上 下
157 / 158

無害

しおりを挟む
「私もすぐに泣きますから、そのお気持ちわかります、王太子様! というか、この国にきたばかりなのに、私は、すでに、何回も号泣しています! ということで、私たちは、もう、仲間です。名づけると、そうね……号泣仲間だわ。しかも、私は涙の量では王太子様に負けません。自慢じゃないですが、滝のように流れますから。だから、それくらいの量なら、ちっとも気にすることなんてないですよ!」

共感しすぎて、思わず力いっぱい声をかけてしまった私。

王太子様が、大きなハンカチを顔にあてたまま、驚いたように私をみたあと、力が抜けたように笑った。

「泣いた時に、そんな風に言ってもらえたのは初めてだ。号泣仲間か……。すぐ泣いてしまうのが恥ずかしかったけれど、仲間がいると思うと、なんだか、心強いよ……。ありがとう、アデル王女。イーリンやデュランが、アデル王女になついた気持ちがよくわかるな」

「兄上。僕の場合はアディーになついているのではなく、ひかれてるんですよ。わが国から、ずっと帰らないでもらいたいくらいにね」

デュラン王子はそう言うと、私の方をむいて、軽くウインクをした。

「人の婚約者に何してんの? 目、つぶすよ」

すぐさま、ユーリが冷たい声で言い放った。

ちょっと、ユーリ! 
なに、物騒なことを言ってるの!?

いくら魔王といえど、外面は完璧に装えるユーリなのに、どうしたのかしら?

他国の王宮にお邪魔した状況で、しかも会ったばかりの王太子様の前で、その弟王子にむかって、口にすることじゃないもんね。

あ、そうだわ……! 
ユーリは、デュラン王子に心を許してるのね……。
面と向かって毒を吐く感じが、ユーリのお友達のラスさんへの態度に似ているもの。

そう考えると、すぐに言い争うのも、魔王同士、ライバルとして認め合っている感じがにじみでているわね……。

では、ここは、私がしっかりとユーリの気持ちを王太子様にフォローしておこう!

「王太子様、ユーリが失礼なことを言ってごめんなさい。でも、それだけ、デュラン王子にユーリが心をゆるしてるんです。ふたりは、言いたいことをいいあえる仲なんです!」

「は? 全然違うけど?」
「いや、全然違うんだけど?」

ユーリとデュラン王子の言葉が重なった。

「ほら、王太子様。ふたりは息ぴったりでしょう?」

「そうだね」

そう言って、にこやかに微笑んだ王太子様。
涙の乾いたお顔は、すっきりしているみたい。

わかるわ……。
号泣すると、すっきりするものね!

そばに控えていた執事さんみたいな方が、王太子様の涙をすいとり、役目を終えた大きなハンカチを、これまた、慣れた様子でひきとっていった。

号泣仲間として、無事、涙のゆくえを見守った私。
満足した気持ちでお茶の席につこうとしたら、「アデル」と、ユーリが声をかけてきた。

「そこの王子との間違った認識は、色々言いたいことだらけだけど、それよりも、号泣仲間って、なに? これ以上、変な仲間を作らないで」

ん? これ以上って、どういう意味? 
私に変な仲間なんかひとりもいないけど……。

疑問に思いつつ、とりあえず、思ったことをユーリに言った。

「大丈夫よ、ユーリ。ユーリは間違っても、号泣仲間には入れないから」

「いや、入りたくもないし。というか、この国にきて、2日しかたっていないのに、人やドラゴンやら、いろいろたらしこむのやめてくれる? とういうことで、号泣仲間は即、解散ね」

「え? 解散!?」

そこで、私のそばに立っていたジリムさんが、ユーリに向かって小声で言った。

「お話し中、口をはさんで申し訳ありません。ですが、少しだけ説明させてください、次期公爵様」

「なに?」

「王太子様にそのような警戒は無用です。恋愛関係において、人畜無害ですから。というか、無害すぎることが原因で、一度、婚約が平和的に解消されております。デュラン王子のように、アデル王女様をあわよくば的な目でみることなど、ありえません。純粋な号泣仲間として、アデル王女様と友好関係がきずけると思います。そういう点では、あざとい、ちびドラゴンよりも安全といえます」

ちょっと、ジリムさん? 何言ってるの……?

「それ、誓える?」

ちょっと、ユーリも! 誓うって、何、おかしなことを言ってるの!?

「はい、誓えます、次期公爵様」

え? 誓うの、ジリムさん!?

「そう、わかった。じゃあ、号泣仲間は見逃す」

「助かります、次期公爵様」

ということで、ユーリとジリムさんの間で、なんだか、よくわからない会話が成立した。 




※ 不定期な更新ですが、読んでくださったかた、いいね、エールをくださったかた、本当にありがとうございます。とても嬉しいです!!
また、ファンタジー小説大賞に投票してくださったかた、大変励みになりました。ありがとうございます!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

処理中です...