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番外編

閑話 アリスノート 2

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俺は黙って席を立ち、ドアを開けた。

「うわあ、ルイス! 何も言わなくても、ノックの音だけで、ぼくだってわかるんだね? ぼくもルイスのノックする音がわかるよ! おんなじだ!」
目をきらきらさせて、嬉しそうに話す兄上。

「音で判断したわけじゃない」

「じゃあ、以心伝心! それって、すごい愛だよねっ!」
にこにこしながら話す兄上。

水を差すようで悪いが、それは違う。俺は兄上の意見を訂正した。

「俺の側近が取りつがず、ドアを直接ノックできるのは家族だけだ。
が、母上は辺境だし、父上は来ない。必然的に兄上しかいない」

「もう、さすがルイス! 冷静でわかりやすいっ!」
何を言っても俺を褒める兄上。

が、それも、通常通りなので、俺もいつも通り受け流す。

「で、何か用か? 俺は今、とりこんでいるんだが」

アリスノートを振り返ってるからな。

「ええ、とりこんでるの…?! ぼく、さっきまで郊外に視察に行ってたんだ。そこで、地元の人に人気があるアップルパイを買ってきたんだけど、ルイスと一緒に食べたいなあって。ほら、ルイスは今、アップルパイの研究をしてるんでしょ? ねえ、ちょっとだけお茶したいんだけど。ダメ?」

俺を見る兄上の頭に、たれた耳が見える。子犬か!

確かに、俺は、今、アップルパイを模索している。
というのも、アリスとの次のお茶会のテーマを、アリスの好きなリンゴに決めたからだ。
何故かといえば、美味しいアップルティーが手に入ったためだ。

それにあわせて、ティーセットもリンゴ柄にしようと思い、探し歩いた。
アリスが手にもって似合うほど、愛らしいカップが、なかなか見つからなかったが、やっと、蚤の市で見つけた。

優しい色あいで、あたたかみのあるリンゴの絵。繊細なつくりのアンティークのティーセットだ。
アリスの華奢で小さな手にも、このカップならぴったりくると思う。

早く、アリスが、このカップで飲んでいるところを見たい!

もちろん、菓子も、リンゴづくしにしようと思い、試作を重ねている。
そこでだ。やはり、メインは、王道のアップルパイにしたい。

しかし、これが珍しい菓子を作るよりも、はるかに難しい。

普通に美味しいアップルパイを作るのは簡単なのだが、それくらいなら、アリスも沢山食べてきたことだろう。
王都中のケーキ店のアップルパイは食べつくしたが、どれも美味しかったからな。

だからこそ、シンプルでありながらも、はっとするような美味しいアップルパイを焼きたいと思っている。
そのために、美味しいアップルパイの情報は、のどから手がでるほど欲しい。

子犬のように期待をこめた目で俺を見つめ、返事を待つ兄上。
手にはアップルパイが入っているだろう箱を持っている。

「…入ってくれ」

俺がそう言ったとたん、ブンブン振るしっぽが見えた気がする。

ドアを大きく開き、子犬のような兄上を招き入れる。

「おっじゃましまーす! 久しぶりのルイスの部屋だ! 嬉しいな!」
テンションが更に高くなる兄上。

これくらいで嬉しいなんて、楽しそうでなによりだ…。

俺は、来客用のテーブルに兄上を誘導する。

「すぐにお茶の用意をする」

「やった! ルイスとお茶だ! 視察の疲れがとれるー。あ、はい。これがアップルパイ」
そう言って、兄上が俺にシンプルな紙の箱を手渡してきた。

箱のふたをあけてみた。飾り気のない丸いアップルパイがワンホール入っていた。
香りがいい。期待が高まる。

俺は戸棚から、次の茶会にだすアップルティーの缶を一つとりだし、アップルパイの入った箱と一緒に、ドアの外に待機している側近に渡す。

「厨房に行って、二人分、お茶の用意を頼んできてくれ。菓子は、この箱に入っているアップルパイで、茶葉はこの缶の葉だ」

すぐに、トレイにティーセットをのせてやってきたのは、メイド長のモーラだ。

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