93 / 120
番外編
閑話 アリスノート 27
しおりを挟む
まあ、兄上の理解できない言動はいつものことだ。
それよりも、この不思議な特性を持つ魔石。
「これ、売れそうだな…」
俺がつぶやいたとたん、兄上が嬉しそうな声をあげた。
「さすが、ルイス! やっぱり、気づいちゃった?! そう、これ、売れるの!」
売れそうじゃなくて、売れる…。すでに断定した兄上の言葉に、思わず、俺は聞き返した。
「もしや、兄上、もうこの魔石にかんでるのか…?」
瞬間、兄上がにやりと笑った。なんとも、計算高い笑顔。
「もちろん! ぼくがこんなおもしろいもの、何もせずにいると思う?」
「…いや」
「でしょ! すぐに調べてみたけど、マーブル国で、この魔石の特性は知られていなかった。そんな使い方をしている人もいない。なので、買いつけてくれた魔石商とくんで、魔石でライトアップする展示ケースを、ぼく、売り出しました!」
「え? そんなものが売れるのか…?」
色々疑問がうずまく俺に、ウルスが説明してくれた。
「まだ魔石商のツテだけで発売しているが、すでに結構売れている。なんといっても、その手軽さだな。ケースに飾りたいものを入れ、魔石をその中で割る。魔石は、対象物のまわりを浮遊しながら発光する。今、ルイスがしたみたいに、対象物をとりのぞくと、一つの石に戻る。そして、また使いたい時は同じようにすればいい。再利用可能で永久に光るから経済的。ケースの中の湿度、温度管理も魔石でできる。なにより、おもしろい。博物館からも依頼がきているらしい」
「まあ、でも、対象物がふたつ以上ある時や、大きめのケースの場合、魔石が対象物をとりこむことをあきらめて、さっさとひとつの石に戻るから、改良が必要なんだけどね。そうしたら、もっと売れるでしょ?」
と、嬉しそうに微笑む兄上。
その顔は、まるでやり手の商人のようだ…。
「兄上。でも、売れたとしても、魔石商にもうけが入るだけなんじゃないのか?」
俺の言葉に、兄上がはっとしたようにウルスを見る。
「ちょっと、ウルス、今の聞いた?! 自分に利益が入らないこと前提で考えているルイスってほんと無欲! ほんと生きる天使! 金の亡者のウルスとは真逆だよね!」
「はあああ?! 誰が金の亡者だっ?!」
ウルスが吠えた。
が、そんなウルスを放置して、兄上は、ぼくのほうに向きなおった。
「ルイスに聞かせるには俗っぽい話なんだけど、一応、説明するね。もちろん、販売をするのは、魔石商だけれど、ぼく、このアイデアの特許をとったんだ。もちろん、わが国だけじゃなくて、この魔石がとれるマーブル国や、魔石を商売にしているシュルツ国もふくめてね。だから、売れたら売れただけ、アイデアの使用料が入ってくることになる。それでね、ぼくが得たお金は『ルイスのきらめく瞳基金』として、孤児院などにあてることにしました!」
「孤児院に使うのはいい…。だが、なんだ、その恥ずかしいネーミングは…!」
「えー、ちっとも恥ずかしくないよ! 素敵な名前だよ? 最初はね、『ルイスのきらめきに満ちた、美しく輝く青い瞳に見守られて基金』にしようかなって思ったんだけど、字数が長すぎるからって登録する係に断られてね。で、しょうがなく短くしたんだ」
は…?! 今のおかしな文言はなんだ…。幻聴か?
茫然とする俺に、ウルスが気の毒そうな顔で言った。
「ルイス、気持ちはわかる…。だが、今、フィリップが言った、センスの悪い長い基金名よりはましだと思って、あきらめてくれ。フィリップの動機はおかしいが、結果的には、国のためになる。孤児院のために使える資金が増えるのはありがたい。それに、魔石を買い付けることになったマーブル国は産業も少ないため非常に感謝されている」
「…なら、兄上の名前の基金にすればいい。俺は何もしていない」
「そんなことない! ぼく、知ってるんだからね。ルイスが孤児院のために今までしてきたこと。アリス嬢のお茶会用に作ったお菓子と同じものを、近くの孤児院に差し入れしてたことも、孤児院のバザーのために、ひとりで、沢山、お菓子をやいていたことも。それと、アリス嬢のためにルイスが考えたお菓子で、よりすぐりのものを、王室御用達のケーキ屋にレシピを売ったよね? その権利を孤児院名義にして」
「あ、…知ってたのか?」
「もちろん! ルイスのことは、なーんでも知ってるよ! だから、ぼくは、ルイスの思いを継いだだけだから。この基金の名前は絶対にルイスじゃないとダメ! それに、マーブル国の魔石を買ったのも、ルイスの瞳に似ていたからだし。つまり、全部、ルイスのおかげだもんね」
俺はため息をついて言った。
「…わかった。この際、基金の名前はどうでもいい。孤児院のためになるなら良かった。ありがとう、兄上…」
「どういたしまして、ルイス! あ、そうだ、もうひとつ、大事なことを言っておかなきゃ。ぼくの売り出したケースの名前は、じゃじゃーん、ずばり『気高き青、ルイスケース』です! こっちもいいでしょ?!」
は…?! 気高き青…って、なんだ、それは?!
恥ずかしすぎるだろ!ほんと、やめてくれ!
それよりも、この不思議な特性を持つ魔石。
「これ、売れそうだな…」
俺がつぶやいたとたん、兄上が嬉しそうな声をあげた。
「さすが、ルイス! やっぱり、気づいちゃった?! そう、これ、売れるの!」
売れそうじゃなくて、売れる…。すでに断定した兄上の言葉に、思わず、俺は聞き返した。
「もしや、兄上、もうこの魔石にかんでるのか…?」
瞬間、兄上がにやりと笑った。なんとも、計算高い笑顔。
「もちろん! ぼくがこんなおもしろいもの、何もせずにいると思う?」
「…いや」
「でしょ! すぐに調べてみたけど、マーブル国で、この魔石の特性は知られていなかった。そんな使い方をしている人もいない。なので、買いつけてくれた魔石商とくんで、魔石でライトアップする展示ケースを、ぼく、売り出しました!」
「え? そんなものが売れるのか…?」
色々疑問がうずまく俺に、ウルスが説明してくれた。
「まだ魔石商のツテだけで発売しているが、すでに結構売れている。なんといっても、その手軽さだな。ケースに飾りたいものを入れ、魔石をその中で割る。魔石は、対象物のまわりを浮遊しながら発光する。今、ルイスがしたみたいに、対象物をとりのぞくと、一つの石に戻る。そして、また使いたい時は同じようにすればいい。再利用可能で永久に光るから経済的。ケースの中の湿度、温度管理も魔石でできる。なにより、おもしろい。博物館からも依頼がきているらしい」
「まあ、でも、対象物がふたつ以上ある時や、大きめのケースの場合、魔石が対象物をとりこむことをあきらめて、さっさとひとつの石に戻るから、改良が必要なんだけどね。そうしたら、もっと売れるでしょ?」
と、嬉しそうに微笑む兄上。
その顔は、まるでやり手の商人のようだ…。
「兄上。でも、売れたとしても、魔石商にもうけが入るだけなんじゃないのか?」
俺の言葉に、兄上がはっとしたようにウルスを見る。
「ちょっと、ウルス、今の聞いた?! 自分に利益が入らないこと前提で考えているルイスってほんと無欲! ほんと生きる天使! 金の亡者のウルスとは真逆だよね!」
「はあああ?! 誰が金の亡者だっ?!」
ウルスが吠えた。
が、そんなウルスを放置して、兄上は、ぼくのほうに向きなおった。
「ルイスに聞かせるには俗っぽい話なんだけど、一応、説明するね。もちろん、販売をするのは、魔石商だけれど、ぼく、このアイデアの特許をとったんだ。もちろん、わが国だけじゃなくて、この魔石がとれるマーブル国や、魔石を商売にしているシュルツ国もふくめてね。だから、売れたら売れただけ、アイデアの使用料が入ってくることになる。それでね、ぼくが得たお金は『ルイスのきらめく瞳基金』として、孤児院などにあてることにしました!」
「孤児院に使うのはいい…。だが、なんだ、その恥ずかしいネーミングは…!」
「えー、ちっとも恥ずかしくないよ! 素敵な名前だよ? 最初はね、『ルイスのきらめきに満ちた、美しく輝く青い瞳に見守られて基金』にしようかなって思ったんだけど、字数が長すぎるからって登録する係に断られてね。で、しょうがなく短くしたんだ」
は…?! 今のおかしな文言はなんだ…。幻聴か?
茫然とする俺に、ウルスが気の毒そうな顔で言った。
「ルイス、気持ちはわかる…。だが、今、フィリップが言った、センスの悪い長い基金名よりはましだと思って、あきらめてくれ。フィリップの動機はおかしいが、結果的には、国のためになる。孤児院のために使える資金が増えるのはありがたい。それに、魔石を買い付けることになったマーブル国は産業も少ないため非常に感謝されている」
「…なら、兄上の名前の基金にすればいい。俺は何もしていない」
「そんなことない! ぼく、知ってるんだからね。ルイスが孤児院のために今までしてきたこと。アリス嬢のお茶会用に作ったお菓子と同じものを、近くの孤児院に差し入れしてたことも、孤児院のバザーのために、ひとりで、沢山、お菓子をやいていたことも。それと、アリス嬢のためにルイスが考えたお菓子で、よりすぐりのものを、王室御用達のケーキ屋にレシピを売ったよね? その権利を孤児院名義にして」
「あ、…知ってたのか?」
「もちろん! ルイスのことは、なーんでも知ってるよ! だから、ぼくは、ルイスの思いを継いだだけだから。この基金の名前は絶対にルイスじゃないとダメ! それに、マーブル国の魔石を買ったのも、ルイスの瞳に似ていたからだし。つまり、全部、ルイスのおかげだもんね」
俺はため息をついて言った。
「…わかった。この際、基金の名前はどうでもいい。孤児院のためになるなら良かった。ありがとう、兄上…」
「どういたしまして、ルイス! あ、そうだ、もうひとつ、大事なことを言っておかなきゃ。ぼくの売り出したケースの名前は、じゃじゃーん、ずばり『気高き青、ルイスケース』です! こっちもいいでしょ?!」
は…?! 気高き青…って、なんだ、それは?!
恥ずかしすぎるだろ!ほんと、やめてくれ!
1
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
【完結・全7話】「困った兄ね。」で済まない事態に陥ります。私は切っても良いと思うけど?
BBやっこ
恋愛
<執筆、投稿済み>完結
妹は、兄を憂う。流れる噂は、兄のもの。婚約者がいながら、他の女の噂が流れる。
嘘とばかりには言えない。まず噂される時点でやってしまっている。
その噂を知る義姉になる同級生とお茶をし、兄について話した。
近づいてくる女への警戒を怠る。その手管に嵌った軽率さ。何より婚約者を蔑ろにする行為が許せない。
ざまあみろは、金銭目当てに婚約者のいる男へ近づく女の方へ
兄と義姉よ、幸せに。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる