだ」
「母上は一体何を考えてる? アリスに何かあったらどうするんだ! わかった。俺がアリスの代わりに辺境へ行く」
そう言い放ったルイス。
アリス嬢の代わりに、ルイスが辺境へ行く?
いやいや、ルイス……。それは、いくらなんでも、おかしくないか……?
それに、そこまで騒ぐことか?
確かに、辺境までは遠いが、王妃様の差配なら、何の心配もいらないだろう?
とにかく、フィリップが首をつっこむような、面倒ごとでなくてよかった……。
マークとルイスには、さっさと帰ってもらい、フィリップには仕事に戻ってもらうか……。
と思ったら、フィリップまで、立ち上がった。
「それなら、僕もルイスと一緒に行く! あんな遠いところへ、ルイス一人で行かせられないよ!」
は……?
いやいやいや、フィリップ……。なんで、そうなるんだ……?
※ 不定期な更新で、読みづらいと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、いいね、ご感想、エールもありがとうございます!
大変、励みになっております!!
140
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる